【第十章 エルフの里】第十六話 ネタバラシ
長老との話はマルスを通して、リーゼも聞いていた。
リーゼが自分の責任だと言い始めてしまったためだ。リーゼに責任は一切ない。元々が、リーゼの願いが始まりだったが、今回の件は間違いなく、エルフ側の問題だ。
アーティファクトに手を出そうとしなければ、この自体にはなっていない。
それを含めて解らせるために、リーゼには聞かせていた。
宿に戻ると、リーゼが抱きついてきた。
「リーゼ?」
「ごめん。ごめん。ごめん」
泣き顔で、俺に抱きついてきたリーゼは、謝るだけだ。
何に対して、謝っているのか?リーゼが俺に謝るようなことは無い。
「リーゼ。落ち着け」
「うん。僕、ヤスに・・・。ごめん」
「いいよ。リーゼの為に、やったことじゃない。俺の気分が悪かったから、俺のわがままでやっただけだ」
「でも、僕が居たから・・・」
「リーゼ。前にも言ったが、それは違う。あいつらは、俺の大切な物に手を出した」
「大切な者?」
「そうだ。俺が大切にしている物だ」
しばらく、俺の腕の中で、リーゼは、”大切な者”と連呼していた。美少女に泣きつかれるようなシチュエーションは初めてでどうしていいのかわからないが、気持ちは、悪くない。リーゼは、俺の心配をしてくれていたようだ。
「リーゼ。部屋に入るか?説明もしておいたほうがいいだろう」
「うん!わかった」
リーゼの肩を抱きながら部屋に戻る。
アーティファクトとして説明をしているが、無線機を回収する。距離のテストはしていないが、100メートルとかの距離では問題なく通話ができる。多分、神殿との通話も可能な物だ。この世界に存在している魔道具の立場をなくしてしまうのは問題だ。
それに、権利を持っているのがリーゼなのだから、できる限りリーゼの権利を侵害するような物は出したくない。
中継機の大本が、エルフの里に有るのは確実だ。長老の反応から、中継機の大本をエルフの里が確保している。それを奪われるのが、問題なのだろう。しかし、移動や解析には、リーゼが持っている”鍵”が必要だ。エルフは、何を守っているのか?
俺の推測と、中継機を解析したマルスからの考察だ。
部屋にある椅子に座って、温かい飲み物を用意する。
食べ物は、つまめる程度の物を取り出した。リーゼが用意すると言っていたが、座らせておくことにした。
「それで、リーゼ。リーゼに相談しないで、権利を天秤において悪かった」
「ううん。いいよ。僕には、使いみちがない物だし・・・」
「でも、母親と父親の遺品になるのだろう?」
「うーん。よくわからない。僕が、もらった物には違いないけど、僕には必要ない物だし・・・。ヤスがうまく使ってくれるのなら、いいよ」
「わかった。エルフの長老とした話で大筋はすすめる」
「でも、いいの?」
「ん?なに?」
「なんか、大きな貨幣を請求できるのでしょ?」
「あぁ別に問題はない。それに、借金を肩代わりするための金を出しても痛くないからな」
「え?なんで?足りないよね?」
リーゼは気にしているが、足りない・・・。ことは、無いのだが、話のススメ方で、足りないように感じているのだろう。
エルフの長老が、自分たちは”損”をしていないと思えることが大事で、実際の動きはそれほど重要ではない。
「まず、リーゼが気にする必要はない。これは、理解してくれ、そして、覚えておいて欲しい。いいな」
「うん。ヤスが、僕を思ってくれているの・・・。だよね?」
そんな仕草をどこで覚えたと言いたいけど、縋るような目で見られたらうなずくしか無い。
「あぁ」
「うん。僕は大丈夫。ヤスが居てくれれば怖くない」
うーん。
何が怖いのかわからないけど、大丈夫だと言っているのだから、大丈夫なのだろう。
「そうか・・・」
紅茶を飲みながら、リーゼを観察するが、本当に問題はないようだ。
泣きそうな、縋るような目ではない。いつもとは少しだけ違う感じがしているが、いつもどおりの・・・。”いつも”に、近いリーゼだ。
「うん」
「それで、リーゼが持っている物だけど、俺にあずけてくれるよな?」
「うん!いいよ!」
これで、リーゼの了承が取れた。
あとは、エルフを罠に嵌めた奴らに、煮え湯を飲ませれば、ミッションとしては、完遂になるかな。
あっ!リーゼを、エルフの里に連れて行かないと・・・。
でも、父親の痕跡は、長老たちに消されているのだろう。
どうやら、俺と同じ”人非人”だったようだし、エルフ族からは嫌われていたのだろう。
俺は、マルスが居たからなんとかなったかもしれない。最初に出会ったのが、リーゼだったのも運が良かったかもしれない。めぐり合わせが、リーゼの父親よりも、俺の方が、”運の面で”よかったのだろう。
リーゼには、”償い”の代償を説明しておいたほうが良いかもしれない。
エルフ族に関しては、この位だろう。
「リーゼ。エルフの里はどうする?お前が行くのなら、付き合うぞ?」
「うーん。僕、どっちでもいいかな?パパのことが何か解るかと思ったけど、なさそうだし・・・」
「そうだな」
さて、ラフネスに金を渡す必要はなさそうだけど、どうするかな?
俺の前に出てこられるとは思えないし、アフネスに連絡して、窮状を伝えてくるか?アクションが発生してから対応すればいいだろう。
面倒だというのが大きな理由だ。
リーゼが質問という形で、自分が疑問に思ったことを語ってくれている。
俺は、リーゼが納得するまで話に付き合うことにした。リーゼが少しだけ眠たそうになりはじめた。
「リーゼ。質問なら、いつでも答えるから、少しだけ横になるか?」
「うん。ヤス?」
「なんだ?」
「僕・・・。ううん。少しだけ横になる」
「そうしろ」
「うん。ヤス。側に居て・・・。ダメ?」
「いいぞ。姫が寝るまで、側で護衛しますよ」
「・・・。うん。ありがとう」
リーゼがベッドに身体を預けるのを見て、ベッドに背を向ける。
側に居るのを意識してもらえばいい。ネタバラシは十分だとは言えないが、リーゼが納得できるのかが・・・。大事だ。
ん?
スマホに警告が出ている。部屋に張った結界に触れた者が居るのだろう。ラフネスは近づかないだろうから、別の奴か?
『マルス!』
『部屋の前に、エルフ族の長老と思われる個体の反応があります』
『1人か?』
『是。単独です』
『マルス。俺に結界を発動』
『了』
扉を開けると、長老が驚いた表情をしているが、何か納得した感じを受ける目で俺を見る。
「神殿の主殿。長老衆の返答を伝えたい。よろしいか?」
後ろを振り返ると、リーゼが寝ているのが目に入る。
もう寝息が聞こえてきそうだ。
「わかった。下に行こう」
「わかった。感謝する」
長老に付いて、宿の一階に移動する。
宿の周りをエルフが囲っているが、危険な感じがしない。警戒している雰囲気が強い。
長老が言い聞かせているのだろう。これ以上、俺を刺激したくないという雰囲気が長老から伝わってくる。
宿屋に併設している食堂の奥に通される。
長老が、先に座って、出された飲み物を口にする。
俺の前に置かれたカップにも同じものが注がれる。毒を入れる意味がないから、素直に長老の前に座る。
さて、長老の表情から、こちらに全面的に従うと言い出すだろうけど、何か条件を付けてきそうだな。リーゼの持っている権利はそれだけ大事なのだろうけど、もともとはエルフ族の者ではない。搾取してきた者たちは、搾取ではなく自分の権利だと思っているのだろう。人族なら数世代に渡っているかもしれないけど、長命な種族だと1世代で十分だろうから、当時の話を知っている者も居るだろう。アフネス辺りが出てきたら話が一気に進みそうだけど、軋轢も生まれそうだな。違うな。軋轢はすでに存在していて、それが酷いことになるのだろう。
それでなければ、ラナからの依頼ではなく、アフネスからの依頼で、リーゼではなく、アフネスが付いてきたはずだ。
長老は、今度は遮音の結界を持ってきている。
外に居る者に話を聞かれたくないのだろう。
さて、どんな話を聞かせてくれるのか・・・。楽しみだ。
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