【第七章 王都ヴァイゼ】第三話 領都にはすぐに着きます
ヤスは、正門には向かわずに西門にハンドルを切った。
「ヤス殿?どちらへ?」
「西門から一気に降りて関所を越えようと思っている」
「西門?」
「目の前に有るだろう」
「門?ユーラットじゃなくて?」
「そうだな。領都に行くのなら近い方が良いだろう」
セミトレーラが近づくと門が開いた。ドーリスには門の先がどうなっているのかわからない。見えないのだ。
近づくと崖になっているように見えるはずだ。
「え?うそ?ですよね?」
「行くぞ!ドーリス。しっかりと掴まっていろよ!舌を噛むなよ!」
「うぅぅぅぅそぉぉぉぉぉぉ!!!!!きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
馬車しか無い世界でいきなり傾斜角15度の道はかなりの斜面に感じるだろう。
もともとはもっと傾斜があったのだが、ヤスが使うことが考慮されてから修正が行われた。一直線に関所に向かっていた道は、大きくカーブする道に変更されている。カーブに合わせて傾斜もなだらかに変更されたのだ。
ユーラットに向かう道よりも先に舗装されて居るのは速度が出せるようにと安全面を考えているのだ。雨が降ったりしたら、スリップするような道では安全に速度を出すことが出来ない。セバスの眷属によって進められた舗装計画は、ヤスが速度を出しても大丈夫なように考えているのだ。
ヤスはそれでも気を使って速度を緩めながら走ったのだが、馬車に慣れているドーリスにとっては信じられない速度で進んでいく。目まぐるしく変わる景色に恐怖を覚えるのだった。
関所の前にはセミトレーラが駐車できるだけのスペースが確保されている。
「ドーリス。ひとまず、関所まで来たけど・・・。大丈夫だな」
ヤスは、ドーリスに声をかけてから状況を確認したが、大丈夫だと判断した。
「・・・。はい・・・。大丈夫です」
悲鳴を上げ続けてやっと落ち着けた状態なのだが、ヤスの問いかけに大丈夫と答えてしまった。
「よし、それなら、領都に移動するぞ」
「はい・・・。あっ。道案内します」
「頼むな」
セミトレーラにはカーナビがついているディアナがリンクされているので、行ったことがある領都までの道は表示されている。
以前に通った道が示されている。道案内は必要ないが、ドーリスは道案内で載せているので、道案内はしてもらう。ヤスとしては、リーゼと通った道以外に近道が有るのかと思ったのだが、ほぼ一本道のためにカーナビで示された道をなぞるだけの行程になってしまった。
残念な思いを持ちつつ。領都が見えてきた。
「ドーリス。領都が見えてきたけどどうする?正面に乗り付けていいのか?」
「え?うそ?もう・・・。まだ・・・。でも、確かに領都ですね。あっ。正面にお願いします。ギルドに話をしてきます」
FITで来たときよりも早くついたのは、セミトレーラのほうがFITよりも重量があったからだ。路面が悪いのは変わらないが一度速度が出てしまうとFITよりもセミトレーラの方が安定する。信号もないので減速する必要もない。アクセルをベタ踏みで走らせた結果なのだ。
「ヤス殿。それでは、行ってきます」
「急いでいないから伝言を頼むな」
「はい」
門の横にずれた場所にセミトレーラを停めてドーリスを降ろす。
ヤスは、運転席に戻って窓を開ける。
「ドーリス。戻ってきたら、ドアを叩いてくれ、それでわかると思う」
「わかりました。休んでいてください」
ドーリスもすぐに辺境伯に会えるとは思っていない。
時間がかかりそうなら手紙をギルドに預けて、ギルドの用事だけ済ませてから先に進もうと考えていた。
王都までまだかなりの距離がある。
確かに、馬車で移動するよりも数倍早く到着できるからと言って街やギルドの用事をゆっくりやっていい理由にはならない。
ドーリスはしっかりと見ていたのだ。
門の近くに、守備隊が隠れていた。それも、ランドルフが率いていた”たちの悪い”連中だ。
「ディアナ。結界を発動。ドーリス以外は近づけないようにしてくれ」
『了』
カーナビの画面に短くメッセージが表示された。
「結界の様子を表示できるか?」
『マスター。エミリアです。結界の様子とは?』
「結界の周囲を表示してくれ、誰かが近づいてきたらわかるようにしておいてくれ、録画も頼む」
『了』
エミリアにディアナの設定を頼んで、ヤスは居住スペースに移動する。
すぐに帰ってくるとは思っていないので、横になって待つことにした。
— ヤス
久しぶりにここで横になる。
前ならSAやPAやコンビニで漫画やエ○本を買って読むのだけど、近くにはなさそうだからな。
エミリアにゲームの一つでも入っていれば暇つぶしができるけど、ネットが繋がらないから無理だろうな。通販が出来ても、どこに届くかわからないしマルス経由だと拠点になっている神殿になってしまうな。
なにか試しに買ってから出てくればよかったな。
いいか・・・。疲れたから寝て待っているか・・・。
— ドーリス
まずは冒険者ギルドに行かないと!
神殿の都のギルドを出るときに連絡したから、ギルドマスターは居てくれるとは思うけど・・・。
冒険者ギルドは、依頼の受付が終わって閑散としている。
顔なじみの受付を探してみたが居ない。世代交代が進んだのだろう。奥に座っている受付に、ギルド員である印を見せながら話しかける。
「ユーラットのドーリスです。ギルドマスターは居ますか?」
「え?」
「ユーラットのドーリスです。ギルドマスターとの面会の約束をしています」
受付は呆けた顔をしているが二度目の問いかけで対応を思い出したのだろう。
「はい。お聞きしております。しばらくお待ち下さい」
私が、領都の冒険者ギルドに居たときにはあんな間抜けな返事は許さなかったのだけど教育が変わったの?
奥から、コンラート様の声が聞こえてくる。
慌てている。早すぎると言われても、ヤス殿のアーティファクトが優秀なのと、通った場所もすごかった。崖を駆け下りるとは思っていなかった。
「ドーリスさん。コンラートが執務室で待っています」
「場所はわかっています。入っていいですか?」
「はい。お願いします」
ダメだ。口出ししたくなってしまう。
私は、”ギルドの職員”で”領都レッチュヴェルトにある冒険者ギルドの職員”ではない。しかし、私が知っているマニュアルでは簡単に通してはダメなはずだ。ミーシャとデイトリッヒが抜けて大丈夫なのだろうか?
マスターの執務室も何度も入っているので、変わっていなければ大丈夫だと思っていた。何も変わっていなかった。無事ギルドマスターの執務室に到着した。
中からは話し声もしないので、扉をノックする。返事が来たのでドアを開ける。
「ドーリス。早かったな」
中からギルドマスターの声がしたので、頭を下げてから部屋にはいる。
時間に関しての話を先にするようだ。
「は・・・。い?」
え?なんで?
「ドーリス殿。はじめまして」
「はじめまして、ユーラット支部のドーリスです。領主様」
なんで、領主がギルドマスターの執務室に居るの?
そんなタイミングで私を通さなくてもいいと思うのだけど?
「ドーリス。混乱しているところ、申し訳ないが座って話をしよう」
「え?領主様との話があるのでしたら、外でお待ちしますが?」
「いえ、ドーリス殿。私は、貴殿が来るのを待っていたのだよ」
「どういうことですか?私を待っていた?」
「クラウス様。ドーリスが混乱してしまいます。まずは、順序立てて説明します」
「わかった。コンラートに任せる」
前のめりになっていた領主様がソファーに深く座り直してくれた。
なんとなく事情が読めてきた。サンドラさん関係のことを聞きたいのだろう。
「まずドーリスに確認したいのだが、神殿の主が操作するアーティファクトで来たのだな」
「はい。ヤス殿から連絡を頂いてから、魔通信機で連絡いれました。その後、アーティファクトで移動してきました」
「そうか・・・。信じられない速さだな」
「はい。操作しているヤス殿を見ていると、まだ余裕が有るように思えました」
「まだ速度が上がると言うのか?」
「はい。ヤス殿に確認していませんので確実ではありません」
「そうか・・・。あぁいろいろ聞きたいが、まずは神殿の様子を教えてくれ」
領主が身を乗り出してきた。
聞きたかったのは、神殿の様子なのか?
「はい。神殿は・・・」
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