【第八章 王都と契約】第八話 ミヤナック邸
親たち世代は、何やら繋がりがあるようだが、詳しい話は教えてもらえていない。
ナナも言葉を濁すことが多い。
考えてみると、ローザスやハーコムレイは、アッシュやナナたちから見たら、世代は下になるはずだ。
俺たち世代と親世代の間くらいか?
それで、”アスタ殿”なのか?
アッシュが用意した馬車で、王都にあるミヤナック家に向かっている。
ハーコムレイが用意した馬車も、店の前で待機していた。アッシュが馬車を出すと言って、来ていた馬車に”夜の蝶”に向ってもらった。フェナサリムの父親が居たらミヤナック家に連れてきてもらうためだ。
アッシュがフェナサリムの父親にも話がしたいらしい。
正面に座っているアッシュが何やら考え込んでいる。
目を瞑っているが、真剣に考えているのが解る。
「リン様」
目を開けて、考えがまとまったのだろう。俺に話しかけてきた。
「ん?」
「リン様は、資金はありますか?」
資金?
セバスチャンに任せてしまっている。
それに、神殿の中では金は必要ない。
「生活に困らない程度にはあると思う。セバスチャンに任せているから解らない」
「そうですか・・・」
計算が違ったのか?
期待していた答えではないようだ。
「どうした?」
「いえ、この王都には、私が営んでいた奴隷商以外にも奴隷商があります」
奴隷商?
アッシュの所以外の?
「そうなのか?」
「はい。同じと考えたくは・・・。奴隷商です」
同じだと考えたくないのだろう。
当然だな。アッシュの奴隷商は、通常の奴隷を飽きないとして売買する奴隷商ではなく、人材派遣に近い。
「それで?」
「はい。神殿に村を作るにしても、私の所に居る奴隷では頭数が足りません。お聞きした内容なら、最初のまとまった人数が必要になりそうですが、村として認知されれば、人は自然と集まってくると思います。最初の立ち上げが難しいのだと判断しました」
「そうだな。実際に、隠里の人間は、神殿への移住を決断してくれた」
「はい。しかし、隠里は、やはり隠里です。安全な場所があれば移動を決断するのは早かったのだと思います」
「・・・。そうだな」
「それに、お聞きした人数では、村を維持するのがギリギリです」
「・・・」
「リン様。これは、独り言ですが・・・」
「ん?」
「王都の奴隷商や、宰相派閥の街や都市には、奴隷商があります。アイツらは、怪我や病気や欠損をしている者たちを安値で売っています」
「え?」
「王国の法では、そのような者は、奴隷商で保護しなければならないのですが、奴らは”住民ではない”という理由で”獣”として売ることがあります」
「は?」
「そして、買う奴らは、肉壁に使うならマシな使い方をします」
「・・・」
「リン様が確保した神殿の力を使えば、欠損を治して、怪我や病気の治療ができるのでは?使い道が限られている者たちなので、格安です。治したリン様には通常の奴隷以上にリン様に忠誠を誓うでしょう。最良は、その時のやり取りを保管して違法奴隷の一人でも居れば、奴隷商を潰すきっかけが出来ます」
確かに、神殿の力を使えば、怪我くらいなら治せるだろう。欠損は、ロルフに聞かなければ解らないが、治せる可能性がある。
人材になるかは未知数だが、人が増やせるだけでも、神殿で考えればプラスだ。
どうせ、住民は必要だ。
「可能だと仮定して、どのくらいの資金が必要なのかわからない。ハーコムレイやローザスから借りを返してもらえば、まとまった資金は得られると思う。交渉次第だが、下賜された土地の開拓資金を強請ることができると考えている」
「そうですね。神殿にはアスタが居るのですよね?」
本当に嫌そうな顔をする。
何が合ったのかすごく気になってしまう。
「あぁ」
「あの男なら、その辺りの交渉は得意です。任せてみるのもよいかと思います」
交渉か・・・。
確かに、対等な状況になってからの交渉が俺にできるとは思えない。アッシュは、ローザスやハーコムレイ側の人間だと思っておいた方がいい。そうなると、ナナに頼るのがベストなのだろう。
「・・・。わかった。ナナに頼んでみる」
アッシュは、他にも神殿に何が必要なのか聞いてきた。
ひとまずは、”人”が必要だと答えたが、他にもいろいろ足りないのは解っている。
馬車が止まった。
ミヤナック家に到着したようだ。
部屋に通された。
部屋には、ナナとミトナルが待っていた。
「ナナ。頼みがある」
アッシュが部屋から遠ざかったのを確認してから、目の前に座るナナに、アッシュからの貞愛を含めて話をする。
「なぁに?」
馬車の中での話をナナにして、交渉をして欲しいと頼んだ。
「ふぅ・・・。アッシュ!まぁいいわ。リン君。アッシュに何を聞いたのか解らないけど・・・。リン君の話はわかったわ。どうしたい?」
どうしたい?
まずは、”人”が欲しい。戦力という意味ではなく、言葉を選ばなければ、”贄”だが、”贄”は違うように感じる。
住民が欲しい。神殿からの助力がなくても、生活ができる人なら最高だ。
「そうだな。アッシュが言っているように、他の奴隷商の奴隷を買い占める。違法奴隷も居るだろう?奴隷を集めたいと思う」
最初に集めるのは、奴隷でいい。
神殿の情報が周りに伝われば、住民は簡単に増えると言うのがアッシュの予想だ。簡単とは思えないが、増えるとは思っている。
「主人は?」
ミトナルが、話に割り込んできた。
確かに、奴隷を購入したら”主”が必要になる。
アッシュが行けば警戒されてしまうだろう。
俺でももしかしたら難しいかもしれない。
ミトナルなら大丈夫かもしれないけど、ミトナルに渡らなくていい危険な橋は無視して欲しい。
現実を考えれば、ナナかミトナルになってしまう。
「ナナかミトナルではダメなのか?」
「ダメじゃないけど・・・」
ミトナルは消極的な賛成という感じだ。
ナナは何かを考えている。
「それか、アッシュに預ける。アッシュの所から、奴隷を買って、その奴隷の下につけるのはダメか?」
俺の言葉に、ナナが反応する。
「え?奴隷の奴隷?」
奴隷の奴隷は、できるはずだ。
アッシュに確認すればわかる話だが、制度上は問題がないはずだ。
「そうだ。できるだろう?」
「うーん。私にはわからないから、あの男に確認する必要があるわね」
ナナも、アッシュの事を、”あの男”と呼んでいる。
好きとか嫌いとかではない部分で反発しあっているのだろう。
「そうか?任せていいか?」
「ふぅ・・・。わかったわ。ミトナルちゃんにも手伝ってもらう事になるけどいい?」
「ミル?」
「僕?何をするのか解らないけど、リンの役に立つのなら、なんでもするよ?」
丁度、アッシュが戻ってきた。
「リン様。殿下がお待ちです」
「ありがとう」
「この者が案内を致します」
「わかった。アッシュは?」
「私は、そこの男・・・。アスタと話をします」
「やだぁアッシュ。何度もいうけど、私は、”女”よ。それに、ナナという名前があるの?何度も言わせないで、恥ずかしいわよ」
「っち。リン様。どうぞ。アスタには、しっかりと話をします。悪いようには致しません」
「アッシュちゃん。ダメよ。ナナ。何度も言わせないで、ナナよ」
「煩い。黙れ!リン様」
「あぁミル」
ミトナルを見ると首を横に振っている。
確かに、二人の居る空間には痛くないだろう。
「アッシュ。神殿の説明が必要になるよな?」
「はい」
「わかった。ミル。一緒に来てくれ、ナナ。アッシュ。いいよな?」
ナナは笑顔で手を振っている。
アッシュは、苦虫を数十匹かみ砕いたような表情をしてから頷いている。
「ミル」
「うん!」
ミルは勢いよくソファーから立ち上がって、俺の横に来て腕を絡めてきた。
丁度いいタイミングで、夜の蝶に向かっていた馬車が戻ってきたようだ。
馬車には、ミヤナック家の家紋が刻まれている。フェムサリムの父親も、貴族からの呼び出した。従ってくれたようだ。
俺とミトナルを見て固まるが、すぐに部屋に入っていった。
そして・・・。
「アッシュ!どういう事だ!アスタも説明しろ!」
ドアを閉めているのに、廊下まで声が響いている。
俺とミトナルは、お互いの顔を見て、小さく噴き出した。
案内をしてくれている人も肩が震えていることから、笑っているのだろう。
奥まった部屋に案内された。
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