【第七章 王都ヴァイゼ】第二話 出発・・・最初の目的地!

 

 寝室でヤスが寝ているとセバスが入ってきた。

「旦那様」

 セバスが起こしに来る少し前にヤスは目覚めていた。

「ん?あぁセバスか?」

「お水です。冷たい物と常温の物がありますが?」

「冷たい物をもらおう」

「かしこまりました」

 ヤスはセバスから適度に冷やされたコップを受け取り、中に入っている水で喉を潤す。

「ん?セバス。このコップは?」

「はい。工房で作成された物です。旦那様に使って欲しいと持ってこられました」

「そうか・・・。早いな」

 ヤスは出されたコップを眺める。
 ガラスではないのは持った手触りでわかるのだが、プラスチックでもない。素材がわからないが冷たさを維持できるように作られているようだ。一種の魔道具になっている物だ。ドワーフたちは、ヤスから提示された–実際にはマルスが渡した–情報から酒精がある飲み物を冷やして飲むことを覚えた。冷やしたら、冷たさがギリギリまで保たれる方法を考えるのが彼らなりの礼儀なのだ。

「マルス。セミトレーラーの準備は?」

『出来ています』

「ドーリスは?」

「旦那様。ドーリス様ならギルドで待機されております」

「そうか、呼びに行けば良いのだな?」

「ギルドに控えているメイドに連絡いたします」

「わかった。朝食を食べてから出発すると伝えてくれ」

「かしこまりました」

 ヤスがリビングに移動すると、ツバキが食事の準備を終わらせていた。

「マスター。今日は、ユーラットから魚が届きましたので、ムニエルにいたしました。お飲み物はどうされますか?」

「朝だからな。果実水があったよね?頼む」

「かしこまりました」

 ヤスは食事をしながらテーブルの上に置かれている資料を見て大きく息を吐き出す。

「セバス。決済する書類が増えているけど?」

「もうしわけありません。神殿の領域に関しての申請書類です。マスターのサインが必要な書類です」

「内容には問題はないのだな?」

「問題はありません」

「わかった。食事の後で決済サインする。マルス。執務室を作ったほうがいいか?資料の保管場所とか必要になってくるだろう?」

『はい。現在、資料は最下層に保管しております』

「うーん。そうか、決済の方法を変えたほうがいいな。マルスに決済させるとして、問題はサインだけど、俺だけ判子にするわけには・・・。ん。別に問題ないよな?」

『問題はありません。判子の保管方法が問題になるだけです』

「セバス」

「はい」

「セバスは、最下層のマルスまで行けるよな?」

「はい。問題ありません」

「マルス。書類をセバスが持っていって、最下層で決済すればいいよな?判子も最下層で管理すれば問題ないよな?」

『マスターに確認すべき決済以外は問題ありません』

「頼む。それから、決済は”判子”で行うようにしてくれ」

 今日のところはヤスが目を通す必要が有るのかと思ったが、セバスとマルスで処理を行う。

 書類をセバスが最下層で決済を行うために書類を持って移動を開始した。
 入れ替わりにツバキがリビングに入ってきた。

「マスター。移動中のお食事はどういたしますか?」

「うーん。多分、二泊だと思うけど、準備してもらっても大丈夫?」

「問題ありません」

「摘める物で頼む」

「かしこまりました。ドーリス様の分はどうしますか?」

「一応、用意はしてくれ、街の宿に泊まると思うけど、俺はトレーラーの居住スペースで寝る。宿よりも安全だと思うからな」

「かしこまりました」

 ツバキがキッチンに入っていくのを見送ってからヤスは壁にかかっているモニタに視線を向けた。
 モニタには、神殿の様子が映し出されている。迷宮になっている部分だ。

 魔物が溢れているわけではない。すべての階層に低位の魔物が見られる程度だ。

 ヤスはギルドが本格的に動き出せば問題はなくなるだろうと考えた。事実、領都から複数のパーティーがユーラットに移動を開始している。最終目的地は神殿に向かう目的を持っている。冒険者ギルドから斡旋があったからだ。優良なパーティーを移動させて、神殿に恩を売ろうと考えたのだ。同時に、引退を考えている冒険者にも声をかけて、神殿のギルドで働いてもらおうと考えているのだ。
 ヤスはスルーしていたのだが、領都に居る辺境伯もサンドラの身の回りを世話するという名目で人を送り込もうとしたのだが、セバスに気取られてしまった。サンドラに確認したところ、必要はないという返事をもらって、辺境伯からの人の手配は中止になった。

 他にも、討伐ポイントの収支を確認すると、現状ではかなりの”黒字”になっている。スタンピードが発生してしまう可能性を秘めた魔力量を誇るディアス・アラニスが居るので比較的容易に討伐ポイントを稼いでいられるのだ。

 ヤスが一通りの確認を終えたタイミングで、ツバキが食事を持ってきた。

「マスター。お食事です。飲み物も一緒に入れてあります」

「助かる。マルス。ドーリスを呼び出してくれ」

『了。自転車で移動してくるので、10分後には駐車場の前に到着します』

「わかった。西門を使ったほうがいいよな?」

『はい。問題ありません』

 マルスとの調整も終わって、ヤスは立ち上がる。
 エミリアを持って駐車場に向かう。

 駐車場では、セミトレーラーが荷台に2つのコンテナを載せて鎮座していた。

 ヤスは運転席に乗り込む。
 数日しか経っていないが懐かしい感じがした。

 ハンドルを握る顔が喜びで歪むのを認識してヤスはドライバーだと再認識したのだ。
 エンジンをスタートさせる。心地よいリズムで耳慣れたサウンドが心に響く。ギアを繋がないで軽くアクセルを踏み込む。

 結局、何で動いているのかわからないが、ガソリンを入れていたときと変わらない匂いがしてくる。

 ギアを繋いでハンドブレーキを解除する。ゆっくりとした速度で動き出す。

 神殿の駐車スペースから出て、神殿の都テンプルシュテットに巨体を表す。
 正面には、メイドに連れられたドーリスとサンドラが待っていた。

「ヤス殿」

 ドーリスが駆け寄ってくる。
 サンドラは予想していたアーティファクトよりも大きかったので二の足を踏んで居る。

「ちょっと待て!」

 ヤスは、ドーリスを離れた位置で止めて、ドアを開けて外に出る。

「これで行くのですか?」

「そうだ。ドーリス。荷物は?」

「え?あっ私も小さいながらアイテムボックスがあるので必要な物は持っています」

「そうか、優秀なのだな」

「そうですよ。アイテムボックスが使えるので、ギルドでも重宝されたのですよ!」

「へぇ・・・。それじゃ荷物は大丈夫だな?」

「はい。問題はないです。通るギルドには連絡をしてあります。アーティファクトで近づいても大丈夫です」

「わかった。それじゃ行くか?サンドラは見送りか?」

 ヤスは、セミトレーラーを眺めているサンドラに話しかける。

「はい。見送りもですが、お父様と王都に居るお兄様にお手紙をお願いしようと思いまして・・・」

「そうだな。わかった。ドーリスが渡せばいいのだよな?」

「・・・。はい。できればヤス様にお願いしたいのですが?」

「うーん。長時間、アーティファクトから離れるのは難しいからな。ドーリスに頼むことになるのは変わらないぞ?近くまで来てもらえるのなら渡せるとは思うけどな」

「そうですか・・・。ドーリスさん。お願い出来ますか?」

 ドーリスに手紙を渡しながらサンドラがお願いする。
 小言で何かを告げているが、ヤスには聞こえていない。

 ヤスは、最後の点検を行っていた。
 コンテナがしっかりと固定されているのか確認して、タイヤの空気圧とボルトがしまっているのか確認している。他にも、長距離を移動する場合に確認する項目を消化していた。急な坂道を下るので、コンテナの固定は入念にチェックした。

 ヤスがチェックを終えて戻ってきたら、サンドラとドーリスの話も終わっていた。

「もういいのか?」

 ヤスは、サンドラに確認した。
 頷いたのを見てドーリスをもう一度トレーラーに載せる。奥にあるスペースに靴を脱いで座らせた。補助椅子があるので座らせてシートベルトをつけさせる。居住スペースにはいれさせない方針で行くことにしたのだ。

「さて行くか?ドーリス。まずはどうしたらいい?」

「え?あっ領都に向かってください。辺境伯に事情説明をして協力を仰ぎます。サンドラさんの名前を出しても大丈夫なので、簡単に終わると思います」

「わかった。しっかり掴まっていろよ」

「え?」

「サンドラ。離れてくれ、階段近くまで移動すれば大丈夫だ」

「わかりました。ヤス様。ドーリス様。よろしくお願いいたします」

「わかった」

 ヤスはドアを閉めて、パーキングになっていたギアを入れる。ハンドブレーキを解除してから。
 アクセスを踏み込む。

 セミトレーラーがゆっくりと動き出す。

 窓を開けて腕を出す。

「さて!最初の目的地は、領都だな。道は覚えているから大丈夫だ!行ってくる!」

 神殿から出てきたセバスとツバキにも手を振りながら西門にトレーラーを走らせた。

F1&雑談
小説
開発
静岡

小説やプログラムの宣伝
積読本や購入予定の書籍の情報を投稿しています
小説/開発/F1&雑談アカウントは、フォロバを返す可能性が高いアカウントです