【第三章 町?街?え?】第四話 三文芝居?

 

 リーゼがヤスの引っ張るようにして1軒の宿屋に入っていく。
 見た目は、食堂風になっているようだが、”宿屋”と思いっきり書いてある。

「ただいま!」

 奥から、イケメンが出てくる。

「リーゼ!帰ってくるのはまだ先だろう?」

「乗っていた馬車がゴブリンに襲われちゃって・・・」

「なに?お前は何もされなかったか?無事だったのか?」

「うん。そこのヤスに助けられたの!」

「お!そうか、俺は、ロブアン。ヤス。リーゼを助けてくれたこと感謝する」

 ヤスの首をロブアンと名乗った男が、腕を首に回して耳元に顔を近づける。
 今までのフレンドリーの声とは似ても似つかない声でヤスに事実想いを告げる。

「(ヤス。助けてくれた事は感謝するが、リーゼ様に手を出したら、下に生えている物がなくなると思えよ)」

(様?やっぱりリーゼは姫なのか?)

「(17だろう。俺の守備範囲外だ。小便臭いガキは相手にしないよ)」

「(なにぃぃぃ!!!貴様。リーゼ様に色気がないとでも言うのか?)」

「(オヤジどっちだよ!)」

「(手を出すのは許せないが、リーゼ様をバカにされるのはもっと許せない)」

「おじさん!」

 リーゼの声を聞いて、ロブアンはヤスから離れた。そして、フレンドリーな声に戻っている。ヤスは、その状況を見ていろいろと悟るのだった。

 アンニュイな表情で佇んでいたヤスにコップを差し出しながら声をかけたのは、イケメンにふさわしい美女だ。

「災難だったね。ほら、お水だよ、お飲み」

「助かる」

「いいって。私は、アフネス。あんたの首を絞めていたバカは私の旦那だよ。聞いているかも知れないけど、リーゼの母親の妹だよ。リーゼの危ない所を本当に助かったよ」

 ヤスは、アフネスを見てエルフでは無いだろうかと考えた。事実エルフなのだが、ヤスが判断できることでもない。実は、鑑定を行えばいいのだが、ヤスは女性を鑑定していいのかわからないので、辞めておいたのだ。それに、女性に年齢を尋ねるのは間違っているとしているのだ。

(美魔女と言うべきなのか?エルフの年齢なんてわからないからな。聞くのは間違いなく地雷だろう)

 ヤスが良からぬことを考えていることを見抜いたアフネスがヤスを睨む。

(ほらな)

 ヤスは、睨まれながらもロブアンとアフネスを見る。二人が並んで立っているだけで絵になると考えている。美男と美女の組み合わせで思わず・・・。

「ヤス。おじさんが、好きなだけ泊まっていってくれって」

「あんた!リーゼに頼まれたからって」

「あっ!ロブアンさんもアフネスさんも、俺は一泊だけさせてもらえば大丈夫です。その後、神殿に行くことになると思います」

「そうか、そうか、残念だな(ゴミ虫め!さっさと出て行け!)」

 どういう理屈や技術なのかわからないが、ロブアンの心の声はしっかりとヤスにだけ届いている。
 ヤスとロブアンが喧嘩しているように見えないのか、リーゼは終始ご機嫌な表情だ。

「それは残念ね。今日のご飯は食べていくのでしょう?」

 アフネスは素直にヤスに礼をしたいと考えている。リーゼを助けてもらったのは間違いないのだ。リーゼの説明ではよくわからないことが多いので、アフネスとしてはヤスからも事情を聞きたいと考えていたのだ。

「そのつもりです。リーゼさんがおすすめする料理を楽しみにしていましたからね」

「ヤス。気持ち悪い。僕の事は、リーゼでいいよ」

(この子は空気が読めないのか?ロブアンが俺に向ける視線に気が付かないのか?)

 このまま呼び捨てにしたら、ロブアンからの視線で俺は殺されてしまうぞ?
 視線で殺されなかったら、暗い夜道に注意しなければならない位の殺気を受けているぞ?

「ヤス。リーゼも言っているし、他人行儀な呼び方は辞めてもらおう(わかっているよな?リーゼ様が言っているからだからな!)」

「わかった。リーゼ。それで、ギルドへの登録をしたいのだけど、どうしたらいい?」

「なんだ、ヤスはギルドの登録をしていないのか?それなら、俺が連れて行ってやる。リーゼ。アフネス。ヤスを連れて行くぞ!」

「え?」

 ロブアンがヤスの首に手を回して外に連れ出した。

「ヤス!」

「はっはい!」

 ロブアンがヤスの耳元で声をかける。
 威圧しているわけではないが、顔の綺麗な男性に耳元で声をかけられればたいていの人間は同じ反応をしてしまうだろう。その上、相手は”姪”が何よりも大切な男だ。そんな人間に肩を掴まれて、耳元で名前を呼ばれるのだ、身体が硬直しても不思議ではない。

「ヤス。そんなに緊張しなくていい。まずは、リーゼ様を救い出してくれた事を感謝する」

「それは成り行きだ」

「それでもだ。今回は、本当ならアフネスが行く予定だったのだが、リーザ様が自分で行くと言い出して、それで・・・。行ってもらったのだ」

 ロブアンは当時の様子を思い浮かべて苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。

「そうだったのか?」

 ヤスとロブアンは、隣の冒険者ギルドに向かう道で立ち止まって話をしている。
 しかしどう見ても怪しい状態である事は間違いない。美形のエルフが、美形ではないが幼さが残るヤスの肩を(通行人から見て)抱きしめて、顔を寄せ合って話しているのだ、一部の女性にはご飯3杯食べられる状況なのかもしれない。実際に、何人かの女性が二人を見て、顔を赤くして”ぐふっ”と出してはダメな音を出してから足早に走り去っている。

 しかし、二人は周りの喧騒には気がついていない。音や声が聞こえる状況ではないのだ。
 ロブアンは、ヤスから聞かなければならない事があった。ヤスは、ロブアンに殺されないようにするのに必死だったのだ。

「それで、ヤス。リーゼ様はお一人で居たのだな?」

「あぁ間違いない。周りを調べたが、リーザ以外には誰も居なかった」

「本当だな」

「あぁ俺は神を信じないが、俺自信の心に誓って嘘ではない」

 ヤスは、ここまで話してロブアンが悪いやつではない事はわかっている。多少”姪”への愛が重いだけの人間だと認識している。

「わかった。それで、ヤス。頼みがある?」

「なんだ?」

「今から、冒険者ギルドに行くが、最初は様子を見ていて欲しい」

「どういう・・・。わかった、苦情を入れるのだな」

「そうだ、リーゼ様を見捨てて逃げたのは、護衛依頼を受けた奴らだ。そんな奴らを斡旋したのがギルドだ」

 ヤスは、話しの流れからロブアンの怒りが自分に向いていないことを理解していた。

「わかった。黙っていればいいのか?」

「頼む」

 ロブアンは、ヤスの返答を聞いてニヤリとだけ笑った。
 それが二人のやり取りを見ていた、女性陣には何やら二人で合意したのだと取られたようで、出してはダメな音を出していた。鼻血を出す者までいたようだが、ヤスとロブアンは今から行われる事に意識を集中していて気が付かなかった。

 ロブアンが冒険者ギルドだと言った建物の前で二人は内容の確認をした。

 作戦は簡単だ。ヤスが最初に一人でギルドに入って登録を行う。
 これは、ヤスの希望に沿っているので問題はない。登録中に、ロブアンがギルドに殴り込んできて、事情説明を求める。
 ギルド側が少しでもおかしな対応をしたら、ヤスが証人として横から首を突っ込む事にしたようだ。

 ただ、残念な事に、リーザの事が絡んでいるロブアンは興奮していた。
 興奮して冒険者ギルドの前でヤスにだけ話しているつもりで、ギルドの中にまで声が聞こえてきていて、二人が絡んでいたのはバレてしまっていた。