【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】幕間 社会科見学(その2)

   2020/04/05

 私は、ディアス。このくだりも何回か行っていると飽きてきます。
 今、私はヤス様が保護を約束された子供たちと一緒にアーティファクトに乗っています。東門から西門に向かっています。

「ディアスお姉ちゃん。今度はどこに行くのですか?」

 ”お姉ちゃん”いい響きです。カイル君はやんちゃな弟という感じで、イチカちゃんは好奇心が旺盛な妹という感じです。

「今度は、学校に行きます。イチカちゃんたちがこれから神殿の都テンプルシュテットで生活するのに必要な知識を学べる場所です」

「え?学べる?何か、教えてくれるのですか?」

「そうね。いろいろな知識を持った人が居ます。その人たちがイチカちゃんやカイル君たちに教えてくれます」

「本もありますか?」

「まだ少ないのですが、本もありますよ?」

「私が読んでもいいのですか?」

「大丈夫ですよ?」

 私は学校がどういった施設なのか知りませんでした。セバスに説明を受けました。リーゼやサンドラからは”おかしい”と言っていましたが、”普通の学校”を知らないので、私は神殿の都テンプルシュテットにある学校が”普通の学校”になってしまっています。
 なので、イチカちゃんの疑問がわかりません。

「ディアスお姉ちゃん。私たちは孤児で獣人やハーフだよ?」

「え?それが?ヤス様は、神殿の都テンプルシュテットの住人なら誰でも”図書館”に出入りしていいと言っていますよ。故意に本を汚したり、傷つけたり、破損させなければ一部の本を除いては貸し出してもくれますよ?」

「・・・。ディアスお姉ちゃんも少しだけずれている?」

 何か、イチカちゃんが言っていますが気にしないようにします。
 もうすぐアーティファクトが学校前で停まります。

「みんな。降りるわよ」

『はぁーい』

 子供たちが答えてくれます。

 お昼も近くなっていますし、まずは寮の食堂に行きましょう。

「ディアス姉ちゃん。ここは?すごくいいにおいがしているけど?」

「ここは寮の食堂です。学校に通っている人なら”ただ”で食事ができる場所です」

「え?」「うそ?」「うそだぁー」

 子供たちは信じていないようです。最初に話を聞いた時に、私も信じませんでした。物資がまだ足りていない状況でも、ヤス様は子供だけは飢えさせるなと言われていました。移住してきた者の中には、両親を亡くした者や片親になってしまった者も居ます。孤児が存在していました。サンドラの領地にあった孤児院が移動してきたパターンもありました。
 子供たちは、寮と言われる場所に男女で別れて生活を始めています。孤児院を運営していた人が食事を作って子供たちに提供しています。
 この食堂は、子供だけではなく住民なら誰でも使うことができます。学校に通っている子供なら無料で食事が振る舞われます。

「なぁディアス姉ちゃん。俺たちも、学校に行けば、ここで食べていいのか?」

「そうですよ。学校で、文字の読み書きや計算を勉強すれば、食事が貰えます。あと、今はまだ行われていませんが、戦闘の訓練なんかもできるようになります」

 アーティファクトの操作は、まだ説明しなくていいでしょう。地下に降りられるようになるのが先ですからね。

「!!」「ディアスお姉ちゃん。勉強して、ご飯が食べられるの?本も読める?本当に?私たちは、何もできないよ?売られちゃうの?」

 カイル君は、訓練ができるのが嬉しいようです。やはり男の子なのでしょう。
 イチカちゃんは、与えられすぎて心配になってしまったのでしょう。

「大丈夫よ。簡単に信じられないだろうけど、まずは生活してみて、自分たちで確かめて見てね。イチカちゃんとカイル君が安心できれば、他の子も安心できるでしょ?」

「え・・・。うん。わかった」

 子供たちに、食堂のマナーを教えます。
 ヤス様は”セルフサービス”とか言っていましたが、合理的な方法です。並んで、料理を受け取ってテーブルで食べます。量も言えば減らしたり増やしたりしてくれます。水も飲み放題です。”ジュース”もあります。子供がメインで使うために、酒精が入った飲み物は置いてありません。

 想像していた通り、子供たちは動けなくなるまで食べたようです。イチカちゃんだけはセーブした様ですが、お腹が膨れているのがわかります。私が見ているのに気がついて恥ずかしそうにしています。大人でも最初はやってしまうので、子供のカイル君やイチカちゃんたちなら当然やるだろうと思っていました。

「お腹はいっぱいになった?」

「うん!食べ過ぎた!」「カイル。恥ずかしいよ」

「そういうイチカだって!」

 カイル君とイチカちゃんが言い争いをしますが、皆のお腹がいっぱいになってくれて嬉しく思います。食堂の手伝いをしている人たちも嬉しそうです。

”キーンコーンカーンコーン”

「ディアスお姉ちゃん。この音は?」

「朝の勉強が終わった音ですよ。あの音・・・。ヤス様は、チャイムと呼んでいました。音で授業が始まり、音で授業が終わるのですよ」

「へぇ・・・。勉強は、朝だけなの?」

「いいえ、朝と昼の二回です。これから変えるかもとは言っていましたが、今は二回ですよ。さて、動けますか?学校の施設を案内しますから着いてきてください」

 子供たちは一斉に返事をしてくれました。
 それから、勉強する場所や図書館を案内して、最後は運動場を案内しました。

 運動場では、カイル君が大はしゃぎです。いろいろな武器(の模造品)が置いてあるので、試してみたいといいだしました。小規模の魔法なら使っても問題ない訓練場では、イチカちゃんが喜んでいました。魔法も教えてもらえると考えたようです。魔法は、適正の問題もあります。誰でも使えるとは言えませんが、通常(サンドラに教えてもらった)では、魔法を習うのは貴族や裕福な商人などの一部の人たちだけです。お金に余裕がある家庭では、教会がギルドに行って適正を見てもらうのが一般的です。孤児だった、イチカちゃんたちは自分の適正さえも知りません。これも、ヤス様に報告すべき案件です。

 次は、カスパルが訓練を受けた、”教習所”です。カスパルの後にカート場に降りられるようになった方が、今はアーティファクトを動かす訓練をしています。カートのようにスピードを競うのではなく、安全に動かす方法を学んでいます。今は、ユーラットと神殿の都テンプルシュテットをカスパルが荷物や人を運んでいますが、ヤス様は領都や王都とも定期的にアーティファクトを動かしたいと思っているようです。

 イチカちゃんに聞いたら、お金の計算は大丈夫ということだったので、お金の説明は省きました。

 子供たちには学校で過ごしてもらって、一旦ギルドに向かいました。
 ドーリスとサンドラはまだ帰ってきていないようです。ミーシャが受付に居たので話を聞きました。

「西門と食堂と学校と教習所を案内しました。次は、寮になると思いますが、どうしましょうか?」

「そうですね。もう少しで、ディとリッヒが帰ってくると思いますので、年少組を寮にあずけて、カイル君とイチカちゃんをギルドにつれてきてください。ヤス様も話をしたいと言っていました」

「わかりました」

 私は、学校に戻って、子供たちに今後の説明をします。
 まずは寮の説明をします。カイル君とイチカちゃんの話をまとめると、みんなで集まれる部屋がいいと言われてしまった。でも、それでは”他の孤児院”の子供たちと派閥ができてしまう。ヤス様からも避けて欲しいと言われています。

 だから・・・。
「イチカちゃん。カイル君。寮は男女別になっているのね。孤児院のように・・・同じ部屋でみんなでまとまる事はできないの・・・。ごめんね」

「ディアスお姉ちゃん・・・。大丈夫です。でも、私の近くに妹たちを、カイルの近くに弟たちを、お願いします」

 子供たちが一斉に頭を下げる。

「大丈夫ですよ。君たちならそういうだろうと部屋が用意されています。カイル君とイチカちゃんは一人部屋です。これは、ヤス様が決められたので変えられません」

「わかった」「はい」

 二人は承諾してくれました。

「それでは、カイル君の部屋に行きましょう。基本的には同じ作りです」

 皆を連れて男子寮に向かいます。
 寮母さんは、領都で孤児院を運営されていた方がやってくれているので安心です。挨拶をして、カイル君に与えられる部屋に行きます。

「ここがカイル君の部屋です。その隣から、弟くんたちの部屋です」

「え?こんなに広くて・・・。1人なのか?」

「そうですよ?」

 やはり、この部屋は広いのでしょう。
 でも、私とカスパルが住んでいる家にあるリビングと呼ばれる場所よりも狭いのです。ヤス様の感覚では、あの家でも2-3人で住む家だと言っていました。感覚がずれているのでしょう。子供たちの意見としてヤス様に伝えたほうがいいでしょう。