【第二十一章 密談】第二百十八話
スーンからの依頼で神殿の外装を変更した。
内装もできる所は手伝ったのだが、本当に良かったのか?
スーンだけではなく、ゼーロやヌラやヌルからも高評価だし、リーリアやオリヴィエも喜んでいる。他の面子もみな喜んでいるのがよく分かる。
カイやウミやライもすごいと言っている。
エリンは、竜に戻って神殿の周りを飛ぶほどに喜んでいる。
簡単に言えば、俺以外の全員がこれでいいと思っているようだ。
「なぁシロ」
「なんでしょうか?」
「これでいいのか?」
最後の砦としてシロに感想を求めた。
「かっこいいと思いますけど?」
ブルータスお前もか・・・。
「本当に?中も見たよな?」
「はい」
「神殿の最上階に作られた、あの部屋で俺の横に座って、エントやドリュアスや意識ある魔物たちに謁見するのだぞ?」
「はい」
シロ・・・。なぜそこで頬を赤くする。
恥ずかしいよな?恥ずかしいのだよな?
ルートガーやクリスやリカルダやフラビアを連れてこようかと思ったが、ここはチアルダンジョンの最下層。
そうか、ダンジョンの最下層だからこれでいいのかも知れない。
外側からみて・・・。どう考えても、魔王城にしか見えない神殿になっていても、神殿のかけらもなくなっている状態でも、最下層にある神殿だからこれでいいと思う事にしよう。
ステファナとレイニーに聞いてもシロと同じ意見のようだ。
謁見の間は、俺とシロが座る椅子が最上段になっていて、そこから幅が広い階段がつけられている。
階段に眷属とステファナとレイニーが並ぶ事になる。
ダンジョンコアたちはクローンで並ぶようだ。
右側を俺の眷属が並んで、左側にライとシロの眷属が並ぶ事になる。
ただし、ライの第一世代にあたる眷属は人数の都合上右側に並ぶ事になるようだ。
今までと同じ様に、俺の横にシロが座る場所が作られて、俺とシロの横に、カイとウミとライが鎮座する形になるようだ。
椅子くらい普通にしようかと抵抗したがダメだった。
肘掛けに、ジン○ウガの首が縮小して取り付けられて、頭の部分にはモンスターをハントするゲームで最初の方に出てくる鳥型のモンスター俗称ク○ク船長の羽が大量に使われている。どこの魔王が座る椅子だよといいそうになってしまった。
それで、座り心地が悪かったらそれを理由に直すのだけど・・・。なれたもので、座り心地が俺の観戦に合っている。
悔しいことに、装飾以外は完璧なのだ。そして、装飾を外そうとお願いすると、多分外してくれるだろうけど、すごく悲しそうな目をする。どうせ、そんなに使う事はないからと割り切って許可を出した。
許可の出し方を間違えたのかも知れないけど・・・。一度俺が頷いて所から、スーンたちは普段使うことがない素材を使って、自重する事なく、最高の魔王城を作ってくれた。どこからどう見ても神殿ではなく、魔王城の出来上がりなのだ。
途中でやめさせる事なんてできなかった。
俺の衣装やシロの衣装まで用意されている。
王冠まで用意されている。
偽物ではないが、シャイベに吸収される形になっているダンジョンコアを王冠にはめ込んでいる。
王冠を頭上に置いたら、不思議な事に”魔物たちの王=魔王”の完成である。
うん。考えるのを止めよう。眷属たちが喜んでいるから間違っていないと思う事にしよう。
「スーン」
皆の後ろに控えていたスーンが一歩前に出てくる。
「神殿はこれでいいのか?」
「問題ないです」
「それじゃ移住組と会うか?」
「お願いできますか?それから、申し訳ないのですが」
「どうした?」
「はい。神殿の事を知った、他の者たちも、旦那様に謁見したいと言っています」
シロを見るが頷いている。
一度にできるのなら済ませてしまいたい。
「わかった。一度にできそうなのか?」
「はい。謁見の間には全員は入場できませんが、その時限り下の階層や神殿の周りでも良いと思います」
「スーンに任せる。ただ一日で終わらせてくれ」
「かしこまりました。神殿のお披露目は一度にいたします」
なにか微妙な言い回しだな。
「神殿で行う謁見は一度だよな?」
「旦那様?」
あっダメな奴だ。
「カズトさん」
「ん?」
「僕は、スーンたちの想いが少しだけわかります」
「どういう事?」
「カズトさんは、ルートガー殿や元老院の申し出を受ける形で、迎賓館で代官を迎えたりしますよね?」
「あぁ・・・。そうか、ありがとう。シロ」
シロの頭をなでてやる。だらしなく表情を崩して笑う顔が・・・。その顔がすごく可愛い。
手を放すとシロが一歩下がった。
そうだよな。
人族には定期的な会議をしているのに、魔物との話し合いをしないのは片手落ちだな。
それに、各地の情報を握るのに、街の状況や情報なら代官やアトフィア教が使えるだろう。情報局となっている吸血族も使えるだろうが、森の中や山岳部や海中からの情報を仕入れる事は難しい。できないとは言わないが目立ってしまう可能性が高い。魔物を組織的に使えるようにすれば情報の入手も楽にできるようになるかも知れない。
数名?の魔物と話をしたが、彼らは純粋なのだ。裏切るとか裏切らないとかを考える必要が無い。俺が、俺の眷属たちが、力をしめしている限り、俺に従うのだろう。
彼らの思考は、最初に自分の安全で、次が部族の安全で、力ある者から恩恵を得るための行動となる。なので、俺が彼らを保護して、部族と彼ら自身を守る行動を取っていれば、俺に従ってくれる。
「スーン。常時は無理だが・・・。期間をあけての定期開催にはなるが部族の代表会議は行った方がいいよな?」
「旦那様。お願いできますか?」
「問題は無いが、頻度はどうする?」
「はい。半年か一年に一度でどうでしょうか?」
「それでいいのか?」
「十分だと思われます。個別に命令などある時には、族長を呼び出せば良いと思います」
「わかった。任せる」
「旦那様。それで、数年・・・。5年に一度は希望者の全員が来られるようにしたいと思いますがよろしいですか?」
「問題ないけど、準備で忙しくならないか?」
「それこそ、部族から代表を出させて対応させます」
「わかった、任せる」
「ありがとうございます」
スーンが一歩下がる。
これで、神殿の使い方や魔物との付き合い方が決定した・・・のかな?
神殿の調整が終わって、お披露目を行った。
魔物サイドでも謁見や定例会議をする事が決まった。
問題はないと思っていた。
移住組と元々チアル大陸に居た魔物たちとの謁見が開始された。
最初は部族ごとに謁見を行う。
移住組を優先する事になったようだ。
部族名を聞いて、代表からの謝辞を受けて、下がらせる。
これの繰り返しになる。一口にエントやドリュアスと言っても住んでいた所で微妙に違うようだ。
部族があるようで別々に対応した。
部族ごとの謁見が終了したら次は部族の代表だけを集めた全体会議になるのだが、迎賓館で行われているような感じにはしないようだ。スーンが説明してくれた所で、魔物は上下関係がはっきりしていて、俺とシロとカイとウミとライは壇上から降りてはダメなようだ。
謁見スタイルで会議が行われる。
スーンが、開始の挨拶をする。
俺は、その後に立ち上がって、”皆の活発な意見を期待する”だけでいいようだ。
楽と言えば・・・。楽なのだがすごく暇だ。
要望やお願い事はすでに部族ごとの謁見のときに話を聞いている。
今日は、初めてという事もあるので、各部族長が挨拶をして、現在の居場所を明確にする事から始めている。
その後に、部族ごとに足りない物や余剰になっている物を報告し合っている。
もっと揉めるかと思った会議だが、迎賓館で行われる会議よりもスムーズに進んでいる。
魔物たちは人種と違って長命種が多い。そのために、安全な住処があると、なにかやりがいがある事を求めるようになってしまうようだ。要望も、俺の所に届くのは感謝の気持ちと一緒になにか自分たちにできる事は無いのか?だった。
ひとまず、各地に散らばっている魔物種を集めてもらう事にした。
そのために、ロックハンドダンジョンは大幅に拡張する事にした。
魔物たちには、俺がダンジョンの主である事は伝えてある。そのために、自重する事なくいろいろな事ができる。
シャイベに確認しながら階層を増やせるだけ増やした。
部族ごとに住む場所を決めた。面子だ!なんだと言い出すかと思ったが、階層の上下は気にならないようだ。
人種もこのくらい楽だと”王”という職業もいいかも知れないけど・・・。ダメだろうな。面倒事しか増えない。
だから、魔王の方が考える事が少なくできるのかも知れない。力があればいいだけなら、今の俺でもある程度まではできそうだな。カイとウミが揃っていれば、抵抗できる者は少ないだろうからな。
「主様」
スーンたちは、公式の場?で俺の事を、”主様”と呼ぶことに決まった。
リーリアとオリヴィエとスーンたちが決めた事なので、俺が口を挟むような事ではない。
「どうした?」
「はい。主様。皆が、新種に関してどうするつもりなのかを気にしています」
「魔物たちにとって新種はどう考える?」
1人?のリザーマンが一歩前に出る。
「発言のご許可をいただきたい」
「問題ない。なんだ?」
「我らが主様。直言の許可。ありがとうございます」
「主様は辞めて欲しいのだけどな」
「それではなんと?」
「ツクモでよい」
「旦那様!それはあまりにも・・・」
スーンが反対意見を出した。
「スーン。何か他にあるのか?」
「そうですね。この前、旦那様がおっしゃっていた”魔王”でよろしいでしょう」
「あっ・・・」
それは・・・。
なんだよ。俺以外が賛成なのか?
周りを見るが反対意見があるわけではなさそうだ。”王”は存在していないはずだ。
だか、俺が魔王とつぶやいたのが決め手となっているようだ。
「魔王様。新種の事ですが・・・」
遅かった・・・。シロも納得しているようだし、気にしてもしょうがないのかも知れない。
魔物から主様と呼ばれるよりは、魔王様の方がいいかも知れないな。
「それで?」
「はい。私たちの部族は、魔王様が新種と呼ばれた者と対峙しました」
魔物たちは、新種を”ノーリアクション”と呼んでいた。
呼びかけにも、武器での対峙にもリアクションする事なく、淡々と戦うからノーリアクションと呼んでいたようだ。
「それで?」
「新種は、一度だけ攻撃を躊躇した時がありました」
「躊躇?」
「はい。そうとしか思えない状況です」
リザードマンの説明では、確かに躊躇という言葉が正しい。
今までの話から、新種は近い所にいる者を攻撃する。
攻撃が強いとかヘイトを稼いでいるとかは関係なく近い所にいる者を攻撃している。攻撃を受けた者が倒れた場合には、その次をターゲットとする。新種が攻撃を当てていないで倒れた者は対象で、攻撃を当てて倒れた者は対象外になるようだ。
女も子供も何も関係ないようだ。複数の種族や意識がない魔物が混じっていても同じようだ。
リザードマンが遭遇した新種は、子供は攻撃しなかったという事だ。
リザードマンが成人になっているかどうかを、俺が見た目で判断する事はできない。
同じ様に、新種もリザードマンの成人が判断できなかったのではないのか?
やはり、俺と同じ様に操作を使っているという仮説が真実味を帯びてくる。
操作している奴が躊躇したと考えるのがいいだろう。
「魔王様。新種ですが、私たちの部族では一体だけでした」
「他は?複数体でた所はあるのか?」
部族長を見るが1人も首を縦に振らない。
やはり一体しか居ないのか?
それを順番に操作しているのか?
誰が?なんのために?
「魔王様。発言のご許可を」
「許す」
最初の頃に襲われたドリュアスの部族だ。
「はい。魔王様。我らの里を襲った者と、先程のリザードマンの話に出てきた者では、形状が違います」
「ん?」
ロックハンドを襲った者に近いのが、リザードマンの部族の所だ。
ドリュアスの所とは違うようだ。手が短く、斧の様な物が先端に付いていたようだ。
「そうか、他の所はどうだ?形状に違いがあるものは発言せよ」
各々の部族を襲ってきた新種について話をしてくるが、とりとめが無い。
「わかった。スーン。取りまとめを頼めるか?」
「かしこまりました」
「それから、ドリュアスが見たという人種を見た者は他に居れば言って欲しい。部族長にまで上がってきていない可能性を考慮して、部族の者にも確認して欲しい」
”はっ!”
皆が一斉に頭を下げて了承の意思を伝えてくれる。
新種は、一体なのか?それとも、形を変えて襲ってきているのか?なんのために?
スーンが俺とシロとカイとウミとライが退室すると宣言する。
これで、今回の全体会議が終わる事になる。
人族を見て、形状が一番人に近い新種を確認しているドリュアスたちは、魔物たちが多く住む大陸の中央大陸よりの海に近い場所に住んでいる。そして、ロックハンドを含めても最初に襲われている。チアル大陸を除くと一番被害が少ない。
もしかしたら・・・。
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