【第三章 復讐の前に】第二十一話

 

森下さんの到着は、2時間後だと言われた。

バイト先には、連絡を入れておいた。
家が近くて、融通が効く人間だと思われているのか、休みの日でも連絡が入る事がある。人が少ないときや、団体の予約が入った時など呼び出されることが多い。

2時間という時間は、何かをやろうと思うと、”帯に短し襷に長し”になる。レナートに行ったら、間違いなく夕方になるまで帰って来られない。

どこかに買い物に行こうにも、1時間程度で行ける場所は、ベイドリームだけど・・・。ジャンボエンチョーがある。あの店舗は、いろいろな意味で”やばい”時空が歪んでいるのか、知らない間に二時間とか経っている時がある。

しょうがないので、ウミとソラの毛づくろいを手伝おうと思う。
猫用のブラシは、それこそジャンボエンチョーで購入してきた。猫砂の好みが違って面倒だったが、それぞれが気に入る猫砂の準備が出来た。

ウミとソラを撫でていると、時間になったようだ。
家の前に車が停まる気配がした。

カメラの位置まで移動して確認をするのが面倒なので・・・。

(スキル遠視)

森下さんと今川さん?
二人で来るのは珍しい。

玄関を念動で開ける。

「ユウキ!」

「上がってきてください。上がってすぐの部屋が応接室です」

「わかった!」

今川さんだと話が早くて助かる。
それにしても、拠点に居るはずなのに、今川さんもフットワークが軽い。フェリーで来たのか?
このくらいの時間なら、車でも2時間くらいかな?森下さんが2時間後と言ったのは今川さんを待っていたから?

「ユウキ!飲み物は、必要ないぞ!摘まむ物も買ってきた。どうせ、何も食べていないのだろう?」

ありがたい。
確かに、何も食べていなかった。

「わかりました」

応接室に行くと、どこで買ってきたのかはっきりと解る。Mのマークのファーストフードだ。そういえば、”M”が最初の店は、二つだな。清水の袖師にあるジャンボエンチョーに入っている”M”の店だ。そういえば、ヒナが”ここモス”のライスバーガー系が好きだったな。マイは、シェイクなら”ここモス”のストロベリーが好きだったはずだ。今度、レナートに行くときに買って帰るか・・・。

「適当に買ってきた。テリヤキチキンバーガーが好きだったよな?」

「ありがとうございます」

あと、店舗の名前が付いたトマトが入っているバーガーを確保する。飲み物は、シェイクを買ってきてくれている。同時に、炭酸飲料も買ってきてある。人数分だ。

「ユウキ。食べながら聞いてくれ」

テリヤキチキンを頬張った所で、今川さんが話を始める。

咀嚼して飲み込んでから、今川さんに答える。
小さな子供だった時に、母親に言われた事だ。食べながらしゃべるな。肘をついて食べるな。まずそうに食べるのなら食べるな。他にもいろいろ・・・。

「はい」

森下さんが、学校での説明言い訳会での話を教えてくれた。
呆れたが、想定していたよりも焦っている印象がある。学校が焦る理由は、ある程度は想像ができるし、納得もできる。

「森下さん。理事たちが出てきたのですか?」

「はい。ユウキ君が想像したよりも、事態が早く進んでいるのかもしれません」

理事・・・。
アイツらの息がかかった者なのか?

「ユウキ。出席した理事は、ターゲットではない」

「それは・・・。まぁそうでしょう。こんなに、早く姿を出すとは思っていませんよ」

「そうか・・・。でも、学校関連のトップが出てきたのは大きいぞ」

「え?トップ?」

「あぁ理事の一人だけど、学校をまとめている奴だ。奴らの組織では下部組織だが、下部の上層だな」

今川さんの言葉を聞いて、焦って森下さんを見ると、苦笑しているだけで、何も言わない。
法的にグレーな部分はある状況で、さらに推し進めようとしている状況なのに・・・。

「ユウキ君。法律は、二面性があるのよ?」

「え?」

森下さんが、いろいろ例をあげて説明をしてくれた。
難しい話だけど、活動にも影響してくる。

問題は、俺がやろうとしていることが、現法では既定がされていないことが多い。

「わかりました。なるべく、”事”を興す前に相談します」

「そうして・・・。無駄だろうけど・・・。ユウキ君を見ていると、旦那の若い時を思い出すのよね・・・」

「旦那さん?」

「桜か?確かに・・・。幼馴染を虐めて殺した奴を捕まえるために警官になったのだよな」

「そうね。訂正するとしたら、幼馴染ではなく、旦那の初恋の相手ね」

「え?初恋?」

「そうね。今度、ゆっくりと聞かせてあげる。ユウキ君にも関係が、全くない・・・。話ではないから・・・」

「わかりました。ありがとうございます」

馬込先生から簡単に話を聞いている。
森下さんたちが、俺の計画に協力してくれている理由も・・・。

「ユウキ。それで、ここを襲撃してきた連中は?」

今川さんが、話を本筋に戻してきた。

「おとなしいですよ。接触は何もありません」

正直に答える。
本当に接触が何もなかった。電話くらいなら調べられるだろうと思っていたが、電話さえもなかった。バイト先にも、今のところは何も接触がないようだ。何か、接触があったら、連絡がもらえる事になっている。

「そうか・・・。雑誌の差し止めならできるぞ?どうする?」

「え?いいですよ。何も、動きがない方が面倒な気がしますし、今回の様な動きの方が、対応が楽です」

今川さんが”襲撃”と言っていたが、玄関先で騒がしかっただけで、”襲撃”とは思えない。
それに、声を出して脅してくるような連中なら対応は簡単だ。暴力には、暴力で対応すればいい。

「ユウキ。襲撃には、できるだけ、”力”で対応するな」

「え?」

「奴らに、ユウキを避難できる武器を与えるな。”力”を見せつけるのなら、抵抗する気持ちを折れ」

「今川さん。ユウキ君。襲撃を受けたら、防御と反撃は許される事だけど、解らないようにしなさい」

「え?え?解らないように?」

止めるべき二人の大人が率先しているように聞こえる。

「そう、ユウキ君ならできるでしょ?こちらの世界では発見が難しい・・・。または、不可能な方法とか・・・。ね」

「えぇ・・・。でも・・・」

「何か、条件が必要?それとも、難しいの?」

「いえ、違います。それって、俺が犯人だと・・・。そういう事ですか!」

二人が、何を狙っているのか解った。

あの愚かな人たちが、俺を襲撃してきたら、俺は”フィファーナ式”のお礼を行う。
フェリアに頼んで夢魔を借りてきてもいいかもしれない。いろいろ楽しい報復が考えられる。

そのうえで、あの愚かな人たちが、俺に文句を言ってきたら・・・。”襲撃”を認めたことになる。ならなくても、そういう噂を流すことができる。

今川さん手配の雑誌も発売される。
警察が流出させた動画も拡散されるだろう。

「そうか、理事を失脚させるのですね?」

「ほぉ・・・」「・・・」

どうやら、二人の表情から、読み取れることは、理事を失脚させて、今川さんではなくて、多分・・・。馬込先生が送り込む者が理事になって、学校法人を奪い取るのか?そこまで出来なくても、乗っ取りを仕掛けるという事実が必要なのだろう。
学校法人やそのうえの組織への攻撃だと考えてくれれば、俺がターゲットを狙いやすくなる。

メリットは、他にも何かありそうだけど、俺の経験では、この程度しか考えられない。

今回の説明言い訳会が、丁度いい機会になってしまった。
これで、警察が流出させた動画がネットで話題になる。話題にならなくても、関係者の目に止まれば十分だ。

対企業体の戦いは、大人に任せて、俺は復讐と報復の方法を考えよう。

フィファーナでは有効ではなかった方法でも、地球の日本では有効な場合がある。
今回は、その実験に使ってみよう。

何ができるのか、考えてみよう。

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