【第六章 神殿と辺境伯】第十話 介入?

 

「マルス!説明をしてくれ」

『詳細は不明です。個体名ダーホスを含む16名が戦闘になっています』

(カメラを設置しておけばよかったかな?)

 ヤスはカメラを設置していないことを嘆いているが表示されないだけで状況を把握できる状況にはなっているのだ。
 ディスプレイに表示されているのは、人族を表す点だけだがダーホスを示す点は判別できる。ダーホスの周りに居るのがユーラットの関係者と考える事ができるのだ。

「戦闘?だれとだ?」

『わかりません』

「セバスの眷属に見てもらうしか無いか?」

『個体名セバス・セバスチャンの介入が必要です』

「マスター」

「ん?どうした?」

 控えていたツバキがヤスとマルスの話に割って入る。

「マスター。私が見てまいりましょうか?」

 セバスも同じことを考えていて、ヤスに自分が行くと言い出した。

「うーん。セバスには神殿に居てサポートして欲しい。マルス。セバスの眷属と魔物たちでは介入は難しいか?」

『可能です。ただし、魔物たちでは訓練を積んだ騎士や冒険者が相手では討伐される可能性があります』

「移動手段も問題になるな。マルス。小型バスは、あとどのくらいで準備ができる?」

『7分32秒です』

「お!それなら、ツバキ。バスの運転を頼む。山を降りる時にはマルスとディアナの補助ができるだろうけど、街道では運転を頼むことになる。俺が行ってもいいけど・・・」

 ツバキとセバスだけではなくマルスからもヤスが行くことにかんしては”ダメ”だと言われた。

「そうか・・・。ツバキ。頼む。セバス。眷属に武装させて、小型バスに載せろ。介入するぞ!」

「マスター。介入は問題ないのですが・・・」

「どうした?」

 ツバキが申し訳無さそうな表情でヤスに質問をする。

「どうしたらいいのですか?」

「うーん。全面的にダーホス側が正しいとは言えないけど、ひとまずダーホス側に肩入れして相手を捕縛。バスに押し込んでユーラットに移動。俺とセバスもユーラットで合流。それならいいか?」

 ヤスが雑な計画を立てる。ツバキもセバスもマルスも危険がかなり下がることやユーラットなら問題は無いとヤスの移動を含めて問題ないだろうと了承した。
 雑な計画をベースに、マルスとツバキとセバスで綿密な計画を立てるようだが結局は”出たとこ勝負”になってしまう。

 10分後には行動の指標を決めて、武装を終えた眷属を乗せたバスが用意された。
 ヤスはツバキに簡単な運転方法をレクチャーした。ヤスの後ろにはセバスが控えて運転の方法を習得しようとしていた。ヤスは、後日セバスにも運転の方法を教える約束をした。

「マスター。行ってまいります」

「ツバキ。無理はしなくていい」

「はい」

 ヤスが領都に向かうときに使った下り坂を使うことになる。
 ツバキが運転する小型バスが下り坂を降り始めたのを見てリビングに移動する。

「そうだ。マルス。小型バスの車載カメラの映像を連動できるか?」

『可能です』

「頼む」

『了』

 ツバキが運転?する小型バスの様子をヤスはリビングから見る。

「なぁマルス。俺の声をバスの中に伝えることはできるか?」

『可能です。魔通信機の原理を使います』

「設定してくれ」

『了』

 バスは坂道をすごい速度で下っていく。
 ツバキや眷属たちは、ヤスを信頼しているのか表情を変えない。ヤスが使ったときよりも舗装して木々を伐採して通路として利用できるようにはなっている。下り専用としてだが通路としては十分だ安全だとは言えないがディアナの補助があれば通過は難しくないだろう。

「マルス。戦闘はどうなっている」

『個体名ダーホスたちは地域名ユーラット方面に移動しています。戦闘は継続されていると判断されます』

「ツバキにレポートしておいてくれ」

『了』

 マルスはディアナに伝達した。ディアナがバスに搭載されているカーナビに情報を伝達した。

 バスは新しく作った神殿の領域に作った関所を抜けた。
 ここからはツバキが運転する必要がある。カートの運転から始まって小型車の運転まではマスターしていた。

 バスは初めてだがなんとかなると思っていた。AT車なのでそれほど難しいことはない。ヤスもツバキに命のほうが大事だから、バスなら壊してもいいから絶対に生きて帰ってこいと命令した。厳命だと伝えた。マルスは、バスが壊されたら中継地点までは移動させろと付け足したのだが、ヤスは命の危険があれば奪われてもいいと伝えた。
 ツバキもセバスも言いたいことはあるが、”生きて帰ってこい”がヤスからの命令だと判断した。ヤスとしても、小型バスの損失は痛いが討伐ポイントを稼げばいいと思っている。ツバキやセバスを失うことに考えれば安いものだと考えた。同じようにセバスが呼び出した眷属のほうが大事だと彼らにも伝えた。

 関所を抜けてからバスはユーラット方面に向かう。
 10分くらい走ったところで戦いながら逃げているダーホスたちを見つけることに成功した。

「カスパル!」

「さっさと逃げろ!ヤツラは本気だ。俺たちを殺すつもりだ。話も通じない!」

 逃げ始めて2時間が経過している。
 偶然に偶然が重なった結果の戦闘なのだ。

 ダーホスが好奇心に負けて石壁を調べ始めたのがきっかけなのだ。神殿の境界を示しているのはすぐに理解したのだが休憩場のようになっている場所がわからなかったのだ。それも数箇所を経由することで、神殿の主ヤスが商隊を休ませるために作った場所と判断した。
 護衛たちも水の確保ができることや果物が入手できることが解るとダーホスの調査に従うようになった。食料の問題になるかと思ったが休憩所の存在で解決の糸口を掴む事ができたのだ。石壁を越えて森に入っても何も発生しないことから、狩りをしても大丈夫だと判断した。ダーホスが調査をしている最中に森の浅いところで狩りをして食料を調達していた。

 神殿の領域がある山と海岸線が一番狭くなっている部分まで石壁が続いていた。
 石壁の最後には門のような物があったが開かれていないことから、神殿の主ヤスが何かの為に作ったのだと判断した。

 そこで帝国から来ていた商人風の者たちと遭遇した。
 最初は友好的に接していたのだが、帝国の商人たちが連れていた女性を見てから雰囲気が変わった。

 奴隷ではないと言っていたのだが、口枷をしてしゃべることができない状態なので実質的には奴隷だろう。もしかしたら奴隷よりも酷い扱いを受けているのかもしれない。カスパルがそう考えたのも当然のことだ。

 そして偶然にも聞いてしまった帝国からやってきた商人たちの目的を黙って見過ごすことができなかった。

「おい。どうする?」

「どうするも、貰うものは貰っているからな」

「そうだよな。逃げたら俺たちが殺される」

「理由までは教えられていないが、女を殺して森に捨てればいいのだろう?」

「そうだ。それで、スタンピードが発生するらしい」

「おえらいさんの考えることはわからないね。スタンピードなんて起こしてどうするつもりかね?」

「知らないよ。俺たちは任された仕事をすればいい」

「ほらこっちに来い!」

「おい。大事に扱えよ。”最後の贄”らしいからな」

「なんだよ。その”最後の贄”って?」

「しらないよ。こいつが最後の一人って意味だろう?」

「さっさと殺して逃げようぜ!」

「でもよう。殺すなら・・・」

 一人の男が女性の身体を舐めるように見る。

「ダメだ!やってもいいが、お前が責任取れよ」

「なんでだよ」

「おえらいさんの話では、犯してしまうとスタンピードが起こせなくなるそうだ」

「ちっ・・・。でもよ・・・」

「帰れば、多額の報酬が入る。それで買えよ」

「そうだな。さっさと殺して逃げるか!この前の男には抵抗されて怪我をした者も出たからな」

 女性がこの話を聞いて、男たちを睨む。口枷されている上に帝国からの日程で最低限の食事しか与えられていない。移動で死ななければよいという考えだ。

 男たちが野営している場所から女性を連れ出して石壁を越えようとしている。

「おい。あんたら何をしている。その先は神殿の領域だぞ!」

 カスパルが我慢できなくなって警告を発する。

 男たちがカスパルの方を見た一瞬のすきを見逃さなかったのは口枷をさせられていた女性だ。
 最後の力で、捕まえていた男の股間を蹴り上げる。腕の拘束が解けた瞬間に走り出す。少しよろめいてしまっているが命がけの逃走だ。ここで殺されて神殿の森に投げ捨てられれば結果は同じことになる。

「来い!」

 カスパルは男から逃げ出した女性を助けるために、武器を構えたまま前に出る。

「やめろ!逃げるぞ!」

 ダーホスが後ろから叫ぶ。力量や武装で格の違いを把握した。全員で戦っても男たちを倒すことはできないだろうと思っている。2-3人倒すことができれば上出来の部類だ。ダーホスとしては顔を見られる前に逃げる方法しか思いつかない。

「女が逃げた!殺せ!」

 女性はカスパルが伸ばした手をにぎる。
 そこにしか逃げる場所が無いと思った。

 カスパルは自分の後ろに女性を匿って構える。

「女を渡せ!そうしたら命だけは助けてやる!」

「お前たちは帝国の者だな!何をしている!スタンピードを起こすとはどういうことだ!」

「しらんな。いいから女を渡せ!」

「嫌だね。お前たちには話を聞かなければならない。抵抗をやめろ!」

「無理だ。お前では俺たちに勝てない」

 そんなことを言われないでもカスパルにも解っている。
 解っているから話をして逃げる方法を考える。ダーホスが他の護衛たちを下げ始める。
 弓を構える様子も見える。相手の男たちに遠距離攻撃が可能な魔術師が居ると逃げるのが難しくなる。

 カスパルは女性に持っていたナイフを渡す。ナイフで口枷の紐を切った女性はナイフをカスパルに返そうとするが、カスパルは首を横にふる。

「(いいか、合図をしたら石壁に沿って逃げろ)」

「(え?)」

「(いいから、逃げろ。あの男たちは俺の仲間だ。安心しろとは言わないが、信用して欲しい)」

「(わかった)」

 カスパルは打ち合わせをしていないがうまくいくと思っている。
 同じようなシチュエーションで訓練をしている。

「逃げろ!」「はい!」

 女性が走り出したのを見て、男たちは女を捕まえに走る。
 男たちが走る場所に弓矢が刺さる。当たった者は居ないが立ち止まった。わずかな時間だが逃げるには十分だ。カスパルは、持っていたもう一本のナイフを対峙していたリーダーらしき男に投げる。

「ちっ!追うぞ!一人は、荷物を持って報告に帰れ!他は女を追うぞ!全員を殺せ!

 この声を合図に帝国から来た男たち7名は逃げたダーホスたちを追いかけ始めた。」

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