【第二十八章 新婚】第二百八十四話

 

ルートガーも平等と公平の違いがわからない。
そもそも、公平なら平等が成り立つと思っているようだ。

「ルート。公平は、誰かが判定している。平等は、皆が等しく冷遇される世界でしか成立しない」

「??」

まぁ解らないだろう。

ルートガーが不思議そうな表情をする。クリスは、思考を放棄しているように見える。

「皆が平等なら、冷遇されるのはおかしくないか?」

「いいか、簡単な例だ。ルートがこの大陸の覇権を目指したとする」

「!」

ルートガーは机を叩いて立ち上がる。ルートガーが覇権を目指していないのはわかる。今は、クリスとの生活が大事なのだろう。”例”としてわかりやすいから取り上げただけだ。

「最後まで聞け。座れ」

命令口調で、ルートガーに告げる。
俺の意図がわかったのだろう。おとなしく、腰を降ろした。謝罪しないのが、ルートガーらしい。

「あぁ」

ルートガーは、俺が何を考えているのかわからないけど、話を聞く体勢になっている。
どうせ、俺とルートガーとクリスしかいない。この場に、シロがいたとしても問題はない。長老衆が居ても、俺がルートガーに主権を渡すと言っても、文句は言わないだろう。抵抗はするだろうけど・・・。

「しかし、主権は俺が持っている」

「そうだ」

「ほら、これだけでも。平等じゃないよな?」

「え?」

「ルートは、主権を握って、覇権を唱えたい。でも、その為には、俺を蹴落とすなどの方法で、主権を取らなければならない。俺が抵抗した時点で、主権を欲しがる二人がいる世界になる。この二人が、成り立つ場所は平等か?」

「公平は、違うのか?」

「違う。主権を誰に委ねるのかを、選ぶような仕組みを作る。長老衆からの投票で決めてもいい。大陸に住む者、全員の意見を聞いてもいい。この方法に、公平性があれば、公平に俺かルートか又は、それ以外の者か解らないが、主権を握るのに相応しい者が決まる」

「しかし、それでは、選ばれなかった者に不満が出るのでは?」

「出る。しかし、選ぶ方法が公平なら、文句が出ても黙殺できる。例えば、長老衆の半数以上が、”ルートが相応しい”と、決めたとしよう」

「あぁ」

「ルートは、ルートが相応しいと言ってくれた人に感謝する」

「そうだな」

「問題は、ルートがルートを選ばなかった者を脅迫したり、暴力で石を封殺したりする可能性だ」

「その可能性もある」

「他にも、スキルカードでルートを推薦しろということもできる」

「そうだ」

「他にも、ルートが主権を握ったら、商に力を入れると宣言する可能性もある」

「あぁそうか、長老衆も別々の思惑があるというのだな」

「あぁでも、まとめて”買収工作”という言葉を使うけど、買収工作をして、主権を握って、その通りに実行したとして、これは、公平か?平等か?」

「違うな。公平でも、平等でもない」

「そうだ。この場合には俺は、公平でないと、ルートとルートを推薦した長老衆を糾弾できる」

「・・・。なんとなくだが、理解ができた」

「わかりやすい例だけど、これは極端な話として、行政区で申請の順番を待っている者たちにも適用できる」

説明の必要はなさそうだな。
ルートガーは理解ができている。順番を待っている人たちを平等に対応したら、全員を待たせる方法しか無くなってしまう。

「そうか、平等は耳障りがいいけど、現実的ではなく、公平は俺たちの努力で達成できる」

「そうだ。もっというと、支配層と被支配者と分ければ、平等は簡単に実現できる」

「ん?」

「ルールが一つだけ、身分が上の者には逆らわない。これだけで、実現が終了する。だがこの平等では、上の者でも、下の者でもいいけど・・・。誰かが幸せになる未来が、俺には想像できない」

「ふ・・・。お前が、身分制度の導入に、反対しているのか、やっと理解した」

「それは、重畳」

クリスを見ると、諦めた表情をしている。
俺とルートガーが話をしている最中も、俺とルートガーの顔を交互に見ているだけで、会話に入ろうとしなかった。

「あと、身分と役割の違いは?」

もう少し、話が具体的にしなければならないが、結局は言葉遊びにならないようにする必要はあるが、公平と平等よりは具体的な施策に関連してくる。概念的な話から、もう少しだけ生活に近いレイヤーの話だ。
この手の話は、俺じゃなくて、あいつらが得意だ。いつまでも大人にならないあいつらだけど、気持ちがいい連中がそろっていた。

「行政区の話に限るぞ?」

「あぁ」

「行政区は、役職がある」

クリスも頭を縦に振っている。この辺りまでは大丈夫なのだろう。

「そうだな」

「”役”であり、職制だ。これは理解しているよな?」

「ん?」

そうか、職制という考えがないのか?
クリスが、解らない雰囲気を出すのは想像が出来ていたが、ルートガーも解らないとは思わなかった。

もう少しだけ解りやすくするか?
俺に説明ができるとは思わないが・・・。ルートガーなら大丈夫か?

「うーん。ルート。樵と大工は、どっちのほうが偉い?」

「え?ん。考えたことがないが、大工じゃないのか?」

「大工は、樵が木を倒してこないと、仕事がない」

「そうだが、樵は大工が木を買わなければ、生活ができない」

「樵の客は、大工だけか?直接、家が欲しい者に安く木を売ったりできるよな?」

「あぁ・・・。でも、その場合でも・・・。そうか、だから、役割だな」

「そうだ。樵は木を切り倒す役割だ。身分ではない。大工も、建物を立てるという役割だ」

「あぁ。でも、大工の中にも・・・。そうか、だから、役割で身分ではないのだな」

ルートガーが理解してくれれば、話が前に進められる。この際、クリスは後でベッドの上でルートガーに聞いてもらおう。俺が、クリスにわかるまで説明する必要はない。ルートガーを見ると、クリスの方を見てから、俺に苦笑を向ける。俺が何を考えたのかわかったのだろう。
実際に、クリスが理解する必要はないが、クリスに説明して理解ができれば、ルートガーが他の者に・・・。大きな進歩であり、俺メリットしか感じない。特に俺が長老衆に説明をして、説得をしなくて済むだけでも、今日のこの場は無駄ではない。

ルートガーも新婚だが、俺も新婚だ。
新婚生活を楽しみたい。

主に、引きこもって、シロと遊んでいたい。ロックハンド辺りに遠征して、遊びの施設の指示を出している方が楽しそうだ。

あまり、余計なことを考えていると、ルートガーだけではなく、いろんな者から仕事が放り込まれる。

「理解ができたか?」

「あぁ何を言っていると思ったが、確かに身分ではないな」

「そうだ。身分だと、ひっくり返すのに、上位者の協力が必要になるが、役割ならひっくり返すのは容易とは言わないが可能だ」

「そうだな。身分だと諦めるしかないが、役割なら努力の方向を間違えなければ、とってかわることができる」

「そうだ。行政区のやり方が気に入らなければ、行政区のやり方以上の方法を考えればいい。だから、長老衆にも言って、意見は最低でも長老衆が受理して処理するようにしている」

「そうだな。長老衆に変わろうというやつがいるが、実際に変わろうとしたら、2,3日で潰れる」

「だろうな。だから、ルート。いい加減に、俺から主権を奪え。いつでも、この役割を譲ってやる」

「遠慮する。俺は、今の立場が分相応だ。主権者など、役者不足も甚だしい」

「クリスを担ぎだして、お前が裏から牛耳るでもいいぞ?そうしたら、俺とシロと眷属たちは、ロックハンドにでも、引っ込むぞ」

「ふざけるな!」

「はい。はい。わかっている。でも、俺とシロがいつまでも主権者でいるのは健全ではない。そのうち、”俺とシロは武力を持っているから、主権者に相応しくない”と、いう雰囲気を大陸に広めるからな」

「わかった。その時までに、俺の変わりを探しておく」

「それは任せる。ここまで、準備したが、これが正しい形だとは思っていない。立ち上げは、俺とルートが行った。長老衆の意見も入っている。今後は、大陸に住む者たちで決めていくのがいいと思っている」

「わかった。今回の件が引き金になるのは、少しだけ釈然としないが、理解した。長老衆と準備を始める」

「頼む。そうだな。俺やルートの子供や孫が、この大陸に縛られるような未来じゃなければいいと思っている」

今後の方針を大まかに説明しなければならない。
おかしい。新婚生活を楽しんで、シロと二人っきりで過ごしていこうと思ったのに・・・。どこで、歯車が狂った?

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