【第七章 日常】第八話 濫觴
晴海と夕花は、晴海の運転する車で屋敷に帰ってきた。
翌日も試験が控えていた。翌日は、運転免許の更新と限定解除を行うのだ。教習所に通えばよかったのだが、能見が夕花に晴海と一緒に居る時間を大切にしてくださいと助言したので、免許更新時に試験を受ける方法を選択した。
夕花の誕生日ではなかったが、奴隷になったことで効力が停止されていた免許を復活させるためには手続きが必要になっていた。同時に、バイクの免許の取得を行うので、丸一日試験場に居る状態になる。
晴海も、夕花に合わせてバイクの免許を取得する予定にしていた。
安全性能が向上した車やバイクでは、学科が重要視され実技は基本動作に問題がなければ合格になるのだ。
二人は揃って合格した。移動手段は多いほうがいい。バイクと車での移動を考えたときには、それほど長距離での移動は考慮しなくて良さそうだが、それでも、交代で運転できるようになっておく必要性があった。
礼服の準備も出来た。移動手段も手に入れた。
夕花と晴海は、駿河にある大学の入学手続きを行った。
学校は、駿河の中心都市である静岡にある大学だ。今世紀になってから作られた比較的に歴史が浅い学校で、六条家がメインスポンサーになっている。
「夕花。学校が決まったよ」
7階の寝室で能見からの情報送付を受け取った晴海は夕花に告げた。
「え?」
学校の事は聞かされていたのだが、試験が行われると思っていた。
今の状況で、学校のことを言われたので、夕花は驚いてしまった。
「試験は、書類の提出だけになった」
「そうなのですか?」
「あぁ履歴を確認できれば問題ない」
「あっ・・・。僕・・・。奴隷ですけど?」
「ん?最終は、文月晴海の奥さんだよ?奴隷の件は隠せるよ?」
「え?よろしいのですか?」
「問題ないよ。奴隷市場で渡された夕花の履歴を使って書類は作ったから見てみる?」
「はい」
晴海は、情報端末を操作して、夕花に提出書類を見せた。
「・・・。晴海さん?」
「何かおかしな所がある?」
「いえ、綺麗すぎてびっくりしています」
「うん。でも、嘘は無いでしょ?」
「はい。でも、調べれば・・・。あっ!」
「うん。これを本当の履歴を知らないと見破れない。見破る者が居たら、それは、僕か夕花の関係者だよね。それか、僕たちを狙っている者だ」
「はい!」
”フンス”と鼻息が聞こえてきそうな位に夕花は気合をいれた。
何をしなければならないのかはまだ明確にはなっていないが、学校に行けば相手が出てくる可能性が生まれた。気合を入れる必要があると思ったのだ。
夕花が情報端末を手放したのを見て、晴海は体勢を変える。
「夕花。まずは、駿河まで行こう。船はもう大丈夫だよね?2日前に出れば、何かあっても大丈夫だろう」
「はい。練習をしましたし、大丈夫です」
能見が用意した船は、クルーザーに分類される船だ。
定員10名で、巡航速度は34ノット。最高速度は40ノットになる。船室も豪華になっている。操舵室と船室は別になっている。操舵室には必要な装備が全部揃っているだけではなく、なぜか必要のない高機能な魚群探知機まで備え付けられている。ビーコンとの連動して、自動で目的地まで移動できるオートパイロット機能が備え付けられている。
船室は、簡易キッチンだけではなく海水を濾過して使うシャワールームまで備え付けられている。エアコンはもちろん完備しているし、冷蔵庫やモニターや情報端末の補助機といったそれほど必要にはなりそうになり設備まで備えている。それらの電力を賄うために、ソーラパネルも配置されている。
ベッドはセミダブルが備え付けられている。船室は、ドアを閉めてしまえば外から見られない状態になる。船室からも簡易的な操舵が可能になっている。
誰の指示なのかあえて二人は無視したが、船室内にある簡易的な操舵パネルがベッドのパネルに備え付けられている。ベッドで寝ながら操舵出来るようになっているのだ。食料などは、自分たちで持ち込まなければならないが、食堂と同じ物が6つずつ確保されている。伊豆と駿河の間で、燃料切れなどの問題で漂流した場合でも10日程度なら持ちこたえられる計算になる。
晴海と夕花は、昼間に船を出し、沖で全裸になってお互いを求めあった。暗くなってしまったので、そのまま船の中で過ごしたが快適だったので、問題はないと判断した。駿河に通うときでも、船室で着替えてから学校に行けば良いと考えた。
駿河で、クルーザーを係留する場所は、六条が所有する場所を借りる契約になっている。着替えなどを、礼登に用意させればいい。能見も、その方が良いだろうと言っている。伊豆の屋敷には、晴海と夕花以外は誰も入らない。唯一の例外が、機器のメンテナンスと食堂の補充が必要になった場合だけだ。それも、二人が学校に行っている間に行われる。地下の施設だけで、地上部分へは二人以外は入られない。地下にも元軍事施設から入るしか方法がない。長い地下通路を通る必要がある。何回もチェックが入る。能見の配下か能見本人か礼登か礼登の配下だけが通過出来る状態になっている。それも、バックヤードだけで、晴海と夕花が生活している空間には誰も立ち入らない。ほぼ、屋敷の中に居れば二人は安全なのだ。
晴海と夕花は、買い物やデートは伊豆に住んでいながら、駿河の静岡市がメインになってくる。
怠惰に、快楽におぼれていた生活も終わりに近づいてきた。
晴海も夕花もお互いの立ち位置は解っている。
解っているからこそ、お互いを求めた。
「最初だけは礼服で行くけど、それ以外は私服で大丈夫だと聞いている」
「わかりました」
「そう言えば、夕花が卒業した高校は制服だったのだよな?珍しいよな?」
「はい。昔からの取り決めだと・・・。言われました・・・」
「夕花の履歴を見直して知ったよ。高校までは女子校だったのだね」
「はい。小学校は共学でしたが、中学と高校は女子校で・・・す。あっん。晴海さん!」
「どんな制服だったの?」
「え・・・。あっ。あっ。制服は、もう・・・。ない・・・ので・・・。ダメ」
「卒業は出来たのだよね?」
「はい。晴海さん。意地悪です」
「何が?」
「あっあっあん」
「言わないとわからないよ?」
「うそです。僕を、こんな・・・。きも・・ちよく・・・して、あっあっ。あっい・・・」
晴海の上に乗っていた夕花が、晴海の質問に答えていただけだ。晴海は、夕花が答えようとするときに、下から突き上げていたのだ。限界になっていた夕花は、そのままの状態で身体を晴海に預ける形になってしまった。
「ごめん。ごめん。夕花が可愛かったから、いじめたくなっちゃった」
「うぅぅぅ。晴海さんは、まだですよね?」
「いいよ。夕花が満足したのなら、僕も満足だよ」
「ダメです。晴海さんを満足させます。動いていいですか?」
「夕花の好きにしていいよ」
「ありがとうございます」
7階の寝室には、夕花の激しい息遣いと超えが響いていた。何度かの無音時間を経て、晴海が夕花を抱きしめた。
お互いに満足してキスをしてから、布団を被った。
学校は、夕花も晴海も楽しみに・・・。いろんな意味で楽しみにしている。編入の形になるが、一日目は礼服を来ていくと決めている。夕花もそのつもりだ。新しく作られたお墓にも晴海と並んだ礼服姿をパネルにして、飾ってもらった。母親には、自分の礼服姿と、愛する人を見てほしかったのだ。
二人は、礼服を来て、晴海の家族が眠る墓と夕花の母親が眠る墓に行った。二人だけの墓参りだ。能見も礼登も参加したいと言ってきたが却下した。二人だけで報告をしたかったのだ。
出会いは奴隷市場だったが、晴海も夕花もお互いだけを欲している。愛し合っている。
認めてもらう家族の声は、二人の耳には届かない。しかし、報告した心は、気持ちは届いたはずだと思っている。それが、思い上がりだったとしても、文句を言うべき人は一人も居ない。
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