【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】幕間 社会科見学(その3)

   2020/04/06

「カイル君。この部屋は、これから君が生活する部屋で間違っていないよ」

「ディアス姉ちゃん。俺1人で?孤児院に居た時には、この部屋よりも狭い場所で、全員が寝ていたぞ!?」

 カイル君の言葉に弟たちが首を縦にふる。

「わかっています。でも、君たちはこれから沢山勉強して、ヤス様のために働いてもらいます。そのためには、広い部屋が必要です。カイル君は冒険者になって魔物を倒して強くなりたいのですよね?」

「・・・。うん」

「それなら、武器や防具を置いておく場所が必要です。それに、素材を集めて、鍛冶屋に武器や防具を作ってもらう必要があります。素材を保管しておく必要があります」

「うん」

「イチカちゃんは、本を沢山読んだり、調べたりしたいのですよね?」

「うん」

「資料が沢山必要です。本も意外と場所を取ります」

「はい」

「結婚するか、20歳になるまでは、寮で生活できます」

「え?」「けっ結婚?」

 カイル君とイチカちゃんの反応が違います。イチカちゃんは、カイル君を見ました。そういうことなのでしょう。カイル君は全く気がついていないようです。

「そうですよ?これも、ヤス様が決められたことです」

 イチカちゃんが手をあげます。

「なに?」

「その・・・。けっ結婚したら、神殿から追い出されてしまうのですか?それなら・・・」

「あっ!違いますよ。結婚したり、20歳を越えたりしたら、寮を出て家を与えられます。あと、20歳前でも申請して許可されれば家が与えられます。リーゼ・・・は、まだ知らないのでしょうが、そういう例もあります」

「そうなのですね。良かったです。私たちは、ここを追い出されたら・・・」

 イチカちゃんの思いはわかります。私たちだって同じ気持ちがありました。
 そして、与えられた物が多すぎて怖くなったのです。でも、ヤス様は一通り与えてからは皆でなんとかして欲しいと伝えてきました。私たちは、個人でできる事を考えました。ヤス様が成人前は学校で勉強する。成人後でも、20歳までは神殿が面倒を見るから、”いろいろな仕事を試しにやってみて欲しい”と、言われました。
 これに則って、私とドーリスとリーゼとミーシャとサンドラとデイトリッヒが方針を決めました。方針を、サバスとツバキを交えて規則にした。ヤス様から何度も言われたのですが、ヤス様の言葉は絶対ではなく、希望なのだと・・・。方針を決める話し合いの人数も増やしていくつもりだと言われている。

「大丈夫よ。ヤス様は、追い出すようなことはなさらない」

「でも・・・」

「そうね。あなた達がヤス様のためを思って行動するのなら大丈夫よ。間違えたら、私だけじゃなくて、セバスやツバキが止めます。マルス様もいらっしゃるから大丈夫よ」

「マルス様?」

「ヤス様のサポートをされている人で、神殿で発生している事なら何でもご存知の方よ」

 カイル君は、弟と妹を連れて部屋の探検を始めている。
 探索するほど広い部屋ではないのですぐに戻ってきた。

「カイル君。少しは落ち着いた?」

「うん!ディアス姉ちゃん。いろいろ教えて欲しい!」

「そうね。見ただけではわからない物も多く設置されているからね。全部説明するのは時間がかかるから代表的な物だけ説明するわね」

 カイル君とイチカちゃんの部屋にだけある施設はシャワー室だけなので、まずは二人の部屋だけと説明してシャワー室を説明する。
 ヤス様が簡易キッチンと呼んでいた場所の説明をする。特に、小さい弟や妹は注意が必要になってくるでしょう。それは、イチカちゃんやカイル君に任せましょう。あとは、光る魔道具や水が出る魔道具の説明を行う。皆が使えたので安心した。ヤス様からは起動時に魔力を必要とするために、微弱でも魔力が無いと起動しないと言われていた。もし、起動しない者が居た時にはすぐに連絡するように言われているのだ。
 でも、この神殿の都テンプルシュテットのカードを作る時に、魔力登録をするので、街に入っている時点で魔道具の起動には問題はないと思っている。

 子供たちは、光が点いたり消えたりするのが楽しいのか、順番に魔道具を操作している。

「ディアスお姉ちゃん・・・」

 イチカちゃんが暗い顔で私の服を引っ張ります。何か聞きたい事があるのでしょうか?

「どうしたの?」

「あの・・・魔道具。それに、さっきの暖かくなったり冷たくなったりする魔道具もですけど、すごく、すごく、すごく、高価な物ですよね?いいのですか?」

「大丈夫よ。説明した時に言ったけど、あの魔道具は全部の部屋に着いています」

「でも、取り外して売る・・・」

「無理ですよ」

「え?」

「イチカちゃん。まずは、取り外すのは難しくなっています」

「はい」

「取り外せても、アーティファクトと同じで神殿の領域外では使えません」

「え?魔道具ではなくてアーティファクトなのですか?」

「私もわかりません。ヤス様の許可を得てユーラットで試したら使えませんでした」

「え?」

「もし、商人に売れたとして、そうですね希少性を考えて、金貨10枚程度ですか?その程度で、神殿の暮らしを手放してもいいと思うのならやってみる価値は有るでしょうね」

「あ・・・」

「私は、魔物や強盗の心配が少なく、食べる物にも困らない。自分が安心して生活できる場所を手放すつもりはありません」

「そう・・。ですね。ありがとうございます」

 やはり、まだわからないようですね。でも、しばらく生活していれば、神殿での生活を無くしたくない・・・。と、考えるはずです。

 さて、一番の難題です。
 トイレの説明が難しいのです。

「なぁディアス姉ちゃん!小さい部屋が有るけど、あれは何?綺麗な水が溜まっているけど、手や顔を洗う場所なのか?」

 カイル君が、私が最初に考えたのと同じ考えに至ります。

「あ!違います。カイル君」

 カイル君を制止します。水に手を着けようとしていたのを、強引に止めます。カイル君のためです。

「姉ちゃん?」

 咄嗟だったので、乱暴になってしまいました。

「イチカちゃん。この部屋は何かわかりますか?」

 悔しそうにしながら首を横にふる。

「ディアス様。私が説明いたします」

 そうでした。エイトならしっかりとした説明ができます。
 私もファーストに説明を聞いて使えるようになったのです。今まで、エイトの存在を忘れていました。

 私が困っているのを感じて説明をしてくれるようです。正直、助かりました。

「そうですね。お願いします。カイト君とイチカちゃんが説明を聞いて、弟くんや妹ちゃんに教えてあげればいいでしょう」

 エイトがトイレの説明をしている。
 神殿の都テンプルシュテットに来て皆が驚くのが、トイレの使い方と機能なのです。

 説明はすぐには終わりません。
 それでも理解が早いイチカちゃんは一回の説明で解ってくれたようです。少しだけ恥ずかしそうにしているのは、女の子なのでしょう。カイル君は”すげぇー”とか言っていますが実際に試してみたのでしょう。それを聞いて、イチカちゃんはまた恥ずかしそうにしています。

「エイト。私は、カイル君とイチカちゃんを連れてギルドに行きます。弟くんや妹ちゃんの相手をお願いできますか?」

「承りました。私一人では、両方は見られないので、もうひとりを呼んで部屋に入って貰ってよろしいですか?」

「お願いします」

「かしこまりました。終わりました、マスターの所に戻ります」

「はい」

 エイトに子供たちを任せた。

「カイル君。イチカちゃん。デイトリッヒが魔の森から帰ってくるまで、ギルドで待ってもらおうかと思うけどいいかな?」

「うん」「わかりました」

 カイル君とイチカちゃんの表情が変わります。
 自分たちが”ここ”に来るきっかけの出来事を思い出したのでしょう。

 すぐには無理でしょうが立ち直ってほしいです。
 私ができたのです。カイル君とイチカちゃんもできるでしょう。