【第二十三章 旅行】第二百四十話
最終日も流れは変わらない。
俺は起きて、支度を済ませて、呼ばれるのを待っていた。
ルートが慌てて部屋に入ってきた。そして、俺の前で跪いた。
「ルート?」
「もうしわけありません」
「どうした?何かあったのか?」
「パレスキャッスルが襲われました」
「・・・。ルート。説明しろ」
「はい」
ルートの説明では、2日前に到着した。エルフ大陸からの商船が襲われた。
それが始まりで、パレスキャッスルを魔物の集団が、陸と海から襲ってきた。常備兵と冒険者たちで撃退はできたようだが、問題はその後だ。襲われた、エルフ大陸から来ていた商隊が港に着いて積み荷を下ろすと、”新種”が1体出現した。積み荷の中に入っていたのか、撃退した魔物から産まれたのかは不明だが、パレスキャッスルの港が半壊した。
「住民は大丈夫なのか?」
「はい。けが人はいますが、死者はいないという報告です。地下に逃げて無事だということです」
「それはよかった。地下までは、新種は追って来なかったのだな」
「はい。そのようです。港を半壊してから、海に入っていったらしいです」
「・・・。あぁ破壊は、港だけだったのだな」
「はい」
「見舞いを頼む。必要な分は出しておいてくれ」
「かしこまりました。今日の式は、続行します」
「え?中止でもいいけど?」
「駄目です。あなたはそれでいいかもしれませんが、シロ様が」
「ルート。勘違いしないで欲しい。シロは、その程度で悲しむような女ではない。それに、新種が出たのなら」
『パパ!それなら、僕たちが先に、行って向こうで待っているよ?』
『エリンが?』
『うん。カイ兄とウミ姉はパパの護衛で残って、僕とライ兄とティアやティタたちで、パレルキャッスルに行けば十分でしょ?』
『うーん。リーリアも連れて行くのなら許可する』
『うん!わかった!』
「ルート。エリンたちがパレスキャッスルに行って新種が出てきたら叩くことにしたけど大丈夫だよな?」
「それなら、私も一緒に行きます。パレスキャッスルでの交渉が必要になると思います」
『エリン。聞いていたな?ルートも連れて行ってくれ』
『いいよ』
「ルート。エリンの許可が出た。湖の家に皆が居るから合流してくれ、交渉が必要になるだろうし、人手も必要だろう、リーリアも連れて行ってくれ」
「わかりました」
ここに来て新種か?
それも、積み荷から出てきたのが気になる。偶然だとは思うが、新種の発生が解っていないだけに、港を閉鎖したいが・・・。それで、解決できるとは考えていない。結局、新種にたしての情報収集だけではなく、対応を考えて実行していくしか無い。
今回の襲撃で、ルートの報告が間違っていなければ、一つの収穫が有った。
新種は、地下には近づかない可能性がある。
ルートが俺の前から小走りで去っていく、クリスに説明するのだろう。
ルートが居なくなると、リーリアが俺の前まで来て頭を下げる。
「旦那様」
「リーリア。悪いな。エリンだけだと心配だからな」
「わかりました」
リーリアは、ルートよりも先に到着するだろう。それでも、俺からの指示を受けてから行動をおこした。
「さて、そうなると、今日はオリヴィエに頼むか・・・」
2日前とか言っていたけど、エリンなら今日には到着出来るだろう。
ダンジョンコアたちにも意見を聞きたいけど・・・。
—
子どもたちの声を揃えた祝詞で始まった式だったが、つつがなく終えられた。
多分、一番ホッとしているのは、子どもたちの両親や親類だろう。神殿に入ってもらっていたが、涙を流して喜んでいた。
馬車で、ダンジョン区の入り口を回って、商業区と自由区を回る。
これで終わりだ。
見世物になっていたが、最後のほうは慣れてしまった。
それに、途中から気がついた。俺とシロを一目見ると、殆どの人間たちが屋台や飲み屋に消えていく。本当に、一目見るだけで満足してしまっているのだ。中には、熱心に名前を呼んで手を振ってくれる人も居るが、1割も居ればいいほうだろう。
それがわかれば、俺も気が楽になる。衣装を見せつけるように立ち上がるようなこともしてみた。
シロも最終日には緊張もほぐれて、人々を見る余裕ができていた。
「カズトさん」
「どうした?」
「いえ・・・」
「俺も、シロと、屋台を巡るようなデートがしてみたいな」
「はい!カズトさんと一緒なら・・・。どこにでも!」
「シロ。エルフ大陸に行くと言ってあったよな?」
「はい」
外は雑踏が聞こえている。
馬車の中は、今日は俺とシロだけだ。影に、カイとウミは潜んでいるが、カイとウミなら聞かれても問題はない。
秘密の話をするのには、動く馬車の中は最適だ。
「二日前に、パレスキャッスルが襲われた。新種が出た」
「え?」
「原因は、わからないが、エルフの商隊が絡んでいる可能性が、わずかながらある」
「それは・・・」
「今、エリンが向かっている。ルートとリーリアが一緒だから、俺たちがつく頃には何か解っている。だろう」
「そうなのですね」
若干、残念そうにするシロの頭を撫でると、嬉しそうな表情になる。
「シロ。これからは、俺の奥さんだからね。自分が先頭に立って戦おうなんて思わないようにしろよ。眷属たちを使うようにしないと駄目だ」
「え・・・。はい」
目を伏せて照れているが、戦おうとしていたのは間違いない。話を聞いたときに、腰に手を当てている。今まで剣を吊るしてあった場所だ。
そのうち、慣れるだろう・・・。多分。
「それから、エルフの大陸には、モデストも連れて行く」
「そうなのですか?何か、探らせるのですか?」
「いや、この前の神殿を狙った騒動が発生して、その時の首謀者をモデストにあずけている。どうやら、エルフ族の姫君が今の主人らしいから事情を聞こうと思っているだけだよ」
「わかりました。それで、エルフ族も配下に加えるのですか?」
「しない。しない。レベル9の完全回復を欲しがっているみたいだから、交渉かな。向こうから襲ってきたという事実があるから、強気な交渉出来るから、今回のメンバーに加えようと思っている」
「そうなのですか、わかりました」
「うん」
「カズトさん。それで、僕は、カズトさんが襲われたことを知らなかったのですが?」
「え?あっ・・・。そうだ。式の直前だったから、不安に・・・。ね。あ・・・。ごめん」
シロが不満を口にして、理由が解った。
俺が同じ立場だったら、なぜ教えてくれなかったのかと考えるだろう。
馬車は、そのまま屋敷がある崖の下に到着した。
「カズトさん。もう隠し事はしないでください。なんでも話をして欲しいとは言いませんが、カズトさんが死んだら、僕も後を追います」
「シロ。それは」
「駄目です。決定事項です。カイさんやウミさんに守られていても、心配は心配です。それに、もうカズトさんの居ない世界で生きていく意味はありません」
「そうだな。俺も同じだよ」
屋敷に向かう階段を上がっていく。上に着いて、景色を見る。街には、光が灯っている。東京で見たようなネオンの明るさではない。火を炊いている揺らぎがある優しい灯りだ。皆の協力を得て、ここまで作った。シロに自慢したい。
「きれいですね」
「あぁ」
「カズトさん」
「僕、幸せになります」
「俺もだよ。一緒に幸せになるからな」
「はい」
シロを抱き寄せて、唇が触れるキスをする。
一度、シロを見る。目に力がある。俺が好きな目だ。舌を絡める。
身体を離して、街を見る。俺とシロを祝福してくれている灯りだ。
オリヴィエに案内されて、屋敷に入る。
リーリアに命令された眷属たちが、俺とシロを別々に風呂につれていく。
身体を洗われて、ガウンだけを着せられた。
いつもの寝室ではなく、屋敷に作った表向きの主寝室だ。見栄もある高級家具で揃えた場所だ。安全を考慮すると、地下に移動するのがいいだろうが、今日はここで寝てくださいと言われた。警護は万全だと言っているのを信じる。
5分くらい待っていると、扉が開いて、シロが俺と同じようにガウンを着て部屋に入ってきた。
扉を締めるメイドが俺とシロに頭を下げて、扉から出ていった。
手を出すと、シロは嬉しそうな表情をして手を握ってきた。
手を握ってベッドに誘導した。
夜は始まったばかりだ。
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