【第一章 王都散策】第二話 おっさん教わる
おっさんは、女子高校生を背中で隠しながら、出口の方にゆっくりと移動する。
できるだけ、武器を持った兵士との距離を開けるためだ。魔法が存在する世界なので、武器だけを警戒すればいいとは思っていない。しかし、武器は目に見える恐怖なのだ。武術の心得が、知り合いの剣道防具屋に誘われて始めた剣道くらいだ。
おっさんとブーリエの間に、宮廷魔術師についてきた魔術師の一人と侍女の一人が割り込んで来た。
「宰相閣下。彼らは、私の方でお話をいたします。宰相閣下は、勇者様をお願いいたします」
ブーリエも勇者の相手で忙しいのか、魔術師に手をふるだけの合図をしている。
「どうぞこちらへ」
魔術師と侍女は、おっさんと女子高校生を手招きして、玉座の間から外に連れ出すようだ。
後ろでは、勇者の話を聞いて、ブーリエが大げさに驚いて見せている。
魔術師はそれを見て一言だけつぶやいた。
「(滅んでしまえ)」
おっさんと女子高校生は聞こえていたが、聞こえていないフリをして、先導する二人についていくことにした。
聞こえた一言で信じてみようとは思わないが、交渉が出来る相手だと判断した。残っていても、失うものは最大で命だ、得るものは何もないと考えた。二人はお互いに意見を言うまでもなく”破滅ルート”からの逸脱を目標としていた。
おっさんと女子高校生を連れた二人は、階段を降りて10分くらい歩いてから一つの部屋に入った。
「ここは?」
中央にテーブルがあり両脇にソファーがある部屋だ。
おっさんが二人に質問するが、二人は首を横にふるだけで説明をはじめようとしない。
侍女が部屋の奥から魔法陣が書かれた紙状の物を持ってきてテーブルの上に置いた。
紙を受け取った男性が、魔法陣に触れて起動する。魔法陣が部屋全体に広がってから鈍い光を放って消えた。
「驚かせてしまってもうしわけございません。部屋に結界を貼りました。これで外に話し声は漏れません」
「それを信じろと?」
おっさんは先程までとは雰囲気を変えて男と侍女を睨みつける。
「信じて欲しいとは、思っています」
男はソファーに腰掛けながらおっさんと女子高校生にも座るように誘導する。
「わかった。ひとまず信じよう。それで?俺たちはどうなる?」
おっさんは男の前に座りながら問いかける。男は、おっさんと女子高校生が座るのを確認してから、控えていた侍女に目配せを送る。侍女は、おっさんと女子高校生と男の前に飲み物を置いてから、男が座るソファーの後ろに控えるように立った。
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「俺のことは、”まーさん”とでも呼んでくれ、敬称も必要ない。貴殿は?」
「ありがとうございます。まーさん様。私は、アルシェ帝国の元・宮廷魔術師のロッセルと言います」
「ロッセル殿。”様”も外してくれ、それで?いろいろ教えてくれると思って良いのだな?」
「はい・・・」
ロッセルは女子高校生を見る。
「彼女の名前は、今は必要ないだろう?」
女子高校生が名前を告げようとするのをおっさんは手で制してから、ロッセルに拒絶の意を伝える。
「わかりました。まーさんと貴殿と呼ばせてもらいます」
「あぁそれで頼む」
「・・・。疑問に思われていることだらけだと思います」
「そうだな。ロッセル殿。謝罪なんてつまらない真似はしなくていい。それよりも、あんたと後ろの女性は、勇者召喚に反対の立場なのか?」
「え?」「・・・」
「驚くなよ。ロッセル殿が自分で”元・宮廷魔術師”と名乗ったのだぞ?なにかあったと考えるのが普通だろう?」
「はい。私と彼女は反対でした。しかし・・・」
指摘されて納得できたのか、ロッセルは後ろの侍女を確認してから事情を説明した
「それで?魔法陣の側に倒れていたのは、ロッセル殿の元部下や元同僚で、彼女の親類やもしかしたら恋人も居たのか?」
ロッセルと侍女は、息を呑んでおっさんを見る。
おっさんが目をそらさずにロッセルを見つめている。おっさんが目線を外さないので、観念して大きなため息を吐き出しながらおっさんの話を肯定した。
「まーさんのおっしゃるとおりです。私の弟が彼女の婚約者です。強制され参加していました」
「そうか・・・。拒絶は・・・。難しいよな」
おっさんは泣き出しそうな彼女の顔を見て事情を察した。
彼女が人質になっていたのだろう。彼女を救い出すために、ロッセルが動いたのだが、助け出したときにはすでに召喚が行われていた。
「はい」
「そうか、気を失っているだけに見えたが違うのだな」
「・・・。わかりません。初代様を召喚したときの記録では、実行した者は数日後に起き出したとあります」
「・・・。そうか?それで、俺と彼女を、勇者たちを返す方法はないのだな?」
「っ!」
「ロッセル殿?」
声の抑揚を変えないでおっさんは至って平静の状態のままロッセルに話しかける。
「勇者たちには、”魔王を討伐したら・・・”と伝えられています」
「そうだろうな。初期の帝国には勇者召喚された者が居たのだろう。もしかしたら建国したのは召喚された勇者なのかもしれないな。帰っていれば”初代様”という呼び名はおかしいよな?」
「はい」
「そうか、(やっぱり)帰られないか・・・」
おっさんはそこで言葉を切って女子高校生を見る。
「もうし」「謝罪の必要はない。それに、謝ってもらっても意味がない。謝罪されても元の世界に戻れないだろう?」
「・・・。はい」
「建設的な話し合いがしたい。ロッセル殿はどの程度の権限がある?具体的に動かせる人員や金銭や情報だ」
ロッセルは侍女を呼び寄せてなにか指示を出す。
侍女はおっさんと女子高校生に頭を下げてから部屋を出ていった。
「まーさん。最初の質問ですが、動かせる人員はいません。私と彼女は、全面的に協力いたしますが、それ以外は難しいと思ってください」
「わかった」
「金銭に関しては、お渡しできるだけの金銭を用意いたします」
「そうか、後で少し相談だな」
「はい。情報は、まーさんは何をお知りになりたいのですか?」
「すべて・・・」「は?すべて・・・。ですか?」
おっさんは、ロッセルを舐めるように見据える。
すべてと言ったことで困惑するのは想定していた。困惑しながらでも、説明をしなければと、何かを言ったほうがいいのではと考えている姿勢を評価した。信頼できるかまだ判断出来ないが信用はできると判断したのだ。
「まずは、貨幣に関してと、アルシェ帝国に関して、あとは周辺の国に関しての3つは必須で教えてくれ。あとは、スキルと勇者たちに渡したカードも教えてくれ」
おっさんがまず知りたいと思ったことを羅列した。最低限のことを聞いておけば、言葉が通じるのなら聞きに行けばよいと考えたのだ。
「貨幣は後で説明します。まずは、帝国と周辺国に関して説明します」
ロッセルは、帝国の成り立ちから説明始めた。おっさんは口を挟まないでじっくりと聞いた。女子高校生も黙って話を聞いていた。
周辺国や情勢に話が移った。
「ロッセル殿。帝国の状況をまとめると、人族至上主義で多種族を下に見る。エルフ・ドワーフ・ハーフリング以外は魔物と同列に扱っている。それで他国との軋轢を生んで国境付近では戦闘音が鳴り止まない。皇帝派閥と貴族派閥と教会派閥が存在して4:3:2くらいの力関係で拮抗している」
「はい。そうです。私が属しているのが穏健派や融和派と呼ばれて辺境伯と一部の王族だけの派閥です」
「ほぉ辺境伯と王族か・・・。だから、反対の立場でも、あの場所には居られたのだな」
(ツンツン)「まーさん。どういうこと?」
今まで黙っていた女子高校生が、まーさんの袖を引っ張って小声で質問してきた。
「うーん。説明が難しいな。政治なんて興味ないだろう?保守本流の流れをくむ岸田派と傍流の町田派とか」「あっ大丈夫です。ゆっくり。そうゆっくりと教えて下さい」
おっさんの説明をぶった切って女子高校生はロッセルを見る。
「それで、ロッセルさんたちは少数派なの?さっきの話にはでてきていないよね?」
「そうですね。人数は少ないです。王族の一部が賛同してくれているので・・・」
「勇者召喚には反対だったのですよね?」
「はい」
ロッセルは女子高校生の話を肯定する。
「緊張していたのか、少しだけ喉が渇いた。新しい飲み物をお願いしていいか?それから、少し整理をしたいので、二人だけにしてもらえないか?」
おっさんは女子高校生と整理をしたいと言い出した。
ロッセルも納得して、おっさんと女子高校生の前に置いてある空になったカップを持って部屋を一旦出た。
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