【第三十章 新種】第三百五話

 

ルートガーとファビアンが、俺たちから離れた。ルートガーの従者として連れてきた連中も、ルートガーと一緒に交渉をまとめるように伝えている。ダンジョンの内部の説明を、ファビアンだけに任せるのは、ルートガーの立場が悪くなる。俺が着いて行くことも考えたが、ルートガーに交渉を任せるのに、俺が一緒では意味がない。従者たちは、ダンジョンに潜っている。俺の代わりに、ルートガーにダンジョン内部の説明をする役割を与えた。
それに、記録係りくらいはできるだろう。
ルートガーには必要がないと言っても、従者だけではなく護衛としての役割も必要になってくる。

ルートガーからは、俺に対する護衛として、従者を残していくと言われたが邪魔になる可能性が高い上に、俺にはカイとウミとライが居るから必要がないと言って、引き取らせた。
スキルカードは、持たせたままにしている。俺には必要性が低いカードで、枚数も揃っている。簡単に無くなるような枚数ではない。
拠点に帰れば、減ったスキルカードの補充ができるだろう。簡単に補充ができないスキルカードもあるが、それは使っていないし、渡していない。

『カズ兄!』

ウミが、森に視線を向けている。
俺にも解るくらいの距離まで近づいてきているようだ。森から出る寸前だ。止る気配がない。森から出てきて、人里を狙うのか?

人ではない。魔物なら、森から出るような行動を取らない。できそこないか?

「カイ!」

既に、ライを乗せたカイが走り出している。

近くには人が居ない。

「ウミ!」

『任せて!』

カイとウミが走り出した方向に、俺も走り出す。

索敵では、3体のはずだ。
カイとウミとライが負けるとは思えないが、俺がサポートに回れば確実だろう。

それに、索敵範囲のギリギリを移動している、反応があるのも気になっている。俺の索敵範囲が認識されているようで気持ちが悪い。
俺が近づくと、一瞬だけ索敵の範囲内に入るが、すぐに範囲から外れる。
確実に、俺の動きを把握している。同じレベルの索敵ができるのか?それとも、違うスキルか?

一気に加速する。

「カイ。ライ。手前の3体は任せる!ウミ!」

『うん!』

『はい』『わかった』

ゴブリン?
こんな色だったか?
角がある?

正面からカイとライが攻撃を仕掛けるが、俺とウミを狙ってスキルを使ってきた。
レベル4の炎弾だ。ゴブリンがレベル4のスキルを使う?
それも連射だ。

「ウミ!」

『大丈夫!』

「ライ。森へのダメージを最小限に保て!」

『わかった』

ライが、炎弾を水弾で相殺していく、それでもゴブリンたちは止らない。

なにか、おかしい。

「カイ!ウミと一緒に、後ろに居る奴を狙ってくれ」

『カズト様!』

「こいつらは、俺を狙うようになっている。ライが居れば大丈夫だ」

『はい』『任せて!』

カイが起動していたスキルをキャンセルして、走り出す。
ライは、俺の肩に乗り移ってから、スキルを発動する。

「ライ。ゴブリンたちを囲むように、結界が張れるか?」

『近づいたら可能です』

「わかった」

カイとウミが、後方に居る1体に向かった。
逃げるそぶりは見せない。

戦闘状態になっていると判断しているのか?
それとも、何か法則があるのか?

ターゲットが俺だから、俺が近づかなければ逃げないのか?

解らないことだらけだけど、まずはこいつらを倒してしまおう。

ゴブリンに近づいた。
間合いはまだ遠い。スキルの距離だけど、スキルを使う前に・・・。

「ライ!」

『うん』

ライが、結界を発動する。

これで、スキルを使っても大丈夫だ。

刀に氷を纏わせる。
このゴブリンたちは、通常のゴブリンと違って、スキルを使ってくる。

上位種とか変異種ではない。

新種だと思われる。知識は、ゴブリンとそれほど違っていない。ただ、スキルを持っているだけか?

刀で切りつける。
硬い!

爪で反撃が来る。
交わして、腕を切り飛ばす勢いで刀を振るうが、硬い。

「ライ!レベル5。解放」

ライが持っているスキルカードで、レベル4までを使うように指示を出す。

俺も、刀に纏っていた氷を解除して、振動を付与する。レベル5のスキルだ。

これで効かなければ、距離を取って、もっと上位のスキルを使う事にする。

幸いなことに、動きはゴブリンと変わらない。
硬い事と、レベル4のスキルを使ってくる。

俺とライなら、数が倍になっても対処ができる。
しかし、このゴブリンがゼーウ街に到着したら?

ルートガーに対処ができるかギリギリだろう。スキルカードを出し惜しみしなければ勝てる可能性は高くなるが、このゴブリンが3体で終わりだと思うのは楽観すぎる考えだろう。
デ・ゼーウには対処が不可能だ。
難しい問題になってきた。

振動を付与した刀なら、新種のゴブリンの皮膚を切り裂ける。
物理耐性が強いだけで、無効にはなっていないようだ。

スキル耐性もある程度はあるのだろう。
レベル4のスキルでは、ダメージらしいダメージは見えなかったが、レベル5になるとダメージをあたえられる。

通常のゴブリンなら、スキルはレベル3で十分だ。
そもそも、スキルを使用しなくても、十分に倒せる。

3体のゴブリンを”新種”と認定して対応を行う。

「ライ。1体は、スキルを使わないで倒す」

『うん!』

あまりにも、通常のゴブリンと違う。

上位種では、武器を使う場合はあるが、スキルを使ってこない。
変異種になって、武器の代わりに属性のスキルを使ってくるが、レベル1か2程度だ。
レベル4相当のスキルを連射してこない。

ゴブリンが進化に成功している印象がある。
動いていて、鑑定が通らない。弾かれている印象もある。

俺の鑑定が通らないのは初めてじゃないが、レアな現象だ。
弱らせて、鑑定を通す必要がある。

1体は、俺が振動のスキルを付与した刀で倒した。
1体は、ライがスキルを使って倒した。

倒されたゴブリンを鑑定すると、進化体だと解るが、それだけだ。

残った1体を、スキルを使わないでダメージを蓄積させる。
刀でのダメージは、硬い皮膚に弾かれるが、徐々に傷がついているのが解る。ライの攻撃で、皮膚が溶かされているようだ。

ダメージが蓄積されれば、それだけ鑑定を弾く力も弱まってくる。

「ライ!拘束!」

ライに指示を出す。
これだけ弱まれば、拘束が可能だ。

暴れるが、ライの拘束の方が上だ。

鑑定が通った。

進化したゴブリンで合っているようだ。
スキルが3つ?

レベル3の体力強化を持っていた。

しかし、防御力が上がるようなスキルがない。
肌が硬くなるのは、レベル6の硬化かと思ったが、種族属性のようだ。

種族がゴブリンのままなのは、進化した証拠だと見てよさそうだ。
称号に、”進化体”とあるので、やはり、新種は進化に成功した個体なのだろう。

そして、俺たちが、当初”新種”だと思っていたのは、やはり進化に失敗した個体だと考えていいだろう。

「ライ。倒していいぞ!」

『はぁい』

ライが、進化したゴブリンを吸収する。
抵抗しているが、無駄な抵抗だ。

ライに溶かされていく、途中でゴブリンが倒された。
スキルカードが残された。

持っていたスキルがスキルカードにならなかった。
もともと、進化する前のゴブリンと同等のカードが残される。

進化したスキルではなく、元々のゴブリンの特性になるようだ。

強さに合っていない。
倒すのに苦労するのに、実入りが少ない。

今回が、”たまたま”の可能性だってあるのだが・・・。

『カズト様』

カイとウミも終わったようだ。

時々聞こえてきた内容では、上位種のゴブリンの進化体だと思う。
命令を出していたようには思えないが、下位のゴブリンの進化体を操っていたような感じだ。

カイとウミは、スキルを使わないで倒した。
流石に、捕縛が難しく、討伐になってしまったようだ。

スキルカードが出たが、やはり進化前の上位種のゴブリンと同等のようだ。

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