【第二十六章 帰路】第二百六十八話

 

港が騒がしい?

「カズトさん!」

「シロ?」

シロが横を見ている。草原の方向を見ている。
指した方角から、何かがすごい勢いで俺たちにまっすぐに迫ってきている。

「あっ!」

『カズト様!』『カズ兄!』

心強い援軍の到着だ。
これで、港で何があっても大丈夫だ。

「カイ!ウミ!」

「カイ兄様!ウミ姉様!」

カイが俺の足元で止まるが、ウミは勢いのまま、シロに飛びつく。なんとか、踏みとどまったシロだが、ウミが甘えている。

「カイ。もういいのか?」

『大丈夫です。生き残りが森に居ました』

「そうか、それはよかった」

ウミは、何かあったのか、シロに甘えている。辞める様子がない。
カイから、事情を聞いた。

どうやら、エルフたちが居た森とは違う場所に、少数のフォレストキャットが集まっている集落があった。ギリギリな状態だったようだ。カイに持たせていた食料をすべて放出してきたらしい。他にも、捕食側の生物が少しだけだが生き残っていた。

カイがいうには、フォレストキャットを含めて、魔力を吸収できるように進化?した個体が現れて、その者を中心に”種”としての耐性が強くなったようだ。
しかし、進化した者の中には、狂暴化した者が居て、遭遇して襲われたようだ。

「カイ。その進化をした者たちは、どんな様子だった?」

カイから報告があった、進化した魔物たちが、新種との共通点があるように思える。

カイから、進化した魔物たちは、意識が白濁して、食事を必要としなくなる。衝動に突き動かされるようになってしまう物は、排除しなければならない状況になっている。死ぬ寸前で、元に戻る物も現れるようだが、そのまま死んでしまう。

新種だとは思えるが、姿かたちが違いすぎる。
カイの報告通りだとしても、まだ間に何かあるように思えてくる。もしかしたら、吸収している”魔力”で魔物の進化が違うのかもしれない。フォレストキャットの集落では、進化をした者でも意識があり、異常性は認められなかったらしい。

「カズトさん」

ウミを抱きかかえながら、シロが近づいてきた。ウミもおとなしく抱きかかえられている。

「聞こえたのか?」

カイは、”念話”を使っていた。ウミは、シロにだけ繋げるようにしていたようだが、カイは俺とシロの両方に繋げていたのだろう。

「はい」

すまなそうな表情をしているが、シロに聞かれて困るような話ではない。

「そうか・・・。新種だよな?」

進化した魔物と、新種の間に関係があるように思える。
実際に、どの程度の関係なのか・・・。

「カズトさん。ウミ姉さんから聞いた話では、新種だとは思いますが、違和感があります」

違和感は、俺も感じている。ウミとカイで感じたことが違うのかもしれない。
カイとウミは、”新種”だとは感じていない。”魔物が進化”したと言っている。俺たちが、思っている進化とカイとウミが感じている進化では違いが存在しているのか?

「違和感?」

「はい。うまく言えないのですが・・・」

シロは説明をする時に、自分で整理をし始めるが、全部のピースがないのだろう。
実際に、俺も、カイから聞いた話と、実際に戦った時の新種との違いがありすぎて、困惑している。

「そうか、俺は、”魔物の進化が発生した”と、思っている」

「あっそうです!それです!」

シロは、進化に違和感を覚えているのか?

「ん?どういうことだ?」

「カズトさん。新種は、進化した魔物だと・・・」

「そう考えている」

新種は、魔物から進化したと考えるのが妥当だろう。いきなり、新種が現れたと考えるのには無理がある。

「ぼくは、なんとなくですけど、新種は、進化に失敗した魔物や動物ではないかと・・・」

進化に失敗?
強くなっているから、進化だと考えていたのだが・・・。

「え?」

「魔物が進化をしたのは、カイ兄さんや、ウミ姉さんが確認しているから間違いはないですよね」

「そうだな」

「新種は、進化の”なりそこない”ではないのでしょうか?」

「ん?」

「新種は、”種”として成立しているのでしょうか?なにか、”いびつ”ではないでしょうか?」

シロが言いたいことはわかった。
確かに、俺たちが認識している新種は、”種”ではない。魔物なのか、動物なのか、たしかに、”種”として成立しなくなってしまっている。状況から考えると、進化ではない。進化は、”種”として機能が残されていなければ・・・。

「カイたちが対峙した魔物たちが正当は進化だと?」

「わかりません。ただ、新種と進化は”別”だと思うほうが、違和感が少ないのです」

もう一度、情報を整理しよう。
カイは、フォレストキャットをはじめとする、エルフ大陸に存在していた魔物の生き残りと遭遇した。生き残りは、進化をしている者も存在していて、かろうじて生き残っていた感じだ。これは、カイが感じた事で、実際には解らないが、あの森の様子では、捕食側の魔物が生き残っているのは奇跡に近い。なので、”進化”したと考えるのが妥当だ。
しかし、進化を行った者には、狂暴性が増してしまった魔物が存在していた。カイとウミは、狂暴化した魔物を倒した。

この”狂暴化”を、俺は新種と結びつけた。

確かに、進化ではあるが、生き物としては”正常”だとは言いにくい。カイの話では、狂暴化した魔物は、同種を襲い始めるようだ。

たしかに、”狂暴化”は”種”として成立しなくなっている。

新種とは、明らかに姿が違いすぎている。

”狂暴化”の先に、新種が居るのだろうか?
そう考えれば、シロが言っている、”なりそこない”は妥当に思えてくる。

「うーん。シロ。今は、情報が少なすぎる。帰ってから、各地の情報を仕入れてから考えよう」

「はい」

棚上げだ。
新種が、進化の過程で産まれたのが解ったとしても、対処が変わるわけではない。

”なりそこない”
シロが使った言葉だけど、新種の状態を適格に表しているように思える。

『カズト様』

「どうした?」

カイが、離れている間に発生した事象を知りたいらしい。
簡単に、エルフ族の処遇やら森の再生の話をした。

今後の対応も、カイに説明をした。

『ありがとうございます』

港で、チアル大陸に向かう船を探すか、エリンを呼び出して、帰ることも伝えた。

『船を探しましょう』

「どうしてだ?」

俺としては、早く帰る方がいいと思っている。
エルフ大陸への対応が早く始められる。

『エリンでもいいとは思いますが、ステファナやモデストが偶然乗り合わせる状況を作るには、船を探した方が良いかと思います』

そうだな。
エリンを呼び出すと、俺とシロとカイとウミしか載せられない。

『それに、カズト様なら、船からでも、ルートガーに指示が出せます』

”できる”・”できない”で言えば、できる。詳細な指示は難しいが、攻撃に必要な準備は始められる。

「わかった。そうしよう。シロも、それでいいよな?」

「はい。どうします?港の様子が、慌ただしいように感じます」

シロの指摘はもっともだ。
俺たちを狙っている・・・。と、いうわけではない。俺たちが近づく前から、騒動が発生している。

逃げ出そうとしている者が居ない事から、火事や魔物の襲撃は考えにくい。

「カイ。ウミ。港の様子を見てきてくれるか?」

『はい』『わかった』

シロは、ウミを地面に降ろした。

カイとウミは、そのまま港に、向かって走り出す。徐々に速度が上がっているのがわかる。

「カズトさん」

「港が単純に、”祭”とかならいいのだけど、何かに襲われていたりしたら、俺たちだけで対処が可能なのか、判断が難しい」

「はい」

「カイとウミなら、港が襲われていたとしても、逃げ出すくらいはできるだろう」

「そうですね。カイ兄さんとウミ姉さんなら、大丈夫だとは思いますが・・・」

「心配だけど、俺たちが行くよりはいいだろう。俺たちが一緒に行って、対処が不可能な状況になったら、カイとウミは、自分たちを犠牲にしてでも、俺たちを逃がそうとするだろう。それなら、最初から、カイとウミに頼んだ方がいい」

シロも理屈では解っているのだろう。
俺のセリフに頷いている。でも、心配なのは変わらない。カイとウミが走り去った方角を見つめている。

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