【第二章 帰還勇者の事情】第二話 帰省?

 

 時刻は、午前2時を過ぎている。

「さて・・・」

「行くのか?」

「あぁ俺が一人で様子を見てくる」

「・・・。ユウキ?」

「サトシ。頼む。向こうについたら、念話で知らせる」

「わかった」

 サトシは、ユウキについていくつもりで居たのだが、この場所を頼むと言われて、承諾してしまった。サトシが残ると決めた以上、他の者がユウキには付いていかない。ユウキなら、一人でも大丈夫だという安心感がある。サトシは、一人にすると何をしでかすかわからない怖さを持っている。

「行ってくる」

 ユウキが、身体強化のスキルを発動した。
 電柱の上を蹴るようにして、移動し始めた。午前2時で、いくら田舎だからといっても、誰にも見られないで移動するのは不可能だ。電柱の上を移動するのは、見られたときに”夢”だと思われる可能性にかけた結果だ。

 移動を開始してから10分くらいで、見慣れた町並みが出てきた。

(変わっていないな・・・。そうだか、まだ数ヶ月だったな。感覚では、7年前だけど・・・)

 ユウキは、道路に降りた。
 日本なら、この時間に子供が歩いていても、不思議には思われるけど、それだけだ。警察が来たら逃げればいいと、簡単に考えていた。実際、ユウキを呼び止めても、ユウキが走り去れば警官が追いつけるとは思えない。たとえ、白バイ隊の隊員だったとしても無理だろう。それこそ、ユウキを除く28名が連携しなければ難しいだろう。

 ユウキは、警邏を行っている警察を避けて、施設にたどり着いた。
 もともとこの時間なら、施設は静かになっている。それだけではない。施設の子供は、14人が住んでいたのだが、その中から6名が召喚されてしまったのだ。

(え?)

 ユウキは、自分たちが使っていた部屋の明かりが点いているのを見て驚いた。
 ユウキが使っていた部屋だけではなく、サトシとレイヤが使っていた部屋や、ヒナとマイと弥生が使っていた部屋の明かりもついた状態だ。

(なぜ?)

 ユウキは、明かりが点いているのはわからなかった。電気代もただではない。

 ユウキは、明かりが見える位置で立ち止まってしまっていた。
 頭を振って、建物の裏側にある庭に向かった。そこなら、誰にも見られることがない。それだけではなく、子どもたちが抜け出すのに使っている秘密の通路が存在している。

(ここなら・・・)

 ユウキは、久しぶりに見た庭に、安心してしまった。

「弥生・・・。帰ってきたぞ・・・」

 ユウキは、死んでしまった友の名前を呼んだ。

「!!」

 ユウキは、いきなり後ろから抱きしめられて、驚いて反応が遅れた。

「ユウキ!ユウキ!ユウキ!どこに行っていたの・・・。サトシは?レイヤは?マイは?弥生は?ヒナは?ユウキ。どこに・・・」

「母さん・・・。なぜ?」

「ユウキ。うん。怪我は無いようだな。立てるか?」

「父さん・・・。え?あっ。うん。大丈夫」

 ユウキは、自分のスキルに感じさせないで近づいてきた、母と父に驚いたが、それ以上に、この時間まで起きていたのにも驚いていた。

「父さん」

「ほら、お前も、ユウキが立てないぞ」

「だって、離したら・・・」

「母さん。大丈夫。俺は、ここに居る」

「ユウキ。お前・・・。お前たちに何があった?話を聞かせてくれるか?」

「・・・。父さん」

 ユウキは、自分たちが経験した内容を、話さないつもりで居た。だが、父と呼んでいる人の前に出ると、話を聞いて欲しいという気持ちが強くなってくる。

「ユウキ。本当に、ユウキなのよね?」

「・・・。母さん」

「夢じゃないわよね。本当に、ユウキなのよね」

 ユウキは、母の抱擁から逃れて、立ち上がった。
 それでも、老婦人はユウキの手を握って離さないでいる。

「ユウキ。時間はあるのか?」

「大丈夫」

「どうした?なにか在ったのだろう?話せない内容なのか?」

 ユウキの前に立つ老紳士は、数ヶ月見なかった息子が精神的な成長を遂げていると感じた。

「そうじゃないけど・・・。話しても、信じてもらえない・・・」

「ユウキ!子供の話を信じない親なんていない!」

 力強く握られた手から、ユウキは母の優しさを感じた。

「わかった。ちょっとまって欲しい」

「ユウキ?」

「母さん。俺は、ここに居る。でも、ここに居る必要がある」

「??」

「ほら、ユウキが、ここに居ると言っているのだし、儂たちは、ユウキが部屋に入ってくるのを待っていよう」

「ユウキ。本当に、どこにも」「母さん。20分だけ待って欲しい」

「ほら、お前も、ユウキたちを信じて待つって言ったのはお前だろう」

 母は、父に連れられて、施設に戻っていった。

”ユウキ?どうした?”

”父さんと母さんにバレた”

”え?ユウキが?”

”あぁ母さんにいきなり抱きしめられた”

”え?!スキルは?”

”使っていたが、少しだけ気が緩んでいたかもしれない。それで、悪いけど、エリクとアリスを連れて庭まで来てくれ”

”わかった。レイヤたちも一緒でいいよな?”

”あぁもちろん。弥生も連れてきてくれ”

”わかった”

 ユウキは、念話を切ってから、庭の一角に目をやる。
 スキルの影響なのか、夜でもしっかりと見えている。庭には、野菜が植えられている。ユウキたちが育てている物もある。それらが、しっかりと手入れされている。収穫ができる物も、残されている状態だ。

(俺たちのために・・・)

「ユウキ!」

 サトシたちは、全力で来たのだろう。ユウキが想像していたよりも早く到着した。

「ねぇユウキ。部屋の明かりが・・・」

「あぁ俺が来た時にも点いていた。もしかしたら、母さんか父さんが、俺たちが帰ってくるのを信じて、点けていてくれたのかもしれない」

「そうね」

「ユウキ?」

「どうした。エリク?」

「サトシに聞いたけど、ユウキたちの母親は、ユウキに気が付かれないで、ユウキに抱きついたのだよな?」

「あぁ」

「そんなことが可能なのか?」

「わからない。でも、俺が・・・。庭で、安心してしまったかもしれない」

「それで?」

「二人とも、検証は後にしよう」

 エリクとユウキが検証を始めそうな雰囲気だったのを、マイが元に戻す。
 マイは、今から弥生のことを話すのが辛いのだが、それ以上に母と父に会いたい気持ちにもなっている。

「そうだな。母さんを待たせると、後が怖そうだ」

 サトシが、考えていないで言った言葉だ。なんの計算もしていない。素直に”そう”思って、話した言葉だったが、マイもヒナも弥生のことをどうやって話せばいいのかで頭が一杯になっていた。ユウキは、すでに腹をくくっているから、マイやヒナよりは落ち着いている。レイヤは、ユウキが説明すると言っているので、大丈夫だと考えていた。

 ユウキを先頭に施設に入っていく、裏口から入ろうかと思ったのだが、入り口に立っていた老紳士から表から堂々と帰ってこいと言われて、従った。

「母さん。ただいま」

「おかえり・・・。ユウキ。サトシ。レイヤ。マイ。ヒナ。・・・・。そう・・・・。そんな顔しない。貴方たちが望んだことでは無いのでしょ?」

「おかえり。後ろの二人は?お前たちの友達なのか?」

「あぁエリクとアリスだ。ドイツ人だけど、日本語は大丈夫だ」

 ユウキが、二人を紹介する。二人も、ユウキの紹介の後で、改めて挨拶をする。
 深夜の3時にする話ではないのは、皆がわかっている。寝ている子供も居るだろうから、声は抑えていた。

「エリク君とアリスちゃんだね。ユウキたちの友達なら歓迎だ」

「父さん。エリクもアリスも、俺たちと同じで、暫く・・・」

「そうか、好きなだけ居るといい」

 皆が安堵の表情をする。
 エリクとアリスを受け入れてくれるとは思っていたが、やはり”ダメ”だと言われる可能性もあった。

 二人は、ユウキたちと同世代だが、日本人ではないのは顔を見ればすぐに解る。”ワケ”ありだと簡単に想像が出来てしまう。

「サトシ。レイヤ。ヒナにマイも、顔をしっかりと見せて、エリク君もアリスちゃんも遠慮しないでいいのよ。何か食べる?お腹はへっていない?それとも、お風呂にする?すぐに準備するわよ」

 変わっていない母の反応に、マイとヒナは涙をこらえるのがやっとだった。エリクとアリスも、なぜだか嬉しくなってしまっていた。

「母さん。父さん。俺たちに何が有ったのか話す前に、俺たちが居なくなってからの話を教えて欲しい・・・。ダメか?」

「わかった。母さん。何か、簡単に抓める物と飲み物を用意してくれ、食堂でいいか?」

「あぁ」

 ユウキたちは、老紳士と一緒に食堂に移動した。