【第一章 遭遇】第二十話

 

/***** ピム Side *****/

 僕はいま執事に抱きかかえられながら、ブルーフォレストの中を疾走しています。
 当初は、僕も一緒に歩いていましたが、休憩時に、日数的にギリギリだと執事に相談した所、今のような所業になったのです。

 なにこの速度?僕が普通に走るよりも早いそれだけではなく、近寄ってくる魔物を瞬殺している。
 目で追っていると、瞬殺された魔物を、フォレストビーナが抱えて持っていっている。あぁこうして、危険が無いように間引いているのだな。

 約4日かかった経路が、半日で踏破されてしまいました。
 執事とメイドは、拠点から1時間くらいの場所で待機しているという事です。ツクモ殿が持たせてくれた荷物を受け取り(どこに入れていたのかわからないけど)仲間が待っているであろう場所に向った。
 僕を抱えてくれていた執事は、何か説明が必要になると困るので、ついてきてもらう事にした。

 あぁ胃が痛い。胃が痛い。胃が痛い。大切な事なので、3回言ってみた。服着替えればよかった。ガーラントが食いつきそうだ。

 僕はこの時大事な事を忘れていた。
 ツクモ殿が持たせてくれた中に何があるのか確認していなかった。

/***** イサーク Side *****/

 ピムが大樹に向って、今日で9日目。明日には逃げ出す事を考えないとならない。この環境は捨てがたいが・・・。

 そう考えていると、ガーラントが俺とナーシャの部屋に駆け込んできた。

「イサーク。ピムが帰ってきた!」
「そうか・・・それで?何を慌てている」
「使者なのか、一人連れてきている」
「なに?こちらには、何も準備が無いぞ!」
「あぁ今、ナーシャに何か出せる物がないか確認させている」
「どのくらいで来る?」
「もう来ている」

 いろいろ遅かった。
 確かに、あそこいスパイダーたちの主人が居るのなら、誰かを連れてくる事も考えておくべきだった。

「しょうがない。出迎えるぞ」
「あぁ」
「ナーシャは、ここに居てくれ」
「わかった」

 立場的に、俺が迎えるのがいいだろう。本当の身分で言えば、ナーシャなのだろうけど、このパーティのリーダは俺だ。

/***** ガーラント Side *****/

 ピムが帰ってきた。
 正直、半々よりも少ないと思っていたので、驚いた。それだけではなく、ピムは執事風の男性を一人連れていた。他にも、3名一緒に来ていると話していた。イサークには言っていないが、ピムの目が何かを訴えていた。一旦、執事風の男性をピムから離す意味もあり、執事風の男性に、仲間も一緒に話に加わってもらう事にした。

「ピム。どうした?」
「ガーラント。簡単にいう。絶対に逆らわないで欲しい。絶対にだよ。ナーシャには席を外してもらって、多分すぐに戻ってくる。早く行って!」

 本当に、言いたいことだけ言って、俺をイサークの元に行かせた。イサークも何か感じたのだろう。ナーシャには部屋の中に居るように伝えていた。

 ピムが居た場所に、イサークと戻ってみたら、執事が3人とメイドが1人ピムの後ろに控えるように立っていた。
 状況がわからない。ピムに説明を求めるにしても、使者が居る所で問い詰めるわけにはいかない。

「ピム様。我らは、ここでお待ちしております。どうぞ、お話をなさってください。大主からは、話し合いの邪魔はするなと言われております」

 大主?その前に、ピム様?
 どういう事だ。ピムが何か、執事風の男性に話をしている。そして、メイドが持っていた物を受け取っている。

 執事風の男性が、ピムに魔核(多分、レベル5はあるだろう)を、渡して何か話をしている。ピムも諦めた表情で、受け取ってから、こちらに来た。

「イサーク。ガーラント。ただいま。それから、彼らは、少し離れた場所に休める場所を作って待っている事になった」
「作って?」
「質問は後にして・・お願いだから・・・。それから、僕たちで話をして、これからの事を決めて欲しいという事だ」
「は?どういう?」
「そういう事だから、拠点に戻ろう。それから、ガーラント、これ、少し持つのを手伝って。僕だけじゃ少し重い」

 ピムから渡された荷物と言われた物を受け取った。
 肌触りから、鑑定してみたいが、使者たちの目があるし、ここで鑑定しないほうがいいだろう。ピムのさっきの話はそういう事も含んでいるのだろう。荷物の中からは、なにやら甘い匂いもしている。食べ物でも入っているのか?

 イサークもなにやら納得できない雰囲気があるが、ピムの迫力に押されて、うなずいている。
 こんなに必死になっているピムを見るのは初めてだ。普段は、子供っぽく見られるのを嫌って、”俺”と呼称しているのに、今日は、”僕”となっている。それだけピムが必死なのがわかる。

 イサークを先頭に拠点に戻る。使者たちがどうしているのかと思えば、深々と頭を下げて俺たちを見送ってくれている。

 さて、ピムからの話を聞かなければならないな。

/***** パーティ:ノービス Side *****/

 イサークとガーラントは、一緒に拠点に戻ってきた、ピムが口を開くのを待っていた。

 我慢できなくなったのか、ナーシャが口を開く
「ピム。どうなったの?」

 ピムが口の所に、指を当てる。エントから渡された魔核を握りしめる。それを発動する。ピムとしては、発動したくなかったが、発動しなかったら、疑っていると思われても嫌なので、信じて発動する事にしたのだ。
 一番驚いたのは、ガーラントだろう。ピムの魔力がE-なのは知っている。

「ピム!」
「あぁガーラント。言いたいことはわかる。この魔核を調べられる?」
「あぁ」

 ガーラントは、固有スキルに鑑定を持っている。

「ピム!なんじゃこれは?スキルが3つも付いている。全部レベル5だぞ!一体、いくらすると思っておる。それを簡単に起動してしまって!」
「ガーラントがいいたい事はわかる。でも、これ回数制限無しらしいよ」
「なんだと!!!!!!」

「ピム。ガーラント。何?説明してよ」

「ナーシャ・・・どこから説明していいのか・・・」

 成り行きを見守っていた、イサークがガーラントから魔核を受け取る。
 悪い影響がない事は、ピムやガーラントの様子からわかるし、何か影響している様子も無いのは、自分自信の感覚からわかるのだろう。

「ピム。いろいろあるが、ガーラント、この魔核の効果は?」
「そうだな。ピムいいのか?」
「うん。問題ないよ」
「イサーク。ナーシャ。いいか・・・」

 ガーラントは勿体つける事で、この魔核が異常な物だという印象をもたせようとしている。
 カズトとしては、よく取れる魔核に、1000円程度のスキルを3つ付けた便利アイテムくらいの認識でしかない。

「あぁ」「何?」
「この魔核は、レベル5。なんの魔物から出たのかはわからん。付いているのは、結界と防壁と障壁だ」
「は?」「え?」
「結界と防壁と障壁だ」

 ガーラントは、付いているスキルを説明した。
 結界:一定範囲内(レベル依存)を外部から守る。内部の音は外に出さない。外部からのレベル5(レベル依存)以下の属性攻撃を防ぐ。
 防壁:一定範囲内(レベル依存)を外部から守る。外部から、レベル5(レベル依存)相当の物理攻撃を防ぐ。
 障壁:一定範囲内(レベル依存)を外部から守る。外部からのレベル5(レベル依存)相当の状態異常攻撃を防ぐ。

「それも移動式だ。連続使用が可能だ」
「はぁぁ?」「え?どういう事?」

 ガーラントの説明を聞いて、ナーシャは理解できなかったが、イサークは理解できたようだ。

「あぁそれ、僕たちにくれるってツクモ殿が言っているようだよ。どうする?」
「はぁぁ?」「え?」「・・・・」

 三者三様の反応だ。
 カズト的には、魔核が10,000円。スキルも全部で30,000円。多少希少価値が付いても、50,000円程度の物で、感覚的には、5人で少しいいホテルに泊まった程度の感覚でしか無い。価値観のズレは、このさいしょうがない・・・・と、思うしか無いのかもしれないが、カズトがこの価値観の違いに気がつくのは、今しばらく時間がかかるだろう。

 ナーシャを除く3人は、しっかりと魔核の価値がわかっている。ナーシャも高いのだろう程度には認識できている。

「ピム。魔核の件は置いておいて、話をしてくれ?そのツクモ殿というのはどういう人物だ?俺たちに何を望んでいる?護衛か?」
「護衛では無いのだろうな。それに、スキルを要求しているとも思えない。何か交換可能な物があったとしても・・・。」

 ガーラントがため息とも取れる息を吐き出しながらつぶやく。

「ガーラント。イサークもナーシャも、僕の話を聞いて欲しい。それから、ツクモ殿が僕に聞いた話をするよ」

 ピムは、拠点を離れてからの出来事を、包み隠さずに話をしている。
 時折、ナーシャが突っ込んでいたが、スルーしている。いちいち相手していたら、話が進まないのがわかっているようだ。

 面談の最後の所まで話をした、ピムは、一息入れてから

「最後に、ツクモ殿が俺に言ったのは、”状況はわかりました。それで、ピム殿はどうされたいのですか?ミュルダでしたっけ?帰りたいのなら、サポートしますし、あの場所で生活をしたいという事なら、できる限りのサポートをしますよ?”」

 沈黙が流れる。ピムが話した言葉は理解できるが、内容が理解できない様子だ。

「ピム。すまん。もう一度お願いする。お前の言い方では、ツクモ殿は、俺たちに何も求めない。住むにしても、帰るにしても、サポートすると言っているのか?見返りもなく?」
「そうだよ。イサーク。だから、僕は、返事を保留して帰ってきた、君たちと話をするためにね。そうしたら、超弩級の爆弾も渡されたけどね」

 そういって、ピムは、カズトから渡された物を皆の前に出した。

「ねぇガーラント。僕の来ている服を、鑑定してみて?」
「なぜそんな事を・・・え?なんだ?」
「ガーラントどう?」
「何かの間違いじゃろう?」
「間違いであって欲しいけどね。間違いじゃないと思うよ。多分、その包を開けると、君たちの分もあると思うよ」

 ガーラントが、包を開けると、ピムの予想通りに、服が上下3着。それも今着ているのと同じ物が入っている。そして、手のひらサイズの瓶に木の蓋がしている物が、10個ほど入っていた。
 ガーラントは、瓶を横に避けて、服を手に取り鑑定を行う。

「ふぅ・・・間違いないのだろうな」
「うん。そして、僕は鑑定が使えないから違うかもしれないけど、この服は、ツクモ殿の周りに居た執事やメイド全員が着ていたよ」
「・・・」

「ガーラント。どういう事なの?すごく手触りがいい服だけど、相当いいものなの?レベル6が数枚程度?」
「お嬢・・・いや、ナーシャ。儂の鑑定が間違っていなければ、これは、イリーガル・デーモン・スパイダーかその亜種が作った布で、前に市場に出た時には・・・」

 ガーラントは、手で四角形を作った。一辺30cmくらいの正方形だ。

「このくらいの布が、5枚のレベル6で取引されていた」
「え?このくらいで?レベル6が5枚?レベル4の間違いじゃなくて?」
「あぁレベル6だ!その時の、高騰も競りが行われたからだが、今だと希少価値が加わってもっと値が上がるかもしれないな」

 ナーシャは、そう言われて、持っていた服を落としてしまった。実際に、服を着ているピムも天を仰ぐポーズを取ってしまう。
 ガーラントは気がついていない事がある。その時には、無地の白い布だったのだが、今は色が付けられて、服の形状になっている。そのために、希少価値という意味ではもっと上がっている。布は、街の加工所では加工できなかったのだ。それを、加工できる技術を持っているという証左なのだ。

 気を取り直して、ナーシャが
「ねぇこの瓶の中身は何?」

 甘い匂いがしている物を手に取る。先程から、すごく気になっていたのだ。
 場が、重い雰囲気になっているのを感じて、努めて明るい雰囲気を出すことにしたようだ。

 ナーシャは、好奇心に負けて、蓋を空けた。場に、今までに嗅いだことがない甘い匂いが充満する。
 蓋に付いていた、金色の蜜を指に少し付けて、舐めてみた。本人は、自然な動作のつもりで、毒味のつもりのようだ。

「え?え?あぁぁぁぁまぁぁぁぁいぃぃぃぃ。ねぇねぇピム。ピム。なにこれ?すごく甘いし、美味しいよ!」

 ガーラントが、ナーシャから瓶を取り上げて鑑定をした

「ピム。ピム!お主これを知っていたな?」
「中身は知らないよ。甘い匂いがしたから可能性の一つとして考えていただけだよ」

「ガーラント。どういう事だ。ピム。まだ何かあるのか?」

 ピムが、ガーラントにお先にどうぞという感じで話を先に譲る。

「イサーク。ナーシャ。この液体は、”はちみつ”じゃ」
「うそ!蜂蜜ならなんども舐めたけど、こんなに甘くないし、美味しくないよ!絶対に違うよ」
「あぁナーシャは、間違っていない」「それじゃ!」「でも、正しくない」

 ガーラントは一息入れてから

「これは、多分じゃが、フォレスト・ビーナ。それも、多分、属性付きか、もしかしたら、その上かもしれない・・・が、粗奴らが作った物だ」
「な」「え?うそ・・・だって、こんなに・・・綺麗だよ」
「あぁだから、儂も最初は自分を疑った。でも、ピム。ツクモ殿は、フォレスト・ビーナも眷属にしているのか?」
「うん。僕が見たのは、ブルーとレッドのフォレストビーナだったけど、女王も居ると思うよ。それも複数・・・僕が見た、最大のサイズが50cmくらいのビーナだったよ。それが、アプルやピチ。それから、僕が知らない花から蜜を集めていたよ」
「・・・」「え?どういう・・・」「あぁそうだな。それで、ビーナたちに蜜を集めさせていたのだな」
「多分ね。そう言えば、ガーラント口調」「あぁすまん。素になってしまった」

 ピムが、ガーラントの口調はそのほうがいいなといい出して、皆が認める発言をしてから

「イリーガル・デス・フォレスト・キャットとイリーガル・フォレスト・スキル・キャットが居たよ」
「え?すまん。ピム。もう一度言ってくれ。何か聞いては駄目な事を聞いた気がする」
「うん。何度でも言ってあげるよ。ツクモ殿の横に、イリーガル・デス・フォレスト・キャットとイリーガル・フォレスト・スキル・キャットが居たよ。スライムも居たよ。あぁ多分特殊個体だろうね。見た目ではわからなかったけど、あれもイリーガルの称号を持っていそうだったよ。キャットたちは、12-3歳の男の子の膝に顎を乗せてくつろいでいたよ。時折、喉を鳴らして、男の子に甘えていたよ。頭を撫でられて、至福の表情を浮かべていたよ」
「ピム。それが本当だとして?え?12-3歳の子供?」

「そう、ツクモ殿が、12-3歳の男の子ですよ」
「悪い。俺、もうわからない」

「だろうね。でも、イサーク。しっかり考えて、僕たちの未来がかかっているのだよ?」

 イサークは、とりあえずの考えを保留して、残りの瓶を確認する事にした。現実逃避ともいう行動を取った。

 見なければよかったと言うのはこういう事を言うのだろう。
 瓶の中身は、蜂蜜が2つ・胡椒が2つ・塩が2つ・砂糖が2つ。あと2つは、唐辛子と山椒だ。カズトがこちらで見つけた物だが、一般的に知られているのか知りたくて混ぜた物だ。

「ねぇガーラント。これって、胡椒よね?」
「あぁ残念ながら、儂の鑑定でも胡椒と出ている。こっちは、塩で、こっちが砂糖だな。あと2つはわからん」
「え?砂糖ってもっと黄色いよね?塩?本当に、こんなに白い塩って嘘でしょ?それに、鑑定でも出ないの?」
「いや、唐辛子と山椒と出ているが、お主ら知っているか?刺激物だが、食用可となっておる」

 沈黙が流れる。

「会いに行くか・・・」
「そうだな。それが良いだろうな」
「うんうん!」

 ノービスの方向性は決まった。

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