閑章の記事一覧

2023/10/18

【第四章 リブート】第七話 アメール・ピコン・ハイボール

二人の若い男が、繁華街を歩いている。 宵の口を過ぎたばかりで、周りは酔いつぶれてはいないが、酔って次の店を探し始めている人が増え始めている。そんな客目当ての者たちも道に出始めている。 若い二人は、一つの噂を信じて、その店を探している。 繁華街をアルコールも入っていないで店を探しながら歩いていれば、”目当て”があるのか、それとも単なる”おのぼりさん”か、それとも”かも”か、どれかだろう。二人が何を探しているのか気にしている者たちもいるが、それ以上に、二人を”誰が”引っ張っていくのか気になり始めている。 「合っ…

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2023/08/05

【第四章 リブート】第六話 ラスティネイル

今日のバーシオンには少しだけ毛色が悪い客が来ていた。 前回は常連に連れられてきたのだが、今日は初めて見る女性を連れて来ている。 「おい。バーテン。ウィスキーのロック」 マスターは、失礼な客には目をくれずに、安いウィスキーの封を切って、ロックグラスに注いだ。 周りの視線を気にしないで、男は連れてきている女性に話しかけている。 女性は、迷惑そうな表情をして居ることから、無理矢理に連れてこられているのは、誰の目にも明らかだ。 そして、女性はマスターが封を切ったボトルを見て、笑いそうになっている。 奥に並んでいるボ…

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2023/06/10

【第四章 リブート】第五話 アイ・オープナー

マスターは常連からの懇願を受け入れる形で、バーシオンの営業時間を変更した。 その代わりに、不定休の宣言を出した。営業時間は、昼から終電の1時間前にした。裏の客には、朝方に来てもらうことにしている。 男が、閉店直後にバーシオンを訪れた。 いつものカウンターの入口近くの席に座った。 「マスター。大丈夫?」 注文をするのではなく、マスターの体調を気遣う。 バーシオンで、バーテンダーとして働いて、昼には軽めのカクテルが飲めランチが食べられるバーだと”隠れ家的”な魅力に溢れた店だとタウン誌に紹介された。マスターは拒否…

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2023/05/18

【第四章 リブート】第四話 ブロンクス

バーシオンは、珍しく予約が入っている。 「マスター。ありがとう」 男が店に入ってきて、マスターに”ありがとう”と伝える。 「二次会だと聞いたが?人数は?」 「予約の通りだよ」 「わかった。全部、お前が持つのでいいのだよな?」 「え?そんな事になっているの?」 「あぁ予約の時に、”常連の男が支払いをする”と聞いたぞ?」 「え?え?ちょっと・・・。まぁデポジットはまだあるよね?」 「大丈夫だ」 男は、定位置のドアの近くではなく、RESERVE席の隣に腰を降ろす。 RESERVE席には、誰も座らないように、男が荷…

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2023/05/05

【第四章 リブート】第三話 エッグノッグ

バーシオンの開店の時間ちょうどに、男が店に入ってきた。 「マスター!」 カウンターに座った男は、マスターの返事を待たずに懐からUSBカードを取り出す。 「ん?」 「時間があるでしょ?確認して」 「わかった」 「クローズにしていいよね?」 「あぁお前が補填してくれるのだろう?」 「それは・・・」 マスターが男を睨む。 「怖い。怖い。ひとまず、中を確認して、それからでも遅くないと思うよ?」 「わかった」 マスターは、店の奥にある事務所スペースに置いてあるパソコンで、USBカードの中身を確認する。 新聞の切り抜き…

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2023/04/15

【第四章 リブート】第二話 クロンダイク・ハイボール

バーシオンは、営業時間を変更して、店を再開した。 静かなオープンだ。 再開を祝う花束は存在しない。マスターが遠慮してもらうように伝えていた。それでも送ってきた花は、店の中に飾ってある。 営業時間は22時から始発までだ。 各種届け出も済ませた。フードを出すために手続きが必要になった。 繁華街で、4年以上の期間が経過している。 馴染みだった客の殆どが、繁華街を離れている。 しかし、マスターからの再開の連絡を受けて、”客”として顔を見せに来てくれていた。 「マスター。久しぶり」 女性は、以前にマスターに”裏”の仕…

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2023/04/06

【第四章 リブート】第一話 ニコラシカ

マスターが”珈琲貴族”で森沢に会って、今までで一番嬉しくて、一番切なくて、一番悔しい手紙を貰ってから、1年が経過した。 港町に新たに作られた拠点は、マスターが譲り受けてから改装を行っている。1年以上の時間をかけたが、まだ完成していない。 施設の名前は、”リブート”と決まった。 マスターが行っている裏の仕事で、逃げる必要がある人たちが居る。一時的に、避難する場所が必要になっていた。組織が持っている別荘が伊豆にあるのだが、隠れ家としての役割は果たしているが、再就職やその先の生活が保証されていない。 マスターが提…

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2023/03/24

【閑章 テネシー・クーラー】第六話 三年後

墓参りに行ってから、マスターは、まだバーシオンを開けていない。 気持ちの区切りが付いた事で、今後の事を考えると言い出した。バーシオンの奥にある部屋に住み着いていた。 常連客や今まで世話になった人には、詫びの手紙やメールを送った。 チャージ金を置いている客には、返金する旨を伝えている。 店に訪ねて来る者は居たが返金を求める者は居なかった。 「マスター!」 「閉店中だ。帰れ」 「今日は、別件」 「わかった。入れ」 マスターは、男を店に入れてから、扉を閉める。 「へぇ綺麗にはしているのだね。店は開けないの?」 「…

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2023/03/02

【閑章 テネシー・クーラー】第五話 あの日の約束

マスターと桜が通っていた時よりも机は明らかに少なくなっている。 マスターには、しっかりと座席が見えている。 そして、床に一滴の水が・・・。 「桜。悪いな」 「話は終わったのか?」 「あぁ」 マスターは、こめかみを指で叩く。頭痛がしているわけではない。 「安城。癖は治らないのだな」 「癖?」 「ん?気が付いていないのか?」 「あぁ」 「そうか・・・。お前は、困ったことがあると、こめかみを叩く」 「そうなのか?」 「だから、美和とか、由紀が・・・」 「朝日さん?」 「そうだ。お前が、こめかみを叩いていると、必ず…

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2023/02/25

【閑章 テネシー・クーラー】第四話 旧友

「マスター?」 「ん?あぁバイパスを戻ってくれ」 「うん」 「興津川を過ぎたら、四つ目・・・。いや、三つ目の信号を右折。近づいたら知らせる」 「三つ目?」 「そうだ」 男は、マスターからの指示通りに、興津川を過ぎてから、目印になる信号を探した。 1キロ程度走ってから、男は心配になってきた。 「マスター?信号がないよ?」 「大丈夫だ」 「わかった」 一つ目の信号が見えてきたので、男も安心した。 一つ目と二つ目は、押しボタン式だ。男は、二つ目の信号を越えてから追い越し車線に移動した。右折というからには、追い越し…

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2023/02/17

【閑章 テネシー・クーラー】第三話 邂逅と懺悔

マスターは振るえる手で、振るえる足を押さえつける。 膝をついて、泣き叫び、謝罪の言葉を投げかければ、どんなに楽か・・・。しかし、マスターは、”自分にはその資格がない”と思っている。 交番の扉に手をかける。 寂れた港町の寂れた交番。 凶悪事件など、30年以上発生していない。 交番には、3人の警官が勤務している。 一人は、住み込みのはずだ。マスターは、男に頼んで、一人の警官に関しての情報も教えてもらっていた。男も、知っていた。しかし、マスターの指示が、まさか駅に繋がる道だとは思わなかった。そして、今までの寄り道…

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2023/02/09

【閑章 テネシー・クーラー】第二話 遠き記憶

男は、食器を片づけて、座ってTVを見ているマスターを見る。 「(こうして見ると、凶悪な犯罪の前科があるようには思えない)」 テーブルに座っている様子も、崩して座っているわけでもなければ、長い間の慣習で背筋を伸ばして座るわけもない。 「(体幹が整っている元スポーツ選手や身体を鍛えている大学の教授だな。あとは、執筆業の傍ら身体を鍛えている?ふふふ。誰もバーテンダーだとは思わないだろうな)」 「おい」 「何?マスター?」 「気持ち悪い目で見るな。殴りたくなる」 「酷いな」 「まだ、時間は早いな。仮眠を取る。鍵」 …

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2023/01/26

【閑章 テネシー・クーラー】第一話 遠き日

マスターは、店が入っている雑居ビルの前で、男の到着を待っていた。 「おまたせ」 マスターの横に、古い車が停まっている。窓が開けられて、マスターがよく知っている男が声を掛ける。 マスターは、何も言わないで助手席のドアを開けて乗り込む。 「出せ」 「マスターは、僕にすこしくらいは優しくしてもいいとおもうよ」 「煩い。俺は、寝る。富士川で起こせ。そこから、指示を出す」 「はい。はい。富士川?新東名じゃない?」 「あぁ」 「わかった・・・。もう、寝ているよ。本当に、マスターは変わった」 男は、眠り始めるマスターを見…

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