【第十章 エルフの里】第二十三話 秘密
里に向かって、”結界の森”を進む。
エルフたちは、この森を”結界の森”と呼んでいると教えられた。
結界は、なんとなくだが簡単に突破できそうな雰囲気がある。
「なぁ」
俺の前に座っているのは長老だ。
長老なら、俺の疑問に答えてくれるだろう。
「なんでしょうか?」
「結界を越える条件はなんだ?」
俺たちは、結界をすんなりと越えられた。
ラフネスも長老も問題はなかった。
この結界は、”ほぼ”俺がよく知っている結界と同じ物だ。
「え?」
「俺たちを襲った奴らは、結界に入る前に襲ってきた。これは、結界内部で俺たちを襲うと”問題になるから”だと言われた」
結界内部に入ることができる者なら、結界内部で襲ったほうが、効率がよさそうだが、それをしなかった。
確かに、客人にとなった俺とリーゼを襲うのは問題になるだろう。特に、長老の客人となってしまった者を襲うのは、里としても問題になってしまうだろう。
しかし、もうすでに、俺とは敵対に近い関係になっている。リーゼの事も問題になっている。
交渉を行って、物事を好転させるような、逆転の手は残されていない。
俺を捕えるか、リーゼを捕えるしか方法がない。俺を殺して、リーゼを捕えて、奴隷にでもできれば、すべてがなかったことになる可能性があるが・・・。その場合には、神殿との全面戦争になる。俺が捕縛される程度なら、まだ大丈夫だと思うが・・・。殺されて、神殿で復活したら、もう言い逃れができない。
「はい。それは間違いではありません」
やはり、俺の想像が当たっているようだ。
これなら、問題のいくつかは解決しそうだ。連絡は簡単に行えそうだ。もしかしたら・・・
「そうか、”間違いではない”が答えなのだな」
「??」
リーゼはもちろん、わかっていない。
実際に、説明をした長老も解らないのだろう。俺には十分な答えだ。ラフネスも、雰囲気から解らないようだ。
「長老。”間違いではない”は、他にも何か理由があると言っていると考えるぞ?」
「・・・」
「そこで、沈黙してしまうと、俺は推測が正しいと判断する」
推測は正しい。
あとは、里の者がどの辺りまで情報を知っているのか?
雰囲気から、ラフネスは知っているのだろう。
そうなると、アフネスも知っていると考えていいだろう。ラナは微妙だな。リーゼは、知らされていない。ラフネスが知っているのなら、長老も知っていて当然だな。あとは、長老の子息たちは?里の者たちは?森の村にいる連中は知らされていないのだろう。
それで、なぜリーゼの”鍵”を求める?神殿の鍵と言えば、”継承”が考えられるが、違うだろう。継承が問題なら、結界は解かれている。結界が作用しているのなら、継承の必要がない状況だ。継承以外で鍵が必要になる事柄?
神殿の力を、十全に使えない状況か?
「ふぅ・・・。神殿の主様。ヤス様。確かに、彼らが結界の前で襲ってくると推測ができたのには別の理由もあります」
長老が諦めた雰囲気があるな。
俺だけではなく、リーゼの協力が必要になるくらいに追い詰められているとは思えない。
だが、あれだけ頑なに秘密を守ろうとしていた者たちが、意趣返しをしたのにはそれなりの理由があるのだろう。
「そうだろうな。数名・・・。もしくは、殆どが、結界を越えられないのだろう?」
「はい。おっしゃっている通りです。長老衆の一人に名を連ねる者の子息ですが、結界を越えられなくなっています」
そうか、それで長老衆が慌てたのだな。
そこに、リーゼが現れた。”鍵”を持つ者だ。対応から考えると、長老衆でも、”鍵”が何かわかっていないのだろう。わかっているのは、結界を張りなおす程度の力があるという所か?
それとも、神殿の力を使えるのか?
マルスが神殿と融合できたのは偶然だと考えている。コアを乗っ取ったと考えるのがいいだろう。同じ事が、リーゼにできるとは思えない。
「他の者も?」
「はい。我らの一族から、結界を越えられない者が出るとは・・・」
目の前に座っている長老の身内からも出たのか?
違うな。長老がいう、”一族”は元々結界の内部に住んでいた者たちを指しているのだろう。ラフネスの表情からも、長老の”一族”はラフネスも含まれているようだ。確認しても意味がない事だ。
「以前には出なかったのか?」
「・・・」
「そうだよな。全員が越えられていたら、村を作る必要がないな」
村が作られたのは、外部との交渉のためだと思っていたが、交渉をやりやすくする意味はあったのだろうが、それ以上の”里”の近くで生活を行わせて、結界を越えられるようになったら里に戻す予定だったのだろう。
俺のアーティファクトが有れば、越えられると考えた者が居ても不思議ではない。
確かに、”里に戻れば”なんて考えている奴らだ、商人が騙すのは簡単だろう。俺の言葉で簡単に動揺するような世間知らずだ。騙されるほうが悪いと思っているような者たちには取っては、赤子の手をひねるよりも簡単だっただろう。
耳元で、”アーティファクトなら結界を越えられる”とでも囁けばいい。そのあとで、商人にアーティファクトを渡せば、すべてが丸く収まる。と、でも、思ったのだろう。
「はい。年々増えています」
村を作ったのは、効果が悪い方に出てしまったのだろうな。村で過ごさせれば、結界を越える方法が見つかると考えたのだろう。しかし・・・。
差別意識が芽生えてしまったのだろう。
差別は、差別される側が強く感じてしまった時に、攻撃的な手段に出てしまう。その結果、余計に差別されてしまう。
急激な変化ではなかったのだろう。
徐々に変化していて気が付かなかったのかもしれない。そして、結界を越えられないことを隠した者たちが存在してしまった。隠した者たちは、結界の中に踏み入らない”理由”が必要になった。
後ろ向きな理由で、外部との接触を行っていたのかもしれない。
あまり深く考えない状況が続いてしまったのだろう。
長老を見ると、長老は俺から目線を外して、窓の外を見たので、話を切ることにした。
追及しても意味がある話ではない。どうせ、里に到着すれば、判明する。状況証拠だけでも十分だとも言える。
「ねぇヤス。なんで?ヤスは、里に行ったことがあるの?」
「ん?」
さすがはリーゼ。長老とラフネスが、俺に聞きたいことを直球で投げかける。外を見て、話を切ろうとした長老が、また俺とリーゼを見る。
ラフネスも、正面に座るリーゼを見てから、俺を見る。理由を知りたいのだろう。
「なぁリーゼ。お前は、結界を越えた時に何か感じなかったか?」
リーゼなら感じただろう。
「え?あぁ・・・。そうかぁ!」
「え?リーゼ様!」「リーゼ様?」
リーゼは、馬鹿ではない。頭の回転は素晴らしく早い。それだけではなく、”感”もいい。
ヒントを与えれば、リーゼならわかると思った。
「リーゼ?」
「神殿に入る時に似ている」
そうだ。
神殿の内側の結界と同じ物だ。
「あぁ長老。ラフネス。エルフの里は、神殿なのだろう?」
「あっ!」「ふぅ・・・」「・・・」
三者三様だ。
「肯定も否定もしなくていい」
「ありがとうございます」
馬車は、森の中を進んでいく、エルフが収める神殿はどんな神殿なのだろう?
結界は、外部から悪意ある者を弾くようになっているのかもしれない。
俺が作ったような、認証を持てば突破できるような者ではない。神殿内部に張っている結界と同種だろう。
この神殿は攻略済みだ。
攻略済みなのは正しいだろう。だが、生きている神殿なのか解らない。俺の眷属たちは、FITに置いてきた。
ポケットの中に、スマホが入っている。
マルスとの通信が死んでいないのは確認してある。
問題は・・・。
この神殿の主に、リーゼが選出されてしまう可能性が残されている事だ。神殿の譲渡はできない。しかし、俺が知らないだけで、神殿ごとに違う設定が存在している可能性もある。
考え事をしていると、馬車の動きが緩やかになる。
「リーゼ様。神殿の主様」
「着いたのか?」
「はい。入口までは、少し歩きます」
「わかった」「うん!」
見上げるくらいに大きな木が目に入る。
多分、あの場所が目的地なのだろう。
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