【第六章 神殿と辺境伯】第九話 魔道具作り
工房で新しいおもちゃになりえる”魔道具”作りを始めたヤスだったが最初から躓いてしまった。
コアを作るのがとてつもなく面倒で難しいのだ。ヤスは知らなかったのだが、一部のエルフ族やドワーフ族にしか作る事ができないのがコアなのだ。それも、親方から弟子へと受け継がれる技術で外部の者が知る事ができない。基本が口伝なのだ。
技術の継承がうまくできているコアならいいが、継承ができていなくて作る事ができないコアも多数存在している。
それらのコアは魔物から抜き取る事で得ているのが現状なのだがコアを持っている魔物は魔法を自由に使ってくる事が多く、討伐にも一定以上の力が必要になってくる。問題なのは討伐だけではなく魔物を討伐したら必ずコアが必ず入手できる物ではない。
ヤスはそんな事はもちろん知らないし、マルスも説明を求められていないので説明もしていない。セバスもツバキも知らない事なので、ヤスに教える事もできない。
問題なのは、ヤスが知らなかった事ではなく、ヤスが作ろうとしている施設が問題だったのだ。それが解るのは、リーゼたちが移住してくるのを待たなければならない。
「マルス。コアを生成する魔物は何でもいいのか?」
『問題ありません』
「わかった」
エミリアを取り出して魔物を選択して呼び出した。
魔法を使えるようにしたスライムだ。
「マルス。スライムでも大丈夫なのか?」
『はい。問題ありません。個体名セバス・セバスチャンを呼びます。お待ち下さい』
5分もしないでセバスが工房に降りてきた。
「御主人様。お呼びだと伺いました」
「あぁマルス。それで?」
『個体名セバス・セバスチャン。スライムのコアを取り出してください。魔核の近くに生成されています』
「わかりました」
そう言うとセバスは抜き手でスライムの胴体を攻撃した。
魔核を取り出したり壊したりしない限りスライムが死ぬことがない。逃げようとするスライムを容赦なくセバスの手が追いかける。何かを掴んだセバスがスライムから手を抜いた。セバスの手には透明な小さな珠が握られていた。
「御主人様」
セバスがヤスに透明な小さな珠を差し出す。
「ん?マルス。これがコアなのか?」
『はい。火のコアです。熱源の魔法が刻まれています』
「そうか・・・。ん?スライムは死なないのか?」
『はい。2-3日でコアが復活します』
「へぇ・・。それなら、また取り出せば使えるようになるのだな」
『はい』
ヤスは、このスライムを使ったコアの採取が一般的な事だと思った。セバスが簡単に行った事も関係しているのだが、スライムなら簡単にコアを作って簡単に取り出せるのだと思ったのだ。
今は実験を優先する事にして、熱源の魔法を付与した魔道具を作ろうと思っている。
セバスとツバキを助手にしてヤスは魔道具の作成を行うことにした。
気合を入れて作成を行おうと思ったのだが魔道具は簡単に作成できてしまった。魔物由来の素材に魔核とコアをつなぎ合わせて”融合”の魔法をツバキが唱える事で魔道具が完成した。使い方も簡単で手に持って魔力を流すだけで暖かくなる。
ただ暖かくなるだけの魔道具だったので、ヤスとしては技術革新を行っている印象は持っていない。
「マルス。今、ツバキが使った魔法”融合”だけどコアにできる?」
『可能です』
「それがあれば俺でも魔道具を作れるよな?」
『可能です』
「魔法”融合”のコアを生成して、机の上に敷く布を魔道具にしてくれ」
『了』
ヤスが魔法が使えないスライムを新規に呼び出してマルスがコアを生成させる。
その後にセバスがコアを抜き出して、魔物の皮を鞣した物を用意してツバキに魔核を組み込んだ魔道具として生成する。
魔道具となった布を用いて、熱源のコアを新規に呼び出したスライムから取り出して別の布に融合した。
ヤスも自分自身が簡単にできてしまったことで興味を失いかけている。今目の前で行った魔道具作りの行いがどれだけすごい事なのかヤスが認識するのはドワーフたちが工房を訪れるまで待たなければならない。
「マルス。スライムの養殖を行う事は可能か?」
『可能です』
「養殖するときに特定のコアを生成させる事は可能か?」
『可能です。複雑なコアの場合は一度コアを生成してからスライムに移植する必要があります』
「安全は担保できるのか?」
『スライムの魔核は小さいために複雑なコアを移植しても魔法が発動できる魔素を供給できません。したがって魔法が発動する事はありません』
「わかった。養殖も視野に入れておこう。魔道具がどれほど必要になるかわからないけど、作る事ができる状態になっていたほうがいいだろうからな」
『了』
ツバキとセバスを助手にしていくつかの魔道具を作成したヤスだったが、そこで興味を失ってしまった。
回転するような工具やジャッキを作りたかったが難しい事がわかった。
(ダメだな。専門家に依頼する必要がありそうだな)
魔道具作りはできる事がわかっただけで十分だと判断した。
「マルス。FITを工房まで移動できるか?俺が動かしたほうがいいか?」
『可能です』
「移動させてくれ」
『了』
5分後にヤスの前にFITが到着した。
”清潔”の魔法を付与した布を使ってヤスがFITを拭き始める。
「御主人様?」「マスター?」
セバスとツバキがヤスの行いを不思議な行動を見るような目つきで見る。
「ん?ちょっとした実験だから気にしなくていい」
二人の視線を気にしないようにしながらヤスはFITを布で拭いていく
(うーん。綺麗にはなるけどワックスとは違うよな。車関係は取り寄せないとダメか・・・。成分を分析して、こっちでも作ってもらえばいいのか?研究させればいいかな)
FITを拭くのを辞めたヤスだか拭いた部分だけが綺麗になってしまったので、全部を拭くことにした。幸いな事に”清潔”がかけられた布なので魔道具になっている状態なので軽く拭くだけで綺麗になっていくのは楽で良いと思えた。
「マスター」「御主人様。後は、眷属にやらせます」
「そうか?セバス。任せていいか?」
「はい」
「マルス。拭き終えたら、駐車スペースに戻しておいてくれ」
『了。マスター。トレーラとコンテナの準備ができました。トラクタに接続しますか?』
「そうだな。頼む」
片付けをツバキに頼んで工房からリビングに戻る。
リビングでディアナの状態を確認する事にしたのだ。
パソコンを操作して確認を行っていると、駐車スペースにいくつかの”準備中”の文字が表示されているのが気になった。
「マルス。駐車スペースの準備中は?」
『マスターが持っていた車を召喚している最中です』
「そうか、わかった。ありがとう。そう言えば、小型のバスも有ったよな?」
『はい。時間がかかるために、現在召喚しています』
「わかった。一応、使いみちがあるから3台ほど召喚できるか?」
『可能です』
「頼む。コンテナがあるから、小型バスを優先してくれ」
『了』
パソコンを操作しながら、ヤスはこれからのことを考えていた。
生活するだけなら神殿があれば困る事は無い。暇になればカートや車を走らせればいい。つまらない法律もないから好き勝手にできるだろう。それさえも飽きたら色んな場所を見て回ってもいいかもしれない。
(俺は運転手だな。やっぱり荷物を運んで生活するのが性に合っていそうだ)
ヤスが浅く自分のことを考えていると、パソコンにエマージェンシーが発生した。
「マルス!」
『マスター。戦闘です。人族同士が神殿の最初の休憩地点で争っています。確認できた人数は16名。個体名ダーホスが確認できます』
「マルス。状況を確認する事はできるか?」
『可能です。リビングの端末に表示します』
「頼む」
『了』
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