【第四章 詐欺メール】第二話 依頼
先輩たちの車が、駐車場から出るところまで見送った。
「そうだ!タクミ。部活の子から、なんか変なメールが来て困っているって言われたけど」
「変なメール?ストーカー的な奴?」
ユウキの荷物と自分の荷物を持ちながら、校舎に急いだ。
俺とユウキの校舎が違うので、まずは近いユウキの校舎に向かう。
「うーん。なんか、いろいろ言っていた」
話をあまり聞いていなかったのだな
「わかった、食堂でよければ、昼に話を聞くよ」
「了解!それじゃ、お昼にね!」
「はい。はい。食堂でな」
今日の授業は実習がメインになっている。
パソコン関連の授業は正直退屈だけど、新たな発見が有ったりするので、手を抜けない。やっている事は、俺がオヤジから叩き込まれた事とは違う。言語の書き方とかがメインになってくる。こんな事をして、プログラムができた気になっていたら、実践になったら役に立たないのは間違いない。ネットワーク関連は、間違っているとは言わないけど、時代遅れ感がある。それに、プロトコルを無視して話をしたり、パケット単位の話をしていない。
今後の生徒総会の活動で使うスクリプトを書いていると授業が終わってしまった。
お昼は、食堂で食べるか、お弁当を食べるかに分かれる。一部の生徒は、許可をもらって、外に食べに行く事ができる。
俺は、昼を自分で作って適当な場所で食べる。最近、多いのは生徒総会の部屋だ。せっかく、使える部屋だから、使わなければ損だ。
今日は、食堂に行く。朝、ユウキの荷物の中に入れ忘れた、ユウキの弁当も一緒に持っていく。俺の弁当よりも、ご飯の量は1.5倍。おかずの量は2~3品多い弁当だ。このくらいにしないと、夕飯まで持たないと言われて、昼休みに、売店でパンやお菓子を買わされる。多分、ユウキが”モテナイ”のは、見た目が問題ではなく、この食事量だと思う。部活をやっている男子高校生と同じかそれ以上に食べるのだ。子供の頃・・・正確には、赤ちゃんの頃から一緒に居るので、そう言われてもわからないが、ユウキは世間一般からいうと、可愛い部類なのだと、未来さんも言っていた。俺としては、未来さんのような人が可愛くて綺麗な女性だと思うのだが・・・。
食堂は、7割くらいの席が埋まっている状態だ。この食堂は、普通に先生も使う上に、値段が先生の懐具合に合わせてあるので、俺が知っている他の学校と比べても、少し高めになっている。そのために、生徒の利用は少ないのだ。ユウキを探す。工業高校では、女子は目立つ。食堂の一角に、作業服の上を着た女子の集団を見つけた。女子は、人数が少ないので、科や学年が違っても、集団になっている事が多い。それに、ユウキは、前生徒会長と副会長と懇意にしていたので、女子の中心の様な状態になっている。そこに居るかと思ったが、ざぁっと見回しても居なかった。顔見知りの女子と目があった。指で、反対方向を指さされた。その方向を目で追ってみると、ユウキと知らない女子が二人座って居た。手を上げて、礼を示してから、ユウキが居るテーブルに向った。
ユウキも俺に気がついて、手招きしている。
ユウキに弁当を渡して、二人の女子の正面に座る。バッチから、二人とも一年生の様だ。インテリと工業化学か・・・珍しいな、双子なのか?
「エリです」「マリです」
「篠崎です。親しい人は、タクミと呼びますので、タクミと呼んでください。お話の前に、昼ごはん食べちゃいましょう。時間がかかるお話なら、場所を変えてもいいですからね」
「はい」「はい」
見事に息が合っている。
ユウキは、すでに弁当を開けて食べ始めている。お前が連れてきたのだから、お前が紹介しないと話が進まないだろう・・・とは、思ったがしょうがない。やはり、ユウキはユウキだな。
10分くらいで昼ごはんは食べ終わった。
「あっタクミ。エリちゃんとマリちゃんが、高校生になって、スマホ買ってもらったらしいのだけど、メールが沢山来て、それだけで、パケットを使い果たしちゃって困っているらしいのだけど、なにか方法はない?」
「いきなりだな・・・えぇと、エリさんとマリさん。二人ともなの?」
二人は、うなずいた。
「スマホは?」
「これ」「これ」
Sony製の一個前のやつだな。
「キャリアは?」
二人して、クビを傾げる。
「えぇと。ドコモとか、auとか、ソフトバンクとか」
「知らない」「パパが買ってきてくれた」
「見ていい?」
頷いて、二人がスマホを渡してくる。
「あっロックを外してね」
慌てて、ロックを外してから、渡してくれた。
Android だと、キャリアが、インジケータのところに出る機種もあるが、出ない場合もある。二人の機種は出ない機種だ。
設定→端末情報→端末情報→端末の状態→SIMのステータスと開く。
ネットワークのところに、キャリアが表示される。
ほぉ・・・フリーSIMを使っているようだ。簡単に、他の設定を眺めるが、制限はかけられていないようだ。
「ありがとう」
二人に端末をかえす。
持ってきたタブレットに、キャリアをメモしておく、後機種名も合わせて書いておく。
「それで、パケットが無くなってしまうって聞いたけど、WIFIは使っていないの?」
「お家では、WIFIを使っています」「マリは、学校でも、WIFIを使っているよ!」
WIFIを使っていて、それでもパケットが足りなくなるほどのメール?
何かがおかしい感じがする。
「契約の容量は?」
「2G」「2G」
うーん。それだけあれば、メールだけなら問題ないと思う。
1万通とかなら別だけど・・・
「なぁ。メール以外に、動画を見たり、TVを見たり、ゲームをしたり、SNSで動画や画像をアップしたりしていない?」
フルフルと否定の意思を示した。
「パパがダメって言っている」「ママがダメ。動画や画像は、パソコンでやりなさいって言っている」
「そうか・・・二人とも、放課後時間あるか?」
これも、二人は否定する。
「あっタクミ。二人とも、僕と一緒だよ」
「そうか・・・1時間くらい遅くなってもいいか?」
今度は、二人はうなずいた。問題無いようだ。
「ユウキ。悪いけど、生徒総会の部屋・・・じゃ機材がないか、冷蔵庫に連れてきてもらっていいか?使用許可は取っておく」
「わかった」
「生徒総会?」「冷蔵庫?」
二人の疑問には、ユウキに答えてもらう事にしよう。
俺は、ユウキが食べ終わった弁当箱を回収して、電子科の先生のところに向かう事にした。二人には、放課後に詳しく調べてみるとだけ伝えた。
午後の授業は、体育と一般教養の選択授業だ。
一般教養として、数学と英語と国語がある。物理と科学は、工業過程だ。したがって、選択は、地理/歴史か、受験英語か、古典となる。受験英語には興味がないので、地理/歴史を選択している。ただ、教師の趣味なのかわからないが、ほぼ”歴史”の授業となっている。桜さんにも、オヤジにも言われている事だが、歴史から学ばない者は”愚か”だと・・・。
体育は、基本的に自由になる事が多い。今日は、くじ引きで決まったサッカーを行う事になっている。
適当に流しながらサッカーを楽しんでから、眠い頭で歴史の授業を受けた。
生徒総会の部屋は、最近では俺の専有部屋となっている。
生徒総会自体が、俺とユウキと先輩が一人居るだけだ。先輩も、受験とか言ってほとんど出てこない。生徒総会の役目は、”便利屋”になっている。教諭たちからの依頼も多い。生徒会が、独立独歩の気風が強いために、教師と対立する事が多かった時代に作られた調整役が、生徒総会だ。生徒の代表は、生徒会が行う。生徒総会は、生徒会と違って、教師の下に付く組織で、教師や学校側からの意見を生徒会に伝える役目になっている。もともとは、各科の代表と部活の代表が集まって、生徒会に意見する組織だったのだが、生徒会の力が弱くなると共に、生徒総会の形だけが残される状態になった。
そして、現状の生徒総会は、生徒から問題提起や改善要求を受け付ける窓口のようになっている。
1学年600人近い生徒が居る学校だ。いろんな意見がある。それを、生徒会案件なのか、教師案件なのか、学校案件なのかを振り分けるのが、生徒総会だ。生徒総会で、振り分けを行って良い事になっているので、却下する事もできる。
現状では、個人の利益につながる事は却下するというルールを作っている。罰則は無いものの、さらし者にすると宣言してから、個人的な要望は激減した。一部では、俺が”生徒総会を私物化している”と言われているようだったが、”それなら変わってやる”と言ったら、その声も小さくなっていった。
そんな生徒総会の部屋だが、ネットワーク回線が来ていなかった。
流石に工事をお願いするには予算が掛かってしまう。そのために、この部屋には機材は持ち込んでいない。先日発売になったOS会社が出している”2 in 1”のパソコンを学校には持ってきているが、これだけで調べられるか少しだけ不安がある。最悪は、家に連れて行かなければならないかも知れない。
そうならないいことを祈ろう。
”冷蔵庫=サーバ室”の使用許可は、取り付けてある。交換条件で、サーバのパッチ当てを頼まれてしまった。
パッチも、OSに寄って違うが、学校のサーバルームには、Windows Server 系が2台。Linux 系が2台。誰の趣味なのかわからないが、TRONと、どっかの企業が置いていったAS400が置かれている。TRONとAS400は俺では太刀打ちできない。コンソールやGUIを使っての操作はできるが、それだけでOS周りの調整やパッチあてには自信がない。他の、4台のパッチ当てを行う。4台とも、学校の外からはアクセス出来ないようになっているので、そこまで神経質になる必要はないとは言われているが、文章サーバになっていたり、学校内で使う掲示板が動いていたりする。いずれ、この辺りの修正も必要になってきそうだが、”ひと仕事”なるのは解っているので、提案はしていない。卒業近くなったら、提案して卒業後に仕事として受けたい。
冷蔵庫で、ユウキたちを待っていると、先輩からメッセが届いた。
夏休みの話だ。俺とユウキの好き嫌いを聞いてきた。なぜ、俺にユウキの分まで聞いてきたのかわからないが、分かる範囲で答えておいた。基本的に、俺が食べられないのは、オヤジから引き継いだ物で”エビ”と”魚卵系”と”生卵”だ。ユウキは、トマトがダメで、きゅうりと瓜系がダメ。あとは、ハンバーガーチェーンのピクルス以外のピクルスもダメだと伝えておいた。後は、食べられない事は無いけど、好まない物も伝えておいた。ユウキが、野菜が嫌いだがあれば食べるという感じだ。好きな物も一緒に伝えておいた。ユウキが、エビが好きだから、エビが美味しい店でもOKだと伝えた。すぐに折り返しが来て、俺がエビが食べられないが大丈夫かと来たので、エビ以外で食べられそうな物を探すから大丈夫と答えておいた。
そんなやり取りをしていたら、ユウキが後輩を連れて来た。
二人は、冷蔵庫に入るのははじめての様だ。ファンの音がうるさいのは、AS400のせいだ。パソコン系のサーバは静音設計になっている物が多いが、AS400なんて一般家庭にある物でもないし、一般的な企業が持っている様な物でもない。
「ファンの音がうるさいと思うけど我慢してくれ」
二人はうなずく
「ねぇタクミ。横の部屋でもいいよね?」
「クライアントルーム?」
「そうそう、そのクライアントルームでも同じだよね?」
「あぁそうだな」
これはうかつだった。
確かに、ネットワークを使うのなら、クライアントルームでも同じだ。
外部につながる回線が入っているから、クライアントルームの方がいいかも知れない。ルータが冷蔵庫にあるので、冷蔵庫で話をしたほうがよいと思いこんでいた。
ユウキと双子を連れて、クライアントルームに移動した。
ここは、パソコンの授業を行う部屋ではなく、教諭たちが使うパソコンが並んでいる。個人持ち込みや科で使うパソコンではなく、サーバへのアクセスを中心に行う物だ。そのため、古い機種の博覧会になっている。オヤジが一度来た時には、テンションが上がっていたので、貴重な端末もあるのだろう。
適当に座ってもらって、俺の持ってきた端末をネットワークにつなげる。
これで準備が完了した。
さて、何が出てくるのか楽しみだな!
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