【第五章 共和国】第四十話 攻略組

 

男から、話を聞いていたら、列が動き出した。

列の横を、豪奢な馬車が駆け抜けていった。どうやら、貴族は、突入を諦めたようだ。後ろに居る騎士たちが安堵の表情を浮かべているので、よほど”慕われている”貴族なのだろう。騎士風の男たちは、貴族家への称賛陰口を忘れない。馬車に乗っている者の情報を、べらべらと話してくれている。それも、待機列で待っている者たちに聞こえるように・・・。
やはり、男が想像した通りに、貴族家が治める領地にあったダンジョンから食料だけではなく、貴族家として戦略物資になっていた物もドロップしなくなった。それで、他のダンジョンに潜って物資を横取りすることを考えた貴族が、ルールやマナーも守らずにダンジョンにアタックしようとして止められた。
主を守るべき立場の者たちが、”頭の悪い3代目”と言っているのが印象に残った。実査、間違っていない。ダンジョンに依存した施策が正しいか解らないが、無くなってしまった物に縋るような施策は間違っている。保険となる施策を打っていなかったのが間違いなのだ。

男は、騎士たちの暴言を聞いて、肩をすくめてから、自分の仲間がいる場所に戻っていった。
男は、俺たちに話しかけて、情報が欲しかったのだろう。俺たちも、男から情報を得られたのだから、都合がよかった。

「兄ちゃん」

アルバンが心配そうな表情をする。
貴族が絡んでいるのが心配なのだろう。しかし、俺たちは絡まれるような状況になっていない。俺たちが、ダンジョンを支配しているのは知られていない。共和国に都合が悪い状況になっているのは、皆が感じている。しかし、明確な事情が解らない状況で、”ダンジョンの変性期に入ったのだ”と判断をしているようだ。

「大丈夫だ」

「アルバン!」

カルラが、アルバンを手招きしている。
俺から、離れてカルラの近くに移動した。カルラから、説明という名前の説教が行われるようだ。
最近では、少なくなってきたが、カルラから見ると、アルバンは従者として失格なのだ。気にしなくていいと言っているが、今後のことを考えると、アルバンにはしっかりと教え込んでおきたいようだ。

アルバンが抱えている問題は、俺には伝えられていない。
貴族家が関係しているのは解っているのだが、詳細までは聞いていない。カルラが認めている上に、カルラの上司が大丈夫だと言っている。俺には、それだけで十分だ。

珍しく、アルバンが言い返している。
雑踏の中で行われる会話は、断片的に拾えるだけの声量で行われている。

「カルラ!アル!話は、後にして、準備を進めてくれ、俺たちの順番が近づいてきている」

ダンジョンに近づけば、男が言っていた内容以上のことが解ってきた。
ダンジョンに入る為の手続きの方法だ。

男は、常識としてダンジョンに入る方法は話題に乗せてこなかった。

天幕のような場所で、申請をしてからダンジョンに入っていく、天幕には、一度に数パーティーが呼び込まれる。並んでいる時に、入るための税とパーティー名と人数を申請している。そのために、天幕にはリーダーだけが呼ばれる仕組みのようだ。

俺が天幕に入ると、先に来ていたパーティーリーダーたちが話をしている。
ダンジョンの注意事項が伝えられる。知っている者は、話をスキップできる仕組みだ。俺は、男から聞いていたが、食い違っていると問題になるので、説明官にダンジョンでの注意事項を聞いた。大筋は、男から聞いた話と同じだったが、細かい所で違っていた。
違っていたと思っていたが、最後まで説明を聞いていると、共和国では常識として捕えている部分の説明が抜けていただけだ。王国から来た事を伝えたら細かく税を含めて教えてくれた。

最難関だと言われているだけあって、説明も細かく親切だ。

「他には何かあるのか?」

「いえ、大丈夫です」

最後に、意思確認をされた。
税を払っているのだから、ダンジョンに入るのは当然なのだが、それでもダンジョンに入れば、自己責任だ。安全は保証されない。

攻略を目的としているとは言わないが、商売の種を採取してくる予定だと宣言する。

これで、意思確認が終わって、ダンジョンにアタックが行える。

長かったが、必要な儀式なのだろう。

天幕から出ると、ダンジョンの入口に誘導される。
そこには、カルラやアルバンが待っている。

「旦那様。準備は整っております」

カルラが律儀に頭を下げる。
アルバンに見本として見せているのだろう。別に、気にしなくてもいいのに・・・。アルバンもカルラも、旅の仲間だと思っている。

「ありがとう。順番は・・・。もう少しだけ、かかりそうだな。最終確認でもして待っているか?」

最終確認をしていたら、俺たちの順番が回ってきた。

最難関とされているダンジョンだ。

前のパーティーが入ってから、10分以上が経過している。
この時間が重要だと説明を受けた。

別に、文句をいうようなことでもない。それに、前後のパーティーとの間隔が開いているのは、俺たちの事情を考えるとありがたい。

ダンジョンは、通常のダンジョンと同じで、サクサクと進んでいける。

「カルラ。現在の攻略のトップは?」

「はい。最新の情報か解りませんが、58階層で止まっています」

前からやってきたオーガロードを倒しながら、疑問に思ったので聞いてみた。

「なぜ?止まっている?」

「はい。正確な情報は伝わってきていませんが、下層に続く道が見つからないと言われています」

58階層で終わりなら、ボスが居てコアルームがあるが、最下層だと判断されていないことから、何も最下層だと解る物が見つからない。下層への階段も見つかっていない。

「そうなると、かなりの人間が、58階層まで辿り着いているのか?探索をしたのだよな?」

「正確な人数まではわかりません。3つのパーティーの合同です」

「3つ?18名?」

「いえ、ダンジョン内で合流して、パーティーを構成したようです」

「へぇ・・・」

オーガロードの足を俺が切って、カルラが首筋を切りつけた。
留めは、アルバンが剣を突き立てて終わった。

「兄ちゃんも、カルラ姉も、真剣に戦ってよ」

「おっそうだな。すまん。でも、オーガロードくらいなら、アルだけで十分だろう?」

索敵を行っているエイダは戦いには参加していない。
後方から襲われた時に対処する為に、エイダは戦闘には加わっていない。それでも、余裕がある。

「そうだけど・・・」

通常のパーティーでは苦戦する40階層に到達している。
オーガロードが、40階層のボスだったようだ。

アイテムを残して消えた後には、下層に繋がる魔法陣が残されている。

41階層からは、魔物が一変する。フィールドも洞窟タイプから、草原タイプに戻る。浅い階層と同じ草原フィールドだが、魔物の強さは段違いだ。エンカウント率も上がっている。洞窟エリアと違って、休める場所が少ない。
浅い階層では、ドロップした物を運び出す者たちがいたが、どうつくフィールドでは、重要なドロップアイテムしか運び出していない。

攻略を目指すには、ここからが本番と考えてもいいだろう。
情報も秘匿されている。50階層までは、階層の雰囲気は伝えられているが、具体的な攻略に必要な情報は集められなかった。

「兄ちゃん?」

「どうした?」

「おいら・・・。少しだけ不思議に思って・・・」

「ん?」

「ここが、最難関なのはわかったけど、このダンジョンをここまで攻略できるパーティーがいるって事だよね?」

「そうだな」

カルラを見ると、頷いているので、実際に攻略しているパーティーは存在している。
アルバンが何を言いたいのか解ってきた。

「そうだな。カルラ。このダンジョンを攻略している奴らの目的はなんだ?」

アルバンの言葉をきっかけに俺の中にも疑問が出てきた。
最難関のダンジョン。50階層を突破できるような者たちが、他のダンジョンを攻略対象にしないで、このダンジョンに拘る理由があるはずだ。それだけではない。ダンジョンに潜ってみて気が付いたのだが、最前線に物資を送り届ける者たちも存在している。最前線で戦っている者たちと同等の力があるように思える。どこかの階層にキャンプ地を作っているのだろう。
これまでの階層では、出会っていないから、ここよりも下の階層なのだろう。

そこまでして、このダンジョンの攻略に拘っている理由を知りたい。

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