【第三章 復讐の前に】第十四話 クラスと授業
(今川さん。暴れているな・・・)
ユウキは、今川から送られてきたURLを見ながら、呟いた。
開かれたページは、有名なサイトだ。
トイレの落書きと同程度の意味しかないが、それでも多くの人が見ているのは間違いない。
(それにしても面白い方法だ)
今川が行ったのは、吉田教諭から得た情報の一部で、もっともマイルドな不正受験に関する話だ。
今川が行ったのは、某新聞社のフォーマットで記事を作成して、校正を通したような状態で、記事を流出させる。丁寧に、政治案件だと解るような、”没”を示すような状況にしてある。
ネットでは、ちょっとした祭りになっている。
流れてきた情報だけを信じれば、学校の不正受験を特ダネに近い状態で記事にした。校正まで終わらせている状況だ。某新聞社のフォーマットに合わせて作られている記事だというのは、業界に詳しいと自称する人が説明を行っている。
そのうえで、”没”になっている。誰かから・・・。国会議員からの圧力があった様に見える。
実際には、今川の自作自演なのだが、流出したかのように見える状況が、想像の翼を広げやすい土壌になっている。
記事には、学校の名前は書かれていない。しかし、所在地や学校の雰囲気から、いくつかの高校がリストアップされて、そこから繋がる国会議員の名前が出されている。
ユウキは、情報が表示されているサイトを閉じて、目を瞑る。
(暫くは、静かだろう)
ネットの情報だけで、何かが動き出すとは限らないが、記事のいたるところにギミックが仕掛けられている。
ユウキも詳しくはないので、気が付かなかったのだが、森田が組み込んだ仕掛けが、情報を上手く拡散している。検証サイトが立ち上がって、検証班と特定班が動き出しているかのように見せかけている。
こうなると、面白半分に情報を求める者たちが、集まりだす。
受験が終わっている時期なので、余計にこの手の情報を求める者たちが多い。
そこに、統一地方選挙が重なり、検索が政治や議員個人に関わる項目が増えている。
(それにしても・・・)
入学式から、2ヶ月が経過している。
バイク通学も、少々の問題は発生したが、大きな問題には発展しなかった。ユウキは、バイクの通学を続けている。もちろん、カバーストーリのためのバイトも続けている。
動きは何もない。
動き出すとしても、夏休み中か終わってからだとユウキは考えていた。
実際に、クラスでは目立たない位置をキープしている。まだ、ユウキが”異世界帰り”だと知られていない。中間テストでは、”上の中”をキープした。入学後の体力テストでも、”上の中”くらいをキープした。
ユウキが進学した高校は、部活にも力を入れている。越境で生徒を確保している。メジャーなスポーツには、金で集めた生徒を入れて、県で上位をキープして、全国大会の常連に名前を連ねている。その中での”上の中”がどのくらいかユウキはあまり深く考えていなかった。
「新城君!」
ユウキに話しかけたのは、クラスメイトの一人だ。
「何?」
「新城君は、バイク通学だよね?」
「そうだよ?バイトの関連で許可を貰っているよ」
仲間や今川や森田が見たら、”誰?”と疑問に思う位に素晴らしい笑顔だ。
「それなら、関係ないかな?」
ユウキに話しかけたクラスメイトは、ユウキに学校が配布している紙を見せた。
「どうしたの?ん?ほぉ・・・」
紙には、バイク通学に関する変更が書かれていた。
学校が動いたというよりも、違う力が働いた感じだ。
全部を読み込んで、紙をクラスメイトに返す。
「ありがとう。それで?」
ユウキは、相手が求めている情報は解るが、あえて口にする事で、コミュニケーションを取ろうと考えた。
クラスメイトとは、友達ではなく、知り合い程度の感覚でしかない。
善意と無関心のバランスでユウキは悩んでいる。
あまり、関わりを作りたくない気持ちと、自分が行おうとしている事に、巻き込んでしまう可能性が高いのが、同級生だ。最悪の場合には、学校が無くなる可能性もある。その時には、馬込がフォローをするとユウキには言っている。
「あっゴメン。僕は、バイク通学をするつもりはない。ただ、免許とか・・・」
ユウキに話しかけた彼は、ユウキが誤解していると考えた。
彼は、必要な費用が知りたかっただけだ。彼の友達が、免許の取得を考えているが、クラスが違う為に、ユウキに聞けなかった。頼まれて、ユウキに話しかけた。
ユウキは、質問には丁寧に答えた。
質問してきたクラスメイトは、ユウキの回答をメモして、礼を言って教室から出た。
ユウキの生活は不思議な位に安定していた。
バイト先で、生き物に触れ合う事で、新たなスキルが身に着いた。これは、ユウキだけではなく、他の者たちにも衝撃を与えた。スキルを得るには、フィファーナの環境が、もっと言えば”マナ”と呼ばれる力が必要だと思われていた。
新たなスキルを得た事で、2つの可能性を考えた。
・地球にもフィファーナと同じ”マナ”が存在している
・フィファーナから戻った者たちは体内に”マナ”を蓄えられている
前者は、物質がどんな者か解らないので、検証ができない。しかし、地球でもスキルが使えることから、フィファーナと同じ力があるのではないかと考えていた。しかし、地球に住む者たちは、スキルを得ていない。もしかしたら、検証ができないだけで、スキルを得ている者がいる可能性があるが、”悪魔の証明”になりかねない。
そこで、ユウキたちが考えたのが、後者だ。これなら、納得ができる。フィファーナでも実験ができる。フィファーナは、”マナ”を知覚できる者が居る。そこで、”マナ”が存在しない空間を作成して、スキルを得るような行動を行う事で、スキルが得られれば、地球上でユウキがスキルを得た状況に似ている。
ただ、重要な事は、地球でもスキルが得られる事だ。
そして、地球でしか得られないスキルが存在している可能性がある。
ユウキ以外の者たちが色めき立つ理由だ。地球で、それも日本で生活していても、危険は存在している。その為に、力を求める気持ちには代わりがない。
授業も問題なく進んでいる。
教師の中には、ユウキの態度が気に入らないのか、粘着してくる者も居た。どうやら、バイク通学の件でやり合った教師よりの人間らしい。ユウキが、飄々としているのが気に入らないようだ。
様々な嫌がらせを些細なイベントだと考えて、報復などは行わずに、ユウキは学校での生活を行っている。
6月に入って、生活も安定してきた。
ユウキに嫌がらせをしていた教師は、バイク通学の件で手駒にした教師が、辞めさせる方向で動いてから落ち着いた。
バイトの休みと学校の休みが重なった休日に、ユウキはフィファーナに転移した。
ユウキが転移で戻った場所は、レナートの王城がある場所だ。
「おかえり」
ユウキが魔法陣から出ると、マイが待っていた。
魔法陣が光りだしてから、近くに居た者がマイを呼んできた。
「ただいま。マイ。サトシは?」
”おかえり”の言葉には、”たたいま”だろうと、ユウキが返事をする。
そこで、レナートに来た目的の一つをマイに聞く。
「ディドとテレーザと一緒に、森よ」
「は?あいつ・・・。それで?」
ユウキは、自分の依頼をサトシが行っていると考えた。
「準備は大丈夫よ。サトシが捕えてきた?わよ」
マイは、ユウキの考えを否定した。
既に準備が終わっているのなら、さらに森に行く必要はない。
「あぁ・・・。マイ。ありがとう」
マイが、苦虫を噛み潰したような表情をしているのを見て、突っ込むのを辞めた。
サトシのことだ、目的のために手段を選ばなかったのだろう。そして、手段を遂行しているうちに目的を忘れてしまった。マイの静止が間に合わず、ユウキが来る約束になっている時期に、出かけてしまっていた。
マイの表情から、いろいろと悟ったユウキだが、話を進めることにした。
「大丈夫。サトシは、後でしっかりと話をする。ユウキ。それで?」
「そうだな。試してみないと解らない。地球の動物はダメだった」
「そう?何か、条件があるのかもしれないわね。そういえば、ユウキの家の広さは?」
「ん?あぁ大丈夫だ。流石に、エンシェントドラゴンは無理だが、飛竜種くらいなら庭に置いておける」
「あぁ・・・。庭を抜いた部分を教えて欲しい」
「普通の二階建てだ。地下は、作った」
ユウキは、家の間取りをマイに説明した。
「そう・・・」
マイの表情から、ユウキは何か嫌な予感がしたが、気にしないようにした。
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