【第九章 神殿の価値】第十一話 許可

   2020/06/24

「ジーク様。アデー様。ハインツ様。見学の許可が降りました。どの順番で回りますか?」

3人は、起きてから食事を済ませていた。案内である、サンドラが来るのを待っていたのだ。
そこに、ツバキが別荘にやってきて、3人に予定を聞いたのだ。

「お兄様!工房に行きましょう!工房!」

「アデー。落ち着け。ツバキ殿。案内は、ツバキ殿がしてくれるのか?」

「はい。私が、ご案内いたします」

「ハインツはどうする?」

「ツバキ殿。サンドラがどこに居るのかご存知ですか?」

「サンドラ様は、本日はお休みの予定ですが、ギルドに顔を出すとおっしゃっていました」

「ありがとう。ジーク様。アデー様。私は、サンドラと話をしてこようと思っております。ツバキ殿。途中から合流する事は出来ますか?」

「大丈夫です。皆様、神殿の領域への入場が可能になるカードをお持ちください。皆様の分をお持ちしております」

ツバキが、3人にカードを渡した。

「ツバキさん。このカードは、今日だけなのでしょうか?」

「ゲストカードでして、発行した日しか使えません。再発行もできません」

「わかりました。フロアを購入したら、改めて、神殿への入場許可を行えばよろしいのですか?」

「はい。そうして頂ければ、その時点で審査が行われます」

「たしか、見学の申請は、工房と地下と学校と迷宮だと思いましたが?」

「はい。間違いはありません」

「お兄様。学校は、見ておいたほうが良いと言われました。授業が行われている時間の方がいいですよね?」

「あぁ」

「迷宮は、さすがに中に入られないと思いますので、雰囲気を感じるだけですよね?」

「そうだな」

ツバキが案内に関して訂正を行う。

「迷宮の中にもご案内出来ますが?」

「え?魔物は?」

「護衛を付けます」

「アデーは行きたいだろうが、今回は諦めよう」

アデーがジークの言葉に頷いた。

「かしこまりました」

「そうなると、工房と地下施設ですね」

「アデーは、工房の見学に時間が欲しいのだろう?」

「もちろんですわ」

「俺は、学校に興味がある」

「ジーク様。私が、サンドラと話をして、ジーク様と私で学校の見学に行って、ツバキ殿はアデー様を工房に案内するという感じではどうでしょうか?」

「ハインツ様!私は、問題はありません。ツバキさん。どうですか?なにか、問題はありますか?」

皆の視線がツバキに集中する。

「私に問題はありません。私が、アデー様を工房にご案内いたします。ギルドまでご一緒に移動してから、ジーク様とハインツ様は、サンドラ様と学校に見学に行くという流れでよろしいですか?」

「そうですね。サンドラ様のご都合次第だとは思いますが、お兄様。ハインツ様。迷宮を先に見学しませんか?」

「あぁそれがいいかもしれないな」

ジークが承諾したので、方針が決定した。

ツバキの案内で、最初に迷宮の見学に行く。迷宮は、ジークとアデーとハインツが一緒に行動する。
その後、ギルドに移動する。
ギルドで、二手に分かれる。
ジークとハインツは、サンドラかギルドに居る者に依頼して、学校の見学に向かう。
アデーはツバキの案内で工房の見学に行く。

昼は、個々に食べて、時間は決めないが合流して地下施設の見学に向かう。ツバキとサンドラが居れば連絡を取り合う事が出来る。

予定が決まったので、行動を開始した。
リゾート区から迷宮区までは、西門を通過しなければならない。西門までは、馬車で移動して、それから乗り合いバスで移動する。

迷宮にはギルドから連なる通路ではなく、別の入口から入った。

「ツバキ殿。ここが迷宮の入口なのですか?」

「はい」

ハインツが聞きたくなるのも解る。3人は、迷宮の広場の光景に目を奪われていた。
大型モニターに映し出される迷宮内の戦闘シーン、救護所に運び込まれて治療を受けている冒険者。広場には、それだけではなく商人が店を構えている。冒険者に物資を売る店だけではなく、情報を売り買いしている店まで出来ているのだ。

「ツバキさん。あの表示されている物は?」

「迷宮から持ち帰った物資の買い取り価格です」

「え?買い取り価格?」

「はい。ギルドからの依頼以外で迷宮区から物資を持ち帰って、この広場の商人に買い取りをお願いした場合の基準です」

「なぜ?」

「ヤス様の指示で、新人の冒険者が不当に安い価格で買い叩かれたりしないようにするためです」

「価格はわかりましたが、横にある矢印は?」

「上に向いているのは、前回の買い取り価格よりも値段が上がった物で、下に向いているのは下がった物です。横は、同じ価格だった場合です」

「物資の横の記号は?」

「最近、付いた物で、魔道具を使って物資の鑑定をしたときに、品質を出すように改善されました。その品質をマークで表示しています」

「え?鑑定?品質?え?え?」

アデーがツバキの説明を聞いて軽くパニックになってしまった。

「実際に見てもらったほうが良いでしょう」

そういって、ツバキは近くの商人に話をした。
商人は、快く説明を行ってくれた。アデーの質問にも話せる範囲で説明をしてくれている。

「ツバキさん。魔道具は、工房が作成したのですか?」

「はい。第一層の工房が作成しています」

「販売は?」

「ギルドが優先権を持っております。ただ、神殿の施設に行き渡らせるまでの数の用意が出来ていないので、実質的には販売はまだ行われていません」

「わかりました。それに、工房の第一層とは?」

「神殿の内部で使う物や、外部に販売する魔道具を作成している場所です」

「それは・・・」

「後ほど、工房でご説明いたします。責任者から説明をお聞きください」

「わかりました」

迷宮区を出て、ギルドに移動するとサンドラが仁王立ちで待っていた。

「お兄様!」

「サンドラ?」

「お兄様は、昨日、お三方の許可を取り付けるために、責任者に事情説明を行っていた私に、今日も学校の案内をしろとおっしゃるのですか?」

「おっぉ?サンドラ?」

「お兄様?ジーク様も、ご一緒に学校の見学を行うのですよね?今日、ゆっくりと休もうと思っていた私がご案内して差し上げます。ツバキさん。ヤスさんに、”お二人を。教習場の体験をさせていただきます”とお伝え下さい」

「わかりました。サンドラ様。ジーク様とハインツ様をお願いいたします。後ほどご連絡いたします。その後は、地下施設の見学です。旦那様からはカートの使用許可も出ております。ポケバイでもいいそうです。コースは、空いている場所を使って欲しいそうです」

「え?わかりました。ありがとうございます。お兄様。ジーク様。学校の施設と授業風景をご案内いたします。その後で、学生寮と食堂と会議室をご案内いたします」

「サンドラ様。旦那様からは、クラウス様にご説明した設備は見せても大丈夫だろうということです」

「ありがとうございます!」

サンドラは、ニヤリと笑った。
これから案内をして、二人の顔が驚愕で染まる未来を想像したのだ。

連れ去られていく二人を見送ったツバキは、アデーに声をかける。

「アデー様。すぐに工房に向かいますか?」

ツバキの言葉を聞いて、アデーは勢いよく頷いた。

3人が合流するまで、神殿の表層のみだが説明を受けた。
学校では、算数の授業だったのだが、ジークもハインツも上級貴族で教育を受けていた。二人がギリギリわかるような問題を、成人前の子供が簡単に問いている姿を見て驚愕した。それが初級だと聞いて、自分の知識を疑った。中級になると、面積の求め方や時速と距離の関係を教えている。
食堂では出された食事が王宮で出される食事よりも美味しいと驚いている。週に一度行われるマナーの日で、貴族との会食でも失礼にならない程度のマナーを教えていると言われたが、二人が見ても王家や他国との会合や食事でも大丈夫なマナーを身に付けていた。
教習所では、アーティファクトを貸し与えるための練習だと言われて、あごがはずれるくらいに驚いた。

二人は、サンドラの思惑通り、疲れ切った目をして、ギルドに戻ってきた。
そこに、同じく疲れているが、目はランランと輝いているアデーが合流した。

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