【第二章 スライム街へ】第八話 だらける
人の姿にも慣れてきた、元人間です。
女子高校生らしく、制服を着てみましたが、元々自分が着ていただけに似合っています。良かったです。パロットも似合っていると言ってくれている。ライに至っては、自分も人の形状になって制服を着たがったが、男性タイプにしかなれなくて、我慢してもらった。さすがに、自分の制服を男性顔のライが着るのには抵抗があった。
スキルを調整すれば、複数の女性タイプに慣れるのかと思ったけど、ライからの説明で、どうやら素体となった数が影響しているようで、人は女性タイプが一人と男性タイプが一人のようだ。女性タイプは、私が利用しているので、男性タイプにしかなれないようだ。
なにか調整を間違えたかもしれない。ライに聞いても、”出来ない”と返されるだけだし、気にしてもしょうがない。ライに”出来ない”のなら、私にも無理だ。ライと私は同じだ。
それに、私が私の姿で、複数人で存在しても、私が混乱するだけで意味はあまりなさそうだ。
『ご主人さま』
”ライ?どうしたの?”
ライとは明確な意思の疎通が出来るようになった。
良かったのは、あれから”人”を殺していない。”人”が誰なのかわからない。ライに合流したときには、”心”が死んでいた。もしかしたら、もともと心が死んでいた人なのかもしれない。でも、アイツは”人”を殺した。自分の意思でスキルを発動して、”人”を私と同じようにスライムにした。そして、殺した。
ライとしっかりと会話が出来るようになったのは、”人”が合流したからだろう。
『キングとクイーンが、帰ってきました』
”どこまで行ったの?”
『大きな川・・・。多分、富士川だと思いますが、川を上流に向って調査してきたようです』
”だいぶ、遠くまで行ったのだね。キングもクイーンもお疲れ様”
窓に居た二人が羽を広げて喜んでいる。
ライは、”人”が合流してから、知識量が増えた。元の人が、どんな人なのかわからないけど、丁寧な話し方をする人だったかもしれない。他の家族からの聞き取りは、ライがしてくれる。
家族たちは、生存権を確保するかのように、周りの山々を見回っている。裏山と裏山近くの山に結界を付与した魔石を配置した。他の山までの結界は準備が出来なかった。それに、あまり結界を配置するのも良くない効果がある可能性に思い至った。結界の中に居る動物たちは、全てが魔物になるわけではなかったが、生態系が狂っているのは私にも理解できる。
現状では、魔石は家の中や庭や裏庭や裏山に設置している。
水が湧き出るようにしたり、微風が吹いたり、土に栄養を与えるようにしたり、いろいろ工夫をした魔石を配置している。もともと、裏山は人が入りにくかった場所だったのだけど、今では人が入るのも難しい状況になっている。結界が原因なのか、私たち家族と、私が認めた者しか入られない。危険が減ったと思って喜んでいるが、生態系がめちゃくちゃなのが判明して、昆虫や小鳥や小動物は入っても大丈夫なようにした。今は、人と魔物を弾くようにしている。これが正解かわからないので、キング&クーンとテネシー&クーラーとピコン&グレナデンに、周りの探索を強化している。
キング&クイーンが東側を、テネシー&クーラーが北側を、ピコン&グレナデンが西側を担当している。
『ご主人さま』
”なに?”
『キング&クイーンが、川を越えていいのか許可を求めています』
”どうして?川の向こう側からこっちに来る可能性は低いのだよね?”
ライが、家族に確認したことだが、富士川や安倍川や興津川に囲まれたこの場所は、動物が安全に過ごせる場所だと認識されていた。川で囲まれているために、動物の移動が阻害されてしまっている。橋があるが、交通量も多くて安全に渡れる場所ではない。
魔物が同じかわからないが、川を渡ってくる可能性は低いと結論を出している。
『川の向こう側に、魔物の集団が居る気配があるそうです』
”集団?あれ?でも、魔物って集団にはならないよね?”
魔物の情報は、主にネットからだけど、集団になる前に、魔物同士で殺し合いが発生する。実際に、私が見つけて倒したゴブリンも単独だ。裏山や近隣の山でも、魔物は単独で行動していた。
『はい。ご主人さまから聞いていたので、なにかの間違いだとは思うけど、確認をしておきたいと言っています』
”うーん。本当に、魔物の集団が居た時には、戦わないで帰ってくるって約束できる?”
私の思っていることは、皆に伝わる。
キング&クイーンも、帰ってくると約束してくれた。
”わかった。それなら、ライの分体を連れて行って欲しい。私も確認をしたい”
これで、キング&クイーンも無理は絶対にしない。
話を聞いていた、カーディナルとアドニスが近くにやってきて、カーディナルが付いていくことになった。
私も、ライと同期する。実験を繰り返していると、意識を移すというよりも、同期が正しいように思えた。
カーディナルが乗せてくれるようだ。家から飛びだった。キング&クイーンが先導してくれる。その後を、カーディナルが続く。
10分もしたら、富士川が見えてきた。目的地は、キング&クイーンしか知らない。楽市楽座よりも上だ。新東名も越えた。このままだと富士山の方向に進むことになる。それに、山梨の県境を越えてしまう。
カーディナルが、旋回しはじめた。
”ここ?”
下には、湖なのか?池なのか?流れが緩やかな川なのか?よくわからない場所だ。
キャンプ場のような場所に、確かに魔物が居る。ゴブリンだけではなく、岩で倒したオークも居る。それだけじゃなくて、なんか色が違うゴブリンやオークも居る。ざっと見て、100体ほどの集団になっている。
周りを、警察や消防や自衛隊?が囲んでいる。
これなら、私たちが対応する必要はなさそうだ。
キング&クイーンは、もっと山の中に用事があるようだ。
カーディナルも旋回を止めて、富士山の方角に向かう。
すぐの場所に小屋があり、その小屋には5匹の魔物が居る。
オーガ?と呼ばれる魔物だ。一際大きな個体が存在している。小屋の屋根を越えそうな感じなので、3メートル近い可能性がある。
”カーディナル。奴に勝てる?”
カーディナルは悔しそうに鳴いてから、良くて引き分けだと伝えてきた。
そうなると、2-3人で同時に攻撃しても勝つことは出来るけど、今までみたいに完勝するのは無理だと考えるのがいいだろう。
最初に見た時には、私たちが対応しなくても、警察や自衛隊が居るからなんとかなると思っていた。
中心のオーガや周りに居る魔物たちの足元や手に持っている物を見るまでは・・・。
ダメだ。アイツらは、人の味を覚えてしまった獣と同じだ。駆除しなければならない。
”カーディナル。キングとクイーンも聞いて・・・”
了承の意思を伝えてくれる。
”私が、私たちがやるべき事・・・。じゃない。のは、解っている。でも、奴らを放置できない。協力してくれる?”
カーディナルも、キングも、クイーンも、賛同の声を上げてくれる。
嬉しくて、カーディナルを抱きしめてしまった。
カーディナルに家に戻ってもらってから、しっかりと状況を確認しよう。
警官隊や消防隊や自衛隊が、陣を張って、これ以上は魔物が民家に近づかないようにしている。上空に移動する。対峙はしているけど、無闇に手を出そうとしている雰囲気はない。なにか、対策を考えているのかもしれない。
ゴブリンたちは、山や森や川?湖?に居る獣や魚を食べている様子がある。
ステージが変わっているのか?
裏山に居たオークも食事をしていた雰囲気があった。ギルドのサイトを確認していた時には、魔物は食事をしないから、人を襲うことは有っても食べたりはしないと書かれていた。
私の家族で、魔物になってしまった者たちも、基本は食事を必要としないが、私もそうだが嗜好品としての食事は楽しめる。
上空から、魔物たちを確認して、カーディナルやキングやクイーンにも覚えてもらってから家に戻った。
アドニスやパロットやギブソンやノックやラスカルに、ライの意見を聞きたい。一人でも反対するのなら、討伐には赴かない。家族が傷ついてまで行うようなことではない。
多分だけど、家に引きこもっていれば、私たちは安全に過ごせると思う。結界が破られない限りは・・・。
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