【第六章 神殿と辺境伯】第八話 神殿の魔物たち
「マスター」
「ツバキか?もう朝か?」
「はい。先程、マルス様からマスターを起こして欲しいと言われまして、申し訳ありません」
「あぁそれはいい。それで?」
ヤスはベッドから起き出して、ツバキが用意している服に着替える。
ヤスの着替えを手伝いながらツバキはマルスからの報告を伝える。
「そうか、魔物たちの階層ができたのか」
「はい。それで一度マスターにご確認していただきたいという事です」
「わかった。マルス!どうしたらいい?モニター越しの確認にするか?それとも、現地に赴いたほうがいいか?」
『モニター越しでお願いします』
「わかった。リビングで確認しよう」
『了』「はい。お食事の用意をします」
「軽いものでいいぞ?今日も一日工房に籠もるつもりだからな」
「かしこまりました」
リビングに移動してツバキが用意した朝食を食べながらヤスはマルスから説明を受けていた。
「そうなると、森林と草原と山と湖が必要になったという事だな」
『はい』
ツバキが焼いた”肉”を口に放り込みながらヤスはマルスに確認する。
軽いものと言ったのに出てきたのは、薄く切られた肉と柔らかいパンと果実を絞ったジュースだ。残すのも悪いと思ってヤスはモクモクと食べている。
「ポイントが足りたのなら問題ない。餌とかは大丈夫か?」
『問題ありません』
「魔物を出現させているのか?」
『はい。半数は、魔素を含んだ草木が主食です。残りは弱い魔物なら問題ありませんので、狩りの練習用に好きな魔物を生息させました』
「わかった。それだけか?」
『いえ。魔物の中から進化の予兆が見られる個体が存在します』
「進化?リーダーたちか?」
『違います。幼体の個体ですが各種族から2-3体程度は進化が可能です』
ヤスは、マルスの言い方に違和感を覚えた。
「ん?マルス。今の説明だと進化させられるように聞こえるのだが?」
『その認識で間違いありません。神殿の権能です』
(神殿の権能って便利だな。なんでもできそうだし、これこそ”ご都合主義”の塊だな)
ヤスは、マルスのセリフを”ご都合主義”だと解釈した。
実際に、他の神殿でも神殿を守護する魔物は権能を使って進化させる事がある。
「わかった。進化は、セバスを交えて相談しながら決めてくれ」
『了。それでマスター魔物たちが神殿の領域内に出ることへのご許可をいただけますか?』
「問題ないぞ?」
『ありがとうございます』
ヤスは少しだけ勘違いしていた。
進化した魔物たちが魔の森や山に広がる森での狩りを行うものと考えていたのだが、マルスは広場での展開を考えていたのだ。神殿の権能によって広場は安全が確保されているのだが、住人同士のいざこざには対応できない。進化した魔物たちを使って人型のセバスの眷属たちとは違った治安維持を行う事を考えていたのだ。マルスの考えが形になるのは人が増えてきてからになるのだが最初から”安全な魔物”が徘徊する事と、途中から”安全だと言われた魔物”が徘徊するのはで意味合いが全く違う。
「いいのか?」
『はい。マスター』
残っていた肉を口に放り込んでからヤスはジュースで流し込んで立ち上がった。
「マルス。ツバキ。工房に行く。何かあったら知らせてくれ」
「はい」
『了』
ヤスはリビングから工房に向かった。1階まで移動してから地下にある工房に向かう。
ヤスが地球に居た時に使っていた工房が再現されている。
工具もできるだけ再現冴えているのだが電子制御されているような物は存在していない。工房で作業を行うような事は無いのだが、いろいろと実験を行う場所と定めている。
「マルス。俺って魔法は使えないよな?」
『生活魔法が使えます』
「生活魔法だけだろう?神殿の権能とかは無理だろう?」
『エミリアを使う事で魔法を使役する事ができます』
「魔法を使役?」
『魔法を使う精霊をエミリアに組み込む事で魔法を使う事が可能です』
「うーん。イメージと違うから今はいい・・・。必要になったら考える」
『了』
ヤスは、工房で”生活魔法”の練習を行う事にした。
生活魔法は、・火種・温(冷)風・排泄管理・清潔・簡易鑑定の5つの魔法の総称になっている。5つ全部使える事は珍しくステータスの表示も『生活魔法(火種)』と使える魔法が提示されるだけだ。ヤスは、生活魔法が全部使えるというちょっとだけレアな状態になっている。
5つとも上位の魔法があり生活魔法は生活で使う程度の物で戦闘に使うことができない。
野営などでは使うと便利な魔法なのだが上位の魔法を使えるものがいれば必要ない。
(しょうがないよな。生活魔法でも十分便利だし、ディアナがあれば困る事は少ないだろう)
ヤスは魔法をきっぱりと諦めた。
『マスター』
「ん?」
『魔核を使って道具を作ることで魔法を使う事ができます』
「そうか、魔法が使える道具を作ればいいのか・・・。せっかく作った工房だし魔道具を作ってみるか!マルス。魔核には属性があるのか?」
『属性がわかりません』
「そうだな。一つの魔核から火の魔法や風の魔法が出せるのか?」
『魔核は魔素の塊です。魔核だけでは魔法を使う事はできません』
「ん?それじゃどうやって魔法を使うのだ?」
『・・・。エミリアに情報を転送。マスター。エミリアに魔道具の制作に関する資料を付与しました』
「お!わかった!少し見にくいな。タブレットでも用意して表示させるか?」
エミリアで資料を見ながらヤスはタブレットを準備するようにマルスに伝える。
『了』
工房の机にタブレットが現れた。
『マスター。タブレットをエミリアに連結しますか?』
「工房のタブレットはスタンドアロンで使う。工房には俺以外も出入りできるだろう?」
『はい。マスターが認めた者が出入りできます』
「それなら、エミリアとの連携は必要ない。マルスへの連絡はできるのだよな?」
『可能です』
「交換機との連携もできるか?」
『可能です。端末の一つとして機能させる事ができます』
「ん?そうなると、魔通信機の代わりにできるのか?」
『可能です』
「うーん。うーん。棚上げだな」
魔通信機の販売ができないかと思ったが、自分は商売人には向いていないと考えて取りやめる事にした。
それに神殿の権能ありきで考えるのは良くないと思ったのだ。スマホやタブレットを討伐ポイントで交換してマルスに調整をしてもらって売ればいいと考えたのだが長続きしないだろうと思っていた。ヤスは、魔通信機(端末)をアフネスが用意できるものだと思っていたのだ。専門でもない分野に入っていくのは面倒だと思っているのだ。
『マスター。設定が終了しました』
「ありがとう」
タブレットに表示された魔道具の作り方を見てヤスは無理だと判断した。
簡潔に書かれているが、簡単にできるような物では無い。
魔法を発動させる媒体としての魔核があり、術式を刻み込んだコアが必要になるのだ。問題はコアの方だ。
コアは、魔法を発動するための手順が記述する必要があるのだ。生活魔法に属する程度の魔法ならヤスでもできるのだがそれ以上になると難しくなってしまう。魔素を使う量から魔法の状況を書いていく必要がある。魔法を使うときに祝詞を行ってイメージを補完する事で魔法が発動されるのだが、コアはそれらを記述していき条件定義を行わなければならないのだ。
もう一度だけタブレットに表示されている情報を見てヤスは一つの可能性以外の事はすっぱりと諦めたのだ。
「マルス。コアを生成できる魔物を作る事はできるのか?」
『可能です』
「それなら、簡単な魔法が使える魔物を作ってコアを抜き出してみるのが良さそうだな」
ヤスが見つけた記述は、魔法を使う事ができる魔物の一部は魔核とは別にコアを体内に生成していて、コアを取り出して道具に組み込む事で魔法が発動できるようになると書かれていた。
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