【第三章 復讐の前に】第二十八話 奇跡

 

「先生。準備が終わるまでに、先生も湯あみをしてきてください」

「シャワーでいいのか?」

「はい。それから、できるだけ金属がついていない服を着てください」

「わかった」

「それから、女性陣に、妹さんの身体を清めさせます。下着や服はできるだけのない方がいいので、タオルやシーツで身を隠します」

「・・・。そうか、わかった」

先生が頷いたのを見て、3人は準備を始める。
女性陣が、服を脱がして身を清め始めるタイミングで、ユウキは部屋を出た。
隣の部屋を借りて、持ってきた白い布に、魔法陣を書き始める。

魔法陣を書くのはユウキの役目だ。
部屋の広さが解らなかったので、現地で書くことにしたのだ。

大きな魔法陣が二つと小さな魔法陣が二つ。

それぞれを、繋げるように書く。

実際には、魔法陣は簡略化できるのだが、この儀式の神秘性を増す舞台装置となるために、ユウキがしっかりと書き込む。

読める者が居ないから、好き勝手に書いている所はある。
巨大な魔法陣の半分以上は演出に使われる文様だ。

「新城。こんな感じで大丈夫か?」

前田教諭がシャワーで身を清めてから、Tシャツと短パンを履いてきた。

「そうですね。短パンでもいいのですが、ジャージとかありますか?」

「ジャージでいいのか?」

「金属部分があると熱くなってしまいます。できるだけ、肌の露出を抑える服装をお願いします」

「わかった。着替えて来る」

「お願いします」

吉田教諭は、ユウキが書いている魔法陣を見てから部屋を出て行った。

女性陣は、吉田果歩の寝間着を脱がし終わっている。
身に着けている下着も脱がせて、全裸にしてから、低級ポーションで身体を拭き始める。床ずれが発生している箇所や、擦り傷や、肌荒れや、汗疹や、諸々の肌疾患を治していく、起きた時に肌が荒れていたら可哀そうだと考えた。
清め終わったら、今度はフィファーナから持ってきている魔物の蚕から作成した布で身体を包む。
少しでも、スキルの浸透を助けるために、フィファーナ由来の物だけにする。

「ユウキ!終わったよ」

「わかった」

ユウキは書き上がっている魔法陣を持って、部屋に戻った。

吉田教諭も着替えを済ませて部屋に戻ってきた。

「新城。こんな格好でいいのか?」

「はい。ありがとうございます。それでは、儀式を開始します。前田先生は、こっちの魔法陣の上に座ってください」

反対側には、シーツに包まっている果歩が座っているような格好になっている。マイがサポートとして果歩を支えている。

「これでいいか?」

前田教諭は胡坐をかくようにして座った。

後ろにはスキルを増幅するために、一人が魔法陣の上に立つ。

「先生」

「なんだ?」

「かなりの激痛が襲うと思います。そして、先生の嫌な記憶を呼び起します」

「あぁ」

「耐えてください。無茶を言いますが、できるだけ動かないでください。魔法陣から出ない様にして下さい。スキルは途中で止められません。中断は、失敗を意味します」

「わかった。俺は、耐えるだけでいいのか?魔法陣から出ない様に、押さえつけたりはできないのか?」

「はい。できません。先生は、耐えてください。声もできれば出さない様にしてください」

「わかった。俺は耐えるだけでいいのだな。それだけで、果歩は助かるのか?」

「必ずとは・・・」

「すまん。助けられる可能性があるのだな?」

「はい。最善を尽くします」

「ありがとう。新城。タオルを咥えるのは大丈夫か?」

「え?」

「声を抑えるのだろう?タオルを噛んでいれば・・・」

「ははは。タオルなら大丈夫です」

ユウキは、一人に目で合図をする。
フィファーナ産の布を渡す。

吉田教諭が布を咥えたのを確認してから、ユウキは最後の準備を行う。

布に書いた魔法陣に手を添えてから、スキルを発動する。

魔法陣が光りだす。

サポートについていた二人が、果歩と吉田教諭の頭に手を置いて、スキルを発動させる。
記憶を一気に駆け戻っている。

果歩の身体が記憶を拒否するように振るえる。マイが抱きしめる。
吉田教諭は、果歩と自分の記憶を逆再生で経験している。交互にではなく、同時に体験しているのだ。

記憶に伴う痛みや苦痛や哀しみを含めて、全ての感情を刹那の時間に心と身体に流し込まれる。

涙だけではない。
口から声にならない叫びが迸る。

それでも、スキルは止めない。
記憶を封印する為には、必要な儀式だ。

「ユウキ!」

フェリアが心を閉ざしている理由を見つけたようだ。

「どこだ?」

「・・・。ユウキ。家族に、迷惑をかけたと思って・・・」

「そうか、やはりな」

「ユウキは、気が付いていたの?」

「可能性の一つだとは思っていた。ニコレッタ。先生と繋げるぞ」

「任せて!」

ユウキが次のスキルを発動する。

吉田教諭と果歩の間に書かれた魔法陣が光りだす。

ここからは、吉田教諭の力が必要だ。

「先生!聞いてください。俺の言葉がわかったら、頷いてください」

吉田教諭が苦悶の表情を浮かべながら、頷いている。

「先生。今から、先生を果歩さんの記憶の中に送り込みます。先生には、果歩さんがこれから経験することを、果歩さんと一緒に追体験してもらいます。いいですか、果歩さんが何を考えているのか、先生にも解るようになっています。絶対に間違えないでください。一緒に楽になると思わないでください」

吉田教諭が頷いたのを確認して、ユウキとフェリアとニコレッタは最後のスキルを発動した。

先生の身体から力が抜けたのを感じて、第一段階は成功したと考えた。

「ここからは、俺たちには補助しかできない」

「そうね」

「家族って凄いね」

ニコレッタの言葉は、ユウキたちの皆が同じように考えていたことだ。
事情は違うが、皆が”家族”との縁が薄かった者たちだ。ユウキは母親だけが家族だった。他の者も、兄弟や姉妹だけ、または自分だけが全てだった者たちだ。

「そうだな。先生は、果歩さんだけではなく、ご両親も救おうとしている」

「そうね。その果歩さんも、先生とご両親を守る為に頑張っていたのよね」

「そうだな。先生は、今まさに過去と向き合って、傷を追って、痛みを受けて・・・」

「ユウキ。起きると思う?」

「正直な話・・・。7対3だと思っている。起きない方が7だ」

「そうね。ここまで、心が傷ついてしまっていると・・・。それも、記憶から考えれば、自分で心を傷つけてしまっている」

フェリアは、魔法陣の効果を確認しながら、ユウキの答えを肯定する。

「あぁ奇跡を見せてもらおう。多分、俺たちでは不可能なことも・・・。家族である先生なら可能にしてくれるだろう」

ユウキたちは、自分たちがおこなった事は、奇跡でもなんでもない。フィファーナで得た力だ。
本当の奇跡は、閉ざしてしまった心を抉じ開けて、そこから救い出す事だ。

心が攻撃される。
守るべき物がない状態で、ダイレクトにダメージを受けてしまう。先生が感じている痛みは・・・。今の先生の様子を見れば・・・。ここで先生が辞めてくれと叫んでも、誰も文句を言わないだろう。

「ユウキ。中級ポーションで大丈夫?」

「どうだろう?身体の傷だけなら、初級でも大丈夫だとは思うけど・・・」

前田教諭の身体は、心が受けたダメージの反映が始まっている。

鼻血はもちろん、鼓膜が破れたのか耳からも血が流れ出ている。
そして、噛み締めているのだろう。歯が折れる音が何度も聞こえている。

見開いた目は、どこにも焦点があっていない。
眼球が動く度に、目から涙に混じって血が流れ出ている。

ユウキたちもただ待っているわけではない。
スキルを切らさない様にしている。

マイをついてきたのはユウキたちにとっては都合がよかった。マイがサポートに徹しているので、ユウキたちはスキルにだけ注意をしていればいい。
前田教諭と果歩は、マイが限界をしっかりと見極める。

完了していなくても、マイがこれ以上は無理だと判断したら、スキルを強制的に停止させることになっている。
その為に、魔法陣を用意していると言ってもいい。

魔法陣は、セーフティーネットの役割を果たしているのだ。

前田教諭が果歩の記憶に入ってから、2時間が経過した。
マイに焦りの表情が見え始める。

ユウキだけが、大丈夫だと思っている。

2時間15分後
果歩の表情が変った。

2時間40分後
前田教諭の苦悶の表情が、穏やかな表情になり、ゆっくりと目を閉じた。
気を失った状態だ。

2時間45分後
マイから、二人が無事に分離したと宣言が出た。
ユウキとフェリアとニコレッタは、スキルを停止した。
前田教諭にポーションを飲ませる。身体の傷がなくなるのが解った。

3時間15分後
先に目を覚ましたのは前田教諭だった
それから、5分後に前田教諭が見守る中で、果歩が目を開けた。

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