【第三章 帝国脱出】第三十一話 少年と少女
おいらたちの生活は、おっちゃんに会ってから変わった。
まずは、カリン姉がラオを治してくれた。他にも、体調が悪かった者も治してもらえた。それから、アキ姉や女の子だけが集められて、何かを話していた。話の内容は教えてもらえなかった。でも、その日から、アキ姉たちはカリン姉と一緒に居る時間が増えた。
おいらたちの寝る場所も変わった。
スラムの入口だったおいらたちの寝床は、おっちゃんによって壊された。おいらたちの少ない荷物は持ち出している。そのまま、街の入口。魔物の森が近くに広がる城壁近くに移動した。
しっかりした壁があって、屋根がある場所が、おいらたちの寝床になった。
風呂とかいうお湯を貯めて、身体を洗う場所や臭くないトイレがある。1人、1部屋だ。
でも、女の子は女の子で大きい部屋を使う。男も、男で部屋を決めた。最初は、嬉しくて別々の部屋で寝たけど、寂しかった。小さい妹や弟が、寂しがったのも大きな理由だ。
空いている部屋には、スラムの外側に居た、おいらたちと同じような者たちが集められた。
おっちゃんが集めてきた。対立していたグループもあったが、おっちゃんが文句なしの”喧嘩で終わらせろ”と言った。おいらが勝ったことで、この家のリーダはおいらになった。
年が解る者は、ギルドに登録した。
あの日に渡されたギルドカードだけでは足りなかったけど、カリン姉が持ってきてくれた。
教えられていたギルドの話が全部ではないけど、殆どが嘘だった。
ギルドマスターがおいらたちの所に来て、頭を下げて謝ってきた。どうやら、一部のギルド員がおいらたちを騙していた。
あと、騙していたギルド員たちは、スラムの顔役と繋がっていて、おいらたちが大人になったら、スラムの顔役の所に連れて行って、兵士にするつもりだったようだ。アキ姉たちは、奴隷商に売るつもりだったようだ。
あの時に、おっちゃんに拾われていなければ、おいらたちは騙された事も知らないまま・・・。
おいらは、おっちゃんと一緒に森に行く事が多くなった。
皆で食べる為の獣を狩っている。他にも、アキ姉たちに頼まれた野草や木の実を採取している。おババが薬にしてくれるらしい。
イエーンを稼ぐ方法を、おっちゃんが教えてくれた。
そして、実践してくれた。ギルドに売るだけが、イエーンを稼ぐ方法ではなかった。おババの店もだけど、しっかりと話をすれば、街にある店で買ってくれる。ギルドに売るよりも高く買ってくれる場合もある。
おいらたちは、アキ姉と一緒におっちゃんに謝った。
心から、謝った。許して欲しいと思った。大人は、おいらたちから搾取していくだけだと思っていた。でも、おっちゃんは違った。
おっちゃんは、おいらの頭を撫でてくれた。
おっちゃんは、おいらたちに生きるための方法を教えてくれた。
森で狩りをしている最中に、おっちゃんの目的を聞いた。
カリン姉もおっちゃんと一緒に行くと決めているようだ。おいらたちも、おっちゃんに着いて行こう。
でも・・・。おいらだけで決めていない。アキ姉にも相談した。ラオにも聞いた対立していたグループの奴らにも話を聞いた。
無理だと言っている奴らも居た。
そいつらは、街に残ればいい。イーリス様にも確認をして、おいらたちが住んでいる場所は、おいらたちが好きに使っていい場所だ。
アキ姉は、街に残ると言っている。
イーリス様を手伝うと、考えているようだ。おいらでは、アキ姉の手伝いも、イーリス様の手伝いも、どちらもできない。だから、おっちゃんと一緒に行こうと考えた。おっちゃんの近くなら、おいらにも・・・。おいらたちにもできることがある。
将来のことだと、おっちゃんは言うけど・・・。
皆が、自分で考えている。
「イザークは、何をしたいの?」
元気になったラオは、カリン姉に教わりながら、パンを焼いている。
「みんなを・・・。守るのが・・・」
「違うよ。イザーク。僕たちは、弱かった。でも、今は、違うよ。僕も、ロウもトトもイーネも、イザークに守って貰わなくても、大丈夫・・・。じゃないけど、大丈夫。僕が焼いたパンが売れたのだよ!イザーク。僕だけじゃない。まーさんとカリンさんとイーリス様のおかげで・・・。ううん。違う。イザークとアキ姉のおかげで、僕たちは生きて、生活が出来ている。だから、今度は、僕たちがイザークを応援する!」
ラオが、つっかえながら、何かを思い出しながら・・・。
涙が出てきた。
「ラオ」
「僕が、生きているのは、イザークとアキ姉のおかげだよ」
「違う。おいらは、何も出来なかった。ラオを助けたのは、カリン姉とおっちゃんだ」
「そうだね。僕から傷の痛みを取ってくれたのは、カリンさんだよ。でも、カリンさんが僕を助けてくれたのも、イザークとアキ姉が・・・。だからね。僕たちの心配はしなくて・・・。は、難しいだろうけど・・・。イザークが、”本当に願っているのは何?”」
なんか、ラオらしくない。
多分、練習してきたのだろう。
ラオが来た方を見ると、皆が揃っている。
アイツらだけじゃない。きっと、おっちゃんが・・・。
おいらが望んでいる事?
皆と一緒に・・・。皆を守って・・・。
大人になったら・・・。アキ姉を守って・・・。アキ姉と一緒に・・・。
ラオの頭を撫でる。
「イザーク?」
「ありがとう。難しく考えすぎていた」
「そうだね」
「おっちゃんにも、お礼を伝えておいてくれ、おいら・・・。ちょっと、イーリス様の所に行ってくる!」
家を飛び出す。
アキ姉は、おババの所に行くと言っていた。おっちゃんとカリン姉がどこに居るのか聞いていない。
でも、イーリス様は、屋敷に居るか、おいらたちの家に来ているか、それか教会に行っている。居なければ、屋敷の人に聞けば教えてもらえる。
イーリス様は、屋敷で書類の整理をしていた。
すぐに会ってもらえることになった。孤児で、スラムに落ちる寸前だったおいらたちにも会ってくれるから忘れているけど、イーリス様は王族だ。貴族の上に居る人だ。おいらたちが直接会うどころか、姿を見ることもできない人のはずだ。
「あら?イザークさんは、今日はおひとり?」
「はい」
大きく息を吸い込む。
凄く失礼なことだと、最近になって教えてもらった。
でも・・・。
「イーリス様。おいら。騎士に・・・。イーリス様を支えるアキ姉を守るための騎士になりたい。です」
言い切って、頭を下げる。
「ふふふ」
え?
イーリス様の反応が、笑い?
「イザークさん。ごめんなさい。まー様から、近日中に、君が私の所に来るからと教えられていて、本当に訪ねてきて、まー様の予想通りのことを言ったので、笑ってしまいました」
「え?おっちゃんが?」
「そうね。それで、イザークさん。騎士になるという気持ちは揺るぎませんか?本当に、騎士になると考えたのですか?」
「はい。騎士になれば、アキ姉を守れるのなら、騎士になりたいです」
「イザークさん。騎士は、アキさんだけを守る立場ではないわ。皆を守るのが騎士なのよ?」
「はい!アキ姉なら、自分だけではなく、皆を守るようにいうはずです。だから、おいらは、騎士になって、アキ姉が守りたい人たちを守ります」
「ふふふ。わかった。騎士になるのは、難しいわよ。それに、皆に会える時間が無くなるわよ?」
「はい!」
「覚悟があるのなら、まずは見習い身分ですね。訓練に、明日から参加しなさい。あと・・・」
あと?
「言葉遣いは、アキさんに直してもらいましょう。いいわよね。アキさん」
え?
アキ姉?
イーリス様が座っている椅子の横にある扉が開いて、顔を真っ赤にしたアキ姉が部屋に入ってきた。
「わかりました。イーリス様。イザーク。私と一緒に、勉強をしてもらうけど、いいわよね?解らない事は、私が教えてあげる」
「もちろん!」
朝の時間帯は、アキ姉と一緒に勉強をする。おいらは、文字がまだ全部は読めない。だから、文字の読み書きを勉強して、言葉遣いや態度やマナーの勉強も行う。休憩を挟んで、騎士としての訓練をする。そのあとは、おっちゃん。まーさんに言われて、イーリス様から本を借りて、読む。
カリン姉が何か嬉しそうにしていたのが気になった。アキ姉に”おめでとう”と言っていたけど、何かいいことがあったのか?
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