【第三章 町?街?え?】第六話 説明?

 

 ロブアンの三文芝居から始まった騒動は収束する様子が見られない。

 散々怒鳴っていたロブアンが一息入れたタイミングで、ギルドの責任者(ギルドマスターではない)がロブアンに話しかける。

「ロブアン殿。少し落ち着かれよ」

「落ち着いてなんて居られるか!リーゼの護衛が、リーゼを置き去りにして逃げたのだぞ!」

 ロブアンの怒りは間違いなく正当なものだ。
 だが、ギルド側に確かな情報が届けられていないので、対応ができない事も間違いようがない事実なのだ。

 全部、ヤスが悪いと言ってしまえばそれまでの事なのだ。
 リーゼがゴブリンの集団に襲われたのは、ユーラットの町を出発してから5日目の事だ。行程の半分程度の場所だ。出発前に、目的の町に予定を知らせてあるので、予定日よりも大幅に遅れた場合には捜索隊が出る事になっている。ギルドとしては、目的の町からの連絡がないので何もしていない。
 また襲撃場所の近くを通った商隊や冒険者たちも存在している。しかし、その者たちも最寄りの町に到着するまで、最低でも3日程度が必要になっている。

 したがって、リーゼが乗った馬車が襲われた事実はロブアン一人が言っている事になってしまうのだ。

 ヤスがリーゼを助けたまでは問題がない。
 ディアナに乗せて帰ってきてしまった為に、通常なら3-5日後に到着する襲撃されたという情報よりも先に依頼が町に戻ってきてしまったのだ。

 ギルドで使用している球状の魔道具は通信機の役割も持っている。
 同じスペックの魔道具同士で通信ができる機能が備わっている。ギルドに情報さえ到着すれば、即座に伝達する事ができるのだが、今回は大本の情報がギルドに届けられる前に依頼失敗と護衛として雇った冒険者の問題行動が明るみに出てしまったのだ。

 そのために、ギルドの責任者は問題を把握して対策を練り上げる時間的な余裕が与えられなかったのだ。

「ロブアン殿。状況を教えて下さい。それから調査いたします」

「状況を調べる?面白い事を言ってくれるな?」

「何を?」

「そうだろう?お前たちに、依頼を出した。結果、それが果たされない状況で、リーゼが危険な目に合った。それが全てだ」

「だから、それが真実なのか、判断できない。だから、調べると言っているのです」

「貴様は、俺やリーゼが嘘を言っていると思っているのか?」

「いいえ、違います。違いますから、しっかりと調べます」

「それでは遅いと言っている。リーゼが帰ってきて、今休んでいる。依頼した事が完遂できていない事は間違いない。護衛を依頼した奴らは荷物を持って、リーゼと御者を残して逃げた。その時に、リーゼが持っていた食料や換金の為の物資まで持ち逃げしたのだぞ!」

「ちょっと待って下さい。リーゼさんが帰ってこられている?」

「そうだ!ヤス!この馬鹿に教えてやれ!」

 急に名前を呼ばれて、ヤスは困惑した。
 どう考えてもクレーマーだと思える上にギルドの前で行った打ち合わせと違っているのだ。最初は良かった。ギルドの責任者を呼び出すまでは怒った演技をしていたのだが、演技に本気になりすぎて本当に怒り出してしまった。

 ヤスは、大きく息を吐き出して、受付からギルドカードを受け取った。

「あの・・・」

「すみません。呼ばれてしまったので行きます。ギルドカードの説明は、後で聞きに来ますがいいですか?」

「もちろんです。お待ちしています」

 受付がニッコリと笑ったのを受けて、ヤスも(本人の感覚では)ニヒルな笑いを向けて、席を立った。

 そのまま、ヤスはロブアンとギルドの責任者が話をしている席に移動した。

「貴殿は?」

 ギルドの責任者がヤスを睨んでから問いただしてきた。

「ヤスと言います。本日、冒険者ギルド・商業ギルド・職人ギルドに登録いたしました」

 しょうがないと思いつつヤスが話に割り込む事にする。

 ヤスは、ロブアンの隣に座って、事の次第を説明する。
 自分が転移?してきた事は伏せて、リーゼにした説明と同じことを繰り返した。知力Hでもその位はできる。ところどころエミリアから訂正が入ったが、ギルドの責任者もロブアンも不審に思わなかったので大丈夫だろう。

「それで、ヤス殿。リーゼさんは馬車の残骸の近くで一人だったのですね」

「あぁ」

”マスター。その時の映像がありますが提示しますか?”

”それは一般的な事なのか?”

”魔法を検索・・・失敗。不明です”

”それじゃいい。別にそこまでする必要は無いだろう”

”了”

「リーゼさんが一人で馬車に取り残されていて、ゴブリンの群れに襲われていたのですね」

「ちょっと違う。”襲われそう”になっていた・・・。だな」

「ヤス!」「ロブアン。少し黙ろうか?」

 ヤスは、約束通りにロブアンを制する。
 取り決めていた事だが、ロブアンは不満げな顔をする。本気で不満に思っているようだ。

「それで?荷物は、持っていたのですか?」

「アイテムボックスに入っていると言っていたぞ?でも、自分の荷物以外の食料とかは、護衛が持って逃げたと言っていたな」

「そうですか・・・。ヤス殿は、護衛を見ましたか?」

「見てない。それに、御者?も居なかったと思う。あの場所で、生きていたのは、リーゼ以外ではゴブリンだけだったぞ」

「・・・」

「ダーホス様」

 ヤスを担当した受付の女性が、ギルドの責任者に声をかけてきた。

「なんだ?ドーリス?」

「はい。先程、ヤス様のギルドカードを作成しました。その時に、討伐記録に、ゴブリンがありました。10体以上の討伐がありそうです。討伐した日時は、一昨日でした」

”なぁエミリア。討伐記録って、ゴブリンを倒したのは、ディアナだよな?”

”エミリアが答えます。そうです”

”なら、なんで俺に討伐記録が残る?”

”討伐記録を検索・・・成功。マスター。武器を持って、魔物を倒した時と同じ扱いです。マルス・ディアナ・エミリアは、マスターの武器です。また、これは奴隷契約でも同様の扱いです”

”ん?奴隷が倒した場合でも、主人に討伐記録が残るのか?”

”はい”

”エミリア。その討伐記録には、魔物以外も残るのか?”

”はい”

”その時には、人族と残るのか?”

”討伐記録を検索・・・成功。ネームドの場合には、種族と名前が記録されます”

”隠蔽はできないのか?”

”できないと考えてください”

”わかった”

 ヤスが、エミリアと内緒話をしている最中に、ギルドの責任者であるダーホスが、ドーリスから渡された情報を見ていた。ヤスの情報だが、規約にはギルド内で共有すると書かれていたので、ヤスは黙って成り行きを見ていた。

「ヤス殿。ゴブリンを倒したのは、リーゼさんを救出した時ですか?」

「そうだ」

 ダーホスが難しい顔をして考えている。
 当然だろう。ヤスの討伐記録に残されていたゴブリンの記録は、”一昨日”なのだ。簡単に言えば、1日圏内での出来事だと考えられる。しかし、リーゼがユーラットを出たのは5日前になっている。少し遠回りしたとしても、1日圏内に居たとは考えられない。

「ヤス殿。貴殿のことを疑うわけではありませんが、ゴブリンの討伐とリーゼさんの救出は時間的に違うのではないですか?」

「どういう事だ?」

 ヤスは、自分が言った事が信じてもらえないと思った。事実、ギルド側は疑い始めている。時間的な整合が取れないのだ。ディアナの説明を”特殊な馬車”としたために、少し性能がいいだけの馬車だと思われているのだ。倍の速度で移動できたとしても、行程が1/5になるわけではない。実際には、10倍近い速度で移動してきたのだが、それこそ説明しても信じてもらえないだろう。

”マスター。ディアナの説明をしてください”

”やっぱり?”

”はい。人は、自分が見た物しか最終的には信じません”

”そうだよな。わかった”

 ヤスは、覚悟を決めた。
 なぜ覚悟を決める必要が有ったのか自分でもわからないが、なぜか覚悟を決めた。

 そして・・・

「ヤス!おじさん!」

 リーゼの乱入である。
 確かに、一番の被害者で関係者であるリーゼが説明するのが一番なのだ。
 アフネスが、目以外が笑っている状況でリーゼの肩を抱いている。なにかあるのだろう・・・。ヤスは、流れに任せる事にした。

 そして、確実に面倒事になったと確信した。