【第三章 スライム今度こそ街へ】第三話 出発
「お姉ちゃん」
「うん」
ライが、男の子の姿になって、私を”お姉ちゃん”と呼ぶ。
外では、マスター呼びは目立つうえに不審者に見えてしまう。似ては居ないが、”姉”という設定だ。名前は、”ライ”のままだ。本名は”雷太”とでもしておけば不自然ではない。と、思う。ちなみに、女の子(私の分体)は、”フウ”だ。本名も、”風”だ。とある、漫画の好きなキャラクターの名前だ。設定をマルパくした。誕生日は12月12日。射手座のA型。身長だけは、156cmには出来なかったのが心残りだ。
”にゃ!”
「パロット。どうしたの?」
ライの通訳では、どうやらパロットは山の方ではなく、人里?の方にパトロールに向かいたいようだ。上空からの偵察や、キルシュたちによる偵察はしているが、パロットなら首輪をしていれば、飼い猫だと思われる。それに、車に轢かれるような心配もない。パロットだと、轢いた車の方が心配になってしまう。
「いいよ。でも、ライの分身と一緒に、あと首輪をして行くこと。あと、出来れば、ナップも一緒に・・・。あと・・・」
「マスター。大丈夫です。森よりも、人里の方が安全です」
ライからの指摘を受けて考える。
たしかに、人里で心配なのは、駆除対象になっている事だけど、飼い猫なら大丈夫だろう。ギブソンやノックやラスカルは、ダメだろうけど・・・。パロットなら、ごまかせる。山の中では、魔物との戦闘が想定される。天使湖のような場面には出くわさないとは思うけど、危険度では山の方が高い。特に、パロットなら・・・。それに・・・。
パロットは、天使湖でも留守番していた。
山にも殆ど出かけない。家に家族が増え始めている状況なら、パロットが散歩に出かけても大丈夫だろう。
毎日、帰ってくることを条件に、パロットの散歩に許可を出した。
私も、近所の情報は欲しい。主に、スキルを得ている人が居るかどうかだ・・・。パロットには、スキルを感じたら戻ってくるように伝えてある。家まで戻ってくれば、安全だ。
家族からの要望に答えながら、必要な物を通販で購入して、学校が休みになる日を待っていた。
「明日か・・・」
休日ではなく、学校が休みになるのを待っていた。
スマホで時間を確認する。明日のために充電も確認する。
40%あるから問題はない。どうせ、外ではあまり使わない。そういえば、学校に行っていた頃には、知り合いが月の半ばには、”ギガが足りない”とか騒いでいたけど、私は2ギガでも余ってしまう。
パパやママが居た時には、家族でまとめてだからどのくらいなのか解らなかったが、一人になってみて契約を見直した。最初は、知り合いの”ギガが足りない”という言葉から、5ギガで契約したけど、今月は使ったと思った時でも、1.5ギガ程度だったので、2ギガに契約を変更した。パパが選んだ格安SIMで契約名の変更も終わっている。料金は、チャージ式で十数万円が入っている。一生は無理でも、かなりの期間は使えそうだ。今月の利用料から、1ギガに減らそうと思っている。
ライにもスマホを持たせて、使い方を教えた。端末は、パパが仕事で使っていた物があった。
念話があるから必要は無いのだが、持っているといろいろ便利だろうという判断だ。
ライが、私から離れて行動しないことから、必要はない。もし誘拐されても、ライならスライムになれば抜け出せるだろう。
そう考えると、スマホは必要ないのだけど、人が居る街に行くのなら持っていた方が良いだろうと判断した。
ライが買い物をする場面は限られるが、お金を使うシチュエーションも考えられる。その時のために、電子マネーをチャージして渡しておけばいいと思った。お金を持ち歩くよりはマシだ。おつりを意識してお金を出すよりは、使えるマークを覚えて、電子マネーを起動させる方が、覚えることが少ない。
寝なくても大丈夫になったが、目を閉じる。
いろいろ考えると不安になるが、パロットやギブソンやラスカルが私の周りで丸くなって寝ている。寝ているよね?
「うん。大丈夫。なんとかなる」
ダメだったら逃げればいい。
何度も言い聞かせて、それでも不安になってしまう。スライムになってしまった。人から魔物になってしまった。そして、魔物は駆除対象で、異物だ。私をこんな姿にした奴が存在する。そして、私がこんなに不安な思いで”街に出向く”必要はなかった。でも、今は・・・。
スキルが芽生えた。
スキルを使えば、魔物でも生活ができる。
スキルを使って、私を魔物にした奴にお礼を考えてしまう。私が、生きている事が復讐になるのでは?
ライの記憶から、生き物をスライムにするスキルなのだろう。そんなスキルを持っている、実行している奴が居る。私の気持ちは、この際は忘れよう。でも、ライに関しては、復讐させてあげたい。あんな殺され方をして、何のために殺されたのか?何のために、スライムにされて、無残にも殺されたのか?
ダメだ。どんどん、考えが物騒になる。
スライムに姿を変えて、窓辺に移動する。
カーテンの隙間から外を・・・。シャッターを少しだけ開けて、外を見る。晴れている。私の使っている部屋からは、星空が見える。街の灯りや街頭がない場所だ。星空が綺麗だ。よく見ると、アフネスが警戒する為か、大きくなった(何か解らない)木の枝に止まっている。よく見ると、ダークたちも木々に止まっている。休んでもいいのに、皆が順番で警戒をしている。多分、地上でも・・・。水中でも・・・。
家族の皆は、私が過保護だというけど、皆も過保護だ。家族を守る為に、皆が全力を出している。新しく家族になった者たちも、意識の混濁が無くなったのか、来週にも家に来るようだ。また、騒がしくなる。嬉しい。
余計な事を考えない。
まずは、家族との生活を安定させないと・・・。
—
「お姉ちゃん」
「うん。ライ。まだ早いよ」
時計を見ると、朝の7時だ。
学校に行くのなら、遅いくらいだけど、今日は学校ではない。街を散策して、買い物をして帰ってくる。そのミッションが無事に達成できるかだ。街の中にスキルを見分ける物があるか?魔物だとバレないか?
そして、補導されないか?これらの確認だ。あと、ギルドの位置を確認したい。パソコンで、ギルドのサイトを見て、事務所の情報を確認してある。何度か歩いたことがある場所だから、想像が出来ているけど、しっかりと認識しておきたい。
「お姉ちゃん。どうやって、行くの?」
うーん。
カーディナルに運んでもらうのはダメだ。駅までの移動手段を考えていなかった。
自転車・・・。かな?
二人乗りは目立つな。考えていなかった。
「僕、スライムになって、お姉ちゃんに張り付こうか?お姉ちゃん一人で、自転車で移動して・・・」
「そうだね。地下の駐輪場なら、人が居ないタイミングがあるだろう。それなら、少しだけ早めに出ようか?」
「うん」
自転車は、後2年は地下駐輪場に止めても怒られない。料金は支払い済みだ。最寄り駅には、いくつかの駐輪場があるが、地下駐輪場は入口が不便なことからあまり人気がない。早い時間たちの人か、帰ってくるのが遅い人が使うだけで、昼間は地上の駐輪場を使う人が殆どだ。
予定では、10時くらいに町に到着予定だから、9時に出発しようと思っていたけど、1時間早めることにする。
街に先行する家族も、1時間前なら問題はない。
「ライ。先行組をお願い」
「はい」
男の子になっている時の口調は、年相応になってきている。まだ、機械的な反応になってしまうことがある。大分よくなってきている。可愛い弟ができたようで嬉しい。あと、ライの横には無口な私そっくりな女の子が寄り添っている。私の分体だ。
いろいろ考えて、考えて、考えた結果、女子高校生が一人で街を歩いているよりも、小学生っぽい双子に見えなくもない兄妹を連れて歩いていた方が、怪しく見えない。と、いう結論に達した。ライや家族が心配したのが最初だったが、今にして考えれば、周りを警戒する意味でも3人で行動した方がよい。
「お姉ちゃん。街に向かったよ」
「ありがとう」
時計を見ると、少しだけ早い。8時前だけど、出発しよう。
ライには、スマホを持たせている。電子マネーもチャージしてある。私の分体には、ポシェットを持たせている。中身は、交通系のカードが入っているだけだ。
私もスマホを確認する。お金も確認する。交通系カードのチャージも確認した。大丈夫だ。3人が往復しても余る位には入っている。
「よし。行こう」
「はい」
ライと女の子がスライムになって、私に張り付く。これで、自転車に乗って最寄り駅まで向かう。
久しぶりの街だ。
あるか解らないけど、心臓がドキドキしている。
「行ってくるね。皆。家をお願いね!」
皆の鳴き声を聞きながら、玄関から出る。
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