【第六章 ギルド】第二話 いい女
ナナは、俺とミルの話を黙って聞いてくれた。
冷え切った飲み物で、喉を潤す。
俺とミルの話が終わったと思ったのか、ナナは閉じていた目を開けて、俺を見つめてくる。
「リン君。いくつか、質問をしてもいい?」
「あぁ」
「まず、マヤちゃんは生きているのよね?」
「ミルと一つになったが、生きている。今は、神殿に居る。妖精になってしまっているから、連れてくるのは問題があると考えた」
「そう、わかった。マヤちゃんの本当の姿?なのよね?」
「マヤは、そう言っている。俺もよくわからないが、マヤは困らないから大丈夫だと言っている」
「ワタシが神殿に行けば、マヤちゃんに会えるの?」
「会える」
「わかった。わからないことが解って、マヤちゃんに会えるとわかっただけで十分」
「他には?」
「まず、ポルタ村長が、アゾレムに脅されていたという証拠は?」
「ない」
「ポルタ村の現状は?」
「俺の眷属たちが出入りを監視している。外から見たら、魔物に支配されたと見えるだろう」
「これから、どうするの?」
「まずは、ミヤナック家のハーレイに話をする」
「ハーコムレイ?」
「そうだ。アゾレム。宰相派閥に楔を打ち込めるから、乗ってくるだろう」
「そうね。ポルタ村は、要所ではないけど、アゾレムの喉仏にあたるから、欲しがるでしょうね」
「あぁアゾレムが兵を動かせば、領都に向けて眷属を動かす。アイツらは、俺の敵だ」
「ニノサとサビニを殺したのも?」
「直接手を下したヤツはわからないけど、アゾレムが裏に居る」
ナナは、喉を潤すように、カップに注がれた液体を一気に流し込む。
それから、また目を閉じて、考え始める。
どのくらい時間が流れたかわからない。
ナナが目を開けて、ミルを見つめてから、俺に視線を戻した。
「リン君」
「ん?」
「神殿には、ワタシも行けるの?」
「行ける。神殿のことで、ナナへの頼み事もある」
「頼み事?」
「無理なら断ってくれてもいい。でも、俺が考えている内容を聞いた上で、計画に協力して欲しい」
「なに?」
俺は、ナナに、メロナにあるミヤナックか協力的な貴族が所有する館からマガラ渓谷に入る門を設置する。そして、アロイを抜けた先の街道のお受け直轄領に、門を作って、マガラ渓谷を経由した方法での通路を作成する計画を説明する。
「リン君。そんなことが可能なの?」
「神殿の準備は、マヤがしている。理論的には、可能だ。ミヤナック家は、ハーコムレイの妹と繋がりがある。ローザスに貸しがあるから、王家直轄領に小さな村を作るのは可能だと思うけど・・・。どうだ?」
「リン君。ニノサに似なくていいのに・・・。そうね。ミヤナック家・・・。ハーコムレイとローザスに貸しがあるのなら、成功する可能性が高いわね。それだけ?」
「いや・・・。ナナ。マガラ神殿の街を治める人物が必要だ」
「そうね。リン君やマヤちゃんじゃダメ?」
「マヤはダメだ。マヤも俺も、”やる”ことがある。ニノサとサビニと、マヤの復讐だ。それだけじゃなくて・・・。諸々の、因果を断ち切る」
日本での因果や白い部屋の話はしていない。でも、俺の言葉で、ナナが納得してくれたようだ。
「・・・。そうね」
「ナナ。マガラ神殿を任せたい。通路の街だけでいい。ダメか?」
ナナは、また目を閉じる。
考えているようには見えない。葛藤している・・・。と思えるが、なにか違う。何かを思い出しているようだ。
1-2分だろうが、俺には1時間にも感じられた。
ナナが目を開けて、俺を愛しむように見てくれた。
「門が開通したら、引き受けましょう。本当は、すぐにでも現役に復帰して、アゾレム領に殴り込みに行きたいけど、リン君とマヤちゃんとミトナルちゃんに任せるわ。ワタシの代わりに、しっかりとアゾレムを殴るのよ?」
「あぁもう二度と俺たちに絡みたくないと思わせるくらいに、叩き潰す」
「わかったわ。神殿で、宿屋兼食事処でもオープンするわ。四月兎の名前で、新規オープンするわ」
「わかった。一等地を用意するようにマヤに伝えておくよ」
「ふふふ。いいわね。他にも、この街に居る、アゾレム側ではない人間たちは誘っていい?」
「できれば、王家直轄領での営業をしてくれる人も欲しい。あと、旧ポルタ村も人が必要になる」
「そうね。そっちも人手が必要になるのね」
「あぁ護衛は、俺の眷属にある程度は任せられるけど、村の中は無理だ」
「それは、ローザスに頑張ってもらいましょう」
ナナの笑い声で、神殿の話は終わった。
魔道具を切ると、ナナがミルの武器を見つめる。
「ミトナルちゃん」
「はい?」
「双剣使い?」
「はい。属性魔法もありますが、剣でも戦えるようにしたいと思っています」
「そう。ねぇリン君。これから、王都に行くみたいだけど、2-3日ならアロイに逗留しても大丈夫?」
ミルを見るとうなずくから、問題はない。
それに、急いで入るが、2-3日で変わるような状況ではない。
「アロイの現状も知りたい。そのくらいなら問題はない」
「ミトナルちゃん。ワタシと模擬戦をしない?」
「え?」
「ミトナルちゃんの歩き方を見ると、王家直属か貴族に仕えるような騎士に剣を習っているわよね?」
「え?あっそうです」
前に、ミルに聞いた時には、スキルで覚えただけで、実際に訓練をしたわけではないと言っていた。ナナは、歩き方を見ただけで、ミルの実力を見抜いたのか?そんなことが出来るとは思えないが、ナナが言っている話は、俺がミルから聞いた話と変わらない。
ミヤナック家の護衛と、ローザスの護衛や騎士から吸収した技が、ミルの基本になっている。貴族に仕える騎士の剣だと言われれば、そうなるのだろう。
「綺麗だとは思うけど、リン君がこれからやろうとしている事には、向かないわよ」
「え?」
綺麗な剣とでも言いたいのだろうか?
「騎士の剣は、主君を守る為の剣で、誰かを倒す剣じゃないわよ」
そういう事か・・・。主君を守り続ける為の剣で、主君と一緒に状況をひっくり返す剣ではない。
「それは・・・」
「だから、模擬戦をしましょう。ワタシとの模擬戦で、ミトナルちゃんがなにかを吸収ができれば、これからリン君と一緒に戦える。でも、吸収が出来なければ・・・」
「できなければ?」
「リン君を守るためにしか剣が振るえない」
「違うの?」
「違うわよ!リン君は、これから強くなる。それこそ、ミトナルちゃんが守らなくてもいいくらいにね。そのときに、ミトナルちゃんの後ろにリン君が居てくれる?ミトナルちゃんも望まないわよね。なら、リン君の横に立たないとダメよ。女は守るよりも、一緒に戦うほうが、いい女になれるのよ!」
「・・・。っ!お願いします」
「うん。いい返事。ミトナルちゃんは、いい女に、一歩だけだけど、近づいたわ」
ナナは、すごくいい笑顔で、ミルを見つめる。
「ナナさん。ナナさんが、言う”いい女”って?」
「サビニよ。リン君とマヤちゃんのお母さん!悔しいけど、サビニの横には、ニノサが似合っていた。サビニも、ニノサに守られる女じゃなかった。ニノサの横で、ニノサと一緒に戦うことを選んだ」
ナナの表情は、どこか遠くを見ている。
その場に居ない。もうこの世にもいない。ニノサとサビニを思い出している。
3日間。
俺とミルは同じ部屋で寝起きした。
ミルは、起きるとすぐに身支度を整えて、ナナの所に行く、俺もナナの手伝いを申し出た。宿屋の業務を押し付けられたが、アロイ自体の人が少ないのか常連客だけなので、困った状況にはならなかった。
ナナは、宿屋の業務を俺に押し付けると、ミルを連れて、アロイの外に向かう。
最初は草原での模擬戦をおこなった。初日は、ミルがボコボコにされて帰ってきた。ミルは、すごく嬉しそうに新しいスキルを覚えて、戦い方も解ってきたと話してくれた。二日目は、ミルの属性を剣に纏わせる方法を教えてもらって、模擬戦を繰り返した。ミルは、ナナからすごい勢いで吸収している。
三日目には、二人で近くの森に出かけて、魔物との戦闘を行って帰ってきた。
四日目は休暇として、五日目の早い時間帯に、俺とミルは三月兎を出て、マガラ渓谷の関所に向かった。
ナナから渡されたチケットを持って・・・。
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