バーテンダーは夜を隠すの記事一覧

2022/04/12

【第三章 懲悪する惡】第七話 プレリュード・フィズ

今は、深夜の3時を少しだけ過ぎた時間だ。 バーシオンの営業時間は終わって居る。始発が動き出してから、日が落ちるまでがバーシオンの営業時間だ。 「マスター」 男が、バーの入り口からではなく、バーシオンの従業員が使う出入り口から入ってきた。 「なんだ?」 「ごめんね」 何に対しての謝罪なのかわからないが、男はマスターに謝罪の言葉を告げる。 いつもと違う雰囲気の男に、準備をしていたマスターは手を止めて、男を見つめる。 「いい。それで?仕事か?」 「仕事といえば、仕事だけど、今回は別口」 男の言い淀んだ口調に、マス…

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2022/04/01

【第三章 懲悪する惡】第六話 アメリカン・レモネード

とある繁華街の雑居ビルの地下。 バーシオンが今日も営業をしている。昼間に営業をしている変わったバーだ。 カウンターに座る女性が飲み干したグラスをカウンターに音を立てないように置く。 グラスを拭いているマスターの手元を見て、グラスをケースに戻したのを確認してから声をかける。 「マスター」 マスターは、女性の様子から、”チェック”だと判断した。 「大丈夫です」 マスターは、手元のメモに目を落としてから、女性に答える。 「そう」 少しだけ意外そうな表情をする。 女性は、足りないのではないかと思っていた。その場合に…

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2022/03/14

【第三章 懲悪する惡】第五話 サイレントサード

昼間に営業している変わったバーシオン。夜の仕事をしている人たちが通う。 「マスター。ありがとう」 カウンターに座っていた一人の女性が席を立つ。 マスターは、手を上げる。勘定が終わっているという合図だ。 「そう・・・。マスター。まだ残っている?」 女性から言われて、マスターはノートを見てから、うなずく。 マスターからの言葉を聞いて、立ち上がった女性はカウンターに腰を戻す。 「マスター。最後に、一杯いいかな?」 「はい。何に、しましょうか?」 「そうね・・・(シオン。君を忘れない)」 女性は、壁にかかっている紫…

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2022/02/22

【第三章 懲悪する惡】第四話 ブロンクス

「マスター」  マスターは、グラスを磨いていた手を止めて、カウンターに座る女性を見つめる。 「はい」 「何か作って」 「わかりました」 「あっ今日で最後だから、マスターのオリジナルが飲みたい」 「かしこまりました」  マスターは少しだけ考えてから、みかんの缶詰と白桃の缶詰を開ける。中身を取り出してミキサーにかける。ドライ・ジンとドライ・ベルモットを取り出す。すべての液体をシェークしてから、味を確かめる。カクテルグラスに注いで、女性の前に置く。 「即興で作りました。名前はありません」 「ありがとう。マスター。…

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2022/02/17

【第三章 懲悪する惡】第三話 シルク・ストッキングス

 夕方になり、繁華街は人が増え始める。  マスターは、店の電灯を落とした。変わったバーの営業は終わった。  売り上げは、マスターが一人で生活するには十分だ。仕入れも口利きをしてもらっている為に、大きく崩れることがない。デポジット制で、一見を断っている。それでも、客が途切れたことがない。  寡黙なマスターの態度が、秘密を抱えている者たちには心地よいのだ。  マスターは片づけたカウンターに、オレンジジュースとレモンジュースとパイナップルジュースを冷蔵庫から取り出して置く。  それぞれのジュースを40ml測って、…

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2022/02/09

【第三章 懲悪する惡】第二話 アメールピコンハイボール

 珍しく、朝の早い時間に男がマスターの店を訪れていた。 「マスター」 「なんだ?」 「”なんだ”は酷いな。今日は、依頼者を連れてきた」 「ふん」  マスターは、男には顎で合図をして、奥のカウンターに座らせる。  奥から二つ目の椅子に座る。真新しい、殆ど使われていない一番奥のカウンター席には、男が”RESERVE”の札を置く。  男の後から入ってきた、男性は男の隣に座る。  男性の前にマスターは、コースターを置いた。 「マスター。彼には、アメールピコンハイボールをお願い」  マスターは男の注文を聞いてから、男…

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2022/01/31

【第三章 懲悪する惡】第一話 過去

 繁華街の外れにある。雑居ビルの地下に、そのバーはある。  繁華街は、今日も噂話に花が咲いている。都市伝説から、街で発生した事故や事件の話。  たくさんの噂が存在している。  今日も、歓楽街の一つの店では、噂雀の3人が聞いてきた噂話をしている。 「知っている?」 「何?」 「雑居ビルの地下にあるバーの話」 「え?何?知らない」 「昼間しか営業していないバーらしいのだけど、夜にバーに訪れると・・・」 「え?ホラー的な話?都市伝説?あのバーなら知っているけど、昼間しか空いてないよ?夜に行っても暗いだけだよ」 「…

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2022/01/23

【第二章 リニューアル】第五話 連鎖

 女性は、店に入ってきた。静かな、店内に女性の歩く靴音が響く。 「マスター。ウイスキー・フロート」  いつもと雰囲気が違う常連の女性からの注文。  それも、今までに頼んだことがない。ウイスキー・フロートだ。 「バランタインの17年が入ってきています。どうですか?」 「うん!あっ足りる?」  女性は、普段と違うテンションでカウンターに座る。  上機嫌を装っているが、空元気なのは誰の目にも明らかだ。 「大丈夫です」  マスターは普段と同じテンションで、女性に向き合う。 「お願い」  タンブラーにロックアイスを入…

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2021/11/23

【第二章 リニューアル】第四話 眠れぬ夜

「マスター。ナイト・キャップをお願い。今日は、これで最後にする」 「かしこまりました」  マスターは、卵黄を用意して、ブランデーとキュラソーとアニゼットを2:1:1でシェイカーに注いて、卵黄を入れる。  注文した女性は、マスターの手元にうっとりとした視線を向ける。 「ナイト・キャップです」  女性は、マスターが置いたシャンパングラスに注がれた液体をしばらく眺めてから、喉に流し込んだ。 「マスター。私、夜を卒業するの」 「そうですか」  マスターは、シェイカーを洗いながら女性の独白に答える。 「それで」 「わ…

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2021/07/05

【第二章 リニューアル】第三話 雪うさぎ

「マスター。ボンペイをお願い」  マスターは、カウンターに座る女性の注文を聞いて、泣き出しそうな女性の表情を見て、ブランデーとスイート・ベルモットとドライ・ベルモットをカウンターに並べる。カウンターには並べなかったが、パスティスとオレンジ・キュラソーを用意した。 「ねぇマスター」 「はい」 「ボンペイの意味は?」 「『1人にしないで』です」  ステアして完成したボンペイを、マスターは女性の前に置く。 「ボンペイです」 「ふふふ。『1人にしないで』かぁ・・・。あの人が、好きだったカクテル。1人にされてしまった…

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2021/06/18

【第二章 リニューアル】第二話 希望

 女性は、店に入るなり、カウンターに座った。  マスターが目を向けるが、女性は気にした様子は見せない。 「マスター。おすすめを頂戴」  マスターは、女性をちらっとだけ見て、頷いて、ゴールドラムとレモンジュースをシェイカーに注ぎ込み、オレンジキュラソーとアロマティックビターを入れる。シェイクしてグラスに注ぎ込んで、カットオレンジを添えた。 「カサブランカです」 「ありがとう」  女性は、カサブランカをゆっくりと喉に流し込んで、目を閉じる。 「マスター。同じものをお願い」 「かしこまりました」  店の中には、マ…

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2021/05/17

【第二章 リニューアル】第一話 再開

 タンブラーに入った茶色の液体を喉に流し込みながら女性は、バーテンダーを見ている。  最後の一口を含んでから、ウィスキーの味を感じながら呑み込む。 「マスター。もう一杯」 「同じ物で?」 「うん。カウボーイをお願い」  マスターは、テーブルに磨かれたタンブラーを置いて、氷を入れる。そこに、アーリータイムズを45ml注ぎ込む。そこに、ミルクを105ml注いで、砂糖を小さじに1杯入れる。軽くビルドをする。ミルクが落ち着いたのを確認してから、ナツメグを振りかける。 「カウボーイ。『今宵もあなたを思う』」  女性は…

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2021/04/09

【第一章 バーシオン】第三話 夜を隠す

「マスター。いつもの!」  カウンターに座る女性の注文を受けて、ブランデーの瓶と、カカオ・ホワイトリキュールの瓶をカウンターに用意した。ブランデーをシェーカーに適量(30ml)を注いで、カカオ・ホワイトを半分(15ml)を注いで、生クリームを適量(15ml)を注いだ。シェイクしてショートグラスに注ぐ。  女性は、シェイクしているマスターの手元をうっとりとした目線で眺めている。 「ホワイト・アレキサンダー」  女性は、白く甘い香りがする液体を暫く見つめた。 「ねぇマスター?」 「どうしました?」 「アレキサン…

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2021/04/05

【第一章 バーシオン】第二話 マスターの仕事

「マスター。聞いてよ」 「聞いていますよ」  心地よいテンポで音を奏でていたシェーカーから、グラスに淡いオレンジ色の液体を注ぎ込む。  カウンターに座る彼女の前に、グラスを静かに置く。 「シンデレラです」 「夢見る少女か・・・。マスター。私、少女なんかじゃないですよ。汚れちゃっています」 「それなら、なおさら、それを飲んで、汚れを洗い流してください。貴女に必要なのは、夢を見る時間ですよ」 「夢を見るのには、私は・・・。ううん。マスター。ありがとう。夢を見せに行ってくる」 「いってらっしゃい」  女性がドアか…

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2021/04/05

【第一章 バーシオン】第一話 バーシオン

繁華街の外れにある寂れた雑居ビル。 その地下でひっそりと営業をしているバーがある。このバーは昼の1時から営業を開始して、夕方には店を閉めてしまう。 少しだけ変わったバーテンダーが居る。店名は、”バーシオン”ありふれた名前のカウンターだけの狭いバーだ。 「マスター。いつもの」 客層は、営業時間の関係もあるが、夜の店で働く”ワケあり”な者たちが多い。 素性は誰にも語らない。誰も聞かない。この街で働く、最低限のマナーだ。 「それを飲んだら、今日は帰ってください」 カウンターに座った女性は、”いつもの”モヒートを頼…

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