【第二十八章 新婚】第二百八十九話
フラビアとリカルダの案内で、ギュアンとフリーゼが仕事をしている舟屋に向かった。住居は以前に与えた物で変わっていない。仕事場としている舟屋で待っていると教えられた。
舟屋の数は増えていない。
船の数が増えているように思える。当然だな。当初の数では、増え続ける人口を支えるだけの魚を確保するのは不可能だろう。
「ツクモ様」
ギュアンが俺に気が付いて舟屋から出てきた。どうやら、フリーゼは、所用で出かけているようだ。ギュアンが、フリーゼの不在を詫びてきた。
ギュアンの態度が少しだけ固いように思える。表情も前に会った時よりも緊張している。緊張というよりも、何かを恐れている?
「ギュアン。何か困っていないか?」
困った事でも発生しているのか?
「いえ・・・。私たちのわがままをお聞きいただいて・・・」
わがまま?
結婚の事なら、気が付いてやれなかった。俺の考えが足りなかっただけで、ギュアンに問題があるわけではない。
「それも気にしなくていい。もっと早く気が付けば良かったと思っている。俺こそ、待たせてしまって悪かったな」
ギュアンとフリーゼを待たせてしまったのは事実だ。
知らなかった事で、気が付かなかったのだが、常識だと言われてしまえば、俺が悪かったことになる。
「いえ、ツクモ様。我らを拾っていただいて、そのうえ・・・」
頭を下げているギュアンだが、俺の言葉を聞いて、顔を上げる。
「ギュアン。それは違う。俺は、お前たちのおかげで、楽が出来ている。この難しい場所を、お前たちは、まとめてくれている」
ギュアンには、しっかりと伝えておこう。
湖の集落は、俺が作ろうと思った場所とは違っているが、ギュアンたちが居たから踏み出せた場所だ。
この場所が別荘地となるのか、単純な集落になるのかはまだ解らないが、ここをまとめているのは、ギュアンとフリーゼだ。
そうか、ギュアンとフリーゼが結婚したら、湖の集落も少しだけ趣を変えた方がいいかもしれないな。
「それは・・・」
「ギュアン。他の誰でもない。ギュアンとフリーゼが成し遂げたことだ」
「はい。ありがとうございます」
涙ぐむギュアン。
嬉しいのは解るが、涙を流すほどの事なのか?
「(カズトさん。ギュアンは、カズトさんから話があると言われて、待つように言われたのです。叱責されると思って、緊張していたのだと思います)」
シロが、俺の近くまで来て、耳打ちするように話しかける。
別に、念話でもいいと思うのだが、これは、俺に聞かせる意味はもちろんあるのだろうけど、気が付いていなかったと、フラビアやリカルダに知らせる意味があるのだろう。もちろん、ギュアンにもギリギリ聞こえるようにしたようだ。
「(シロ。ありがとう)」
シロに礼を伝えてから、ギュアンを見る。
俺をまっすぐに見て来る。さっきまでと違って、怯えたような表情ではない。
「ギュアン。それで、湖での漁で、問題は発生していないか?」
今日の本題に入る前に、集落としての問題を確認しておく。
買い物の問題は、解決策を考えたが、もしかしたら、本人たちからしたら、他に問題と考えている事があるかもしれない。
「漁は、人が増えて、問題は無いのですが・・・」
「どうした?」
「このまま漁を続けていいのか・・・。迷っています」
「資源の枯渇が心配か?」
「はい。大きい湖ですが、このまま取り続けたら、魚が居なくなってしまうのでは・・・。後から来た人で、元々漁をしていた人が、そのような事を言っていました」
「まだ、魚が減っているような雰囲気は無いのだな?」
「はい。まだ・・・。でも・・・」
ギュアンの心配も解る。
先人の知恵は重要な場合が多い。それも、危機感から出た忠告なら、従うほうがいいに決まっている。異世界に来る前にも、水に関わる神社がある場合には、水の被害が発生した地域であると考えた方がいい。海に面している場所で、水に関わる物を祀る神社があれば、津波被害が来ると考えるのが妥当だ。昔の人たちは、自然災害と共に生活をしていた。自然災害に立ち向かうのではない。共存を目指した。地震が多発する場所では、地盤の固い場所を示す地名を付ける。神を祀る。いろいろな方法で、後世でも解るようになっている。先人の知恵を蔑ろにして、自然を制御しようとして失敗している例は簡単に見つけることができる。住んでいるのではない。住まわせてもらっている。間違えた結果、手ひどいしっぺ返しを喰らうのは弱い者たちだ。
「わかった。その元々漁をしていた者たちの意見を聞いて、禁漁期間を設置しよう」
産卵期間から、稚魚の孵化までの期間を禁止にすればいいのか?
この辺りは、先人の知恵に頼ろう。
「禁漁ですか?」
「そうだ。その期間は、漁を禁止する。湖で、釣りをするくらいならいいが、今の様に網を使っての漁は禁止だ」
「それでは、その期間の・・・」
「収入は減るだろう。でも禁漁期間が開けてから魚の取引額を上げれば対応は可能だろう?最初の数年は、スキルカードの補助をしよう」
助成金があれば、大丈夫だろう。
このあたりは、ルートに丸投げで大丈夫だろう。徐々に減らしていく感じで考えておけばいい。最初に宣言しておけば、減っていく前に無理だと思って辞めるやつが出て来るかもしれない。でも、そうなったら、残された者の収入が上がる可能性に繋がる。
この大陸で、安定的に魚を確保できるのは、湖の集落位だ。ダンジョンの中にも水辺は存在しているが、安定的に提供できる補償はない。あちらこそ、提供が何時停止しても不思議ではない。
「わかりました。長老と話をしてみます」
「頼む。期間は、長めに設定するようにして欲しい」
「よろしいのですか?」
「大丈夫だ。それから、漁に出ていない者も居るだろう?」
「はい」
「その者たちで、宿屋のような店を任せられる者が居ないか確認して欲しい」
「宿屋ですか?」
「正確には、宿屋ではなくて、説明が難しい・・・」
ギュアンにペンションと貸別荘の話をした。
リカルダが、同じような施設を、あの大陸でも設営していたので、解ると言ってくれた。
ひとまず、リカルダとフラビアに貸別荘の運営説明を頼んだ。まとまった物を後で、俺が訂正すればいい。
貸別荘地に出来れば、漁が禁漁の間でも、湖の集落が収入を得る事ができる。
さて、本題に入ろう。
「ギュアン」
「はい」
ギュアンが、背筋を伸ばして、俺をまっすぐに見て来る。
「結婚おめでとう」
「え?あ・・・。ありがとうございます」
「住む場所はどうする?」
「え?」
表情から、あまり考えていなかったのか?
フリーゼたちと一緒に住むつもりなのか?
「あっ。フリーゼが今の場所を使って、俺は舟屋に住もうかと・・・。それでいいと言ってくれています」
別に、舟屋を住居に使うのはダメとは思わないけど・・・。
それに、少しだけ照れながら、少しだけ誇らしげに、ギュアンは相手といい関係が築けているようだ。
「それなら、フラビア!リカルダ!」
二人が、俺の前まで来てから、ギュアンに鍵を渡す。
ギュアンとフリーゼの為に用意した新しい家だ。
「これは?」
「二人の新居だ。急遽用意した・・・。わけではなく、さきほどの説明にある。貸別荘用に作っていた家だ。夫婦者が住む為に作らせた家だ。ギュアンとフリーゼで住んでみて、意見が欲しい。ダメか?」
鍵を大事そうに握って、ギュアンは首を横に振る。
「ありがとうございます。でも、俺たちの意見でよろしいのですか?」
「大丈夫だ。それに、他にも、何組か新婚夫婦に住んで意見を貰うことになる。ギュアンたちなら、湖の集落との繋がりがあるから、集落の者たちからの意見もまとめてもらえると助かる」
「わかりました!」
嬉しそうにしている。
舟屋でも大丈夫と言っていたが、しっかりした家に住める方がいいに決まっている。舟屋は仕事場であって、生活する場所ではない。
ギュアンとの話は、問題が少なくて良かった。これが、ルートなら文句の一つや二つや三つや四つや五つくらいは平気で重ねられていて、そのあとで、まとめた文句を言われただろう。
ギュアンが素直で良かった。
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