【第六章 神殿と辺境伯】第十七話 移住開始?

 

 今まで話しの成り行きをみていたドーリスだったのだが、王都までの案内なら自分ができると発言をする。

「サンドラ様。アフネス様。私がヤス殿を王都に案内します」

 ドーリスなら問題なく案内ができる。

「ドーリスか・・・。確かに王都ならドーリスがいいだろうな」

「ヤス殿!」「ダーホス。俺の仕事は荷物を運ぶことだ。人を運ぶのは仕事ではない。これは前にも言ったよな?だから、ドーリスに案内をお願いする。依頼としてドーリスを連れて行くことはしない」

「・・・」

「ダーホス。お前が何をしたいのかはわかる。ヤスの考えを尊重しろ」

「わかりました」

「ただ、俺が物資を積み込んでいるときにドーリスがどこで何をしようと俺は関与しない」

「え?」「あっ!」「わかりました。ヤス殿。ありがとうございます」

「ダーホス。俺は、お礼を言われるようなことはしていない」

「そうですね。それで、いつ出発するのですか?」

「サンドラ次第だな。領主を説得できなければ王都に行く話もなくなるからな」

 皆の視線がサンドラに集中する。
 アフネスがサンドラを連れて奥の部屋に移動するまで視線は続いた。

「それで、ヤス。移住はどうしたらいい?」

 アフネスとサンドラが何やら話し始めたのをきっかけにしてミーシャがヤスに話しかける。

「移住希望者の準備はできているのか?荷物は手荷物くらいにしてくれたらすぐにでも移動できるぞ?」

「荷物はいいが住む場所を確保するための道具や野営道具は必要だろう?」

「え?必要ないぞ?家も用意してある。220名なら全員・・・希望通りになる保証はないけど大丈夫だぞ?」

「・・・」「ミーシャ。まずはヤスを信頼しよう。手荷物をまとめさせる。それから、ドワーフたちには鍛冶仕事を担当できる者を優先しよう。ディトリッヒ」

 戻ってきたアフネスがヤスの言葉を信用するようにミーシャやらなに告げる。

 サンドラは、領主を説得するためにギルドにある魔通信機を使うようで、ダーホスに頼み込んでいる。
 ダーホスが承諾したので、ドーリスが魔通信機がある場所に案内をするようだ。

「はい」

 今までギルドの入り口で警戒していたディトリッヒがアフネスの呼びかけに反応する。

「移住者から戦える者を選出して、冒険者登録をしていない者は登録をさせろ」

「アフネス。冒険者登録はいいが武器や防具を準備する必要があるぞ?」

「それこそ、ドワーフたちに活躍してもらおう」

 話を聞いていたセバスがヤスの横に立ち最初に皆の方を向いて一礼してから主人であるヤスに話しかける。

「旦那様」

 皆の視線がセバスに集中する。

「なに?なにか代案があるのか?」

「はい」

 ヤスが反応したことで、セバスはヤスから視線を外して皆の方を向く。

「武器と防具ならツバキが確保した帝国の者たちが使っていた物があるはずです。アフネス様。ダーホス様。あの者たちを確保したのはツバキです。身柄はお譲りいたしましたが武器や防具などの物資は旦那様が所有しても問題ないと考えます」

「そうだな」「捕らえた者が持っていくのは当然だ」

 セバスの言っていることは二人にも自然なことだったのですんなりと承諾された。使いみちも想定されるので問題にはならないと考えていた。

 セバスも二人から承諾を得られたので改めてヤスの方を向いた。

「旦那様。魔の森で見つかった武器防具があります。補修が必要な物も多いのですが工房で対応を行えば大丈夫ではないでしょうか?」

「工房?そうか、あそこなら工具もあるし音も気にならないな」

「はい」

「少し拡張して外から入ることができる通路を作ればいいよな?」

「はい。旦那様のお手を煩わせてもうしわけありません」

「このくらいなら問題ない。そうなると、神殿の入り口とは別の場所に入り口を作ったほうがいいよな?」

「反対側に適した場所があります。鍛冶職人が出入りする場所で、近くに公衆浴場と食堂がある場所がよろしいかと思います」

「わかった。ありがとう。え?なに?」

 ヤスは、セバスとポンポンと場所を決めていたのだが、アフネスやダーホスだけではなくミーシャやラナやディトリッヒまでもが”なにか”を悟った目でヤスを見ている。

 アフネスはヤスに言っても駄目だろうと判断してセバスに忠告することにした。

「セバス殿。ヤスが非常識なのはわかっているが貴殿までヤスに染まってしまうのは問題だと思うのだが?」

「アフネス様。ご忠告ありがとうございます。しかし、問題はありません。旦那様ができることの一部でしかありません。移住して来られる方ならすぐに分かってしまうので隠しても怪しいだけです」

「あれで一部なのか?」

「はい。アフネス様もダーホス様も今回の移住者リストには入られていません。今後、神殿に来られる場合もありますでしょう。旦那様。お二人を今の神殿の様子を見ていただいておいたほうが、今後の話が早いと思いますがどうでしょうか?」

「そうだな。アフネスもダーホスも一度神殿には入っているけど、結界は通過できないのだったな」

「はい。旦那様」

 ここまで言われたらヤスもセバスが”何”を言いたいのか理解できた。
 セバスは、アフネスとダーホスの両名か最低でもどちらかを神殿まで連れて行って移住の責任者にしてしまいたかったのだ。移住時に問題がでた場合に、セバスとしてはヤスに責任が及ぶのは避けたかった。リーゼを中心に集まっていると言っても不満を持つものも出てくるだろう。そのときに、アフネスやダーホスが矢面に立たざるを得ない状況を作っておきたかったのだ。
 ある程度の問題は自分セバスで対処できると思っていても、人族の感情の機微のことまで対処できるとは思っていなかった。初期段階の問題をアフネスかダーホスに丸投げできれば前例に則って対処ができるようになると考えていたのだ。
 それだけではなく、アフネスかダーホスに神殿の広場に住む者たちから責任者を選出させたいと考えていたのだ。セバスとしては、ヤスから命令された形で外交面を担当している。役目に不満はない。偉大な旦那様から依頼された仕事を不満に思うはずがない。しかし、本来は旦那様ヤスの隣で旦那様ヤスの身の回りの世話をおこなっていたいのだ。

「ヤス殿。結界とは?」

「うーん。説明が面倒だから実際に見に来てもらったほうがいい」

 ダーホスが食いつくのはわかっていた。ヤスも想定していたので軽く流した。

 ヤスは、セバスを見るとうなずくのがわかった。
 説明をセバスに丸投げできると考えてホッとした。面倒なことは避けたいのだ。討伐ポイントを得るためにはある程度の人数が神殿の領域内にいたほうがいい。ただ面倒は嫌なのだ。”明日にできることは無理して今日やらない”を座右の銘の一つにしているヤスとしては物流と運転と楽しいこと以外は先送りにしたいのだ。

 アフネスとダーホスから異論がない状況から問題はないと考えて立ち上がった。ヤスは皆を見るが何もなさそうだと判断した。

「アフネス。ダーホス。まずは、神殿まで移住者を連れてきてくれ」

「ヤスはどうする?」

「先に帰って工房の設定を見直す」

「・・・」「・・・」

「ツバキ。あとは任せていいか?」

「お任せください」

「セバス。一緒に帰るぞ。眷属とカスパルにアーティファクトの操作を教えるからな」

「かしこまりました」

 ヤスはダーホスやアフネスにも聞こえるようにセバスに伝えた。
 もちろん、アーティファクトの操作を教えるということを周知するためだ。

「アーティファクトの操作を教える?!ヤス殿!」

「なんだよ。ダーホス?教えるのはカスパルだぞ?」

「それは・・・。例えばですけど、私にもできることですか?」

「うーん。どうだろう?」

 ヤスはセバスを見る。
 自分がいうよりもセバスに言わせたほうがいいという判断だ。

「ダーホス様。アーティファクトの操作には、神殿への属従が必要です」

「具体的には?」

「簡単なのは旦那様への忠誠です。他にもいろいろありますがそれを説明する必要はないでしょう」

「・・・」

「ダーホス。いいだろう?アフネス。移住を開始してくれ、俺は先に戻る。入り口は、ツバキが知っているから指示に従ってくれ」

 ヤスは神殿に戻るために移動を開始した。
 ごちゃごちゃとしてしまったが依頼はサンドラからの返事を待っている状態になっている。移住は、セバスとツバキとダーホスとアフネスが担当するから問題はない。
 結界は、ツバキは知らないのだがマルスが近くになれば説明するので問題はない。

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