【第二十三章 旅行】第二百三十九話
「カズト・ツクモ様」
「あ?」
朝早くに起こされた。
別に起こされるのは問題ではない。それからスケジュールが詰め込まれている。
軽く朝食を摂って、風呂に入って、着替えをした。
服装は、最初は”白”にしてほしいと言われたので、用意された服を着る。
そして、神殿区に向かう。
神殿の入り口で、待っていると、馬車が止まる。
ギュアンとフリーゼがシロを誘導してきた。
フラビアとリカルダはすでに、神殿の中に居る。
「シロ」
「カズトさん。僕・・・」
「シロ。綺麗だよ」
いつまでも見ていられる。
白いドレスが似合っている。
「カズト様もシロ様も見つめ合っていても困ります。皆が待っています」
俺の横をギュアンが、シロの横をフリーゼが歩く。
一歩前を歩くのが正しいようなので、ギュアンの一歩後ろを歩く。シロが俺に腕を絡ませてくる。普段と違う靴で歩きにくいようだ。だが、歩く速度が遅いので、問題は無いだろう。
扉の前には、ヨーンとテイセンが居る。
「カズト・ツクモ様。シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュ様。ご到着」
誰が言ったのかわからないが、扉が開く。
俺がよく見てきた”教会”のようになっている。
まっすぐに進むと、メリエーラが正装で待っていた。
俺とシロに頭を下げる。
祝詞を紡ぎ始める。
十字架は何か違うと思って、この世界の女神像を中央に置いてもらった。
今、メリエーラが謳っているのが、創世の一部らしい。愛を誓う場面だと教えられた。
今日は、メリエーラが女神の代わりに、見届け人になる。明日は、クリスが見届け人になり、最終日は、各種族から選ばれた子供たちが見届け人になる。
3日になったことで、女神が”過去”/”現在”/”未来”でわけて謳うことになった。
祝詞が終わり、メリエーラが俺とシロに語りかける。
「カズト・ツクモ。シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュ。お互いの愛を認識し、運命の女神ウルズに誓いなさい」
「私、カズト・ツクモは、シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュを愛しています」
「私、シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュは、カズト・ツクモを愛しています」
これで、あとは列席した人たちから祝福を受けて終わりとなる。
ルートが予定していた時間通りに3時間後に祝福の列は終わった。
「お疲れさま」
「ルート」
「これから、自由区とダンジョン区を馬車で回ってもらいます」
「休憩はないのか?」
「馬車から手をふるだけです。大丈夫です。多分」
「”多分”ってお前・・・」
「ほら、シロ様がお待ちですよ」
「ルート!まぁいい。終わってからじっくりと話を聞くからな」
「はい。はい」
シロがフリーゼの誘導で馬車に乗り込んでいる。完全にスケジュールを受け入れているようだ。
その後はよく覚えていない。
パレードが終わって、パーティーが執り行われた。パーティーが終わって、仮の宿に戻ってきたら、シロと別々にされた。式が残り2日あるので、終わるまで別々に泊まるということらしい。聞いてないと文句を言おうかと思ったが、シロが従っているので、俺だけが文句を言うのも違うだろうと思って我慢をした。
翌日も翌々日も流れは同じだと言われた。
渡されたスケジュールで確認しているので問題はない。
なによりも、嬉しそうにしている”シロ”の為に頑張ろうと思っている。
身体は疲れているけど、頭が冴えてしまっている。
「マスター。どちらへ?」
「少しだけ、夜風に当たってくる」
「解りました。護衛をお連れください」
「あぁカイとウミが居るから大丈夫だよ。それに、すぐに戻ってくる」
普段なら、これでも引き下がらないが、今日は大丈夫なようだ。
俺も別に敷地から出ようと思っているわけではない。風を感じたいだけだ。
「ん?」
「あっツクモ様」
「リカルダか?どうした?」
「寝られなくて・・・」
「そうか・・・」
「あっ」
「なんだ?」
「ツクモ様。姫様をよろしくお願いします。わがままで、寂しがり屋で、強情で、家事も出来なければ、洗濯も苦手で、掃除も苦手な所がありますが、カズト・ツクモを心の底から愛して、尊敬しています。姫様を、悲しませないでください」
「もちろんだ。リカルダ・リカティエ・ラ・エルヴィールとフラビア・フラミュール・ラ・ファイエットに誓う。カズト・ツクモは、一生涯、シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュを愛する。二人で幸せになる」
俺の前で跪いているリカルダを立たせる。
式では涙を見せていなかったが、今は涙を流している。
「お願いすることしか出来ません。カズト・ツクモ様。姫様をお願いします」
俺に頭を下げて、リカルダはあてがわれている部屋に戻るのだろう。
「フラビア。居るのだろう?」
リカルダが歩いていった方向とは反対方向の柱から、フラビアが出てくる。
「いつから?」
「最初からって答えればいいか?」
「・・・」
「リカルダを立たせた時に、気配を感じた」
「そうですか・・・」
「どうした?」
「カズト・ツクモ様。姫様をお願いします」
「解っている。シロだけじゃなくて、お前たちも俺の家族だと思っている」
「え・・・。ありがとうございます」
フラビアも俺に深々と頭を下げてから、部屋に戻っていった。
「ふぅ・・・。俺も部屋に戻って寝るか、明日も挨拶が長々と続くだろうからな」
—
「今日は、”白”から”黒”で良かったのか?」
「はい。お願いします」
式は、”白”で式に出て、馬車に乗る前に”黒”に着替えて、そのままパーティーに出席する。
今日は、式が終わってパレードが終われば、あとはパーティーだけだ。
シロとゆっくり出来ないけど、昨日より疲れないだろうとは考えた・・・。
式では、今日はクリスが女神の代わりを行う。
ルートのドヤ顔がうざかったがしょうがない。確かに、クリスも綺麗になっている。シロの方が、可愛くて綺麗だけどな。
「カズト・ツクモ。シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュ。お互いの愛を認識し、現在の女神ヴェルザンディに誓いなさい」
「私、カズト・ツクモは、シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュを愛しています」
「私、シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュは、カズト・ツクモを愛しています」
これで、後は挨拶を受けるだけだ。シロ側の列席者が殆ど変わらないから、昨日に比べると時間が半分で終了する。
なんて思っていたのが甘かった。
今日は、商人が多く参列している。そのために、貢物が多く、受け取るだけで大変だ。リーリアとオリヴィエが眷属たちと整理をしてくれているが、先が見えない。
結局、昨日と同じくらいの時間が必要だった。
精神的な疲れが、昨日よりもひどい。
パーティー会場で、シロと話をしていたら、寝たくなってしまう。
だがこれも、明日で終わりだ。
—
最終日も、しっかりと晴れている。
元老院やルートたちがしっかりと企画して、シロたちもアトフィア教形式の式が挙げられたと控えめながら喜んでいる。
今日は、疲れから早くに起きてしまった。
まだ1時間以上あるのか・・・。
朝日でも見ながら風に当たろう。
「え?カズトさん」
「シロ?」
「なんだか、目が冷めてしまって・・・。それに、カズトさんのことを考えたら、リカルダが初日にカズトさんに会ったと聞かされて・・・」
「シロ。少し、話をしないか?」
「いいのですか?」
「シロの準備の時間があるだろうから、それまでなら大丈夫だろう?」
どうせ、フラビアかリカルダが付いてきているだろう。
「カズトさん。ありがとうございます」
「ん?」
「僕のわがままを聞いてくれて・・・」
「わがままでも、なんでもないよ。シロの希望を叶えるのが、俺の喜びだからな」
「僕」
「あぁシロ。一緒に、幸せになろうな」
「はい!」
時間まで、シロと出会いからの話をした。
恥ずかしそうにしているシロを虐めている気分になってしまったが、シロが話を聞いてくる。
いろいろ乗り越えて、シロは俺の隣に立っている。
「姫様。もうしわけありません。準備をお願い致します」
予想通り、リカルダが迎えに来た。
少しだけ帰るのを嫌がったシロだったが、今日で離れ離れは終わりで明日からは屋敷で二人きりで過ごすと説明されて、後ろを何度も振り向きながら帰っていった。
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