【第二十三章 旅行】第二百三十四話
蟲たちの駆除は、想像以上の結果だった。
ミュルダ老の考えたとおり、いやそれ以上の成果が出た。調べているがまだ全員ではないがかなりの人数を捕縛する事ができた。捕縛した奴らも捕らえていた奴らと同じ道を歩むことになる。
ルートがモデストたちを使って広めた噂話に綺麗に喰い付いたのだ。
噂の浸透が進むにつれて、新しくギルドに加盟してペネムダンジョンに入る物が増えていった。新規加入者は、ルートの手配した諜報部員がマークしていた。
奴らは初めてダンジョンに入ったのにも関わらず、商店で働いている者や冒険者に公開処刑が行われる場所を聞いて回っている。”犯罪者”がどこに捕らえられているのかを聞いて回っているのだ。日数もなかったので、焦ったのだろう。
新しく作ったダンジョンを立ち入り禁止にして、囚人がダンジョンを調べるのに使われているという噂を流した。
マークしている連中から、芋づる式にかなりの人数を捕らえる事ができた。ルートと元老院に全部を任せる事にした。
ルートからの報告でも、当日に何かを仕掛けるつもりである可能性が指摘されていた。
実際には当日になれば、また蟲が湧いて出てくる可能性もあるのだが、釣れた蟲は全て排除した。
シロの安全を第一に考えているが、まだ安心できる状況ではない。俺を直接狙ってくれるのならいいが、シロやシロの周りを狙われるのは気分が悪い。
蟲の駆除を行っている最中に、明日にも、シロが帰ってくると先触れが来た。ルートと元老院にも同様の連絡が入ったようだ。
ルートは、先触れの情報を俺に伝えるために戻ってきた。
「ルート!」
「はい。はい。それでどうしましょうか?」
「もう、蟲は居ないのだな」
「どうでしょう?奴らは、1匹見つけたら、100匹は居ると思えと言われます」
それはGに代表される虫だと言おうかと思ったが、止めて、ルートに質問をした。
「それで?」
「まだ居るとは思いますが、武装している連中は、減らせたと思います」
「ようするに、内部に潜り込んだ連中はまだ居るのだな」
「はい」
ん?ルートに余裕が感じられる。
「泳がせているのか?」
諜報部隊がマークしている連中がまだ居るのだな。駆除を仕切らないで、囮に使っているのだろう。
「はい。連絡をしてくれるのを待っています」
「わかった。見つけ次第、始末しろ」
「かしこまりました」
「シロを狙った者は許すな。殺せ・・・。いや、殺すな。死なないように、苦しみを与えろ」
「はっ」
ルートに指示を出す。
俺の所に来た先触れを含めて、休める場所に案内させた。
「ツクモ様」
ルートと入れ替わるようにミュルダ老が部屋に入ってきた。
「どうした?」
「元老院に、シロ様がご帰還すると連絡が入りました」
「そうか、ありがとう」
「ツクモ様。ご不快かもしれませんが、シロ様を元老院でお預かりしたいと思います。ご許可をいただけますか?」
「理由は?」
「はい。まずは、シロ様の従者であるフラビアとリカルダは、シロ様のご親族として扱います」
「ん?」
「親族だと思われる者が、従者としてシロ様と一緒に御入来するのは・・・」
「そうか?」
「はい。調整はしておりますが、ツクモ様とシロ様のご列席の数が不均等になってしまい。シロ様が侮られてしまいます」
「そういう懸念もあるのだな」
「はい。シロ様だけではなく、ツクモ様を侮り始める可能性を、元老院では懸念しております」
シロの出自を知らなければ、侮っても不思議ではない。また、余計なことを言い出す者が出ないようにしなければならない。
「わかった。フラビアとリカルダも、元老院に向かわせた方がいいか?」
「お願いします」
「そうなると、シロだけではなく、フラビアやリカルダの従者も必要だよな?」
「はい。それは、元老院で調整します」
「わかった。ミュルダ老に任せる。ただ、シロが説明を聞いても、拒否したら諦めろよ」
「はい。承知いたしました」
ミュルダ老が、列席予定のリストを最新版にビルドアップした物を持ってきていた。
やはり、シロの列席者が少ない。前からわかっていたことだが、俺の関係者で聞き分けが良さそうな者を回しても駄目だろ。すでに面識を持っている者が多い。4-5倍の差があるから、調整が難航してしまっているのだろう。
「ツクモ様」
「おっ。そうだな。調整は難しいよな?」
「はい。なんとか・・・。人数差が、倍程度なら・・・」
「俺の方を減らすのは無理だよな?」
「暴動をおこしたいのなら反対はしません」
「だよな・・・。3回に分けるか?」
「え?」
「シロ側の列席者には悪いけど、毎日、朝に式を行うようにスケジュールを変更して、列席者の調整を行えば、なんとかならないか?」
「順番で多少は揉めるとは思いますが、削るよりは良さそうです」
「順番も、中央から遠い順にしてくれ」
「え?近い順なのでは?」
「遠い方を優先していると思わせたい。それに、近い者たちなら多少のスケジュール変更にも対応は可能だろう?」
「わかりました。元老院で調整を行います。しかし・・・。よろしいのですか?」
「ん?」
「3回も式を行うのは、ご負担になると思います」
「それは、流れを調整してもらうしかないな。頼めるか?」
「かしこまりました。元々の考えていた式を3分割して、朝に割り込ませます」
「わかった。シロの列席者にも伝達してくれ、”予定が変わってしまって申しわけない”と謝っておいてくれ」
「かしこまりました」
ミュルダ老が、資料をまとめて出ていく、調整が無事に終わればいいが、終わらなければ、強権を発動するしかないだろうな。
うまくやってくれることを祈っておこう。
眷属たちへの説明は必要ないだろう。
そう言えば、俺とシロの結婚式に併せて、結婚を決めたカップルが居ると言っていたが行政区は大丈夫なのか?
ルートが行政区に入り込んだ蟲を排除してしまったら・・・。作業が追いつかなくなるのでは?行政区として作業量を維持できるのか?
部屋を出て、行政区に向かおうかと思ったが、止めた。俺が行っても何もならないし、混乱させるだけの可能性が高い。
扉がノックされた。
「カズト様。今、お時間はよろしいですか?」
「クリスか?」
「はい。ルートから、カズト様に書類を渡すように頼まれました」
「ん?珍しいな。ルートが自分で来なかったのか?」
扉を開けて、クリスとクリスの従者が入ってきた。
「はい。ルートは、蟲を捨てに行くと言っていました」
書類を俺に渡しながら、クリスが説明をする。
「あぁ別に、怒っていないし、クリスが来てくれて嬉しいぞ」
「本当ですか?それは良かったです。書類に目を通して下さい」
クリスの態度が以前とは違ってきている。
ルートを支えることを中心に考え始めている。なので、俺とも必要以上に話をしなくなっている。誰かの入れ知恵の可能性もあるが、クリスも自分の目指すべき道が見つかったのは嬉しく思える。
書類は、蟲のことではなく、今、俺がルートに確認したかった内容が書かれている。
俺とシロの結婚式に併せて、婚姻を結ぶカップルの一覧だ。俺が承認する必要があると書かれている。
一言・・・。多いな。ざぁっと見て、6-70組は居るぞ?
「クリス。承認は、俺がしないと駄目なのか?教会とかではなく?」
「はい。以前は、教会で行っていましたが・・・。この大陸では、カズト様の承認が必要です」
「わかった。わかった。それで、承認はどうしたらいい?」
「教会でしたら、宣言をして認められるのなら、証を貰います」
「うーん。面倒だな。そうだ!」
俺は、とある島国の結婚制度を思い出した。
アレンジは必要だけど、ようするに、結婚するのに問題がないという根拠が示されればいいのだ。
「クリス。結婚だけど、行政区に届け出を出す形にしよう」
「え?」
「その届け出には、4名以上の見届け人から署名を貰うようにしよう。そして、後日、行政区から婚姻の証を渡すようにしよう」
「はぁ」
「4名の中で、最低一人はこの大陸に住居を持つ者で、親や兄妹は署名してはならない」
「カズト様。それでは、従業員や部下に署名させる者が出てくるのでは?」
「別にそれでいいと思うぞ?」
「え?」
「従業員でも、名義貸しでも、4名以上を集めてくるのが大事だからな」
「・・・」
「見届け人になるメリットは行政区からは提供しない。結婚したい人が、見届け人を探して届けるしか無い。ここまでは解るよな?」
「はい」
「例えば、クリスがルートと結婚する時に、見届け人をお願いするとしたら誰だ?身内は駄目だぞ。従者や眷属は、身内だからな」
「え?あっ・・・。4人は・・・、難しいですね。お願いしなければならない。それに、カズト様が始められたとなると、見届け人に確認するかもしれないのですよね?」
「あぁそうだな。今までは、俺が承認する必要があると、皆が考えているよな?」
「はい」
「届け出で、認められるとは思わないよな?それに、見届け人が必要に鳴っているとしたら、俺か行政区から見届け人に確認が行くと思うよな」
「・・・。わかりました。制度としては、問題は無いでしょう。行政区で考えてもらいます」
「頼む」
クリスが部屋から出ていった。
窓から外を見る。森の木々が見えるだけだ・・・。
結婚式の告知はすでにされている。問題は無い。
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