【第四章 噂話】第二話 接触
ユウキは、意図的に三保の入口にある家の情報を流した。
しかし、番犬が居るためにうかつに近づけない。
静岡や近隣のマスコミは一通り洗礼を受けている。
怪我をしたのではない。いつの間にか、違う場所で目が覚めるという失態を繰り返して、いつの間にか、ユウキの家は静岡近隣のマスコミ関係者からはアンタッチャブルな場所として認定されている。
情報を仕入れた者たちも、最初は情報を疑ったが、実際に”噂”と同じような状況に陥れば、信じるしかなくなってしまう。
しかし、そんなマスコミに匂わせている者たちは、そんな中途半端な状況には納得ができない。
政治を生業にしているが、政治家ではなく、政治業者と呼んだ方が良い方がいい者たちは、自分が持っている権力が通じない者たちを排除する傾向が強い。選挙期間だけ、地元に帰り頭を下げて、期間が終われば関東圏や名阪神に戻ってマスコミを利用した活動を行う。そんな者たちは、ターゲットにしているのが”高校生”だと思い込んでいる。その高校生の表書きだけを読んで、裏書を知っても信じないか、自己に都合が良いように解釈をしている。
ユウキも、完全に門戸を閉じていない。
お断りをしているのは、詐欺まがいの話を持ちかけて来る者。そして、政治業者とマスコミだ。マスコミも、正面から正式な手順で訪ねて来る者は、話を聞くくらいの度量を示している。本当に、話を聞いて追い返しているのだが、それでも、ユウキは交渉ができる土壌を残している。
しかし、権力者を名乗っている者たちは、”交渉”は自分(たち)が主導でなければ納得しない。ユウキが高校生だというのも影響していて、”奪い取る”ことしか考えていない。メリットの提示がなければ、自分と会う事がメリットだと言い出す愚か者まで存在していた。
『ユウキ!』
「今川さん?珍しいですね」
今川がいきなり電話をしてきたのに、ユウキは”珍しい”と表現した。
普段は、メールやSMSで都合を聞いてから、コールしてくる。いきなり電話をしてきたのは、緊急の要件があるのだろう。
『すまん。緊急な用事で、ダメなら・・・』
「大丈夫ですよ」
ユウキは、今川から緊急で伝えたいことがあると考えて、話を続ける事にした。
『助かる。撫養教を知っているか?』
「なんですか?それ?」
『撫養教だ。”撫でるように、養い育てる”を教義に掲げる・・・。宗教団体だ。よくある、新興宗教の一つだ』
「へぇその撫養教がどうしました?」
『宗教団体の成り立ちや状況は、メールしておく』
成り立ちは、Webページを見れば公開されている。
今川がユウキに送るのは、表の公開されている情報ではない。実際の成り立ちを、短い時間だが調べた者をユウキに送る。
表と裏の情報を把握することで、相手の狙いが解ってくる。
「わかりました」
『簡単に言えば、奴らは一部の議員と繋がっている』
「よくある話ですよね?」
宗教と政治の切り離しは難しい。
『そうだ。その議員の筆頭が・・・』
「・・・。そうなのですね」
今川が言葉を濁した事で、ユウキは今川が慌てて、ユウキに情報を渡してきた理由を悟った。
『あぁそれで、撫養教が、伊豆にある拠点近くに、教会建築の許可を求めてきた。先生は、拒否したようだが・・・』
「・・・。もしかして、隣近所の市や町に教会を建てているのですか?」
『そうだ。拠点近くの街は、先生と関係者だけで構成されているから、問題は無いのだが・・・』
「そうですよね。相当な指揮が投入されたのですね」
『あぁお前ではなく、拠点への間接的な攻撃だ』
「わかりました。ヒナやレイヤには?」
『知らせた。他にも、お前たちの両親にも伝えた』
「ありがとうございます。何か、問題は?」
『今のところは大丈夫だ。物資も、船が使える。道路の封鎖は不可能だろう』
「そうですか?」
『拠点の周りを包囲しても、県道も国道も通っている。市道や町道なら、市区町村で有料道路に変更ができるが、県道や国道は難しい』
「わかりました。物資は、できるだけ地産地消に切り替えているので大丈夫でしょう。情報も、ネットの切断は現状で不可能でしょう」
『そうだな。レイヤも同じ見解だ。そうだ!先生ではなくて、佐川さんからの提案だが、港近くに、以前から提案があった、国際的な研究所を作ったらどうかと打診があった』
以前から、提案はされていた。
国際的な施設を誘致できるのなら、市区町村なら飛びついていい案件なのだが、保留案件になっていた。
施設を作って研究員が働くのには問題はない。ユウキたちから考えれば、監視対象が向こうから(喜んで)やって来てくれるのだ、手間が省ける状況なのだが、監視以前の問題として、施設を作っても働くのは研究員だけではない。人員の確保ができる状況ではなかった。
それらも、落ち着いてきている。研究所の人員や雑務を行う人員の確保も可能だ。
「・・・。そうか、国際的な研究所への攻撃にも見えるのですね」
『佐川さんの狙いは、違うとは思うが、先生も前向きに検討しても良いと言っている。レイヤとマイは、ユウキに任せると言っている』
「わかりました。佐川さんに、許可を出してください。まずは、出先機関を誘致します。今川さん。森田さんと協力して、情報を流してください」
『わかった。それから、関係することだが、撫養教の司祭が、お前との面会を求めている』
「え?」
『どうする?拒否もできると思うぞ?』
「学生なので、すぐには動けませんが、正面から面会を求めてきたのなら合いますよ。三保まで来てもらう事になってしまいますが・・・」
『先方には、来月以降で、三保での面会と、司教が一人で来るように伝えておく』
「複数で来ても良いですよ。俺が会って話をするのは一人だけです。複数の人が話をするのなら、会わないと伝えてください」
『わかった。要件を先に聞くか?』
「そうですね。あと、条件を付けるようなら断ってください。別に、俺には・・・。その司祭に会うメリットがないです」
『ははは。そうだな。先方には、しっかりと伝えておく』
「お願いします」
通話を切ってから、ユウキはスマホを見て考えている。
宗教が出てくると、問題が厄介になる。
”神”の存在を使って思考停止に追い込むようなやり方をしている連中を好きになる理由はない。
ユウキたちが、宗教と前を向いて手を取り合う事は絶対にない。
撫養教の司祭は、正面からの訪問を拒否されたと感じた。
自分が会いたいと言っているのに、相手からは条件が伝えられた。その上で、”メリットがない”と言われた。屈辱を感じて憤慨した。
数回に渡って、面会を申し込んだ。そして、官僚を経由したり、議員の名前を使ったり、有名人を全面に押し出したり、力を見せつけるようにユウキの召喚を試みたが、同じ答えが返ってきた。
正攻法が通用しないと判断して、裏側からの脅しに切り替わる。
それが、ユウキが望んでいたことだとも知らずに・・・。
着々と、復讐を行う状況が揃い始めている。
手足を?いで、自分たちが座っている玉座が砂上の楼閣だと思い知ることになるだろう。
正面からの正攻法ならユウキに打つ手は限られていた。武力や非合法組織や暴力に訴えるのなら、相応な対応が可能だ。
愚かにも、非合法な方法にシフトしてしまった。ユウキたちを”ただ”の子供だと勘違いしているためだ。自分たちが持っていない力は、相手も持っていないと勘違いしている。相手の隠された力があり、自分たちなら”力”の制御ができると勘違いしている。そして、全てのことは”奪い取れる”力を自分たちが持っていると勘違いしている。
ユウキと対峙するのなら、なんでもありの状況を作らない。条件を限定して、ルールで縛るのが正しい。
なんでもありな状況では、ユウキたちのスキルが意味を持ってしまう。スキルを使わせない為にも、雁字搦めにして自由に動けない状況を作らなければならない。特に、最初の対応として脱法行為は控えなければならない。
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