【第五章 魔王】第二話 報告(2)
私の後ろに控えている魔王が手を上げる。
大魔王様と同じ、”日本”出身の魔王だ。変わり者で、我が声を掛ける前に、眷属を使いに出して、恭順を申し出てきた。ダンジョンは、10階層程度の規模だ。王国内では、あまり知られていないダンジョンで、本人の話を信じるのなら、490代目らしい。
大魔王様に恭順するかと思ったら、我の属領になることを望んだ変わり者だ。
「どうした?」
ルブラン殿が、手を上げた魔王の”名”を呼んだ。
名前は、本人が名乗っていたので、そのまま呼称する事に決まった。ゲームでよく使っていたキャラクター名だと言っていた。やはり、日本人はゲームが好きな人が多いのだろうか?
生き残った魔王の1/3は”日本人”のようだ。
「ありがとうございます」
しっかりと立ち上がって、頭を下げる。
「質問か?」
この日本人は恐怖を感じないのか?
間接的に、我にも非難の視線が向けられるが、それだけで恐怖を感じてしまう。大魔王様の眷属からの視線は、本当に怖い。
特に、(眷属になったと教えられた)狐人の少女からの視線は怖い。視線だけで、我くらいなら簡単に殺せてしまうだろう。大魔王様が召喚した者たちは、狐人の少女ほどのプレッシャーは感じないが、それでも怖い。
「はい。大魔王様に3つ・・・。失礼しました。質問が一つと、お願いというか、要望というか・・・。お聞きしたいことが4つあります」
場がざわめく、大魔王様への要望だと言った時に、大魔王様の横に控えている眷属から恐ろしいくらいの圧が襲い掛かる。
「要望?何か、欲しいのか?」
また、場がざわめく、直答が許されたのか?
ルブラン殿が答える前に、大魔王様が笑いながら答えた。
何かを言おうとしたルブラン殿を手で制してからの発言だ。それだけでも、この”報告会”が行われた意味は大きい。
「え?あっ・・・」
日本人もいきなり、大魔王様が応じてくれるとは思っていなかったのだろう。
もう一度、深々と頭を下げて、跪こうとする。
「気にするな。皆も、気にしなくていい。それに、『私を倒すだけの自信と覚悟があるなら、いつでも挑んできてかまわないぞ』」
大魔王様は、日本人を立たせてから、何か”意味”があるような言葉を繋げた。
日本人から消えていた余裕が戻ったのが解る。我との繋がりがある魔王だ。我にも感情の一部が流れ込んでくる。
「お戯れを・・・。それに、”お春さん”ですか?」
”お春さん”?
「ははは。俺は、どちらかというと、バグダッシュが好きだけど、解りやすいだろう?」
何故か、大魔王様の機嫌が良くなる。
日本人にだけ解る話なのか?
バグダッシュ?どこかに、似たような地名があったのだが?あれは、日本だったのか?
「そうですね。私は、カリンの彼氏。いや、最終的には旦那ですか?彼とカリンの父親が好きでした」
日本人には意味がわかるようだ。
よかった。大魔王様と日本人との会話が成り立ったことで、大魔王様の眷属からの王レッシャーは無くなった。その代わり、狐人の少女からの嫉妬が凄いことになっている。
「それは、それは・・・。それで?」
大魔王様は、少しだけ考えてから、日本人に質問を続けさせることを選んだ。
「はい。質問は、”神聖国”の魔王が、どうなったのかを、我らに教えていただきたい。あっ。要望になってしまいました。申し訳ございません」
”神聖国”の内情は、報告を受けているが、”聖王”と名乗っていた魔王がどうなっているのか解らない。
粛清したという話だが、現状”神聖国”は存在している。領土は、本当に小さくなっている。それでも、存在しているのは、魔王カミドネからの話でも解る。
「構わない。それで、4点の要望は?」
え?
それだけ?
先に、要望を聞いてくれる?
「一つは、大魔王様の書庫の一部を我らに解放していただけないでしょうか?」
「書庫?」
「はい。娯楽としての、小説・・・。ラノベやマンガです」
書庫には、”叡智”が詰まっていると言われているが、魔王となった時期の違いはあるが、知識が力に繋がっているのは共通認識だ。それを公開して欲しいと言っているのかと思ったが・・・。
娯楽としての小説やマンガが読みたいだけなのか?
それとも、違う意図があるのか?
我たちは、契約で大魔王様や眷属に逆らえない。
ポイントは、驚くほど潤沢になっていることだ。
大魔王様に忠誠を誓っただけで、今までの数倍のポイントが手に入った。今まで諦めていた物に手が届く状況になっている。日本人の魔王は、それらを娯楽に使おうとしているのか?
これから、魔王は大魔王様の下で、協調しながら繁栄を目指す。
その中で、ダンジョンの特性を活かした個性が必要になっている。我も何か考えた方がいいかもしれない。
「先に、要望を言ってくれ、一つ一つに答えるのは面倒だ」
「わかりました」
この日本人は、遠慮がないのか、大魔王様の側近たちから出されるプレッシャーを受けながら、残り3つの要望も伝えた。
大魔王様の領土にあるような、ギミックハウスの設置を許可して欲しいという要望は、他の魔王からの同意を得られやすい。
ギミックハウスの設置に合わせて、大魔王様が使っている罠の一部を公開して欲しいという要望だ。
最後の一つを聞いた時に、側近からの圧力が殺意に変わった。
「ははは。最後の要望は、俺も気になっていた。ルブラン!抑えろ!」
「はっ」
ルブラン殿が、大魔王様に頭を下げる。
「敬語の必要はない。他の者も同じだ。口調は気にするな。それに、この場に来ている者は、好きに俺に要望を伝えてくれ、叶えられるとは約束は出来ないが、要望を伝えるのを制限するつもりはない。ルブラン。窓口を選定してくれ、魔王カミドネと魔王ギルバードの二人が魔王側の窓口でいいか?」
急に話を振られた、二人の魔王は、頷いている。
ギミックハウスも、自由に設置してよいと言われた。ただし、殺傷能力が高い罠を設置する場合には、注意書きを設置するように命令された。
「大魔王様」
「ギルバードか?どうした?」
「御前で、話をしても、混乱するばかりで、大きな声の者が意見を言える場所になるだけです」
「そうだな」
「事前調整の場を設置したいと思います。ご許可頂けますか?」
「好きに・・・・」
大魔王様が、肘掛を指で数回叩いてから、目を瞑る。
「ルブラン。どこかに、カプレカ島のような場所はあるか?」
「王国に天然の要害になっている場所があります」
「ギルバード。ルブランと協力して、湖の中央に、街を作れ、その中央に魔王たちが集まる場所を作る」
「大魔王様?」
「その建物の周りには、ギミックハウスを配置する」
「え?」
「魔王会議の議事堂には、図書館と俺から公開する罠の展示場を作る。魔王と眷属だけが入場を許された場所だ。書籍は、貸し出しも販売もするが、基本は議事堂の中で楽しむように、罠に関しては、自ダンジョンへの配置は自由にしていい。ただし、一部には利用制限を作る。人間には、無制限に使わせるつもりはない」
我も驚いているが、それ以上に要望を出した魔王が驚愕している。
大魔王様は、ほぼ全ての要望を叶えてくれるようだ。ただ、魔王に限るという条件が付くが、生活が豊かになり便利になる。地球に居た時以上の生活ができるようになってしまう。
議事堂には、階層の深さや経験で階級を付けない。
全ての魔王は1票を持つ。派閥を作って争ってもいいが、最後に”大魔王様”に要望を出しても、叶えられるとは限らない。買収は禁止された。発覚すれば、この魔王連合からの離脱を言い渡されることになる。
議事堂の作成やら、ルール作りの為の組織が作られる。
大魔王様から、”ギミックハウスの取得ポイントを競う大会を行うのも面白いな”という話が追加された。
全ての魔王が、一つのギミックハウスを作って、アタックさせる。
得たポイントで順位を競うことに決まった。
各ダンジョンの周りにも、ギミックハウスを建築して、テストを行う。
議事堂の周りに作られた場所に、各魔王がギミックハウスを作成する。用地は、くじ引きで決定され、人が多く住んでいる場所は、用地が狭く、遠い場所は広い。
1年では、多くの人を殺した魔王が勝ってしまうために、4年間で競うことに決まった。
細々したことは、大魔王様からルブラン殿に任せるという一言で、終わった。
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