【第四章 拠点】第十話 神殿へ

 

 ヤスが、ダーホスからの依頼を承諾して、荷物を積み込んだ。
 依頼なので、一旦ギルドに戻って手続きを行う必要がある。

 ヤスとダーホスは、二人でギルドに移動して手続きを行なってから、神殿に向かう事になった。

「ヤス!」

 裏門から出て、アーティファクトHONDA FITの側に居るはずがなかった、リーゼが居てヤスの方に駆け寄ってきた。

 ヤスは驚きながらも、リーゼの突進を停めた。
 抱きつかれるのは嬉しいが、アフネスも居るロブアンに知られたら殺されるかもしれない。

「え?なんで?」

 ヤスは、疑問を投げかける目線でアフネスを見る。アーティファクトHONDA FITの見張りをしていたはずのアフネスがヤスを見て手招きした。
 なにか言っているリーゼを無視して、アフネスのところまで移動した。

「どうして、リーゼが?」

「すまない。うちの馬鹿が・・・」

 アフネスが馬鹿と言った時点で、ロブアンがリーゼにアフネスの予定を話してしまったと理解した。

「ロブアンがどうした?」

「ヤスが来ていると、リーゼに言ってしまった」

「それは別にいいけど、なんでリーゼがここに居る?」

「私とダーホスが神殿に行くなら自分も行くと言って聞かない、危険だからと言っても護衛を帰らせた手前・・・」

「あぁわかった。一人増えても大丈夫だ。どうせ、リーゼを置いていっても、一人で来てしまうのだろう?」

「本当にすまない。危険があるなら帰すが?」

「危険は・・・。ない・・・。と、思う。神殿までの道は、アーティファクトで移動する。神殿の中も、最奥部の手前までは移動できるからな」

「そうなのか?!」「ヤス殿。中は、そんなに広いのですか?」

 二人が一斉に質問してきた。

「ダーホスも、アフネスも、神殿に行けばわかるだろう?」

「そうだよ。早く行こうよ!」

 リーゼは、絶対についていくつもりで居る。ダーホスは、情報は少ない人間で把握したいと考えているのでリーゼは来ないでほしかった。
 現状を考えれば、リーゼを置いていくのは無理に近い。
 アフネスがダーホスを説得したのだ。神殿に行く事とは別に、前回のアフネスが出した依頼の不始末をどうするのかを話し合った結果、アフネスは1つの条件を出した。”リーゼに任せた仕事の護衛をヤスにする事”だ。アフネスは、神殿のことを含めてギルドが独占しないようにリーゼを楔に使う事にしたのだ。ダーホスとしても打算はある。ヤスのアーティファクトを使えば、リーゼの護衛だけではなく遅れを取り戻せると考えているのだ。数日遅れ程度なら、もともとの契約範疇とする事ができる。

「わかった。問題ない。アフネス。ダーホス。問題ないよな?」

 神殿の(仮)持ち主のヤスが言っているのだ。問題にならない。

 ヤスは、運転席に乗り込むが、誰も乗り込んでこない。

「ん?」

「ヤス。どうやって乗るの?あの大きな馬車じゃないの?」

「おっと・・・。すまん」

 ヤスは、リーゼにドアの開け方を教える。リーゼは、助手席に座る。
 アフネスとダーホスは後部座席に座る。

 結界を発動するから安全だとは思っているが、皆にシートベルトをしてもらう事にした。
 口での説明ではうまくできないようで、ダーホス以外の女性の二人にヤスは自ら身を乗り出してシートベルトをしていった。
 下心がまったくなかったわけではない。いやそれどころか、リーゼのまだ青臭いメスの匂いと、アフネスの熟成したメスの匂いを堪能していた。

「よし、シートベルトはできたな」

「ヤス。これ・・・。胸が少し苦しいよ?」

 リーゼが少しだけ、本当に少しだけ見栄で胸を強調した。

「だめだ。安全の為にしておけ、それに、苦しくなるような物は持っていないだろう?」

 ヤスが何気なく言ったセクハラなセリフの意味は、リーゼには通用しなかったがアフネスとダーホスはすぐにわかったようで苦笑していた。

 ヤスはバックミラーで後部座席に座る二人を確認して、横を見て隣に座っているリーゼを確認した。

「窓を開けたかったら・・・。そうそう、そのスイッチを押せば開くからな。結界を張って走るから大丈夫だとは思うけどな」

「けっ・・・。結界?」

「あぁなにかダメなのか?」

「ダーホス。これは、アーティファクトだぞ?」

「そうだった。すまない。それで、ヤス殿。どのくらいで到着できる?」

「うーん。ゆっくり走るからな。2時間もあれば付くと思うぞ?」

「え?2時間?そんなに早く神殿に到着するのですか?」

「あぁ違う!違う!」

「そうですよね。びっくりしましたよ」

「到着するのは、最下層だ。神殿だけなら、30分あれば余裕だな」

「え?」「本当!?」「・・・・」

 ダーホスが驚き、リーゼが喜び、アフネスはなにかを考えている。

「ねぇヤス」

「ん?なんだ?まぁいいか、走りながら聞くよ」

「そうね」「わかった」「うん!」

 ヤスは、アクセルを踏み込む。
 少しだけタイヤを空転させたが問題なくスタートする。ゆっくり行くと言ったが、ヤスの感覚でのゆっくりだ。

 山道の上り。それも対向車はなし。崖もないから落ちる心配もない。そして結界を発動しているので、ゲーム感覚で岩壁や木々に当たっても問題ない。

 速度は、徐々に上がっていってアベレージで50キロ近い速度が出ている。

「それで、アフネスなにかあるのか?」

 運転しながらでも問題はない。
 スマートグラスをかけて道がわかっている事もだが、スマートグラスから聞こえてくる音声での指示がコドラの役目を果たしている。ヤスは、右耳にイヤホンを入れてコドラの指示を受けている。左耳だけだが、会話には困らない。

「ヤス。アーティファクトが増えるのかい?」

「あぁ増えた。どういう条件なのかわからないが増える事がわかった」

「そう・・・」

 それっきり、アフネスは黙ってしまった。
 ダーホスは、さっきから”ひっ”や”はぅぅ”などと情けない声を出している。

 この状況を一番楽しんでいるのは、間違いなくヤスの隣で”キャァキャァ”騒いでいるリーゼだ。
 怖がっているのではなく、確実に楽しんでいるのだ。カーブを曲がるたびに、路面がすべて流れるがそれを楽しそうに見ている。

「ねぇねぇヤス。僕にも動かせる?」

「無理だ・・・と、思う」

 ヤスは、リーゼに無理と言ったのだが、言った後で1つの可能性があることを思い出した。
 極小の可能性だが、絶対に無理ではない事には違いない。

 アフネスはすっかり黙ってしまっている。ダーホスは、速度に慣れていない上に横に揺らされるのが怖いのだろう。シートベルトに捕まっているだけだ。ただ一人、楽しんでいるリーゼだったがヤスの運転が激しくなるにつれて話しかけるのはダメだと思って黙って前を見ている。

 予定よりもだいぶ早い15分で到着した。

 アーティファクトHONDA FITが速度を緩めた事で、ダーホスが復帰してきた。
 でも、最初に口を開いたのはリーゼだ。

「ヤス!ここが神殿!」

「リーゼは初めてなのか?」

 リーゼは、神殿を指差して聞いてきた。

「うん。うん!すごい!広い!奥に建物がある!あそこに行くの!」

「そうだ」

「ヤス殿?え?もう?」

「あぁまだ神殿の前だけどな。広場に着いたぞ?」

「ほ、本当です。こんなに・・・。どのくらいですか?」

「ダーホス。ヤスのアーティファクトに乗ってから、15分ね。私も今驚いている。ねぇヤス。アーティファクトはどこでも走れるの?」

「今と同じ位の速度が出すためには、道が整備されていないとダメだな。街道ではもう少し落とさないと無理だな」

「そう・・・。難しいのね」

 神殿の前まで辿り着いている。ヤスが、エミリアを取り出して、駐車スペースに入る為のシャッターを開ける。

「え?」「な?」「ほぉ・・・」

 ヤスは3人の反応を無視して駐車スペースに降りていく、そのまま工房を通って地下3階に降りる。
 見るものすべてにリーゼが興奮していて、ヤスはその都度簡単に説明をしている。

 アフネスが何やら微笑を浮かべているのが気になったが、突っ込んではダメだとヤスはスルーする事にした。

 地下3階になると道幅が多少狭くなるが、スマートグラスに道が示されるので迷うこと無く進む事ができている。