【第三章 帝国脱出】第二十七話 少女従う

 

門番にも、まーさんは手紙を書いてくれることになった。
順番にしっかりと渡せば、問題が無いようにイザークに教えている。イザークには、男子が一緒に行くことになった。イザークには、まーさんから”短剣”が渡された。他の男の子たちも、イザークが渡された短剣を羨ましそうに眺めていたら、笑いながらまーさんが全員分の短剣を出してくれた。

まーさんが、短剣を皆に渡しながら、イザークと話をしている。
内容は、短剣を渡しながら、短剣を使うなという話だったが、まーさんの話を聞いて、納得してしまった。

「いいか、短剣は武器だ。一番、かっこよくて、一番、素晴らしいのは、短剣を血で汚さない事だ」

「え?だって」

「自分の血だけでなく、相手の血も付けないで、戻ってくるのが一番だ」

「・・・」

「イザーク。お前なら、領都に居る、同じ境遇の奴なら勝てるだろう?」

「うん。おっちゃんの短剣があれば!」

「そうだ。だから、戦うな。戦わなくて済む方法を考えろ」

「なんで?勝てるのに?」

「そうだ。お前は勝てるだろう。でも、他の子は?カカは勝てるか?」

まーさんは、幼いカカの名前をイザークに出す。

「・・・。無理だと思う」

イザークは、少しだけ考えてから”勝てない”と答えた。当然だ。イザーク以外に、勝てる者がいるとは思えない。

「うん。イザークが居ない時に、カカや他の子が狙われたらどうする?」

「え・・・。あっ・・・。でも・・・」

「イザーク。”でも”はない。命は助かるかもしれないけど、カカは大けがをしたり、何かを失ったり、大変な目にあう。お前は、それでも、武力を使いたいか?」

「おっちゃん」

「どうしても、武力を使うのなら、誰も逆らわない位に強くならなければならない。それこそ、一人で1万人を倒せる位になれば、誰もイザークの仲間を傷つけようとはしない」

「無理だよ・・・。おっちゃんならできる?」

「無理だ。だから、俺は、戦わない方法を考える」

「わかった。戦わない方法を考える。逃げても?」

「逃げるのも立派な戦略だ。ダメなのは、イエーンを渡して許してもらおうとしたり、その場で謝って逃げようとしたり、相手の言いなりになる行為だ」

「え?」

「例えば、イザーク。俺が、イザークたちに脅されて、イエーンを渡して逃げたら、次に俺の仲間を見つけたらどうする?」

「うーん。もうやらないけど・・・。また脅せば、イエーンが貰えると思う」

「そうだろう?その時に、イエーンを持っていればいい。それも、渡したイエーンの倍か3倍くらいだ。そうじゃなければ、俺をもっと脅すだろう?」

「・・・。うん」

イザークは、まーさんとの話をして考え出した。
考えないよりは考えて行動してくれた方が私は嬉しい。

それから、まーさんが書いた手紙を持って、イザークたちは、領都に戻った。

まーさんが、私と残ったルルを見る。

「さて、君たちにも短剣を渡した方がいいか?」

短剣を持っていても、使わないのなら、持っていなくても同じだ。

「え?だって・・・」

「ん?イザークに話したことか?あれは、嘘じゃないが、本当の事でもない」

「え?」

嘘?本当?

「簡単に言えば、イザークは短慮な所があるだろう?」

「短慮?そうですね。考えるよりも、身体が先に動いて・・・」

「そうそう。だから、彼には武器を使わない方法を覚える必要があると思わない?」

「・・・。はい」

「で、君は、違うよね?短剣を持っても、いきなり使おうとはしないよね?」

言われてみたら・・・。自分なら、どうする?
考えてみた。

多分、最後の最後まで、使わないで、ダメだと思った時に、使おうとするだろう。うまく使える自信はないけど、少しでも怯んでくれたら逃げられる。そうだ。逃げる為に、短剣を使う。まーさんの言っている意味が解った。

「はい」

「なら、大丈夫だ」

まーさんから、短剣を受け取る。ルルにも渡してくれた。
何本の短剣を持っていたのか疑問だけど、武器らしい武器を持つと、安心できる。

「さて、君たちにして欲しいのは、仕分けだ」

「仕分け?」

まーさんが、大量の魔物を指さす。
魔石を抜き取っただけの状態になっている魔物だ。少しだけ解体されている物もあるが、殆どが、血抜きをしただけの状態になっている。

「そう。どこに売るのか君たちが好きにすればいい。でも、種類ごとに分けておいた方が、楽だ?数も解らないと交渉が難しいだろう?」

まーさんが言っている話は納得ができる。
私たちは売るしかない。でも、どこに売るのか?
そのためにも、しっかりと仕分けして、数を把握しておかないと、また騙されてしまう。

ルルと一緒に、魔物を仕分けする。
数は多かったが、種類は多くない。すぐに、仕分けが終わった。

「終わった」

ルルが、まーさんに駆け寄っていく、人見知りが激しくて、本当なら今日?も、領都で待っていてもらおうと思ったのに、着いて来てしまった。大人が怖いのか、街では大人に近づこうともしない。それが、まーさんに駆け寄っていく。
足下に居るバステトさん?が目当てなのかもしれないが、本当に不思議な人。

ルルを抱き上げて、褒めている。
褒められたルルは、どこか恥ずかしそうにしているが、嬉しそうだ。

「君たちの中で、スキルが使える者は居るのか?」

首を横に振る。

「まーさん。”わからない”です」

「”わからない”?」

「はい。ギルドや教会に行けば、スキルを調べてもらえるのですが・・・」

「あぁ・・・。イエーンを取られるのか?」

「はい」

「教会でも?」

「銀貨3枚って言われた!」

ルルが、まーさんに抱かれながら、一生懸命に説明している。
私たちもスキルがあれば、現状を変えることができる。変わらなくても、何かが変わるかも・・・。そう考えた。でも、一人銀貨3枚は払えない。

「ババ様には、相談したのか?」

首を横に振る。
言えなかった。

「そうか・・・。領都に戻ったら、スキルを調べないと・・・」

「え?」

「スキルがあれば、状況が変わるだろう?」

それは、私も考えた。

「あぁイエーンは、必要ない」

「え?」

「まぁ領都に帰ってから、ババ様と話をさせてくれ、悪いようにはしない」

まーさんの言葉がなぜか暖かかった。
騙そうとした大人は多かった。まーさんと同じように言ってくれた人も居た。でも、何かが違う。言葉では、表現できないけど、違う。

頭を下げることしか出来なかった。
涙が出てきた。

まーさんは、何も言わないで、頭を撫でてくれた。

「アキ姉?」

ルルが私に抱きついてきた。

「大丈夫だよ」

「うん。あっ!アキ姉。猫ちゃんと遊んでいい?」

ルルが、足下に居るバステトさんを見て、私に確認する。

私は、まーさんは見る。

「いいよ。でも遠くに行かないようにね。すぐに、イザークたちが戻ってくるだろう」

え?こんなに早く戻ってくるとは思えない。
まーさんが、どんな指示を出したのか解らないけど、やっとババ様の所に到着した位だろう。

まーさんが、バステトさんの背中を撫でると、バステトさんは起き上がって、伸びをする。
ルルを見てから、ルルの肩に乗った。

本当に、言葉が解っているようだ。
ルルの顔を舐めてから、地面に降りて、ルルと追いかけっこを始めた。最初は、ぎこちなかったルルは、徐々に本来の動きになって、バステトさんを追いかけ始めた。捕まるギリギリで躱すバステトさんと追いかけっこをしている。

「あれだけ動いたら、眠くなるだろう」

「え?」

「子供は、寝るのも仕事だ。しっかり寝ないと、ダメだ」

「・・・。はい」

ババ様にも同じ事を言われた。ババ様は、自分の所に来いと誘ってくれたが、イザークたちが反対した。騙されていると思ったようだ。

まーさんの隣に座って、追いかけっこをしているルルを見ている。

私・・・。
安心している?
会ったばかりのまーさんに?

不思議と嫌な気持ちはない。まーさんを横目に見ると、黒い板を触っている。私の位置からだと、何も見えない。鉄ではなさそうだ。不思議な物を真剣な表情で触っている。
聞けば教えてくれるかもしれないけど、邪魔になってしまうのが嫌で、黙っている。まーさんが何をしているのか横目で見ながら、ルルを見ている。

「アキ姉」

疲れたのか、ルルが私の横に座って、凭れ掛かってきた。
まーさんは、どこから取り出したのか、水を渡してきた。。

「飲ませて上げて、あれだけ動いたのなら、喉が渇いているだろう」

まーさんから水を受け取って、ルルに渡すと勢いよく水を飲んで、お礼を言った。
ルルが、私の横に座りなおしたと思ったら・・・。寝てしまった。

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