【第三章 復讐の前に】第二話 帰還?

 

拠点の整備を行っていた、ユウキたちだが、現状で行えることを行った段階で、足りない物が見えてきた。

「それで、ヒナとレイヤは、こっち日本に残るのか?」

ユウキたちは、リチャードとロレッタの復讐を終えて、残りはユウキだけの状況になって、拠点の充実を行うことに決めた。いろいろな理由があるが、ユウキの相手が国に喰い込んでいるだけではなく、裏社会にも話が通すことができる。フィクサーというと大げさだが、国会議員だけではなく、地方限定だが基盤を支える企業を運営している。知識層の人材も抱えている。ユウキの復讐相手は、極端な話をすると、国と戦うのと同じくらいに考えておく必要がある。

「武術の訓練を頼まれている」

レイヤは、正面で珈琲を飲んでいるリチャードに答える。
実際に、レイヤとヒナは拠点近くの町に引っ越してきた子供たちに、武術と日本語を教えている。

子供たちは、日本に居た者だけではない。復讐の過程で、家族がターゲットにされることを恐れた者たちが説得して、弟や妹たちを日本の拠点に連れてきている。治安のこともあるが、”院”の運営が厳しい事実もあり、日本への移住を決断した。
言葉の壁や文化の違いもあるが、子供たちの安全を優先した形だ。
負担は確かに増えているのだが、言葉の壁以外の問題は少ないと判断している。言葉の壁も、進歩した情報社会では、両者に相手を思いやる気持ちがあれば、大きな問題にはならない。

それに、言葉の壁も、ユウキたちの誰かが居れば問題にはならない。買い物も拠点に作られた町で済んでしまう。困らない。拠点の近くの町は、事情を知っている者たちが運営しているので、言葉の壁も低くなっている。
今は、外部との繋がりが少ないために、困らないが、成長すれば、行動範囲が広がる。そのために、武術と言語は絶対的に必要だ。言葉は、英語と日本語を覚えておけば、困らないと判断されている。

「そうか、武術は、体術系か?」

レイヤは、スキルで体術を持っている。
スキルは、知識系と呼ばれていて、スキルを持つことで、”術”が使えるようになる。ただ、知識として”術”が使えるわけではないので、人に教えることはできない。
スキルの”体術”は、武器を持つ事を前提とした、身体の動かし方の”術”だ。

「武器は持たせられないからな。日本の柔術だ」

レイヤとユウキとサトシは、日本に居た時に、近くのお寺で”柔術”を習っていた。柔道ではなく、柔術なのは、住職が、柔術が好きだという理由だったが、人に教えられる程ではないが、異世界での経験があるレイヤは、極めてはいないが、基礎の基礎は教える事ができる。
何も知らないよりは、良いだろうと教え始めている。

「”スモウ”じゃないよな?」

リチャードは、日本の格闘技は”相撲”と”柔道”が一般的だと思っている。
それだけでなく、サトシが異世界に居る時に、何かあるごとにユウキやレイヤに相撲で挑んだ。相撲なら、自分が勝てると言って勝負を仕掛けて、負けていた。リチャードは、その印象が強くて、子供たちに”相撲”を教えているのかと思っていた。

「相撲を教えられない。それに、柔術と一緒に柔道を教えている。柔道は、馬込さんが教えているのだけどな。意外と、人気だぞ」

馬込は、拠点に来た当初は、フィクサーの雰囲気を纏っていたが、子供が増えてきたら、子供相手に柔道を教え始めた。
そこそこの腕を持っていて、教えられるくらいには強いようだ。

子供たちも、オリンピック種目にもなっている柔道の方を好んだ。

「へぇ。俺は、柔道よりも、剣道が好きだな」

武器として、長剣を使うリチャードは、剣道への興味がある。

「剣道は、馬込さんのお知り合いが教えられるらしいけど・・・。誘ったら、来てくれるらしいぞ。田舎で、道場を開くのが夢らしい」

「日本人は、本当に変わった奴が多い」

変わった奴が多いのかは解らないが、実際に拠点には1芸に秀でた者が集まり始めている。
社会不適合者が多く集まり始めているのも事実なので、レイヤは肩をすくめただけで反論はしなかった。

反論の変わりに、リチャードが欲しがっていた物を思い出した。

「リチャード。そんな事を言っていいのか?」

レイヤは思い出した話をリチャードに始める。
ニヤニヤ笑っている顔が気に入らないのか、リチャードは、テーブルの上に置かれたコップに乱暴に、炭酸飲料を注いで、一気に飲んだ。

「なんだよ」

「お前が欲しがっていた・・・」

「え?まさか!」

さっきまでのイライラが一瞬で消えた。
リチャードは、コップをテーブルにおいて、立ち上がる。

「これも、馬込さんの知り合いらしいけど、刀鍛冶が来てくれることになったぞ」

リチャードの態度に満足したのか、溜飲を下げたのか、レイヤは自分が持っている情報を、教えた。

「お!それなら・・・」

リチャードは、刀を装備するのが夢だと常日頃から言っていた。
ユウキやレイヤやサトシが、日本から来ていたことを聞いて、刀の作り方を知らないか、何度も何度も問いただした。レナートで使っている武器は、直剣だが最初のころは、無理して作ってもらった刀もどきを装備していた。さすがに、強度が足りなくて終盤では力不足になってしまって、直剣に切り替えた。

「だが、いろいろと材料に制限をされてしまっているらしい」

これは、この拠点が抱えている問題の一つだ。
食料などは、入手できるのだが、素材になりそうな物資が不足している。

「ん?それは?」

「いやがらせだ」

行政が、手を出せない場所になってしまっている。
同じように、大手と言われるような企業が手を出せない状況で、物流が止められてしまっている。実際には、買い物はユウキが遠くの場所に移動して購入してくるので、困らない。仕入れもさほど困らないのだが、特殊な物の購入が難しいのは事実だ。
小売りは、制限されていない。

「ユウキは?」

「レナートから持ってくる事を考えている。それに、日本で刀を使うのは無理だけど、レナートならいくらでも使える」

日本では所持は難しいが、レナートなら問題はないと考えている。
実際には、解決しなければならない問題があるが、なんとかなると思っている。

「ミスリルは、こっちでは使えないのだろう?」

リチャードがレナートでは、優秀な素材になっているミスリルを例にあげるが、ミスリルを使った武器や防具は地球でも性能を発揮したのだが、素材となってしまうミスリルを加工した時点で、純度が高いシルバーとなってしまった。レナートで加工を行えば、ミスリルとして装備品になるのだが、地球で加工を行うと、なぜか素材としての質が変わってしまう。
マイやサンドラやアリスが調べているが、理由は解っていない。

「それらを含めて」

ドアがノックされる。
ユウキが戻ってきた。

「おっ!ユウキ」

部屋に入ってきたユウキに、リチャードが喰い付く。
丁度、ユウキに話を聞きたいと思っていたので、丁度よかったのだ。

「ん?リチャード?どうした?」

「レイヤから、”刀鍛冶が来る”と、聞いた所だ」

「あぁ・・・。丁度良かった。レイヤ。リチャード。俺は、レナートに行ってくる」

「ん?素材の採取か?」

ユウキは、開いているソファーに座って、どこから取り出したか解らないが、ペットボトルに入ったお茶を飲みだした。

「拠点の整備で、レナートの素材が必要になった。特に、魔石だな。施設に関連する物を向こうレアートで作ってくる」

ユウキは二人に、足りない素材/物品の説明を始める。
レイヤとリチャードは、ユウキの話を聞いては居るが、具体的に何が不足しているのか判断ができない。

二人の反応が鈍いことには気が付いていたが、ユウキは説明を続けた。

「こんな所だ。あと、レイヤ。レナートに行く前に、墓参りに行く」

「墓参り?」

「あぁ。素材を集めて、帰ってきたら準備を始める。その報告だ」

「わかった。ヒナは抑える。サトシとマイは、事後報告なら問題はないな」

「すまん。頼む」

「一人で大丈夫か?俺だけでも着いて行くか?」

「大丈夫だ。それに、本当に墓参りだけだ。そのまま、レナートに行ってくる」

「わかった」

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