【第六章 ギルド】第三話 王都へ

 

 ミルと二人で、マガラ渓谷の受付に並んでいる。
 チケットは持っている。通過はできるとは思うが、マガラ渓谷は敵方(アゾレム)の関所だと考えられる。

 ミルは大丈夫にしても、”死んだことになっている”俺はどういう形になるのかわからない。

「次!」

 関所の人間が偉そうにしている。

 次が俺たちの番だ。
 前は、行商人のようで、荷物を検めるのに時間が必要になっているようだ。

「リン。どうして、マガラ渓谷を越えるの?」

 ミルの素朴な質問だけど、確かに説明をしていなかった。
 まだ、時間が掛かりそうだし、簡単な説明をする時間はありそうだ。

「アゾレムは、死んだと思っているよね?」

 前提条件として、俺とマヤは村長の策略でマガラ渓谷に落とされた。
 一度は、生き残って王都に向かっている。だから、村長も慎重になって、襲わせてからマガラ渓谷に落とした。

 落ちていくのを確認して、アゾレムに報告をしたのだろう。
 今となっては、村長が得られるメリットがわからないが、村長としては、俺とマヤの二人を殺してでも得たい物だったのだろう。

「え?うん。情報が、しっかりと伝わっていれば、そうだね」

 ミルも、立花たちが俺を殺そうとしているのを聞いて駆けつけてくれた。
 マガラ渓谷に落ちたことや、生家が壊されたことで、死んだと考えているだろう。死んでいなかったとしても、自分たちの敵ではないと思っているのだろう。

「でも、王都では、書類の情報が出回っている」

「うん」

「そして、ポルタ村の村長は死んだ。ポルタ村との連絡も途絶えている」

「うん。でも、アゾレムが、そこまで気にするの?」

「うーん。それが、俺にもわからないから、マガラ渓谷で”フリークス”の名前を乗せておけば、何かが動くと思う・・・。てきな?」

「”てきな”って、それって、リンを囮に使うってことでしょ?僕は・・・」

「うーん。いきなり、俺の所に来るとは、考えられない」

「え?」

「だって、俺は死んでいるよね?報告を受けているし、最低限の調べをしているでしょ?」

「うん。そのくらいは、アイツらでもしていると思う」

「だから、ポルタ村や、マガラ渓谷を調べると思う」

「うん」

「その頃には、俺たちは、王都に入っている。王都までの行程で、街道を外せば、すれ違わないだろう?」

「そうか、アゾレム領にいる奴らは出てこないけど、王都に居る立花たちは動く可能性がある」

「うん。まぁ可能性だけどね。でも、俺たちには不都合はない。あるのは、俺が”生きている”可能性をアイツラが知ってしまうくらいだ」

「わかった。僕が、全力でリンを守ればいいのだね」

「え・・・。そうだね。ミル。頼むよ」

「うん!」

 ミルが、俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
 実際には、俺の存在を認識している者たちは少ないだろう。アゾレムも、マガラ渓谷を越える者たちを、必ず確認しているわけではない。だけど、王都で俺を見かけた情報や、俺の存在を匂わすことができれば、ミヤナック家が攻撃を行うために使っている情報が、どこから持ち出されたのか、誰が手助けしたのか、そこに”フリークス”の名前が加わるだけだ。俺の、”リン”では弱いが、”フリークス”なら違ってくる。
 ナッセやハーコムレイと話をした感触では、公爵家は”フリークス”を意識している。フリークスの名前を名乗る者が生き残っているのは、プレッシャーになるだろう。

 どうやら、前の商人は申請と荷物が違っていたようだ。
 長くなりそうだ。

 関所を守っている守備兵が、俺とミルに近づいてくる。

「次は、お前たちだな」

「はい」

 素直に返事をする。
 別に、アゾレムの兵が全て敵だとは思っていない。平穏にやり過ごせるのなら素直になっておくのもいいだろう。

「商人は、問題がある。お前たちの審査を行う」

「よろしいのですか?」

「大丈夫だ」

 大丈夫なはずは無いが、”大丈夫”と言われたので、従うことにする。

「”これ”で、マガラ渓谷に入りたいと考えています。私と彼女の二人です。急いでは居ませんが、今日中には渓谷を越えようと思っています」

「ふむ」

 ナナからもらった札を、検閲に来た兵士に渡す。札で隠すようにして、三枚の銀貨を渡すのを忘れない。袖の下だが、相場はナナに教えてもらった。兵士1人に銀貨一枚を渡すようだ。兵士は、3名いたので、二人だと6枚の銀貨になるが、半分の3枚を用意した。多すぎるのもダメだと言われた。俺とミルだけなら、相場の半分でも十分らしい。札も使っているので、多いのはダメだと教えられた。

「いい心がけだ。荷物は?」

 兵士がニヤリと笑ったので、問題はないようだ。

「手荷物だけです。お願いします」

 兵士に手荷物を見せる。
 武器も外して、兵士に渡す。接収されても問題にはならない武器だ。アイテム袋は、神殿に置いてきた。王都までギリギリたどり着けるだけの物資を入れた袋を二人で持っているだけだ。

「うむ。問題はないが、渓谷には魔物が出るぞ?護衛は必要か?」

「ありがとうございます。彼女が、私の妻が、魔法を使えます」

 兵士が明らかに興味を示した。
 俺とミルは、夫婦という設定にした。ナナから勧められた。兵士の目を欺くのに丁度いい設定だと言われた。反対すると思っていた、マヤも納得した。

「ほぉ。アゾレム家に使える気はないか?俺が紹介状を書いてやってもいいぞ」

「ありがたいお話ですが、妻は、コンラート家に奉公に行くことが決まっています」

「コンラート家?あの?教会五家のか?」

「はい。幸運にも、縁がありまして、アゾレム様も魅力的なのですが、コンラート家に無断で・・・」

「そ、そうだな。支払いをした証明と割符を持ってくる。記名して待て」

「はい。わかりました。お勤めお疲れ様です」

 兵士が屯所に駆け込むのを見て、ミルが息を吐き出した。
 緊張していたようだ。

「リン?」

「ん?記名を済ませてしまおう。偽装しておいてよかったな」

「うん(これで、僕とリンは夫婦だね)」

「ん?何?」

「なんでもない。ほら、兵士が戻ってきたよ」

 記名した物を兵士に返した。名前の確認もしないで、兵士は割符と支払い証明を渡してきた。札の仕組みは、多分ここの兵士たちが独断で始めたことだろう。支払い証明に書かれた金額は、銀貨6枚と書かれていた。別に、領収書があれば経費で落ちるような世界ではないので気にしない。問題が発生しても、自己責任になるだけだ。記名した物が、まとめられて集められた銀貨と一緒にアゾレムの収入になっている。

 荷物も問題はなしと言われた。
 コンラートの名前が聞いたのかわからないが、すんなりと通過できた。商人が、俺たちを睨んでいるが、気にしないことにした。

 正直に言えば、マガラ渓谷に出てくる魔物なら、ミルの魔法を使う必要もない。剣も使わないでも、蹴り倒すか、蹴り落とせばいい。俺たちが落ちても、神殿が助けてくれるのは確認が出来ている。気楽な状態だ。

 俺とミルは、駆け抜けるようにマガラ渓谷を抜ける。急ぐ必要はないが、記名した物を見た者たちが、俺たちを追ってくることも考えられる。

 結局、魔物には遭遇しないで、メロナに到着した。
 こちらの関所も、アゾレムの兵士が担当をしているようだ。前は、違った気がしたが・・・。

 気にしてもしょうがないので、証明書を見せて、割符を渡した。
 抜け出すときには、袖の下は必要がない。簡単な荷物チェックだけされた。荷物チェックの意味がわからないが、なぜかチェックされる。

「通って、よし」

 偉そうな言葉に、恭しく頭を下げてから、関所を出る。
 これで、メロナに到着した。ミヤナック家が持っている屋敷に駆け込むことも考えたが、王都に向かったほうがいいだろうと言うのが、ナナの言葉だ。

 素直に従う。
 メロナでは、食料品が割高になっているので、無理に買わないで次の町か村で補給を行う。

 ここからは、街道を外れて王都に向かうことにしている。
 アゾレムや王都から、人が来るのなら、街道を使うだろう。俺が向かっていることがわかれば、街道に罠を張るだろう。

「ミル。王都に向かおう」

「うん!」

 俺とミルなら、街道を外れた場所の移動でも困らない。アウレイアやアイルとの合流も可能になるし、新しい魔物との出会いも期待できる。