【第九章 ユーラット】第七話 第一回 報告会

 

今日は、私が議長を務める会議が神殿の一室で行われます。ギルドが入っている場所です。ふぅ・・・。少しだけ、本当に少しだけ心配です。
もう、何度も行っているので、会議には不安はありません。初めての議題で、皆の感心が高いです。感心が高いために、参加者の数も多いのが少しだけ心配です。予定の調整を行って、準備された会議室の広さからも、注目度がわかります。

自分が提案した会議です。資料もしっかりと作り込みました。

新しく加わる議題が少々・・・。では、なく・・・。面倒です。
前半は、報告がメインです。ミスがなければ、問題にはなりません。そのあとで、会議室を変えて行われる後半がどうなるのか解らないのがネックです。

ヤス様も、リーゼ様も、依頼でエルフの里に出かけて、なんで帝国の姫を拾ってくるのでしょうか?
それもとびっきり面倒な『オリビア・ド・ラ・ミナルディ・ラインラント・アデヴィット』を・・・。会って、話をすれば、”いい子”だと解るけど・・・。
本人は、”身分は捨てた”と言っていますが、帝国に確認した所、しっかりとオリビアは、帝国の姫として認識されていて、現在も”姫”として登録されています。”籍”を消す手続きは無いのでしょう。帝国で、オリビア姫が”死んだ”ことにならない限りは、”身分は捨てた”ことにならないのでしょう。

辺境伯の娘である私が言えたことではないが、王国の王女が出入りして、屋台で焼き鳥を買って食べるような場所ですから、帝国の姫が居ても不思議ではないとは思います。
神殿は、神殿なので、対王国なら問題はありません。しかし、同じ理屈が帝国には通用しません。それこそ、帝国で政権交代が発生して、オリビア姫の価値がなくなる状態にならなければ、無理でしょう。辺境伯である。お父様も同じように考えているようです。

しかし、お父様・・・。
娘に”任せる”だけは酷いと思います。それも、意味がない”注視している”だけ書かれても嬉しくもありません。お父様のことを考えて、細かく、それも詳細に、資料をまとめて送ったら、概要だけで十分だと言われてしまいました。忙しいのはわかりますが、辺境伯であるお父様が、帝国の姫から齎した情報を蔑ろにするのは間違っていると思います。
今日の資料と、資料の作成時にまとめたメモを含めて、お父様に送り付けることが決定しています。お兄様にも、お送りします。是非、読み込んで欲しいです。辺境伯の軍の一部を解体したのを知っています。神殿が王国に攻めてきたらどうするつもりなのですか?確かに、攻められたら、対応が不可能なのはわかりますが・・・。

ダメですね。資料を読みながら、お父様の対応を思い出して、”怒り”が戻ってきました。
深呼吸をして感情を落ち着かせましょう。

「お嬢様?」

マリーカが、ホットチョコレートを持ってきてくれた。お礼を言って受け取る。疲れた頭には優しい甘さが嬉しい。

会議まではまだ時間があるようです。もう一度、資料を読み込んでおいた方がいいでしょう。
後半に繋がる情報はないとは思いますが、確認は無駄ではないでしょう。前半の資料は回収しますが、皆が心配しているのも解ります。特に、ユーラットでは問題になっています。情報の抜けがあると、ユーラット対応が間違える可能性があります。注意しなければなりません。

そもそも、資料に突っ込みを入れて来るような者は居まいと思います。私が資料をまとめている間にも、リーゼ様とご本人が動き回っていたので、ある程度の情報は、皆と共有が出来ています。私は、拡散してしまった情報をまとめて、時系列にまとめて、必要な補足をつけ足しただけです。それでも、膨大な資料になってしまいました。

前半は、大きな問題は無いでしょう。問題は、後半です。アフネス様ではなく、ラナ殿が代わりに参加すると言ってきてくれたのが、唯一の救いです。しかし、それを合わせて、考えれば、ヤス様に提言しなければならない時期が来ているかもしれない。

「マリーカ。前半の問題点は?」

「カイル様とイチカ様からの証言しだいですが、問題はないと思われます。ルーサ様からも証言を頂いております」

イチカは、後半も参加するので、大丈夫でしょう。
今日まで、カイルと膝を付き合わせて話が出来なかったのが悔やまれます。

「リーゼは来ないのよね?」

「はい。オリビア様とカート場に居ると思われます。こちらに向った時には、ファーストから連絡が入ります」

よかった。
リーゼが来ると話せない内容が増えてしまいます。
私は、話してもいいと思っていますが・・・。アフネス様が・・・。怖いから考えてはダメです。私は、まだ死にたくありません。

「問題は、アデーだけね?」

「アーデルベルト殿下は、後半からの参加です」

後半が面倒なことは既に解っています。紛糾するとは思っていません。序列も決まっています。決まっていないのは、序列が一番上だと思われているご本人が自由すぎることです。
私とアデーとドーリスとイチカとアドバイザー役としてのラナ殿です。”女子会”と呼ばれる会合です。他にも、数名の”女子”が参加を希望しているのだが、資格を有していないと断っています。正確には・・・。
ヤス様の”正妻”がリーゼなのは本人以外には確定な事ですが、なんとか”夫人”や”側室”に滑り込めないか考えています。この考えになったのは、アデーが持ってきた情報が拍車をかけました。

「マリーカ。アデーが持ってきた情報を”どう”考える?」

「”どう”と、言われましても、そのままだと思います」

「真偽は考えないのね?」

「意味がありません」

「え?」

「そもそも、どうやって確認をされるのですか?」

「あっ・・・。そうか、リーゼが選ばれても・・・。問題は、私たちではどうやっても確認ができない」

「はい。ですので、”ある”と考えて、行動するのが”よい”と思っております」

確かに、アデーが持ってきた”過去の神殿攻略者”の情報でも、王国の始祖と言われる人物は、該当から外れている。

情報が無くても、ヤス様の”夫人”や”側室”になりたいと思うのは自然な流れです。
神殿の主であり、一国の王と同等の権限を持ち、経済力では、お父様を越えて、陛下に届きかねません。それも、陛下の個人資産ではなく、王国の総資産です。支配領域の大きさでは、120:1だと考えれば、ヤス様の資産の大きさが異常だと解ります。
”物流”を握ってしまっているヤス様は、どんな豪商も太刀打ちできません。そして、獲得した資金を惜しみなく神殿に投下してきます。困ってしまう位に・・・。
私は、辺境伯の予算会議にも出席をしています。
神殿の予算会議は、辺境伯家や王国の貴族家で行われる会議と根本が違います。辺境伯では、各部署が予算の取り合いを行うのが、恒例行事でした。しかし、神殿は、予算は有り余っています。その為に、予算を奪い合う状況にはなりません。それどころか、より良い提案をして、予算を押し付け合う場合もあります。
予算を余らせると、次回に余った予算が追加されてしまいます。そして、予算枠が膨れ上がっていきます。お父様も、貴族の矜持とか面倒なことを思わなければ、神殿から予算を回すことができます。ヤス様も、『必要なら使ってくれ』と言ってくれています。

神殿という環境が、不正を許しません。なので、予算が余るのです。
ユーラットの街道整備を行っていた者が着服を行ったことがあります。その時には、即日、神殿への入場が出来なくなってしまいました。
神殿の入場審査は、清く正しくではなく、”神殿に不利益”を与えなければ大丈夫だと言われても、誰も怖くて試すことができません。

「お嬢様。そろそろ・・・」

部屋に表示されている”時計”を見ると、確かに『第一回 報告会』の時間が迫ってきています。

続々と会議室に人が集まってきます。
各部署のトップだけではなく、補佐を行う者たちも多い状況です。それだけ、今回の会議を重要だと考えているのでしょう。

資料をまとめるだけでも、1ヶ月近い時間が必要でした。情報の精査を行って、真偽を確認しました。本当に、疲れました。

「お嬢様」

マリーカの声で、現実に引き戻されます。
参加予定者が揃っているのを確認して宣言を行います。私の本当に疲れる一日の始まりです。

「第一回 観察対象者『オリビア・ド・ラ・ミナルディ・ラインラント・アデヴィット』に関する報告会を行います」

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