【第九章 ユーラット】第二十二話 侵攻(1)

 

エルフの里に、救援に向かう部隊の編成を行った。

エルフの里への救援の目的は持っているが、神殿やユーラットからエルフの里に避難させる意味合いもある。
ヤスは、リーゼを救援部隊のトップにしようと考えていたが、リーゼが神殿に残ると固辞した。
リーダは、アフネスにも拒否された。同じように、ドーリスやサンドラやアーデルベルトにも拒否されてしまった。

カイルやイチカでは、救援部隊のトップには経験が足りていないとなり、ギルドに依頼を出すことで落ち着いた。子供たちを避難させることが目的なのだが、”密約”に関係していることもあり、神殿からのメッセンジャーの役割を持たせる人物が必要になる。

メッセンジャーにはディアスが適任と判断された。ディアスが向かう事から、カスパルも一緒に向かうことになる。

「カスパル。頼む」

「任せてくれ」

「道中は、ルーサも居るから大丈夫だろう。カスパルも今回は違うアーティファクトだが、大丈夫だよな?」

「大丈夫だ」

ヤスは、カスパルに電子キーを渡す。

「ディアス。こんなことを頼んで悪いな」

「ヤス様。私は、神殿に来て、よかったと思っています」

「ん?」

「神殿の為にも、”アラニス”の呪縛を払う為にも、こんなに嬉しいことはありません」

「そうか・・・。無理はしなくていい。カスパルも、ディアスも、神殿の住民だ。無事に帰ってこい。帝国との話も、ダメになっても構わない。お前たちの命の方が大事だ。解ったな」

「はい。心に刻みます」

ヤスは、ディアスの真摯な視線を受けて、照れながら頭を掻いている。

「ヤス様。行ってきます」

「わかった。カイル!イチカ!」

ヤスは、一人一人名前を呼んで、無事を祈った。

いつの間にか、ヤスの後ろには、神殿に残る者たちが並んでいた。

お互いの無事を祈りつつ、挨拶を行っている。

「大将。積み込みは終わったぞ」

ルーサが荷物の積み込みを行っていた。
手伝いに駆り出されたのは、ローンロットに居るエアハルトだ。ヤスを除くと、フォークリフトが運転できるのが、エアハルトだけなので、ルーサが無理を言って、連れ出してきた。

「ルーサ。道中は、安全を第一に考えてくれ」

「任せてくれ」

ルーサがバスに乗り込む。
子供たちを乗せている。何人かは、モンキーでの移動になる。

「戦力は十分だと思う。カスパル。ディアナ。あとは、向こうで指示に従ってくれ」

「はい」「任せてくれ!」

カスパルとディアナが、最後列を走る。
イワンが作った武器を大量に積んでいる。本来なら、出すつもりはなかったが、ヤスは秘密兵器も積み込んでいる。剣と魔法の世界に持ち込んでいいのか迷っていたが、皆の安全の方が上だ。マルスからの進言を受けて、制作に踏み切った。
この戦いに間に合ってよかった。
そして、セーフティーも何重にも行っている。
登録者以外が使おうとしたら、暴発するように作られている。イワンは、”自爆装置”と言えるような機構には、反対したのだが、ヤスが強硬に組み込んだ。
今回の戦いで、使う場面が無ければいいとは思っている。

”銃”
機構は単純だ。スキルと融合しているのが、地球で使っている物と違っている。

”銃”の形をしているが、”魔砲”に近い。銃弾を先に作っておくことで、銃と同じように使う事ができる。詠唱時間がなくなる上に連発が可能で、銃弾の数だけスキルを使うことができる。
火薬を使った機構も備えている。銃弾によって切り替わるようになっている。
イワンとヤスのロマン武器になっている。
ドワーフたちが、ヤスから提供される酒精を餌に大量生産した物だ。

今回は、正門から出ていく、とある騎士に神殿の陣容を見せつけるためだ。
バスが3台。大型のトラックが2台。モンキーが10台。
かなりの人数が移動を行う事で、帝国の動きを神殿が把握していると知らせる意味がある。”神殿側が知っている”情報が帝国には伝わらなければ、帝国が勝っても負けても、最初に情報を流した者がどう思われるのか?そして、どちらかの勢力だけ被害が少なかったら?政争の種を植え付ける意味がある。
ユーラットからもバスに乗って、避難を行う人が居る。
アフネスとロブアンもリーゼが避難するように言ったのだが、固辞されてしまった。冒険者ギルドが開店休業になってしまうので、殆どがバスに乗って避難を行う。領都や王都に避難をする者も乗せている。

『大将。騎士様が慌てているぞ?』

「見えるのか?」

『あぁ馬車の所で、険しい顔をして見ていたが、カスパルが通り過ぎた辺りで、何かに気が付いたのだろう。慌てて、馬車に入っていったぞ』

「わかった。マルス」

『はい。プロトコルは、判明しています。遮断しました』

「助かる。ルーサ。これで、大丈夫だ。お前は、早めに帰ってきてくれ」

『わかった』

ヤスとルーサの無線が切れた。

『ヤス様!』

「ヴェストか?」

『行商人から、5日くらいの距離に来ている様だ』

「わかった。想定通りか?」

『あぁ二正面作戦だ。なんでも、第一皇子と第二皇子で分かれて侵攻するようだ』

「そっちは、第一皇子の派閥か?」

『まだ解らない。皇国の奴らが多いような話だ。偉そうな奴らも居るようだ』

「そうか、想定通りだ」

『どうする?』

「当初の予定通りに頼む。そうだ。偉そうに命令を出そう」

『ヤス様?』

「ヴェスト。誰も死ぬな。死ぬことは許可しない。死ぬくらいなら、俺が殺してやる。死んでも、生き返らせて、扱き使うからな。嫌なら死ぬな」

『ははは。今までで一番理不尽な命令だ。解った。皆に伝える。生き残ったら、ご褒美が欲しい』

「ウィスキーとブランデーを用意してやる。最低でも、一人一本だ。あと、甘味が良ければ、好きなだけ甘味を用意してやる」

『お!おぉぉ!約束ですよ!』

「大丈夫だ。だから、死ぬな!」

『拝命致します』

ヤスの会話と表情を見て、周りの者たちの表情も変わる。

「ヤス」

「大丈夫だ」

ヤスは、近づいてきたリーゼの頭に手を置いた。
リーゼは照れながらもヤスの服の裾を摘まむ。

「ヤス様。帝国が動いたのですか?」

「動いた。第一皇子と第二皇子だ。事前情報の通り、第一皇子軍は、皇国を主戦力にして、楔の村ウェッジヴァイクに向っている。予想では5日。第二皇子は、ユーラットを襲うために、海上に出るのだろう。潮目次第だが、こちらも同じくらいだろう」

オリビアが神妙な表情で、ヤスの話を聞いている。

「オリビア。大丈夫だとは言わないが、一般兵や農民兵には犠牲はなるべく出さないようにする。指揮官は諦めてくれ」

「はい。解っています。ヤス様。ありがとうございます」

オリビアは、ヤスに向って頭を下げる。頭を上げてアイシャと話をしてから、自分に割り当てられている部屋に戻った。建前として、オリビアは帝国との戦争が始まったら、家に軟禁することになっている。護衛として、ルルカが付き従う。メルリダとルカリダも、一緒だ。アイシャは、別に役目があるために、ギルドの奥にある作戦室で待機することになる。メルリダとルカリダのどちらかが、連絡要員として作戦室に常駐することになっている。

「アデー。サンドラ」

二人は、リーゼを見て羨ましいと思っている気持ちを押し込めて、ヤスの呼びかけに答える。

「はい」「辺境伯に連絡をします」

サンドラが、父親の事を辺境伯と呼んだのは、スルーして、王国に帝国が戦争の準備をしていると伝えてある。
侵攻を開始したことを伝えておかなければならない。

物流の役割を、ルーサとエアハルトが担っていることから、王国の物流が滞ってしまうことが懸念されていた。

ヤスとしては、物流を止めるのは血液が回らなくなると同じ意味なので、避けたかった。
アーデルベルトとサンドラは、揃って帝国の撃退を優先して欲しいとヤスを説得した。

ヤスは、二人の意見ではなく、辺境伯や国王に意見を聞いてほしかった。揃って、大丈夫だと言っていたので、マリーカを通して辺境伯に連絡を取った。サンドラの言っている通りに、帝国の撃退を優先して欲しいと言われて、従うことにした。

侵攻が開始されたことを、王国に伝えて、ギルドに伝える。

ヤスは、リーゼと一緒に作戦室に移動する。帝国軍の位置が解るまでは、作戦室で待機することに決まっている。

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