【第二章 ギルドと魔王】第十四話 魔王は暇

 

「マイマスター。もうしわけありません」

「いいよ。セバス。見ていたから・・・。ふぅ・・・。連合国は何がしたいのかわからない。それに、あんなに弱いとは思わなかった」

 モニターに映されるのは、監視罠(罠とつければ、何でも許されると思っている)から送られてきている映像だ。森の端に、監視用に設置している物だが、今は連合国からの侵略者を迎え撃つために使っている。

 砦を築いていたのは、最初は5,000人程度だったので、モミジとカエデとナツメだけで戦ってみることになった。
 バチョウとカンウの部隊編成が終わっていないが、砦の建築が進むのは面白くないと考えたからだ。

 結界。モミジとカエデとナツメで、砦を構築している連中を全滅に追い込めそうだ。ひとまず森の近くで、肉の壁になっていた奴隷たちを捕らえて撤退させた。さすがに3人では包囲されたら、倒されないまでも怪我をする可能性はある。
 嬉々として、嫌がらせのための戦闘を繰り返すモミジとカエデとナツメは、文官だったはずだ・・・。おかしい。戦い方を見ていると、完全に脳筋の戦い方だ。俺の配下のなかで・・・。文官は、もしかしたらメアとヒアだけなのかもしれない。

 相手の力量から、砦の構築に駆り出された”奴隷”だと判断した。
 砦の建築を遅らせるために、嫌がらせを行うことにした。肉の壁になっていた奴隷たちを解放して、事情を説明した。魔王ルブランの指示に従うので、他の者たちを助けて欲しいと言ってきた。連合国は、奴隷たちを縛り付けていない。

 それから、奴隷兵たちを捕らえる作戦に切り替えた。
 砦の建築を始めた所から、本体に向けて報告が向っているので、全員を捕まえると、本体でも異常に気が付きやすい。半数以上を見逃しながら状況を見る。ヒアの提案を受け入れて、伝令に尾行をつければ、本体の位置が把握できる。

 本隊の人数は、ギルドからの情報通りだ。
 奴隷兵の数は、予想よりも多かったが、想定の範囲内だ。

 想定の範囲を逸脱しているのは・・・。

「セバス。想定の5倍以上・・・。遅い行軍だけど、何を考えているか、想像できるか?」

「マイマスター。わかりません。それから、捕らえた伝令が持っていた報告書は、全て”順調”と書かれています。もしかしたら、我らの策を見抜いて居るものが・・・」

「ん?あぁ伝令は気にしなくていい。そっちは予想が出来ている」

「え?」

「セバスたちには想像が難しいかとおもうが・・・」

 作業の遅れをごまかして報告するのは、上司が部下を信頼していない時に発生することだと説明した。他にも理由はあるのだが、セバスたちに理解がしやすい事例で説明した。

「そうなのですが、人族とは不思議な生き物です。上司に虚偽の報告をして、その時は、罰則を逃れても、意味がないと思えます」

「そうだな。それがわからないから、虚偽の報告をするのだろうな。そして、自分が虚偽の報告をしていると思わなくなってしまうのだろう。多分、この砦を構築している奴らも、自分たちはうまく出来ていると思っているのかもしれないな」

「マイマスター。本隊の到着まで、このまま砦への攻撃を続けますか?」

「それも面倒だな。どうせ、伝令でしか、状況を把握していないのだろう?」

「はい。そのようです」

「よし、元奴隷たちの戦闘訓練に使おう」

「??」

「カンウとバチョウの隊に入らなかった者たちで、まだ参加を希望した者たちが居るよな?」

「はい。4,000名程です」

 帝国の貴族は、どこまで奴隷を溜め込んでいたのかわからない。
 それも、ほぼ確実に虐待していた。酷い貴族だと、10歳未満の男児や女児を犯していた。もちろん、自分が犯される側に回るとは思っていなかったようなので、実験体になってもらった。ゴブリンやオークといった低級の魔物との戦闘を裸で行わせて、負けたらそのまま死ぬまで犯され続ける。生き残っても、次の戦闘を行う。生きながら食べられたり、スキルの実験体に使ったり、生きたまま蟲型魔物を体内に入れて生きていられるか調べたり、スライムで溶かしながらどこまで意識が保てるかの実験を行った。

「4,000は、流石に多いな。選抜をしても・・・。そうか、モミジとカエデとナツメに、100名付けて、戦いに行くように伝えてくれ、順番に4,000名が戦えるようにしてくれ、”死ぬことは許可しない”そう伝えろ」

「かしこまりました」

「あとは、カンウとバチョウが痺れを切らしそうだな」

「はい。既に、何度か本隊への突撃の許可を求めてきています」

「そうだよな。行軍が遅すぎる!ふぅ・・・。待つしか無いか。砦の奴らは、モミジたちが元奴隷たちを使って殲滅する。連合国に属している連中も居るだろう。情報を引き出したあとで、全員の首を跳ねて、森の入り口に並べておけ」

「かしこまりました!」

 伝令が届かなくなれば急ぐ可能性がある。
 そのまま帰るのなら、後方からカンウとバチョウに襲わせればいい。

 セバスが、皆に作戦の変更と、より作戦の成功率を上げるアイディアを話し合うために、モミジとカエデとナツメを呼び出した。メアとヒアも会議には参加させると言うので許可をだした。
 あとはセバスに任せることにした。

 モニターは、セバスたちの会議室にも設置している。
 16台のモニターを並べている。モニターは、それぞれ4分割して状況が表示されている。並べていない1台の大型モニターには、選んだ監視罠の状況が表示されるようになっている。仕組みは、それほど難しくはないが、セバスたちが喜んでいるので設置した意味が有ったのだろう。

 さて、セバスからの報告を待っている間に、何かを作ろう。

 魔王城も、六芒城壁も頑張って作ったけど、お披露目が出来ていない。
 帝国の貴族たちも、俺たちの慈悲で魔王城までは来られたけど、2階から上には上がってこなかった。俺が時間を費やして作った迷宮や塔を使ったギミックなど披露していない場所が多すぎる。この世界の住民は、努力が足りないと思う。

 島に作ったダンジョンも、最初は100階層にしようと思ったが、半分の50階層なのに、まだ攻略者が出ていない。それどころか、身内以外で20階層を越えた者が居ない。
 30階層を越えてから、罠や楽しいギミックが満載なのに、到達した者が出てきていない。

 このままでは、俺を倒す以前の問題だ。
 俺がまったく楽しめていない。せっかく、監視罠でいろいろな場所を見られるようにしたのに、意味がない。森の中での狩りの風景を見ていても楽しくない。うーん。島とは違う出先機関でも作ろうか?

 もっと俺が楽しめるユーモアがあふれるギミックをふんだんに使った場所を作ろう。

 案内と攻略方法を付けても良いかもしれない。
 今回の連合軍を排除しても、同じように攻めてくるだろう。次は、どこから攻められるかわからない。森は、森で残しておいて、その周りで領域に組み込めそうな場所は、3箇所か・・・。

 ステータスを見ながら確認してみる。
 ギルドからの情報と合わせると、連合国が砦を作成しようとした場所と、神聖国に隣接している場所。帝国側は、城塞村が出来てしまっている。残りの一箇所は、王国側だ。皇国側はこれ以上伸ばせない。

 連合国と神聖国は敵で確定しているから、邪魔をしてもいいだろう。
 王国は、状況を見ながらだな。皇国は、攻めてくるとしても、森を突破しなければならない。まずは、森の防御を固めておこう。堀と壁で防御をして、塔を立てておこう。森を国境線として考えるのも良いかもしれない。

 どうせ、暇だ。
 森を囲むように、壁を作ってしまおう。一日で全部を作ってしまうと、また暇になってしまう。まずは、皇国との国境を作って・・・。門は、必要ないよな。最初に話をしてきた帝国側には、島があって交流をしているから、何かしたければ、島にくればいい。まさに、出島だ。

 セバスから、変更された作戦と実行の報告が届いた。
 報告は、監視罠で見ているので、解っているが、セバスからの報告を聞くのも、俺の仕事だ。あぁ忙しい。忙しい。

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