【第七章 日常】第二話 出発
晴海の目覚めは最高ではなかった。
昨晩、晴海は全裸の夕花に抱きつかれて寝たのだ。寝る寸前まで、夕花が身体を押し付けてくるので、耐えるのが大変だった。夕花は、晴海が反応したのを感じて安心したのか足を絡ませるようにして晴海を触りながら眠りについた。
晴海が寝たのは、夕花の寝息が聞こえてきてから30分ほど経ってからだった。
晴海の方が早く起きた。まだ身体を密着させている夕花のおでこに軽くキスをしてから、布団から抜け出した。
身体が夕花からする甘酸っぱい匂いで満たされていた。腕や足には夕花の柔らかい感触が残っている。布団から出て、考えたが、起こさなければ拗ねる可能性があると思い直して、夕花を起こした。
夕花は、頭が起き出してきて、昨晩の状況を思い出した。自分が何をしたのかも思い出したようだ。
顔だけではなく、胸まで赤くしたが、布団を外して、全身を顕にして両手を広げた。全部見て欲しい、全部晴海の物だと訴えているのだ。
それが解らないほど愚かではない晴海は、全裸の夕花を優しく抱きしめて、舌を絡ませるキスをする。
キスをしてから、夕花を抱き抱えて起こした。
「おはようございます。旦那様」
「おはよう。奥様」
言葉を交わしてから、またキスをする。
今度は唇をあわせるだけの優しいキスだ。
晴海に全裸を見られた。夕花はその事実だけで恥ずかしくてしょうがなかった。しかし、寝るときに反応する晴海が嬉しくて、いろいろ駄目なこともしてしまった。知識としては持っていた。動画や画像で見たことがあった。実際にやってみようかと思ったが、晴海が許してくれなかった。触るのだけは許してくれたので、触ってみた。いろいろびっくりした。触っている間に安心して眠くなってしまって、触りながら・・・。固い感触を感じながら寝てしまった。手には感触が残っている。晴海には内緒だけど、自分も触っていた。晴海が触ってくれないから、自分で触ったのだ。
そして、そのまま寝てしまった。
身体を離してからお互いの身体を見て笑ってしまった。
なぜだから笑えてきたのだ。
それから、風呂に二人で入った。
下着と服を新しい物に変えて、お茶でも飲もうかと思ったときに、夕花の情報端末にコールが入った。
朝食の準備が出来ているという連絡だ。昨晩の夕食と同じ様に部屋に持ってきてもらう様に頼んだ。部屋で食事をとるには30分ほど時間が必要だと言われたので、晴海と夕花は今日の行動を決めることにした。
「まっすぐに伊豆に向かわれるのですか?」
「うーん。それだと、昼過ぎには到着しちゃうからな・・・」
「それでいいのでは?」
「なんとなく、逃げている身としては、暗くなってから隠れ家に入るのが様式美だと思うのだけどね」
晴海のなんとも言えないブラックジョークに夕花は返事が出来ない。晴海も、別に返事を期待しているわけではないので、問題ではない。
「そうだ!夕花。船舶1級をめざすのだよね?」
「はい。能見さんから、船舶は必須だと言われています」
「確か、白浜の方に、ヨットハーバーがあってその近くに試験場があったと思うから下見に行こう」
「え?よろしいのですか?」
「うん。可愛い奥さんのためだからね。それに、天城峠は、コミュニケーターは走らないから、尾行が付いたらわかりやすいし、天城峠ならドライバーの腕次第だから、いいと思う」
いろいろ言葉足らずだが、晴海が問題ないと言っているので、夕花は問題がないと思った。
「ありがとうございます。私も、優しくて格好いい旦那様で嬉しいです」
夕花の反撃で晴海が照れてしまった。
天城峠は、旧国道414号線で現在はコミュニケーターでは走られない道路になっている。伊豆の中心部を通っている道路だが、伊豆中央道が完成してからは使われなくなってしまった道路だ。元々、谷間を利用して作られた道路で道が複雑になっている上にアップダウンが激しいし、ブラインドになっているカーブも多い。一部区間を除いてすれ違うのがギリギリな幅になっている。一部の道は上りと下りが専用に分かれている。道幅も安全に考慮された道幅になっている。コミュニケーターに慣れない人たちが、”走り”に来ているのでも有名なのだ。
「旦那様?」
「夕花?前のように名前で呼んで欲しい。駄目か?」
夕花は、意図して名前で呼ばないようにしていた。気持ちの確認が出来て、今更ながら照れくさくなってしまったのだ。
「晴海さん」
名前を口にしただけで、顔が赤くなるのが解ってしまった。
晴海は、そんな夕花が可愛くて仕方がなかった。抱きしめて、額にキスをした。
そのまま、抱き合っていたら、部屋のコールが光って、朝食の準備が出来たと知らせがはいった。
食事は、リビングに用意されていた。
寝室からリビングに出て、用意されている朝食を食べてから、荷物をまとめた。
「そうだ。夕花、途中で、ショッピングモールに寄ろう」
「はい。わかりました」
「夕花の下着を買わないとダメだろう?」
「え・・・。あっ・・・。はい」
「夕花。それに、えぇ・・・とだな。女性の為の下着や用品を買っていないだろう?」
夕花は、奴隷の嗜みとして、セクシーな下着を大量に持たされている。日常的に身につけるような下着も数は少ないが用意されている。
セクシーな下着は、晴海の前だけで身につければいいので問題ではないが、学校に行くときや近くに買い物に行くのには不釣り合いだ。下着の数を考えると予備で何着か買っておくのもいいだろうという判断だ。それに、晴海はすっかりと忘れていた。昨日一緒に寝たので思い出した内容があった。
「あっ・・・」
夕花も心当たりがあってすぐにわかったが、夕花は必要ないと思い買っていなかったのだ。
技術の進歩なのか、欲望の進歩なのか、夕花にはわからないが、安全に生理を止める薬が開発されている。避妊薬にもなる薬で、奴隷市場で処方された。今は飲んでいないが、薬を飲まなくなってから約30日は効果が持続する(作用期間には、個人差がある)ので、次の生理までは大丈夫だと思っていた。学校に通いだしてからでも間に合うと思っていたのだ。
「晴海さん。奴隷市場で、薬を処方されたので、しばらくは大丈夫です」
夕花は、正直に晴海に告げる。
「そう言えば、そんなことを聞いた気がする。でも、必要になる可能性だってあるし、急に来たら困るだろう?」
「・・・。はい」
「うん。無理に買う必要は無いけど、日用品も買っていこう。今度は、生活するのに必要な物だよ」
晴海は、能見からの準備が終了したという報告を開いて、夕花に見せる。
確かに住めるようにはなっている。動画が付いていて、家の様子が見られる。変な所で凝る能見らしい報告書だ。
「実際に、買ってあるかも知れないのですが、晴海さんの言っている意味がわかりました」
「うん。トイレットペーパとか、ティッシュペーパーとか、あと、タオルや、歯ブラシも、なさそうだし、玄関マットとか、ちょっとした小物で無いものが多そうだよね。僕は、あまりそういうのに詳しくないから、夕花に任せていい?動画は、夕花の情報端末に送るから、見ながら必要な物をリストアップしてよ」
「わかりました。アウトレットモールでも購入しましたが、足りない物が多そうですね」
「うん。家具とかの大物は、能見に準備させるよ」
「わかりました」
「さて、夕花に買い物を任せるとして、そろそろチェックアウトしようか!」
「はい。晴海さん。手続きをします」
チェックアウトは簡単だ。
情報端末からチェックアウトを行えば終了する。部屋の電子ロックは、これで切り替わるので返す必要はない。部屋の備品で有料の物を使っている場合でも、情報端末で確認をして問題がなければ自動的に処理される。問題があった場合だけ従業員がくるのだ。
部屋の清掃を行った後で宿側が問題なしとすれば、情報端末との接続認証が切られる。
晴海は、夕花を助手席に乗せて、車をスタートさせる。
軽快なハンドルさばきで、天城峠を目指す。立ち寄ろうとしているショッピングモールは白浜の近くにある道の駅に併設している場所だ。
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