【第三章 町?街?え?】第十一話 考察?

 

 ヤスとリーゼは宿の前で、ロブアンとアフネスが来るのを待っていた。
 ロブアンは律儀に宿の扉を閉めて出ていたのだ。

「おじさん!」

 遠くに見えるロブアンを、リーゼが見つけて叫んだ。
 ロブアンは、リーゼが呼んでいるのだと勘違いして喜んで走ってきた。しかし、それは鍵をかけていって中に入る事ができなかったリーゼの非難する言葉を聞いて表情が変わるというオチまで着いてきた。

「ヤス。今日は泊まっていくのでしょう?」

「あぁいろいろありすぎた。疲れたよ」

「そうね。ごめんなさい。食事はどうする?」

「食べるよ」

「わかった、準備ができたら、リーゼに行かせる。それまで、部屋で休んで居てくれていいわよ」

「わかった。部屋は?」

「あっリーゼ!ヤスを、そう、案内して」

 リーゼがすでに鍵を持っていた。
 特別な部屋というわけではないが、上等な部類の部屋だ。

 部屋に案内されたヤスは、”こんな物か”と思っていた。現代日本のビジネスホテル並を期待していたが、部屋の広さは少し高めのホテルと同じ位だが、部屋の設備がない。ヤスは、”ラノベの定番”と考えていたので問題はなかった。ただ1つ驚いたのは、シャワー設備が有ったことだ。トイレはなかったのだが、シャワーだけだが設備として備わっていたのだ。

「なぁリーゼ。シャワーは一般的なのか?」

 食事ができたと誘いに来たリーゼにヤスは疑問に思っていたことを聞くことにした。

「ん?」

「あの部屋に有ったのはシャワーだろう?」

「あっそうだよ。一般的じゃないと思う。普通の部屋にはなくて、お湯を桶で運ぶよ」

「そうか・・・。風呂なんてないよな?」

「お風呂なんて、貴族のそれも上位貴族しか持っていないよ。王都の宿屋なら設備としてあるかもしれないけど、一泊金貨1枚とか取られるよ」

「そうなのか・・・。風呂があったら入りたいか?」

「もちろんだよ!」

 ヤスは、情報に関して礼を言ったのだが、リーゼはいい部屋に泊まった事への礼だと受け取った。
 微妙にすれ違ったのだが、お互いに気にしていないので問題にはならなかった。

 ヤスは、従業員用の宿舎を作ることを考えている。
 その時の参考にしようと思っていたのだ。

 食堂に案内されると、何人かが食事をしていた。

「夜は、酒精の入った飲み物を出すから、食事に来る人が多いのよ」

 ヤスが客を見て不思議な表情をしているのを見て、アフネスが説明した。

「何がある?」

「酒精の物?」

「あぁ」

「今日は、エールだけね。ハチミツ酒の入荷は無いわよ」

「そうか・・・。エールは冷やして飲んだりできるか?」

「エールを冷やす?リーゼならできると思うけど・・・。そんな飲み方・・・。知らないわよ?」

「試してみたいから頼めるか?」

 エールとビールが違う物だと、ヤスは”ラノベ知識”で知っているが試してみてもいいだろうと思っている。

「あっリーゼに頼むのなら、氷を入れたりしないで、コップの方を冷やして欲しいと伝えて欲しい」

「わかった」

 アフネスが厨房に入っていって、リーゼになにか伝えている声が外まで聞こえてきている。
 ロブアンの作った料理をリーゼが運ぼうとしていたようだが、ヤスの注文を先にやってくれるようだ。

 アフネスが料理を持ってきた。リーゼは、ロブアンに指示されながらコップを冷やす作業をしている。

「ヤス。今日は、魚がメインだけど大丈夫?」

「あぁ魚は好物だ」

 ユーラットは、港町だけ有って魚料理を食べるのだが、内陸部では輸送の関係で魚料理を食べる地域は少ない。まだ、塩漬けの魚があるだけで、干物や燻製にした魚はない。ロブアンは、ヤスが魚料理を食べ慣れていないと期待して今日のメインに決めたのだが、ヤスも海が近い港町で普段から魚を食べていた。肉料理よりも、魚料理の方が食べる頻度が多かったくらいだ。
 ロブアンの誤算はそれだけではなかった。ユーラット以外の人間には魚醤がダメな人が多い、そのためにヤスもダメだと思った。そのために、たっぷりと魚醤を使った料理を出したのだが、ヤスにとっては慣れ親しんだ味だったのだ。醤油も使っていたが、昔から漁師めしには魚醤と決まっていた。そのために、普通に魚醤を使った料理を常日頃から食べていた。それだけではなく、機械的に作られた魚醤と違って、ロブアンが使った魚醤はしっかりとした素材で作られた天然物だったために、ヤスとしては最高の味に思えてしまったのだ。
 残念だったのが、予想通り米がなく、固く焼き固められたパンしかなかった事だが、それでも十分美味しく食べる事ができた。

「ヤス。冷やしてみたけど、本当に、こんな物を飲むの?」

 コップを持ったヤスはニヤリと笑った

「あぁ美味しそうだ!?」

 そう言うと、コップに口を付けて、エールを流し込む。
 ”ごきゅごきゅ”と喉を鳴らしながら流し込む。心地いいくらいの飲みっぷりだ。

 外の気温はまだ肌寒い位だが、ヤスにとっては関係ない。
 飲み物は冷えていたほうが美味しいという特殊な感性を持っているのだ。

ヤスは食事を平らげて、リーゼを呼んだ。

「なに?」

「なぁこういう時ってチップはどのくらいが妥当だ?」

「はぁそれを僕に聞く?」

「俺もおかしいとは思うけど、リーゼしか頼れる人が居ないからな」

「僕しか・・・。しょうがないな。ヤス。宿泊客はチップはいらないよ」

「そうなのか?」

「うん。高級宿屋とかなら別だけど、出さないのが普通だよ。特別なことを頼む時に、銅貨数枚か、大銅貨1枚くらいかな」

「そうか、ありがとう。ほら、リーゼ!」

 ヤスは、ポケットから大銅貨2枚を取り出してリーゼにわたす。

「ヤス!」

「エールを冷やしてもらったからな。うまかったよ」

「うん!ありがとう!」

 食器を下げるリーゼをヤスは見送った。

 厨房に居るロブアンとアフネスに声をかけて部屋に戻る。

 ヤスは部屋に入るとベッドに体を預ける。
 天井を見上げながら考えていた。

— ヤスの考察?まとめ?

 異世界なのは間違いない。

 食事もまずくはない。美味しいかと聞かれると、少し微妙だけど十分食べられる。味付けの問題だけだろう。追々解決していけばいい。

 それ以外も俺が知っている”ラノベ設定”と代わりが無い。
 魔法も有るらしい。リーゼがエールを冷やす時に使った・・・、らしい。

 そもそも、俺が呼ばれたのか?誰に?なんのために?
 定番設定だと、そろそろ神様や女神や王様や姫様や神官辺りが説明してくれるのだけど、その様子も無い。

 あと、人非人と呼ばれていたけど、どうやら同郷や他国の人間もこの世界に来ているようだ。
 定番設定だと、言葉は喋れるようになっているのだろうけど、そうなっていないようで、現地人との軋轢が産まれて殺されたか、逃げてひっそりと暮らしているようだ。

 俺は、マルスのおかげで言葉がわかるけど、これもどうかと思う。実際に通じていると思っているけど・・・・。リーゼやロブアンやアフネスの反応からは、意味は通じていると思えるから大丈夫だと思いたい。

 明日起きたら、神殿拠点に移動して状況をマルスに確認して、今後の方針を決めるための考察をしないと・・。それにしても、情報不足だ。誰か状況がわかる手引をしてくれないとチュートリアルも進められない。生きていくためにできることを考えないと、冒険者への道まっしぐらだ、それだけは避けたい。俺に魔物討伐はできるかもしれないが、討伐部位を持って帰ってくるとか無理・・・だ。今は絶対に無理だ。

 今ある金も何時なくなるかわからないし、理想は自給自足だけど、俺に某アイドルのような事はできそうにない。
 村を作ったり、海岸を生き物の楽園に変えたり、島を開拓したり・・・。できるとしたら、坂道の上から自転車のペダルを一回も漕がないでどこまでいけるか・・・とか、3,000歩でどこまでいけるか・・・とか、そんなことだけだろう。ソーラーカーで異世界一周・・・一筆書きはやってみてもいいかもしれないな。

 ダメだ、眠くなってきた。
 疲れたな。

 もういいや、明日マルスとう相談しよう。覚えていたらだけど・・・。