【第九章 神殿の価値】第二話 別荘地

   2020/06/11

やる事がないヤスは、アフネスとサンドラと一緒に貴族用の別荘建築予定フロアに来ている。
神殿の西門近くに作られた入口から入る場所だ。

ヤスは別荘地と言えば、軽井沢か伊豆を思い浮かべる。
イメージは、高級リゾート地ではなく、チープな匂いがする”なんちゃってリゾート”だ。入る前に、審査が行われる。審査は、通常の神殿に入る審査とは違う。貴族や従者に、同じ調査をしていたら殆どの者が許可されない。そのために、リゾート部分を分離したのだ。

「ヤスさん。リゾートという名前で決定なのですか?」

「ん?名前が必要なのか?」

「はい。父だけではなく、派閥の者たちも、”神殿の中に別宅が、所持できるのなら”と、言っております」

「それは解ったが、なぜ名前が必要になってくる?神殿ではまずいのか?」

「はい。王国では神殿と言った場合には、神殿の都テンプルシュテットを指してしまいます」

「そうだな」

ここまで話を聞いてアフネスが、合点がいった様な表情をした。

「ヤス。誰かに、神殿に別荘を作ったと自慢したら、どう思う?」

「うーん。そうか、神殿の都テンプルシュテットに別荘なんて無いのは来たことがある商人なら嘘だと解ってしまう」

「はい。それもありますが、特別な場所に別荘を作ったという話にしたいのですよ」

「わかった。リゾート区で頼む。考えるのが面倒だ」

サンドラとアフネスは、ヤスの言葉で納得した。二人も、別に名前が決まれば良いのだ。

「ヤス。それで、許可はどうするつもりだ?審査は行わないのだろう?」

「簡単な審査はするよ。リゾート区だけで完結すればいいけど、難しい・・・。わけでもないのか?」

「どうした?」「ヤスさん」

ヤスは、なにやらブツブツといいながら考え始めた。
サンドラもアフネスも、ヤスの様子を見ているが、心配する雰囲気はない。

「サンドラ。知り合いに、貴族相手にする商人はいない?」

「え?家に出入りしている商人なら知っていますが?」

「その商人は、アシュリやローンロットでも大丈夫?」

「問題はなかったと思います」

「それなら、その商人だけじゃ手が足りない可能性もあるか・・・。クラウス殿に相談して、派閥に属する貴族家に都合がいい商人を出してもらって、リゾート区の入口近くに店を持たせることは出来るか?」

「よろしいのですか?」

「ん?リゾート区だけなら問題はないと思うけど?神殿の都テンプルシュテットから買いに行けるけどいいよな?」

「買いに来るのは問題にはならないのですが、商人を意図的に絞っているのだと思っていました」

「ん?俺が?」

アフネスもサンドラと同じ様に考えていた。確かに、神殿の都テンプルシュテットには商店は少ない。商人の数も限られている。アシュリやローンロットが出来て、解消されているが、最初に移住してきたエルフ族以外の商店が無いのも事実だ。
理由は難しくない。商人が神殿の都テンプルシュテットに滞在できる許可が降りないのだ。商人は神殿の領域には入られるが、滞在が出来ないので、商店を作るには、現地で人を雇うしかなく、メリットがなく商店を出していないのだ。

「うーん。商人の許可が出ないのは、本当だけど、神殿の都テンプルシュテットに住んでいる者たちが商人になるのを辞めろとは言わないよ。でも、畑違いだから難しいだろうとは思っているよ」

「わかりました。レッチュ辺境伯家に連絡します。リゾート区のどの辺りに商店を開きますか?」

「まずは、中を確認しよう。マルス!」

『はい。個体名セバス・セバスチャンにタブレットを持たせました』

楔の村ウェッジヴァイクが出来て、討伐ポイントが飛躍的に増えた。
今までは、住んでいる者から微量のポイントの積み重ねだったのだが、楔の村ウェッジヴァイクでは迷宮が出来ている。帝国貴族からの命令を受けた者たちが無謀なチャレンジをして迷宮で命を落としている。討伐ポイントの荒稼ぎが出来ているのだ。愚かな貴族は、二級国民や奴隷を大量に引き連れて物量で迷宮を攻略しようとした。迷宮の意思を司るマルスは、貴族や取り巻き立ちを狙って殺害した。そして、連れてこられて肉の盾にされていた二級国民や奴隷を解放して、湖の村(帝国側)に送り届けた。解放に値しない者は、迷宮の糧になってもらった。

今では、ディアスを除くと一番の稼ぎ頭になったのが、楔の村ウェッジヴァイクの迷宮なのだ。稼いだ討伐ポイントを使って、大量のタブレットを在庫として積み上げた。それ以外にも今まで使用頻度が微妙だった、保冷車や冷凍冷蔵車やダンプやタンクローリーやミキサー車やバルク車を車庫に揃えた。ヤスが日本に居たときに同業者から貰ったり、買い集めたり、廃業する業者から貰った物だ。

セバスは、すぐにヤスの所に来た。

「アフネス様。サンドラ様。旦那様。お待たせいたしました。マルス様からのご指示でお持ちしました」

ヤスは、セバスからタブレットを受け取った。

「サンドラ。リゾート区の全貌を見て決めようと思うけど、商人が店を出せる場所は、入口の近くだけにしたほうがいいだろう?」

「ヤス。川を作ったり、森を作ったり、地形を変えるのは可能なのか?」

「神殿のなかだったらある程度は出来るぞ?」

エミリアを出して、討伐ポイントを確認する。
同時にカタログも確認した。

「サンドラ。意見が欲しいのだが、ヤスは地形が変えられると言っているから、リゾートで狩猟が出来たらいいと思わないか?」

「あっいいですね。あと、川や湖があれば、その周りは人気が出そうです」

「ヤス。海は無理か?」

「さすがに、海は無理だな」

「ヤスさん。リゾート区を小さくして、階層に出来ませんか?」

「ん?小さく?」

「はい。森と川と湖と草原を配置した場所を作って、上位貴族に高く売りつければ良いと思うのですが?」

「おっ。ヤス。私も、それがいいと思うね。広い場所には、子爵や男爵や豪商が別荘を作るだろう。同じ場所では、伯爵や辺境伯や侯爵が嫌がるだろうからな」

「マルス!」

”マスター。個体名アフネス。個体名サンドラの意見に賛同します。また、森や草原に、動物や虫を放てば狩りが出来ると思います”

「増えすぎないか?」

”マスターの眷属に管理させれば対応が可能です”

「フロアを作るのは良いけど、移動はどうする?上下とかだと、文句を言い出す奴が出てくるだろう?」

アフネスとサンドラは、ヤスの言葉で上下では文句が出てくるのは間違いないと肯定した。

”マスター。転移門を作成します。魔法陣の上に乗ってもらって、移動するようにすれば、上下を意識させないで移動できます”

「サンドラ。マルスの提案ではどうだ?上下を意識しなければ大丈夫なのだろう?」

「はい。くだらないのですが、上下を意識出来なくて、説明で専用の空間だと言えば大丈夫です」

「わかった。今のフロアは、このままにして、”金を持っている貴族向けに専有フロアを作成する”で、いいな?」

「はい」

サンドラは、話を聞いてワクワクしている。

「ヤス。商店は、どうする?」

「商店は、共有部分のみで良くないか?専有フロアは、好きにしてくれてもいいけど、商店があっても意味が無いだろう?」

「それもそうだな。イワン殿の酒精を扱う店を出すのか?」

「うーん。出せば売れるだろうけど、止めておこう。イワンが出したいと言ったら許可を出すけど、必要ないだろう」

「そうだな」

少しだけ残念そうなアフネスを無視して、サンドラとヤスは商店の区画を決めた。
下級貴族用のリゾート区画も整備した。道を作って、20箇所程度別荘を作る場所を整地した。あとは、貴族が人を雇って立てればいい。湖や草原や川が人気になるだろうとサンドラの意見を取り入れた結果だ。それぞれの別荘予定地も、サンドラの意見を取り入れて区画を整備した。自然な形で目隠しが出来るように木々を配置していく、全部は面倒なので、途中からマルスに丸投げした。
上級貴族用の専有フロアも複数の種類を作成した。値段はタイプが違っても同じにした。

「あっあと・・・。ヤスさん。お父様から、アーティファクトの貸し出しは可能なのかと問い合わせを受けています」

「ん?どれ?」

「えぇ・・・と・・・」

「サンドラ?」

「カートです」

「カートか・・・。専用のコースを用意するか?地下に貴族を入れたくないからな」

「はい!お願い出来ますか?」

「あぁ問題はない。コースも、地下と同じ物を用意するか?全部でも良いけど、そんなに必要ないだろう?」

「いえ、ヤスさん。全部お願いします。貴族たちには、使用人を置くようにお願いするのですが、使用人たちの日常の暇つぶしに丁度いいと思います」

「わかった。用意しよう」

「ありがとうございます」

「リゾートでの移動は馬車を使うのか?」

「はい。その方が良いと思います」

「わかった。アフネスも問題はないな?」

「大丈夫だ」

「よし、値段はサンドラとアフネスで決めてくれ、神殿の窓口は、セバスで良いだろう。仲介は商業ギルドに頼めばいいか?」

「いえ、ヤスさん。仲介はお父様と王家にやってもらいましょう」

「いいのか?」

「はい。その方が、問題が発生したときに、王家に対応させることが出来ます」

「わかった。それなら。クラウス殿を通して、王家に頼むとしよう。駄目なら、クラウス殿かハインツ殿に担当してもらおう」

「はい。父と兄には、神殿の主の言葉として伝えておきます」

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