【第二十九章 鉱山】第二百九十八話
新種の話は、十分ではないが、船長からの証言が取れた。
やはり、海上だろうと、新種は存在している。
問題は、”どこから来たのか?”だ。
最初に考えたことは、船長の言葉で潰された。
中央大陸よりも、他の大陸の方がおおいと感じているようだ。
もしかしたら、中央大陸では既に”新種”になっていて、”できそこない”が居ない可能性もある。
そう考えると・・・。
やはり、新種は人為的に作られているのか?
解らないことが増えただけだが・・・。知らないよりは”まし”だと考えておこう。
「ツクモ様」
船長からの伝言を受け取る。
中央大陸に接岸するための待ち行列が発生しているようだ。
部屋から外に出ると、潮の匂いが強くなっている。
あの町もこんな匂いだった。異世界に来て、懐かしく思うのも不思議だが、やはり・・・。潮風は、いろいろと思い出してしまう。
「ツクモ様は、海が怖くないのですか?」
行きかう船を見ていると、船長が話しかけてきた。
「すまん。言っている意味が解らない。怖い?」
「陸の人間に、海が怖いと言われる事が多いから、ツクモ様の様に、船から身を乗り出して、海を見ている人を見た事がなくて・・・」
「そうか?そうだな。”畏怖”は感じるけど、怖いとは違うな。海は、全ての始まりだと思っている。それに、絶対に敵わない存在だけど、恐れる必要は無いのだろう?」
「・・・。そうですね」
「しっかりと、海は知らせてくれるだろう?」
「え?あっ。そうですね。荒れる前には、海が、風が、教えてくれる」
「だから、”怖い”とは思わない」
「そうですか・・・」
船長が、遠くを見始めたので、合わせた。
船首では、何か合図を受け取ったようだ。
船員たちが動き始める。
船長も、それに合わせて、俺に頭を下げてから、船長室に戻るようだ。接岸まで、安全には注意するが揺れる可能性があるから、注意して欲しいと言われた。戻るのも面倒なので、外が見える場所で座って待っていることにした。
カイとウミが近づいてきた。ルートガーを連れている。
「ここに居たのか?」
「どうした?」
「部屋に居なかったから探していた」
「悪い」
「いい。船長と話をしていたのなら、聞いているのだろう?」
「接岸が遅れた事か?」
「そうだ」
「あぁ。お前も座れよ。揺れるぞ?」
「そうだな」
珍しく、ルートガーが俺の隣に座ってくる。
「なんだよ」
ルートガーが俺の顔を見ながら悪態をついてきた。
「”珍しい”と思っただけだ」
「・・・」
「どうした?」
「あぁ・・・」
ルートガーが俺を見て、何かを納得しているのだが、気分が悪い。
「話せよ。接岸するまでの、暇つぶしにはなるだろう?」
カイが珍しく甘えてきている。
顎を俺の腿に載せてきている。俺が寛いでいるので、カイもウミも落ち着いているのだろう。日向は気持ちがいいのだろう。船の揺れが丁度いい音かもしれない。ウミは俺の横で丸くなっている。
「頑張りすぎる感じがする」
「ん?クリスの従者か?」
「そうだ」
「そりゃぁお前を見て、従者も考えているのだろうからな」
「・・・」
「なんだ、解っているのなら、お前が、行動を改めればいいだけだろう?」
「それが・・・。それが出来れば!」
ルートガーは、俺の胸倉を掴んで立ち上がった。
軽く持ち上げられる状態になって、カイが驚いたが、ルートガーから殺気が放たれていない事もあって慌てない。ウミは寝たままだ。
「離せよ。カイが驚いているだろう?」
「っ。俺は・・・。お前が、しっかりすれば・・・」
「違うな。ルート。お前は、怖いのだろう?」
「怖い?お前を?」
「違う。違う。自分が、必要ないと言われるのが怖いのだろう?」
「そんな事・・・」
「大丈夫だ」
「え?」
「お前が、少しくらい休んでも、チアル大陸は回る。少しくらい・・・。お前がやらなければ、他の奴が頑張るだけだ」
「・・・。頑張らなかったら?」
「そりゃぁ、また別の奴が頑張るだろう」
「・・・」
「ルート。力を抜け。丁度いい機会だ。お前は、ダンジョンに来るな」
「え?」
「4人は俺が連れて行く。お前には、他の事を頼む」
「・・・」
「おっ接岸するようだぞ。揺れるから、座れよ」
「あぁ・・・」
無理矢理になってしまったが、ルートガーから4人を引き離した。
知人が少ない。殆ど居ない場所で、暫く過ごしてみればいい。ルートガーが何かを掴んでくれれば、今回のダンジョン攻略は成功だろう。
ルートガーが成長して、長老衆に名を連ねられる様になれば、チアル大陸は安泰だろう。
俺やルートガーが、頑張らなければならないような状況は正常ではない。俺たちは、”責任”だけを考えればいい。チアル大陸に影響が及ばないようにすることだけを考えればいい。
内部の事で、ルートガーが齷齪動く時期は過ぎている。
俺が、ルートガーに押し付けすぎた感じはするが・・・。
もう、そろそろ、ルートガーも部下となる者たちに役割を分配して、責任だけを考えればいい。
接岸が終了して、先に荷物を降ろすようだ。
荷物を岸から離れたところまで移動した所で、人が降りる。
俺たちだけだから、それほど時間は掛からない。
「おいおい」
「どうした?」
「出迎えに、来てはダメな奴が居る」
「え?」
そうか、ルートガーは直接の面識はないよな。
俺も、フットワークが軽いが、お前はダメだろう。
「デ・ゼーウ殿。出迎え、感謝する」
「いえいえ、ツクモ様が来ていただけると聞いて、馳せ参じました」
にこやかに笑っているが・・・。
”なんで、お前が来る”と問いかけているように見えてしまう。
「最良の手だと思っている。ダンジョンを攻略する。ドワーフの問題もなんとかなると思うぞ?それで、手続きは?」
差し出された手を握って、にこやかに話しかける。
「終わっている。ツクモ様と眷属だけだと聞いていますが?」
「あぁすまん。4人追加して欲しい。俺の従者として連れて行く」
「構いませんが?」
「大丈夫だ。ダンジョン内の流儀は解っている」
「それならいい。ファビアンを連れて行くか?」
「必要ない」
「そうだろうな」
「そうだ。報酬の話をしていなかったな」
「おっ・・・。そうか?」
流石だな。
俺たちの力を使うだけ使ってから、勝手にやったというつもりだったのか?
それでも良かったのだが、今は欲しい物がある。
「俺たちが戻って来るまで、ルートガーを預けたい」
「ん?ツクモ様の従者の一人か?」
「今は、そうだ。チアル大陸の統治者の一人だ。俺が戻って来るまで好きに使ってくれ」
「おい!」「いいのか?俺が、チアル大陸の情報を絞りだすかもしれないぞ?」
「出来るのなら、挑戦してみてくれ、ルートガーは、俺の命を狙ったことがある。やりすぎると、命を狙われるぞ?俺でもギリギリだったぞ」
「おいおい。そんな爆弾をおいて行くなよ」
「報酬の一部だ。ドワーフの問題と合わせて、解決したら、報酬の上乗せを期待している。報酬も、ルートガーと話し合ってくれ。俺は、二人で決めた結果に従う」
デ・ゼーウが、ルートガーを舐めるように見てから、頷いて、手を離してきた。
ルートガーに仕事を割り振って、デ・ゼーウの動きを牽制できる状況に持ち込めた。
怖いのが、俺たちがダンジョンにアタックしている時にデ・ゼーウが他の街との間で取り決めを結ぶことだ。あと、ドワーフたちに、空手形を切るのも避けられそうだ。既に、空手形を切っている場合でも、ルートガーが居れば大丈夫だろう。
さて、どうなるか・・・。
俺たちは、楽しくダンジョンアタックをしよう。
4人にもしっかりと戦闘訓練をしてもらえばいい。ルートガーとクリスティーネを逃がせる位には成長してくれるだろう。
ダンジョンの攻略が出来れば、自信にも繋がるだろう。
そうなれば、頑張りすぎる悪癖も治るかもしれない。ルートガーがおさまりそうにないから無理か?
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